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Volume 08, No.5 Pages 364 - 366

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

XAFS12に参加して
The Report on the 12th International Conference of XAFS

谷田 肇 TANIDA Hajime、石井 真史 ISHII Masashi、水牧 仁一朗 MIZUMAKI Masaichiro、加藤 和男 KATO  Kazuo

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ Materials Science Division, JASRI

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はじめに(谷田肇)
 2003年6月22日より27日までスウェーデンのマルメにて第12回X線吸収微細構造国際会議(XAFS12)が行われた。前回、2000年に赤穂で行われた会議以来である。前回までは2年おきだった会議が今回より3年おきになっている。前回は、SPring-8の全面的な協力が得られ、かなりうまくいった会議であったと思っている。今回は、事前の郵送による案内も特に無く、全てインターネットを使った情報の発信であった。しかしながら、プログラムの掲示やプロシーディングスの執筆に関する情報が遅かったりするなど、多少混乱が見られたように思われる。会場はコンサートホールが使われており、3年前に赤穂のハーモニーホールを使ったことが思い出された。メインホールは立派であったが、パラレルセッションの会場は小さな部屋となり、後ろに座ると、プロジェクタの下の部分が前の人の頭にかくれて見えなくなるといった不具合があった。受付は、入ってすぐのカウンタが利用されていたが、会議自体が、かなり少人数で運営されていたようであり、世話をした研究者の方々も含め、かなり大変だったのではないかと予想された。受付に非常に流暢な日本語を話す青年が1人いて、いきなり、日本語が耳に入ったときには、誰がどこから話しかけているのかと、びっくりしたものであった。会議は世界中の放射光実験施設が稼働していたであろう期間であったにもかかわらず、全参加者が約400人で、国別で最も多い100人を超える日本人が参加していた。発表はほとんどがPower Pointを使用したものだった。事前にPower Pointの原稿を受け付ける専用のカウンタに行き、原稿を提出する。原稿の受付はCD-ROM、MO、USBメモリなどが使え、カウンタ内では複数のPCが置いてあって、そのPCがネットワークで繋がっているので、渡した原稿がすぐに別のPCで確認でき、係の方たちの協力により、文字化けやおかしな動作をする場合の修正をすることができた。また修正した原稿はすぐに各会場のPCにネットワーク経由で転送されていたようである。また、Power Point以外のアプリケーションソフトを使用する講演者は持ち込んだノートPCをモニタ切替器にあらかじめ繋いでおくことができた。PCの操作は全て会場係により行われ、その場ですぐにファイルを開くことができるようになっていて、進行は非常にスムーズであった。e-mailサービスのコーナーではMacが複数台置いてあり、全て無線LANで繋がっていた。ちなみに、DHCPを使っていたため、個人で持ち込んだノートPCの無線LANでも使うことができた。プログラムは朝の9時頃から15時頃まで、講演があった後、17時頃までポスター発表があり、さらに夕食後にミニシンポジウムが、19時頃から21時頃まで行われた。北欧は夜が長く、それが終わっても、外はまだ明るかった。もし日が傾いてから、お酒を飲もうなどと考えていると、いつまで経っても飲み始めることができないであろう。ミニシンポジウムは世界中で使われている主要なXAFSのプログラムについて、それぞれのプログラマーがプレゼンテーションを行い、ポスターの掲示や、パネルディスカッションを行ったが、比較的気楽な雰囲気であり、際どい質問には壇上でプログラマー同士の議論が白熱するなど、国際会議のような機会でないと実現できない面白い企画であった。26日にはMAX-labへのexcursionとSwedish midnight dinnerが催された。MAX-Labでは内装や実験準備用の小屋に木が使われているのには驚いた。また、midnight dinnerは、ルンド大学近くで、最初は屋外博物館、その後移動して、ホール内での食事となった。民族衣装を着た老若男女の人達が踊りによって歓迎してくれた。dinnerは夜中の23時頃まで行われた。ただし、食事はあまりよくなかったように思われる。また、スウェーデンはホテル代も食事代も物価がかなり高かった。次回の開催は3年後、2006年にアメリカのスタンフォードで行われ、その次の2009年にはイタリアで行われることが決まった。2009年の開催国には中国の北京が候補として挙がっていたが、個人的には是非ともアジアの中国で開催して欲しかった。 
 
 
 
Main Hall  内 
 
 
 
ポスターセッションの会場を兼ねた Main Hall 前のロビー 
 
 
 
MaX-lab 見学 
 
 
 
