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Volume 17, No.3 Pages 238 - 243

2. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS

SACLA実験ステーションの現状
Current Status of SACLA Experimental Stations

登野 健介 TONO Kensuke­

(公財)高輝度光科学研究センター XFEL研究推進室 XFEL Division, JASRI

Abstract
 2012年3月より供用を開始したX線自由電子レーザー施設SACLAの実験ステーションの現状を報告する。SACLAの2012A期の運転では、コヒーレント回折イメージング(CDI)、時間分解X線散乱・回折計測、X線非線形光学、微結晶構造解析などの利用実験が硬X線ビームラインBL3において実施された。また、ビームライン光学系や共用実験装置のための調整実験も行われ、実験ステーションの高度化が進められている。本稿では特にBL3の5個の実験ステーションに注目し、実験ハッチ内の機器構成、ビーム特性、実験制御・データ取得(DAQ)システムなどを紹介する。
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1.はじめに
 SACLAは2012年3月に供用を開始し、7月25日まで2012A期の運転が行われた。この間、25課題にビームタイムが割り当てられ、ユーザーによる利用実験が実施された。実験内容は構造生物学、材料科学、X線光学、原子分子科学など多岐にわたり、それぞれの性質に応じて異なる実験ステーションが利用されてきた。並行して、実験ステーション高度化のための調整実験も行われた。あらかじめ計画されていた開発・改良項目に加えて、利用実験の中で持ち上がった問題点や要望をもとに、ビームライン光学系、共用実験装置、データ取得環境の性能改善が進められた。なお、本稿における実験ステーションとは、実験ハッチ内の実験装置群だけでなく、ハッチ外に設置された実験制御・DAQステーションも含むものである。
 利用したステーションで2012A期のユーザー実験を分類すると、大部分が以下の2つに該当する。第2ハッチ(EH2)において光学レーザーとXFELの両方を利用するポンププローブ型の実験と、第3ハッチ(EH3)において1 μmコヒーレント集光装置を利用する実験である。そこで、本稿ではEH2のポンププローブステーションとEH3のコヒーレント集光ステーションについて詳細に解説し、他のステーションについては簡単な紹介にとどめる。また、ここでは利用者が具体的に実験を計画するために必要な情報を提供することに主眼を置くこととする。各実験ステーションの概略については、本誌の後藤氏および矢橋氏の記事[1, 2][1]後藤俊治:SPring-8 利用者情報 17 (2012) 38-41.
[2]矢橋牧名:SPring-8 利用者情報 17 (2012) 122-125.
、ならびにSACLAのホームページ[3][3]http://xfel.riken.jp/などで紹介されているので、そちらを参照していただきたい。



2.実験ハッチにおけるXFELビーム特性
 実験ハッチにおけるXFELビームの体表的な特性値を表1に示す。各値に含まれる誤差は、主にパルス毎の統計的ばらつきに由来するものである。現状、SACLAはXFELの発生方式として自己増幅自発放射(SASE)原理を採用しており、統計的なばらつきは避けがたい。

表1 フォトンエネルギー9.98 keVにおけるXFELビームの特性。
Pulse energy 151±28 μJ
Center photon energy 9.982±0.008 keV
Band width 0.6% (FWHM)
Fluctuation in beam position 40 μm (horizontal)
(One standard deviation) 19 μm (vertical)
Beam size 310±50 μm (FWHM)

 様々なフォトンエネルギーにおけるビーム強度を表2にまとめた。表中のデータはEH1直前で測定されたもので、例えば文献[4][4]T. Ishikawa, H. Aoyagi, T. Asaka, Y. Asano, N. Azumi et al.: Nature Photonics (2012) doi 10.1038/ nphoton.2012.141.に記されているSACLAのビーム強度(光学ハッチの上流側で測定した強度)に比べて低い値になっている。現状では、実験ハッチまで輸送されてくる間に強度がおよそ7割程度まで減少してしまう(10 keVの場合)。これは、輸送用の平面ミラーがビームをすべて受け切れていないためであり、今後、改良を予定している。

表2 典型的なパルスエネルギーの値。
Photon energy /keV Pulse energy /μJ
5.5 138±23
7.3 121±14
9 129±18
10 151±28
12 122±19
15 60±12

