ページトップへ戻る

Volume 09, No.1 Pages 26 -29

2. ビームライン/BEAMLINES

共用ビームライン評価委員会の報告概要(平成14年度)
Report of the Public Beamline Review Committees in 2002

壽榮松 宏仁 SUEMATSU Hiroyoshi

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ Materials Science Division, JASRI

pdfDownload PDF (23 KB)


1.共用ビームライン評価の経緯
 
平成14年、文部科学省によるSPring-8プロジェクトの成果、運営状況等に関する総括的な評価が行われ、一方、これに先立ち、平成13年度、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)は、諮問委員会特定放射光施設評価委員会においてSPring-8の加速器・ビームライン及び利用研究成果について全般的なピアレビューを実施しました。しかし、そこでは共用ビームラインについての個別的な評価はなされていませんでした。
 個々のビームラインに関しても、その性能と整備状況、共同利用の状況及び利用研究成果並びに将来計画等に関する外部評価を行うことは、今後の共用ビームラインにおける研究活性の展開を考えるために非常に重要です。そこで、共用ビームラインの中間評価としての意義を含め、供用開始後5年を経過したビームラインを対象として個別的な評価を実施することとし、平成14年度には5本の共用ビームラインを評価いたしました。
 共用ビームラインの個別評価の実施に当たっては、放射光研究所長の下に、ビームライン毎に評価委員会を設置し、評価委員には、外国人も含め各学術分野におけるアクティブな指導的立場にある有識者5-6名にお願いし、各コミュニティーからの共同利用研究所としてのSPring-8のあるべき姿を議論して頂きました。 各評価委員会からの評価報告書は、放射光研究所長を通じて、諮問委員会、特定放射光施設連絡協議会等に報告し、今後の利用研究における、より優れた成果を目指し、充実した供用業務、利用支援の推進、及び今後のビームライン整備・改造、移設、建設等の検討に十分に活用したいと考えております。また、平成14年度の「第7回SPring-8シンポジウム」においても「SPring-8共用ビームラインの個別評価について」と題してユーザーの方々を対象とする施設報告の一環として報告しました。
 なお、平成15年度についても表1に示す5本のビームラインについて実施し、現在、各委員会で評価報告書の作成の段階です。

2.平成14年度における共用ビームラインの個別評価方法と結果
 
平成14年度は、1997年供用を開始した10本の共用ビームラインの内、以下の5本を評価対象といたしました。
(1)XAFSビームライン(BL01B1)
(2)単結晶構造解析ビームライン(BL02B1)
(3)高エネルギー非弾性散乱ビームライン(BL08W)
(4)高圧構造物性ビームライン(BL10XU)
(5)構造生物学Ⅰビームライン(BL41XU)
 評価方法は、各BL毎に評価委員会を設けて個別に評価が行われました(表2に委員リストを示します)。
各評価委員会における評価項目は、
 1)ビームラインおよび実験ステーションの性能・整備の状況
 2)共同利用及び支援体制
 3)利用研究成果
 4)ビームラインおよび実験ステーションの改善・改廃に関する勧告
の4項目を設定しました。各評価委員には、事前にJASRIで用意した詳細な“Beamline Report”を予め御覧頂きコメントを頂いた後に、委員会(国内委員のみ)を開催し議論をお願い致しました。
 5本のビームラインの評価報告書については、全般に測定装置を含めてビームラインの性能・整備状況についての評価は共通して高いものでしたが、改善すべき点として次の問題が共通的に指摘されました。
 1)各ビームラインの整備状況は全般的に評価できるが、試料環境などの整備が必要である。
 2)ビームラインスタッフは、外国の同規模施設に比べ少なく、充実すべきである。
 3)各ビームラインで、新しい研究分野と新しいユーザーの拡大に努力すべきである。また、施設側の科学的戦略を明確にすべきである。
 4)ユーザーの成果公表が不十分であり、未発表の実施課題が多い。ユーザーに論文出版を要請すると共に、未発表の理由を検討すべきである。

