Volume 09, No.2 Pages 107 - 113
2. ビームライン/BEAMLINES
レーザー電子光とクオーク核物理
LEPS−BL33LEP−ペンタクオークへの道
Laser Electron Photons and Quark Nuclear Physics LEPS−BL33LEP−Pentaquark
レーザー電子光によるクオ−ク核物理プロジェクトを決心し、LEPSがスタートしたのが1994年。計画立案、R&Dを経てSPring-8ビームラインBL33LEPの建設が1997年に始まり、1999年に世界最高エネルギーのレーザー電子光が得られた。1998年に始まったクオーク核分光器の建設も1999年には本体が完成し、2000年にはクオーク核物理の国際共同研究がスタートした。ペンタクオークの発見(2002、2003)を初め、興味ある研究が世界の注目を集め、基礎科学を大きく発展させている。スタートから10年にあたり、これまでの進展を概観し、これからの展望を述べる。
1.クオーク核物理を拓くレーザー電子光プロジェクト
レーザー電子光は、エネルギーが高く極めて波長の短い光ビームで、レーザー光と電子ビームから得られる。最近、レーザー電子光が素粒子核の世界を探るユニークなプローブとして、世界の注目を浴びている。
原子や分子の世界(10-8 cm)では 核力(強い相互作用)は顔を出さず、電磁相互作用が主である。一方、 原子核、ハドロン、素粒子の様なミクロの世界(10-13 cm)では強い相互作用が主な役割を果たしている。しかしBohrとMottelsonが書いているように、ミクロの世界を研究するプローブとしては、電磁相互作用や弱い相互作用が主たる役割を果たす事が少なくない。相互作用が弱い事がクリーンなプローブとして有利であり、電弱プローブの質量が0か0に近い事が素粒子や原子核の特定な面を選択的に探る事を可能にする。電磁相互作用プローブの主流は一次ビームで加速可能な電子線である。
一方、光(ガンマ線)は電子ビームから作られる二次ビームであるが、研究のプローブとしてユニークな特徴がある。レーザー電子光によるクオーク核物理研究は、敢えて光というプローブで素粒子核にチャレンジする。それを可能にするのは10GeV(GeV=109=10億電子ボルト)クラスの電子リングとレーザー光である。レーザー電子光はエネルギーが高く(GeV領域)波長の極めて短い(10-14 cm 領域)鋭利な光なので、ミクロな素粒子核の世界の探索に適している(図1)。
図1 物質の究極「素粒子核の世界」のレーザー電子光の概念図
レーザー電子光計画(LEPS:Laser Electron Photons at SPring-8)はクオーク核物理を拓く事を主な目的として1994年にスタートした。 その一年前の1993年、全国共同利用の核物理研究センター(RCNP、大阪大学)のリーダーを引き受ける事になり、3つの新しい研究プロジェクトを推進することにした。第一はリングサイクロトロンによる核子ハドロン系核物理研究で、核子ハドロン系の精密研究を発展させる。第二は本論の主題であるクオーク核物理で、クオークとグルオンの量子系物理の開拓を目的とする。第三はレプトン(ニュートリノ)核物理でニュートリノと弱相互作用の本質の解明を目指す。
1990年代の初めは世界的に中高エネルギーの電子線や軽重イオンの巨大加速器が、国家プロジェクトとして進められつつあった。わが国でも陽子や重イオンの巨大加速器の計画と検討が進んでいた。このような中でいかにユニークで魅力ある研究の方向を打ち出すかを考えた結果出されたのが、上記の三研究プロジェクトである。それぞれ、強い相互作用、電磁相互作用、弱相互作用の相補的プローブを使って素粒子核分光研究を行い、核子ハドロン系、クオーク系、レプトン系の物理の基礎を確立する事を主目的とする。
クオーク核物理を推進する具体的方法が1993年から1994年にかけて検討された。その結果決定したのがSPring-8利用によるレーザー電子光プロジェクトLEPSである。
リングサイクロトロンによる精密核物理は前の池上センター長の基に進められた方向を発展させるものである。アメリカのIUCFの磁石系を有効利用する事で超高分解の荷電粒子分析系が完成し、世界最高のエネルギー分解能の研究が精力的に進められている。レプトン(ニュートリノ)核物理は理学部(阪大)で進めてきたELEGANT素粒子分光系を基にする。大塔村のトンネルに大塔コスモ観測所を建設し、二重ベータ崩壊によるニュートリノ研究やダークマタ−の興味ある研究が昼夜おこなわれている。
