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Volume 17, No.2 Pages 117 - 121

2. ビームライン/BEAMLINES

革新型蓄電池先端科学基礎研究(RISING)ビームライン BL28XU稼働
Kyoto University Research and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteries (RISING) Beamline : BL28XU

小久見 善八 OGUMI Zempachi[1]、谷田 肇 TANIDA Hajime[1]、福田 勝利 FUKUDA Katsutoshi[1]、内本 喜晴 UCHIMOTO Yoshiharu[2]、松原 英一郎 MATSUBARA Eiichiro[3]

[1]京都大学 産官学連携本部 Office of Society-Academia Collaboration for Innovation, Kyoto University、[2]京都大学大学院 人間・環境学研究科 Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University、[3]京都大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Kyoto University

Abstract
 革新型蓄電池先端科学基礎研究(RISING)ビームラインBL28XUは2011B期よりコミッショニングを開始し、2012A期より利用開始となった。BL28XUは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING事業)の一環として、中核研究機関である京都大学が高度解析技術の一つとして建設した。BL28XUは蓄電池反応のメカニズムをその場(in situ)で、高速時間分解および高空間分解能でX線回折(XRD)およびX線吸収分光法(XAFS)などにより明らかにすることを目的としている蓄電池専用ビームラインである。本稿ではそのBL28XUの概要について紹介する。
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1.はじめに
 革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING事業)では、RISING専用の蓄電池専用解析ビームラインの完成披露式典を4月4日に行った。RISING事業は2009年から2015年までの7年間、年間予算30億円(総額見込み210億円)にて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に京都大学と産業技術総合研究所関西センターを拠点として、8大学・4研究機関・12企業がオールジャパン体制で取り組んでいる産官学連携プロジェクトである。2015年に現状比3倍のエネルギー密度を持つ300 Wh/kgの革新型蓄電池の技術確立を行い、2030年に500 Wh/kg(現状比5倍)のエネルギー密度、一回の充電でガソリン車に匹敵する走行距離を有する革新型蓄電池の実現を見通すことを目指している。RISING事業では、広く普及していながら内部がブラックボックスである蓄電池について、“Begin with the Basics”で基礎的なメカニズム解析から明らかにすることを目標としている。蓄電池内で起こる様々な反応は、数桁にわたる階層的な空間・時間スケールに及んでおり、それらが相互に、蓄電池の性能(エネルギー密度・出力特性・寿命・安全性等)に影響を及ぼす。蓄電池内反応の解明を進め、革新的な蓄電池を創出するために、幅広い空間/時間分解能を有する解析技術の開発が望まれる。そのための、RISING発足3年間(2009〜2011年度)の活動方針として、「解析手法の整備と革新型蓄電池の概念の検討」を掲げて、放射光を用いたRISINGビームラインを立ち上げることに注力してきた[1][1]小久見善八、松原英一郎:SPring-8利用者情報 Vol.15、2 (2010) 64-68.。その結果、世界に類を見ないオンリーワンの蓄電池解析専用ビームラインを完成させた。ビームラインは2011B期にコミッショニングを開始し、2012A期に利用開始となった。

図1 2012年4月4日RISINGビームライン完成式典
 RISINGビームラインの主な特徴は以下の通りである。
(1)SPring-8の高輝度X線を最大限に活用し、蓄電池反応解析に必要な「空間分解能」と「時間分解能」を有する。
(2)非平衡状態・界面被覆状態・反応分布状態等をその場(in situ)測定するためのシステムを整備している。
(3)蓄電池試料準備からその場(in situ)測定するための連続的な実験設備を常設している。
 測定手法としては、蓄電池活物質材料の時間・空間分解in situ X線分光分析(XAFS)・X線回折分析(XRD)・硬X線光電子分光(HAXPES)および二次元・三次元のCTイメージングXAFS・XRD測定を用い、実用蓄電池試料の非解体測定として下記の解析を実現する。
(1)Mn・Fe・Co・Ni・Znなどの遷移金属を含む蓄電池材料の高速時分割XAFS・XRD測定による非平衡状態の解明
(2)多素子Ge半導体検出器、二次元ピクセルアレイ検出器による、全反射・深さ分解測定、HAXPESによる界面・被覆の解明
(3)X線マイクロビームを用いたXAFS測定による反応分布の解明
(4)電池内部のCTイメージングおよびXAFS測定を行い、電池内分布状態をリアルタイムで解明
 以下にビームラインの詳しい仕様を紹介する。なお、ビームライン建設はそれぞれの光学機器や制御インターロックも含め、設計、仕様作成から製作に至るまで理化学研究所、および高輝度光科学研究センターの全面的な支援により行われた。