 なお、表1と表2に挙げた特性値はあくまで典型的な値であり、加速器の運転条件によって変わることに注意していただきたい。一般的な放射光光源とは異なり、SACLAでは実験条件に合わせて加速器の運転条件を変更している。すなわち、アンジュレーターのギャップだけでなく、電子の加速エネルギーもフォトンエネルギーによって変わっていることに注意が必要である。例えば電子の加速エネルギーを固定してアンジュレーターギャップによってフォトンエネルギーの変更を行った場合、ビームの強度は必ずしも表2に挙げた値と同じにはならない。また、今後も光源およびビームラインの高度化が進むため、ビーム特性の向上が見込まれる。



3.各実験ハッチ(EH)の構成
 XFELは新しい光源であり、利用実験と並行して利用方法の開拓が進められている。したがって、現段階では実験ステーションは特定の実験装置に特化することなく、多様な実験に対応する必要がある。そこで、実験ハッチは基本的に可搬の装置を入れ替えて使用することが基本となっている。このため、ハッチ内の常設機器は汎用性の高いものだけにとどめ、ハッチの上流端か下流端付近に設置した。中央部分には実験装置のためのスペースが広く確保されている。全ての実験に共通で用いられるビームライン光学系・診断系は、光学ハッチ内に集約して設置されている。
 上記のような構成によって実験ハッチの汎用性が活かされる反面、マシンタイムの切り替えに伴って実験装置の入れ替え作業が発生するというデメリットも生じている。そこで、効率的に装置の入れ替えを行うため、最新のレーザー測量器(レーザートラッカー)とエアキャスターを利用した装置設置・アライメント法を確立した。
 以下にEH1からEH5内に常設されている機器の構成と典型的な実験セットアップの例を示す。



3-1 EH1:XFEL先進オプティクス
 最も上流側に位置するEH1は、XFEL用の光学機器やビーム診断機器の研究開発のために利用されている。図1に上面図を示す。EH1には、He-Neレーザー導入機構と回転式シャッター(パルスセレクター)が常設されている。前者はXFEL光軸と同軸に導入され、アライメント時のガイド光として利用される。このガイド光は、後段のハッチ(EH2–EH4)でも利用可能である。パルスセレクターは単一パルスの切り出しやパルスの間引きのために使用され、後段ハッチにおける実験でも活用されている。

図1 EH1の上面図。ハッチのサイズは7 m×6 m×高さ4 m。

 2012A期では、主にSACLAのスタッフによる調整実験のために利用された。具体例を挙げると、高分解能スペクトロメーターの開発、光学素子の性能評価、X線検出器の評価実験、プロファイルモニターの評価などである。



3-2 EH2:ポンププローブ実験
 EH2には光学レーザー導入ポートが備えられており、XFELパルスと同期したフェムト秒レーザーパルスを試料に照射することができる。光学レーザーの仕様については、SACLAのホームページを参照していただきたい[3][3]http://xfel.riken.jp/。図2aにEH2の上面図を示す。レーザー光の輸送および加工のため、1.5×1.5 m2の光学定盤がハッチの上流側に常設されている。




図2 (a)EH2の上面図。ハッチのサイズは7 m×7 m×高さ4 m。(b)汎用可動式定盤、(c)汎用光学定盤の一例。


 常設の光学定盤に加えて、汎用可動式定盤(図2b)または汎用光学定盤(図2c)を設置することも可能である。これらの汎用定盤上に精密ステージとゴニオメーターを組み合わせてポンププローブの実験を行う場合が多い。図3に標準的なポンププローブX線回折実験のセットアップを示す。光学レーザーの入射経路は、実験内容にあわせてXFELと非同軸入射(図3a)または同軸入射(図3b)とすることができる。
図3 ポンププローブ実験のセットアップ例。(a)非同軸入射。(b)同軸入射。どちらも大気雰囲気下での実験である。

 ポンププローブ実験で最も重要なパラメーターのひとつは、光学レーザーパルスが試料に到達してからXFELパルスが到達するまでの時間差(遅延時間)である。光学レーザーの照射タイミングの制御は、光学遅延ステージによる光路長調節と電子回路によるレーザー出射タイミング制御を併用して行っている。現状では光学レーザーとXFELパルスの到達時間差に100 fsオーダーのジッターが含まれるため、タイミング調節の分解能はサブピコ秒程度が限界である。ただし、照射遅延時間を計測して実験データとともに記録しておけば、データ解析の段階で遅延時間順にデータを並び替えるポストプロセスが可能となる。現在、10 fsオーダーの分解能で照射遅延時間を計測できるモニターの開発が進められている。
 2012A期においてポンププローブステーションを利用した実験は、主にポンププローブX線散乱・回折実験であった。すなわち、光学レーザー照射後の散乱・回折X線像の時間発展を2次元検出器で記録するものである。2次元検出器としては、主にMPCCD検出器が使用された[3][3]http://xfel.riken.jp/。今後は、時間分解X線分光装置などの整備も進めていく予定である。
 EH2の下流側には4象限スリット、ビーム位置モニター(BPM)[5, 6][5]K. Tono, T. Kudo, M. Yabashi, T. Tachibana, Y. Feng et al.: Rev. Sci. Instrum. 82 (2011) 023108.
[6]T. Kudo, K. Tono, M. Yabashi, T. Togashi, T. Sato et al.: Rev. Sci. Instrum. 83 (2012) 043108.
、強度減衰板(アッテネーター)、プロファイルモニターが常設されている。これらのスリットやモニターは、主にEH3における実験で利用され、入射光のハロー除去や、実験中の入射光強度測定などに利用される。