一方、クオーク核物理については、リングサイクロトロン実験室にTARN Ⅱを利用してシンクロトロン/リングを建設する事や、KEK電子リング利用などの可能性があった。装置の実現という点からは現実的であったが、物理と夢の実現を第一に考え、SPring-8活用によるマルチGeVの偏極光に挑戦する事に決めた。当然予想された困難が多々あったが、LEPSによるクオーク物理の可能性と魅力が、科学者の情熱と理解を生み、国際レベルでの協力と国民の支持につながり、計画は一歩一歩実現する事になった。
2.レーザー電子光の特徴
実験研究で大切な事は、方法がユニークで新しいフロンティアを拓く可能性があることである。レーザー光をGeV電子に衝突させると、電子がレーザー光を吸収しGeV〜MeV(10億〜100万電子ボルト)領域のガンマ線を放出する。SPring-8を利用するレーザー電子光LEPSは、下記のような極めてユニークな特徴をもち、非摂動領域のクオーク−グルオン核物理を開拓するのに有効である。
1.マルチGeV(1〜3.5GeV)のリアルな超短波光(ガンマ線)が得られる。ガンマ線のエネルギーEはレーザー光のエネルギーEL、電子のエネルギーEe、ガンマ線の方向θを用いて次のように表される。
E=4ELEe2[m2+4ELEe]-1K-1,
K=1+θ2Ee2[m2+4ELEe]-1 (1)
この式でmは電子の質量である。レーザー電子光のエネルギーが電子エネルギーの2乗に比例するので、世界最高エネルギー(8GeV)の放射光電子リングであるSPring-8から、世界最高のレーザー電子光が得られる。ヨーロッパのESRF(6GeV)より倍近いエネルギーである。レーザー光のエネルギーとレーザー電子光のエネルギーの関係を図2に示す。
図2 レーザー光のエネルギーと8、6、4 GeVの電子から得られるレーザー電子光(Compton Backscattering 光)のエネルギー(LEPSグループ)。
2.エネルギースペクトルは、最大エネルギー値 E=4ELEe2[m2+4ELEe]-1でピークになる。レーザー電子光が前方(θ=0)に放出される場合が多い事による。この性質は、エネルギーの低い成分が主でエネルギーの最大値で強度が0になる制動輻射光と比べて、大変有利である。
3.Ee2 >> m2 なのでレーザー電子光の方向は前方に限られ、エミッタンスの小さい細いビームが得られる。
4.偏極レーザー光を使う事によってほぼ100%の直線ないし円偏極のレーザー電子光が得られる。偏極光はスピンパリティに関する分光分析に欠かせない。
5.レーザー電子光のエネルギーは、散乱された電子のエネルギーを磁気分析することによって解る。2.5GeV光の場合15MeV程度のエネルギー幅である。
6.レーザー電子光は常時毎秒当り106〜7 程度の強度で得られ、通常の制動輻射(放射)光実験と共存が可能である。
レーザー電子光の諸性質を図3に示す。これらの諸性質は物理的な特徴であるが、SPring-8利用によるLEPSで特筆すべきことは、8GeVの電子リングが存在した事であり、LEPSプロジェクトとの共存が可能で、上坪所長(当時)をはじめSPring-8側(加速器グループ他)の全面的な協力があった事である。また国内外の優れた科学者の理解と協力は計画のタイムリーな推進に大きな役割を果たしたことは云うまでもない。最近ニュートリノ研究でANLに招待された時、多くの核物理研究者がAPSでは加速器への影響の危惧からレーザー電子光が実現しなかった事を残念がっていた。
図3 レーザー電子光の性質。左上はエネルギーと散乱角、右上はエネルギースペクトル、左下は直線偏極、右下は円偏極を示す。
3.ビームラインBL33B2建設とマルチGeV光の実現
1994年半ばのLEPS計画の決定に続いて、計画の内容が鋭意検討され、1995年度の初めにはJASRI/SPring-8とRCNPの共同でワーキンググループが立ち上げられた。そこで精力的にR&Dと具体的実行案の作成が行われた。
LEPSプロジェクトは国際的にも最先端の素粒子核宇宙の物理学者の注目を浴び、各方面から協力を得る事になる。1995年度の国際評価委員会(小田稔委員長)と国際シンポジウム、1997年度の国際評価委員会(S. Kullandar 委員長)と国際シンポジウム、1999年の国際シンポジウム、等での高い評価と活発な議論はLEPSプロジェクトを大きく加速した。国際的な議論やサポートに呼応して、国内でも学術会議原子核委員会での決議(1997年度初め)や核物理委員会のサポート(1997年末)等が続いた。また大阪大学(金森総長、伊達及び櫛田理学部長:当時)からはプロジェクトの当初から特別の理解と協力を得た。