 最後に、各ビームラインに関する評価委員会の報告書の概要を述べますが、これらの指摘・勧告は、冒頭の経緯で述べました「充実した供用業務、利用支援の推進、及び今後のビームライン整備・改造、移設、建設等の検討」に深く関わるものとして、施設側として今後の運営に積極的に反映させていきたいと考えています。
(1)XAFSビームライン(BL01B1)
 本ビームラインは、広いエネルギー領域におけるXAFS装置として技術的に完成度が高い。特に、ユーザーフレンドリーな光学系は評価できる。科学的成果については、高エネルギー領域でのXAFS研究、4d原子や希土類元素のK端XAFS実験を可能にした効用は大きく、触媒、半導体分野での貢献は評価できる。標準的なXAFS設備として存続すべきである。
 勧告は、研究体制では、外部ユーザーとスタッフが一体となった共同研究支援体制を推進し、これによりビームラインの特徴を活かした利用研究の開拓を推進すべきである。一方、ユーザーの論文公表について、相当なビームタイムを使用しながら報文に繋がっていない例があり、論文出版を喚起すべきである。また、ビームライン光学系および測定設備については、集光光学系、多素子検出器、多試料自動測定システム等の設置を推奨する。産業利用などのために、短いTurn around で実験できるシステムが望ましい。
(2)単結晶構造解析ビームライン(BL02B1)
 測定設備について、7軸回折計については多様な試料環境に対応でき、多目的回折計として満足すべき完成度に達している。一方、真空低温カメラは、独自性が高いが、今後さらに装置のR&Dが必要であろう。研究成果については、強相関電子系物質や分子性結晶解析で質の高い研究がなされており、高エネルギーX線を活かした金属材料の歪解析などの産業利用も進められている。共同利用については、1年有効課題など、研究分野に即した利用システムは評価できる。
 勧告は、全般的に論文数が少なく、未発表の実施課題が多いことについて、採択率が低い(約50%)ことによるビームタイム不足が原因なのか、ユーザー側の理由かなど検討すべきである。ビームラインスタッフを充実する一方、ビームライン担当者を中心に積極的な“攻めの姿勢”での共同利用研究を進めるとともに、人事交流の可能な研究者の育成を図ることが望ましい。施設側の科学的戦略を明確にすべきである。また、設備の改善については、実験のHigh-Throughput 化を目指すべきである。このための2D検出器などの導入は歓迎すべき課題であるが、R&Dを綿密に行うこと。
(3)高エネルギー非弾性散乱ビームライン(BL08W)
 本ビームラインにおけるコンプトン散乱分光装置は、エネルギー、強度、分解能等の性能と試料環境などについて、第3世代放射光施設に相応しい性能を持っており、実験施設の整備状況および研究のActivity は、世界的に見ても最も高く評価できるものである。また、磁気コンプトン散乱によるスピン・軌道磁気モーメントの決定は、中性子散乱に勝るユニークな手法であり、発展させるべきである。一方、高エネルギー蛍光X線分析は、SPring-8の先駆的役割・貢献を評価できる。
 勧告は、ビームラインの方針として磁気コンプトン散乱による磁気・電子構造やフェルミ面再構成の研究を今後も進展させることは重要であるが、High-Throughput 化のために、高エネルギー領域の位置敏感検出器の開発が最優先の課題であり、資源を集中すること。また、コンプトン散乱および蛍光X線分析の双方の分野について、対象物質、およびサイエンス領域の両面での拡大と、ユーザーの拡大に努力することが望ましい。
(4)高圧構造物性ビームライン(BL10XU)
 超高圧実験は技術的に世界のトップレベルであり、科学的成果は「良」と判断する。高圧構造物性研究については、わが国の物質科学の利点を活かし、今後、世界をリードする研究が期待できる。高輝度XAFSについては、研究成果は「良」であるが、研究者が限られており、分野の開拓が必要である。
 勧告は、まず、高輝度XAFSと超高圧実験ステーションがタンデムとなっている状況を解消し、別のビームラインに分離すべきである。本ビームラインをDAC高圧実験ステーションとして整備するには、モノクロメーターの液体窒素冷却、集光光学系、回折実験の自動化・標準化などの改善が望ましい。また、高圧装置のハード・ソフト両面での整備・充実をはかり、High-Throughput 化が望ましい。この他、ビームラインスタッフの充実、超高圧実験の利用者の物性科学などへの拡大、単結晶超高圧実験の開拓などが望まれる。
(5)構造生物学Ⅰビームライン(BL41XU)
 本ビームラインは、蛋白結晶構造解析装置として、性能、自動操作性、利便に大変優れ、完成度が高い。わが国の唯一の高性能共用施設と位置付けられる。研究成果は、極めて優れており、数多くの特徴ある研究成果が得られて、さらに増大しつつあることなど、本ビームラインは総合的に高く評価できる。
  勧告は、今後、スタッフが中心となって、ビームラインに密着した研究を展開することが望ましい。施設は、その振興策を検討すべきである。このためには、共同利用のシステムの合理化、例えば、データ処理、実験操作など、ユーザーフレンドリーなシステムに改善し、スタッフの負担を軽減すべきである。この他、今後の改善策として、試料の放射線損傷についての系統的研究、微小結晶の測定が可能なシステム、試料マウントのロボット化など、検討されたい。   