3-3 EH3:コヒーレント集光
 図4にEH3の上面図を示す。ハッチの上流側には1 μmコヒーレント集光装置および付随する4象限スリットと差動排気装置が常設されている。集光装置はいわゆるKBミラーであり、大阪大学、東京大学、理化学研究所、JASRIによって共同開発された。EH3で実施される実験のほとんどは集光装置を利用するため、共用実験装置の多くは集光位置に測定試料が置かれることを想定して設計されている。

図4 EH3上面図。ハッチのサイズは7 m×7 m×高さ4 m。

 2012A期にEH3で実施された実験例を挙げると、CDI、微結晶X線回折実験、X線非線形現象の観測などである。特にCDIはXFEL応用研究の目玉のひとつとされているもので、SACLAの建設時から共用実験装置の開発が進められてきた。理研とJASRIによって開発されたMAXIC(Multiple Application X-ray Imaging Chamber)もその一例である。MAXICはスリット光学系と試料導入機構から構成され、薄膜に固定した試料だけでなく、溶液試料を直径数μmの液体ビームとして導入することもできる。図5に、MAXICを利用したCDI実験のセットアップ例を示す。上流側から集光装置、MAXIC、8枚センサー型MPCCD検出器(オクタルMPCCD)の順に並んでいる。試料と検出器との距離は実験条件に応じて変更され、0.2 m程度の近いものや2〜3 m程度の比較的遠い場合などがある。単一粒子CDIの場合は、極小角部分の回折イメージをオクタルMPCCDの後段に設置された1枚センサー型MPCCD(シングルMPCCD)で観測する例も多い。後段のシングルMPCCDは、場合によってはEH4に設置され、ハッチをまたいでの実験になることも珍しくない。
図5 CDI実験のセットアップの一例。MAXICを利用した場合。

 さらに、EH3には光学レーザー出射ポートも備えられているため、ポンププローブ実験も可能である。2012A期においては、チタンサファイヤレーザーの基本波(波長800 nm)を導入してタイミングモニターの調整実験を行った例などがある。



3-4 EH4:汎用実験ハッチ
 EH4はSACLAの実験ホール内で容積がもっとも大きなハッチであり、大型装置を利用した実験などに適している。図6に上面図を示す。ハッチの上流側に4象限スリット、BPM、アッテネーター、プロファイルモニター、集光装置が常設されている。

図6 EH4の上面図。ハッチのサイズは7 m×9 m×高さ5 m。



3-5 EH5:XFEL-SR相互利用
 EH5においては、SACLA BL3のXFELビームとSPring-8 BL32XUのアンジュレーター放射光の両方を利用することが可能である。図7に上面図を示す。SACLA BL3側には集光装置と付随するスリット、モニター類が常設されている。既にXFELビームを利用した調整実験(常設機器の調整)も実施されており、2013Aには本格利用を開始する予定である。

図7 EH5の上面図。ハッチはXFEL-SR相互利用施設内に設置されている。



4.実験機器制御およびDAQ環境
 機器制御およびDAQシステムについては、いずれ独立した記事として取り上げられるのがふさわしく、本稿では概要のみを述べておく。利用実験が始まってからも当初は想定していなかった問題やユーザーからの要望が持ち上がり、現在もシステムの改良が続けられている。今後、本誌などを通じて詳細な情報提供の機会が設けられるであろう。既に発表されている資料も参考にしていただきたい[7, 8][7]福井 達、石井美保、大端 通、籠 正裕、佐治超爾他:放射光 25、2 (2012) 65-69.
[8]初井宇記、亀島 敬、小野 峻、桐原陽一、工藤統吾他:放射光 25、2 (2012) 82-88.