国際的に基礎科学を推進する事の重要性に鑑み、1997年初めに中高エネルギー核物理推進のための国際研究ネットワークMESON(Medium Energy Science Open Network)を立ち上げた。世界の15の主要な中高エネルギー研究所(グループ)からなり、LEPSの推進にも大変有効な役割を果たした。
LEPSプロジェクトチームについては、プロジェクト発足の早い段階から実験では藤原(守)氏他が協力した。理論部分を強化すべく、スタートして間もなく1994年に土岐氏をInviteしてクオーク核理論グループをつくり、理論面から協力していただいた。1996年になり、当時理学部の私の研究室に来て間もない中野(貴志)氏をInviteする事に成功し、氏をリーダーとしてクオーク核物理の実験グループが形成されプロジェクトが大きく進展する。また山形大学(清水氏、現在東北大)京都大学(与曽井氏)の協力を得て1999年度からクオーク核分光部門を発足させた。ユーザーの会が結成(1997年)され、COE研究員等を含め国内外から先鋭物理学者が集まり、LEPS国際協同グループができ、計画が実行されていった。
LEPS計画はレーザー電子光で素粒子核を研究するもので、SPring-8本来の制動輻射(放射)光利用の研究とは異なる。またリングの若干の変更も必要で且つ電子強度にも若干の影響をもたらす。それにもかかわらず、SPring-8の関係者は科学的に弾力的且つPositiveに対応して頂いた。スタートの翌年の1995年にSPring-8サイドで評価委員会(中井委員長)がもたれ我々の発表に前向きの評価がなされた。それをもとに放射光利用促進機構諮問委員会(高良委員長)で、SPring-8に受け入れ可能の決定がなされた。引き続き1996年に専用ビームラインBL33B2の建設が決まり、1997年から1998年にかけてビームラインが建設された。
ビームライン建設で特記すべきことにJAERI(原研)の先端基礎研の参加協力がある。伊達(宗行)センター長(当時)はRCNPでLEPSプロジェクトに大変興味を持たれ、その意義に理解を示し、直ちに先端基礎研として参加協力することになった。こうしてSPring-8、JAERI、RCNPは相互に協力しながらビームラインをタイムリーに完成させた。図4にビームラインの概念図を示す。
図4 レーザー電子光ビームラインBL33LEPの概念図。レーザーハッチからのArレーザー光がSPring-8の8GeV電子と衝突し、電子の方向に散乱されたレ−ザー電子光が実験室に導かれる(LEPSグループ)。
4.マルチGeV光の成功とクオーク核分光器の建設
ビームラインの建設に続いて、測定器のR&Dと検討が行われ、1998年から主要な測定器であるクオーク核分光器の建設がはじまった。クオーク核分光器は、光反応過程で放出される核子、中間子(K、パイ)、ガンマ線(電子対)などのエネルギーや運動量を分光分析する。分光分析のデーター解析から光反応機構や反応で生成された粒子の性質を解明する。クオーク分光器の建設は急ピッチで進み、1999年には主要部が完成した。この検出器の特徴の一つは入射するレーザー電子光の方向(前方)に放出される粒子が測定できる事である。レーザー電子光を使う事で可能になった事で、後に述べるような研究成果を挙げるのに大変重要である。図5と図6にビームラインとクオーク核分光器の一部の写真を、図7にクオーク核分光器の概念図を示す。
図5 実験室(右)と検出器(クオーク核分光器)からの信号処理解析器
図6 クオーク核分光器の一部の磁気分析器
図7 クオーク核分光器の概念図(LEPSグループ)
ビームラインBL33LEPの完成と測定器の整備により、レーザー電子光の生成実験が行われた。ついに1999年7月に世界最高の2.4GeV(24億電子ボルト)のエネルギーのレーザー電子光生成に成功した(参考文献[1][1]T. Nakano, et al. : LEPS Collaboration, Nucl. Phys. A629 (1998) 559c, A670 (2000) 332.)。
2000年になりLEPSグループによりクオーク核物理の本格的研究が始まった。LEPSグループは中野(RCNP)氏をリーダーに、国内外の約20の大学・研究所からの約50名の研究者からなる国際協同研究グループである。測定器のほうも荷電粒子の分光器に続いて、π0中間子・ガンマ線検出器や液体ターゲットなどが整備され、日夜クオーク核物理研究が精力的に行われている。図8にレーザー電子光によって生成されたφ中間子の質量スペクトルを示す。生成された粒子が正と負のK中間子に崩壊するのを測定し、粒子の質量からφ中間子が同定された。