Swedish midnight dinner の屋外博物館 

 生物、環境(谷田肇)
 生物、環境の分野では、マイクロビームを使って、蛍光X線によるマッピングを行い、特定の部位でXANESを測定して、そのスペクトルのパターンを標準試料のXANESのライブラリィと照らし合わせるといった、応用例が盛んに行われていた。また、軟X線のXAFSとして、NやCといった低エネルギー側での研究が多く行われており、世界中の実験施設でそれぞれの特長を生かした様々な研究が行われている印象を受けた。特に、2 GeV以下クラスの規模の施設だと、的を絞り、必要となれば加速器と連携を取り、小回りの利く戦略的な研究が行われているように思われた。in-situの実験や時分割の実験もごく当たり前のように行われており、技術が円熟し、試料を持った科学者がツールとして十分活用できている。また、因子分析などの数学的な解析方法を駆使して、混合物のXAFSスペクトルを解析して、個々の成分の濃度やスペクトルを得る試みも多く行われていた。ユーザーが多様化し、その裾野がどんどん広がっているようである。

材料科学(石井真史)
 材料科学において、極微細人工構造に対する興味が高まっている。これに対応して、従来の巨視的なX線吸収測定ではなく、マイクロ・スペクトロスコピーへの取り組みもいくつか見られた。例えばErikoらの”Micro-XANES and Micro-EXAFS at BESSY using a Monocapilary”などを見ると、彼らのビームラインでは定常的に5μmレベルの空間分解能を得ているようである。しかしスペクトロスコピーであることを考慮しても、まだサイズが大きい感は否めない。一方このようなビームサイズを絞る手法とは別に、Roccaらによる“XAFS Studies of light emitting silicon nanostructures by Photoluminescence Yield and Total Electron Yield detection”など、X線励起光学発光を使ってサイト選択的に特定構造をXAFS分析する取り組みも、広い意味でマイクロ・スペクトロスコピーの一つといえる。この手法は最初のアイディア発表から既に長い時間が経過しているが、「見たいものを抽出する」という考えは、今なおXAFSに必要な方向付けであろう。

MCD(水牧仁一朗)
 XMCDはXAFS測定の1手法としての地位をすでに確立し、分光学的な興味を越えて磁性薄膜デバイスの評価や磁性鉱物の評価の手段として用いられ始めている。今回の会議はその印象をより強めるものとなった。磁性体薄膜を用いたデバイス(例えばCo/Pt多層膜高密度磁気記録媒体やナノスケールのisland構造をもつCoクラスターなど)がナノ構造をもつことによりバルクとは異なった磁気的な振舞を示す。そのひとつとしてナノ構造を形成しているCoはバルクのときに比べて軌道磁気モーメントが大きいということが挙げられる。このことが垂直磁気異方性などの磁気的性質と深くかかわっていることをC.CarboneやA.M.Mulderらが示した。またSPring-8の鈴木らによってCo/Pt多層膜のtop層のPtはCoとの磁気的結合により磁化していることを示した。また応用の分野だけでなく基礎的な分野においても多くの講演がなされた。軟X線領域においては入射光強度および円偏光度を一定にするためにアンジュレータのギャップをスキャンしながらMCD測定を行い、S/N比の高いスペクトルを得ることができるという報告がK.Baberschke教授によってなされた。MCD測定の定量性を上げるためにも重要なことである。硬X線領域においては極低温や超高圧などの極限環境下におけるMCD測定の技術が進歩していることを実感した。SPring-8の河村らは14GPaにおけるS/N比の高いMCDスペクトルを示し、超高圧における磁性を調べる新たな手段としてMCDの有用性を示した。理論分野においては第1原理計算によるMCDスペクトルの計算が多重項効果の強い3d遷移金属のL吸収端においても行われていた。さらなる発展が望まれる分野である。

時分割XAFS(加藤和男)
 時分割XAFS関係では、装置開発に関するセッションと触媒反応の時分割実験に関するセッションの2つがあり、各放射光施設でのin-situ時分割実験への取り組みが増加している印象を受けた。H.StollやW.Gaweldaら(ALS)は、蓄積リングのバンチモードとレーザー光または磁場の印加を同期させることによって、金属錯体や磁性体の励起状態や磁気円二色性をnsec〜sub-psecの時間分解能で測定するシステムについて報告を行った。一方、触媒反応の時分割実験のセッションでは、msecオーダーの時間分解能の反応追跡に関する報告が殆どであった。これは、光励起や磁場励起のように同じ現象を何度も発現させることが可能な測定では積算測定を行えるのに対して、触媒反応は不可逆な現象を測定しているため、十分なS/N比を持つデータを得るためには、msecオーダーの測定時間が必要になるためである。また、J.Evansら(ESRF)は、CCDよりも高計数率を有する位置敏感検出器として、sub-msecの時間分解能をもつシリコンマイクロストリップ検出器の開発について報告を行った。



谷田 肇 TANIDA  Hajime
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
e-mail:tanida@spring8.or.jp

石井 真史 ISHII  Masashi
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
e-mail:ishiim@spring8.or.jp

水牧 仁一朗 MIZUMAKI  Masaichiro
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
e-mail:mizumaki@spring8.or.jp

加藤 和男 KATO  Kazuo
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-0830
e-mail:kkato@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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