 SACLAの実験制御およびDAQシステムは、SPring-8と同様、MADOCA(Message And Database Oriented Control Architecture)をベースにして構築された[9][9]田中良太郎:加速器 2 (2005) 162-169.。制御・DAQ機器はどの実験ハッチについても同様な構成であり、ハッチ外の制御ステーションに設置されている。ステッピングモーター、フォトダイオード検出器、CCDカメラといった基本的なコンポーネントについては、操作ソフトも含めた制御システムを施設側で整備した。これらをサブシステムとして適宜組み合わせ、実験装置の制御を行う。SACLAの制御・DAQシステムに適合するフォトダイオード検出器やCDDカメラなどの機器については、ホームページ上で確認していただきたい[3][3]http://xfel.riken.jp/
 ほとんどの場合、実験装置の機械的な動作は、ステッピングモーターを遠隔で操作することによって制御される。このため、SPring-8標準のモータードライバーとコントローラーが各ステーションに設置されている。また、電子機器の制御やデータ転送のために、ローカルエリアネットワークの接続ポート、タイミング信号の供給ポート、カメラリンクインターフェースへの接続口が各実験ハッチ内に備えられている。
 DAQについては、従来の放射光実験との違いが最も際立つ部分である。SACLAから供給されるX線パルスは最大でも毎秒60パルスだけであり、各パルスは試料を破壊してしまうほど強力なものである。さらに、強度、スペクトル、到達タイミングといった特性がパルス毎にばらついてしまう。したがって、単一パルスの照射でデータ取得までが完結する実験スタイル(シングルショット実験)が主流になっている。このような実験に対応するため、パルス毎にデータを取得し、記録できる環境が整備された。試料からの信号だけでなく、ビームラインの診断系で得られた光特性データもパルス毎に保存される。パルス強度や位置などの0次元データは、原則として常にデータベースに保存される。2次元の画像データのように容量の大きなものは、記録が必要な時だけストレージシステムに保存する。すなわち、何パルス分のデータを保存したいかを実験者が指定して測定を行う。また、取得中のデータをほぼリアルタイムでモニターする仕組みも整えられている。なお、保存されたすべてのデータにはパルス番号(タグ番号)が付けられており、解析時に各種のデータを対応付けることができる。持込みの検出器で取得したデータも施設側のデータと対応させられるよう、共通のタグ番号を発行する仕組みも整えられている。



5.おわりに
 2012A期の運用実績に基づいて実験ステーションの現状を紹介した。今後のSACLAの高度化に伴い、実験ステーションの状況も変化を続けていくことは明らかである。今後も本誌やホームページを通じて最新情報を提供していきたい。また、利用実験結果の紹介もあわせて行っていければと考えている。



謝辞
 独立行政法人理化学研究所播磨研究所放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門および公益財団法人高輝度光科学研究センターの関係者、共用装置の開発に関わった外部機関の方々、貴重な意見をいただいた利用者の皆様の協力に感謝したい。
 実験ステーションに設置されている共用実験機器の多くは、文部科学省の科学技術試験研究委託事業「X線自由電子レーザー利用推進研究課題(平成18〜22年度)」および理化学研究所「SACLA利用装置提案課題(平成23年度)」による支援を受けて行ったものである。



参考文献
[1]後藤俊治:SPring-8 利用者情報 17 (2012) 38-41.
[2]矢橋牧名:SPring-8 利用者情報 17 (2012) 122-125.
[3]http://xfel.riken.jp/
[4]T. Ishikawa, H. Aoyagi, T. Asaka, Y. Asano, N. Azumi et al.: Nature Photonics (2012) doi 10.1038/ nphoton.2012.141.
[5]K. Tono, T. Kudo, M. Yabashi, T. Tachibana, Y. Feng et al.: Rev. Sci. Instrum. 82 (2011) 023108.
[6]T. Kudo, K. Tono, M. Yabashi, T. Togashi, T. Sato et al.: Rev. Sci. Instrum. 83 (2012) 043108.
[7]福井 達、石井美保、大端 通、籠 正裕、佐治超爾他:放射光 25、2 (2012) 65-69.
[8]初井宇記、亀島 敬、小野 峻、桐原陽一、工藤統吾他:放射光 25、2 (2012) 82-88.
[9]田中良太郎:加速器 2 (2005) 162-169.



登野 健介 TONO Kensuke
(公財)高輝度光科学研究センター
XFEL研究推進室 先端利用グループ
TEL:0791-58-0802
e-mail:tono@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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