図8 ファイ中間子生成を示すK−K+中間子Invariant 質量スペクトル(LEPSグループ)
実験がスタートして間もなくの2001年には、JASRIの情報ネットや企画グループの協力で、大量のデーターを適切に処理すべくネットワークが充実された。
5.ペンタクオークの発見とクオーク核物理のスタート
LEPS国際協同研究グループによるクオーク核物理の研究が精力的に行われ、データーの収集と解析が進むにつれ、興味ある研究成果が次次に得られている。
ペンタクオークの粒子θ+の発見はLEPS研究プロジェクトの大きな成果と云える。研究結果は2002年の秋の国際学会PANIC02で発表され、翌年の2003年7月に国際誌PRLに発表された(参考文献[2][2]T. Nakano, et al. : LEPS collaboration, Phys. Rev. Lett. 91 (2003) 012002.)。単一クオークは今のところ存在せず、現在確認されているのは核子などの3つのクオークから成るバリオンとクオークと反クオーク対の2クオークから成るメソンである(図1)。3個以上のクオークから成る粒子が存在する可能性は、理論的には論じられていたが実験的には未発見であった。今回のSPring-8での発見は5つのクオークから成る粒子の最初の確認で、クオークとグルオン系の量子色力学の発展上極めて大きな意義がある。
実験には炭素核内の中性子nと2.4GeVのレーザー電子光 γとの反応が用いられた。γ+n=θ++K−の過程で放出されるK−を分析し、1.54GeVの質量の安定な(幅の狭い:25MeV以下)粒子θ+が見つけられた。この際θ+=n+K+の崩壊過程で放出されるK+中間子を同時に分析する事で、炭素核内のnのフェルミ運動の効果を補正した事がポイントである。この発見には、炭素核内の中性子利用と云い、フェルミ運動の補正法と云い、グループリーダーである中野氏の独創性による所が多い。 図9にペンタクオーク粒子の質量スペクトルを示す。この新粒子は5(ペンタ)クオークからなる最初の粒子で、二つのuクオーク、二つのdクオーク、一つの反sクオークから成る。この研究は間もなく欧米の研究グループによって確認された。
図9 レーザー電子光と中性子の反応でK−中間子が放出された際に生成された粒子の質量スペクトル。1.54GeVの質量のペンタクオーク粒子の生成がピークとして現れている。(参考文献[2][2]T. Nakano, et al. : LEPS collaboration, Phys. Rev. Lett. 91 (2003) 012002. PRL91から転載)
ペンタクオーク新粒子はDiakonovが1997年に予言した粒子の可能性がある。しかし粒子のスピンやパリティなどの基本的性質はこれからの課題である。ペンタクオーク粒子の発見はQCDの基礎となるもので、これからの実験と理論の研究と相俟って、非摂動QCD物理を大きく発展させる事が期待される。SPring-8でのこの研究はクオーク核物理の始まりとなる重要な研究と云えよう。
レーザー電子光が偏極している特性を生かし、ハイペロンの生成機構や、φ中間子の光生成の際のグルオンの役割など、興味ある実験研究が進められている。また核内に於けるハドロンの性質の研究はカイラル対称性などの基本的な問題に繋がる。
6.GeV-MeV光科学の展望とAPPEAL
超短波長のマルチGeV光がクオークやハドロンの世界(10-13 cm)の探求に適している事はこれまで述べた。一方、核子系の原子核の世界(10-12 cm)については、宇宙での核生成反応、光核反応、光核変換など興味ある研究が、100〜1MeV領域の光(波長:10-12〜10-10 cm)で可能である。
マルチ10〜1MeV光による核子系核物理とその応用研究は、マルチGeV光によるクオーク系核物理と共通するユニークな特徴がある。光プローブは、核子や軽重イオンなどのプローブによる主流の研究とは異なった興味ある側面を明らかにする。ここで核半径(〜10-12 cm)よりも長い波長の光を使うと光の特定の角運動量成分が選択されるので、核分光研究に有効である。
実験的にマルチ10〜1MeV光を得るには、マルチGeVのレーザー電子光と同じ原理でレーザー光とGeV電子リングを使う事が有効である。光のエネルギーをGeV領域から100〜10MeV領域まで下げるには、(1)式から明らかなように、電子のエネルギーをGeV程度に下げる事と長波長のレーザー光を使う事が考えられる。最近の自由電子レーザーの進歩は大変重要である。この他にも超伝導ウィグラ−による制動輻射光(JASRI)や強力なレーザーで電子を加速して制動輻射光を得る方法(JAERI, ILE)などがある。