 
表1 平成15年度 評価ビームライン(5BL)

BL04B1    (高温高圧ビームライン)
BL09XU    (核共鳴散乱ビームライン)
BL25SU    (軟X線固体分光ビームライン)
BL27SU    (軟X線光化学ビームライン)
BL39XU    (磁性材料ビームライン)  
 
表2 平成14年度ビームライン評価委員会委員一覧  
 
〇BL01B1評価委員会(XAFSビームライン) 
  平成14年11月19日(火)〜20日(水)
 SPring-8 BL01B1 評価委員会委員
小杉 信博
 岡崎国立共同研究機構 分子科学研究所基礎光化学部門
須藤 和冬
 三井化学分析センター 構造解析研究部形態・化学分析グループ
野村 昌治(委員長)
 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
村田 隆紀
 京都教育大学 学長 Jose Goulon European Synchrotron Radiation Facility 
 
〇BL02B1評価委員会(単結晶構造解析ビームライン)
 平成14年11月25日(月)〜26日(火)
 SPring-8 BL02B1 評価委員会委員
小林 昭子
 東京大学大学院 理学系研究科
佐々木 聡
 東京工業大学 応用セラミックス研究所
藤井 保彦(委員長)
 東京大学 物性研究所附属中性子散乱研究施設
山田 和芳
 京都大学 化学研究所
Peter Stephens
 State University of New York at Stony Brook 
 
 〇BL08W評価委員会(高エネルギー非弾性散乱ビームライン)
 平成14年11月7日(木)〜8日(金)
SPring-8 BL08W評価委員会委員
飯田 厚夫
 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
塩谷 亘弘(委員長)
  高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
兵頭 俊夫
 東京大学大学院 総合文化研究科
村上 洋一
 東北大学大学院 理学研究科
Jochen R. Schneider
 HASYLAB at DESY
Pekka Suortti
 University of Helsinki 
 
 〇BL10XU 評価委員会(高圧構造物性ビームライン)
 平成15年1月13日(月)〜14日(火)
 SPring-8 BL10XU 評価委員会委員
青木 勝敏
  独立行政法人産業技術総合研究所 物質プロセス研究部門
入舩 徹男
 愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター
坂田 誠(委員長)
 名古屋大学大学院 工学研究科
村田 隆紀
 京都教育大学 学長
Russell J.Hemley
 Geophysical Laboratory
Paul Loubevre
 CEA 
 
 〇 BL41XU評価委員会(構造生物学Ⅰビームライン)
 平成14年12月13日(土)〜14日(日)
 SPring-8 BL41XU 評価委員会委員
赤坂 一之
 近畿大学 生物理工学部
雨宮 康幸
 東京大学大学院 新領域創成科学研究科
佐藤 能雅(委員長)
 東京大学大学院 薬学系研究科
月原 冨武
 大阪大学 蛋白質研究所
Peter Lindley
 
Matthias Wilmanns
 EMBL c/o DESY  
 

壽榮松 宏仁 SUEMATSU   Hiroyoshi
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0974(DⅠ) FAX:0791-58-0878
PHS:0791-58-0803-tone-3481
e-mail:suematsu@spring8.or.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794