2.ビームラインの仕様
 ビームラインは光学ハッチと実験ハッチ1、2の3つのハッチからなり、実験ハッチ1では主にXRDを、実験ハッチ2では主にXAFSを行う。実験ハッチ1で白色X線回折、実験ハッチ2で波長分散XAFS(DXAFS)を行えるように準白色X線をそれぞれの実験ハッチに導入できる。そのため、実験ハッチは光学ハッチ扱いの設計および仕様である。

図2 BL28XUレイアウト

2-1 光源
 薄膜試料の斜入射X線回折や全反射XAFS測定などの高輝度X線を必要とする実験と、高速XAFS測定などの広いエネルギー幅のX線を必要とする実験を両立するためにエネルギー幅を変えることのできるテーパー型真空封止アンジュレータを採用した。テーパーを必要なエネルギー幅によって使い分けることができる。



2-2 光学ハッチ
 2枚の水平偏向ミラーを距離を置いて設置し、傾き角を共に2 mradとした。蓄積リングからの高エネルギー成分のガンマ線は第一ミラーで反射せずにガンマストッパで除去され、第一ミラーで反射したX線と分離できる。ミラーの母材はシリコンで、白金とロジウムのコーティング面をストライプ状に持ち、測定する試料に応じて使い分けることが可能である。第一ミラーは高い熱負荷がかかることが予想されたため、平面ミラーの液体窒素冷却とした。第二ミラーは水冷で水平集光機能を持ち、実験ハッチ1および実験ハッチ2における試料位置での集光、および実験ハッチ2で計画しているDXAFS測定のためのポリクロメーター位置でのエネルギー幅を確保するためのビーム拡大も行う。

図3 光学ハッチコンポーネント
 分光器は高速EXAFS測定が可能な小型チャンネルカット結晶を用いたコンパクト分光器を採用した。チャンネルカット結晶のギャップ値はEXAFS測定を行う場合、ビームの縦方向の変動を極力小さくするようにしている。分光器の駆動速度により、1 s以下の高速測定が可能である。使用できるエネルギー範囲は5から30 keVであり、結晶はSi(111)を採用した。将来、より高エネルギーのX線用の結晶を取り付けた分光器をタンデムで設置できる拡張性を有している。分光器は液体窒素冷却で、SPring-8では、ミラーと分光器を同時に液体窒素冷却する初めてのケースとなった。分光器の下流に高精度スリットを設置し、実験ハッチ2内に設置したKB配置のマイクロフォーカスミラーの仮想光源とした。
 ビームラインの輸送パイプは光学ハッチからBL28B2のハッチ前を通り、実験ハッチに接続される。実験ハッチ1内の上流では、2枚の垂直偏向ミラーで高調波X線を除去するとともに、上下方向にビームを集光する。その結果、集光点において、ビームサイズが小さくなると共に、チャンネルカット結晶によるビームの垂直方向の変動も抑えることができる。ミラーは水冷で、コーティングは第一、第二ミラーと同様にロジウムと白金で、使い分けることが可能である。実験ハッチ1と実験ハッチ2のそれぞれに水冷ベリリウム窓を持ち、X線を利用することができる。

図4 実験ハッチコンポーネント

2-3 XRDステーション
 ハッチ中央部に8軸回折計を設置しており、実試料の対称・非対称回折測定から反射率および斜入射in-plane回折測定などを行うことができる。ゴニオ半径を確保することにより、高分解能測定に対応している他、χサークルは広角まで回折測定を行うことが可能である。また、標準的なシンチレーションカウンタなどの0次元検出器に加え、一次元のピクセルアレイ検出器、二次元検出器としてイメージングプレートやピクセルアレイ検出器なども備えており、電池の充放電状態を反映した結晶構造の変化を in situで追跡することが可能である。
 その他の手法として、X線小角散乱や異常分散、CTイメージング法の整備を進めている。特に二次元および三次元のイメージングをエネルギーを変化させながら行う予定である。このビームラインはXAFS用に整備された分光器を有していることが特徴であり、エネルギーを変更する分光測定が容易であるため、分光測定と組み合わせた異常散乱測定などの技術開発を進めていく予定である。