マルチGeVレーザー電子光のエネルギー領域を広げ、GeV〜MeV光による素粒子核関連の基礎と応用科学の新分野を拓くことは大変興味ある。GeV〜MeV光はGEM(宝)光であると云える。最近の電子リングとレーザー光の発展がGEM光による科学研究を現実のものとした。
GEM光による科学技術の発展を目指して、2003年に国際ネットワークAPPEAL(Advanced Physics with Photons, Electrons, And Lasers)が形成され、世界的に反響を呼んでいる。提案者は私達SPring-8とRCNP、関西原研、甲南大の有志である。APPEALの目的は、関連する分野の開かれた自由な討論や協力を促進し、国際レベルで広くGEM光科学技術のフロンティアの開拓を計る事である。既にこの線にそってAPPEALセミナー討論会が定期的に開かれている。最近のGEM光科学やAPPEALネットワークとセミナーは参考文献[3][3]H. Ejiri, http://www.sprig8.or.jp/e/conference/leps03/,
http://www.spring8.or.jp/e/conference/appeal/のwebサイトに載せてある。
わが国にはSPring-8、JAERIなどの研究所や各大学に電子加速器、レーザー、素粒子核、原子力の優れた科学者が大勢いる。いずれも豊かなアイデアと実績を持ち、新しい科学技術へのチャレンジ精神が旺盛だ。同じ事は世界の研究所や大学についても云える。このような科学者の力が十分いかされAPPEALが世界にAppealしGEM(宝石)光科学が発展する事を期待したい。
7.おわりに
LEPSプロジェクトはレーザー電子光でクオーク核物理を開拓するもので、物理の魅力と可能性から考えると極めて自然な研究計画である。しかしプロジェクトの実際面からは異例な事が少なくない。大学(共同利用研 RCNP)とSPring-8は省庁(当時)が全く異なる。SPring-8の使命は放射光による研究で、レーザー電子光による素粒子核研究は主な目的ではない。一方RCNPは軽イオンによる核物理が主で、光とかクオークとかニュートリノは範囲外と云う考えが主流である。これらの多くの困難が克服されてLEPSプロジェクトがタイムリーに進んだのは、多くの人々の科学を主とする考えと情熱と努力による。
最初は殆ど人も予算もなく始めたプロジェクトであったが、間もなく国内外の多くの科学者が時にはCritical にそして何時もConstructiveに協力してくれた。また計画の進行に応じタイムリーな国民のサポート(予算)もあった。
スタートから10年目にあたり執筆の依頼を引き受けたのは、LEPSに関わった多くの人々に感謝したい気持ちが強くあった事による。しかし紙数の制限もあり十分に触れられなかった。最後に国内外、実験理論、各分野、関係当局等の全ての関係者と国民に感謝する事で了解していただければ幸である。特にLEPSグループの優れた能力と昼夜を問わない努力には敬意を表し感謝したい。LEPSがクオーク核物理の新たな展開に貢献し、新しい素粒子核物理が発展しつつある事を嬉しく思う。
参考文献
[1]T. Nakano, et al. : LEPS Collaboration, Nucl. Phys. A629 (1998) 559c, A670 (2000) 332.
[2]T. Nakano, et al. : LEPS collaboration, Phys. Rev. Lett. 91 (2003) 012002.
[3]H. Ejiri, http://www.sprig8.or.jp/e/conference/leps03/
http://www.spring8.or.jp/e/conference/appeal/
江尻 宏泰 EJIRI Hiroyasu
(財)高輝度光科学研究センター 参与
大阪大学名誉教授
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0954 FAX:0791-58-0955
e-mail:ejiri@spring8.or.jp
略歴:
1958 東京大学 理学部卒
1963 東京大学 大学院卒 理学博士
1969〜1970 コペンハーゲン大学研究フェロー
1975 カルフォニア大学 客員教授
1976 大阪大学 理学部 教授
1993〜1999 大阪大学 核物理研究センター長
1999〜2000 ワシントン大学 客員教授
2001〜2002 国際高等研究所招聘学者
専門:クオーク・レプトン核物理、ニュートリノ核物理