図5 8軸回折計

2-4 XAFSステーション
 高輝度光科学研究センターの光源・光学系部門の協力を得て、KB配置のマイクロフォーカスミラーを設置している。光源から十分に遠い位置に設置することにより、1 μm以下のビームサイズでEXAFS測定に十分なビーム強度を得ることができる。比較的長い焦点距離により、in situ測定セルを設置するのに十分な空間を確保することができ、1 s以下の時間分解能で高速EXAFS測定をマイクロメートルオーダーの空間分解能で測定することが可能である。高速デジタイザボードを用い、検出器からの信号を高速、高分解能で取り込むことができ、1スペクトル当たり1 s以下の高速EXFAS測定が可能である。また、高感度蛍光X線測定用に多素子ゲルマニウム半導体検出器を用い、マイクロビームを用いた高速XAFS測定と組み合わせことができる。試料は回折計に取り付け、マッピング測定や薄膜試料の斜入射あるいは全反射配置の制御をすることができ、二次元検出器を用いた深さ分解測定も行うことができる。試料の下流にはCCDとリボルバ式でレンズ切り替え可能なビームモニターを設置し、二次元イメージングXAFSを行うことができる。

図6 XAFS定盤

2-5 HAXPESステーション
 実験ハッチ2の下流にHAXPESを設置した。広角まで光電子を取り込むことができ、長いワーキングディスタンスを持っているため、蓄電池実試料の測定専用装置として、様々な形で、真空度を悪化させる可能性のある試料も気にせず使えるように運用する。また、特に水分を嫌うリチウムイオン蓄電池試料を大気に非暴露でグローブボックスから装置に取り付けるトランスファーベッセルを装備している。

図7 硬X線光電子分光装置

3.最後に
 このビームラインは、蓄電池解析に最適化したビームラインであり、理化学研究所と高輝度光科学研究センターの協力を得て、in situ高速XRD・XAFS測定のために現在考えられうる最高の技術を導入している。このビームラインの建設および利用にあたり、多くの方々の支援を得ており、SPring-8にも技術的な多くのフィードバックがなされると期待している。また、このビームラインで得られた成果が、2030年の革新型蓄電池実現のみならず、現在、世界的な競争の中にある現行リチウムイオン蓄電池系の改良にも寄与することにより、蓄電技術立国日本の盤石化を強固なものにできると信じている。



謝辞
 本ビームラインは理化学研究所と高輝度光科学研究センターの多くのスタッフの技術的および人的支援を受けて完成することができました。その多大なご協力とご配慮にこの場を借りて深く感謝します。また、本ビームラインはRISINGプロジェクトの高度解析グループによる協力、およびNEDO-RISINGによる支援を受けています。



参考文献
[1]小久見善八、松原英一郎:SPring-8利用者情報 Vol.15、2 (2010) 64-68.



小久見 善八 OGUMI Zempachi
京都大学 産官学連携本部
〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄京都大学先端イノベーション拠点施設
TEL:0774-38-4970
e-mail:ogumi@scl.kyoto-u.ac.jp

谷田 肇 TANIDA Hajime
京都大学 産官学連携本部
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1 SPring-8
TEL:0791-58-0803-3880
e-mail:tanida@spring8.or.jp

福田 勝利 FUKUDA Katsutoshi
京都大学 産官学連携本部
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1 SPring-8
TEL:0791-58-0803-3636
e-mail:k-fukuda@saci.kyoto-u.ac.jp

内本 喜晴 UCHIMOTO Yoshiharu
京都大学大学院 人間・環境学研究科
〒606-8501 京都市左京区吉田二本松町
TEL:075-753-2924
e-mail:uchimoto.yoshiharu.2n@kyoto-u.ac.jp

松原 英一郎 MATSUBARA Eiichiro
京都大学大学院 工学研究科
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
TEL:075-753-3569
e-mail:e.matsubara@materials.mbox.media.kyoto-u.ac.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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