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Volume 08, No.2 Pages 117 - 119

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

理研シンポジウム 構造生物学(VIII)
「蛋白質複合体の構造生物学:構造からメカニズムの理解へ」を開催して
RIKEN Symposium on Structural Biology (VIII)
“Structural Biology of Protein Complexes : from Structure to Mechanisms”

小田 俊郎 ODA Toshiro

理化学研究所 播磨研究所 構造生物化学研究室 RIKEN Harima Institute at SPring-8,Lab of Structural Biochemistry

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 理研シンポジウムが2月23〜24日SPring-8普及棟において、国内外からの講演者(海外1名、国内4名、理研7名+3名)を招待し行われた。理研構造生物ビームラインの位相が建設から運用に移行したことに対応して、今回の理研シンポジウムではSPring-8の紹介ではなくテーマを設定し、そのテーマに沿った講演を時間の余裕を持って拝聴し討論する企画とした。また、RIKEN Structural Biology Journal Club(代表、足立)の協力を得てポスターセッションを行い、広く理研で行われている研究を外部に発表する場を設けた。140名の方に参加していただいた。
 テーマは「蛋白質複合体の構造生物学:構造からメカニズムの理解へ」である。生体内の蛋白質は、複合体を形成し機能を発現している場合が多い。生命を理解するためには、この複合体レベルで蛋白質の機能を理解することが必要であり、そのためにはX線による結晶構造解析だけではなくNMRや電子顕微鏡などの構造生物学的手法も活用し、さらに、遺伝子工学を含む生物化学的手法をも駆使し、総合的に戦略的に研究を遂行する必要がある。今回のシンポジウムでは、「種々の方法で明らかにされた蛋白質の構造の中に、如何にして機能を読みとったか?」に触れた講演を依頼した。
 招待講演を依頼する講師を選定するために、プログラム委員会(前田、小田、吾郷、新海、岩崎、海老原、内藤、Vassylyev)を組織し、特に海外からの招待講演者を中心に検討した。その際「蛋白質複合体の構造生物学:構造からメカニズムの理解へ」を以下の観点から議論した。(1)異なる複数の状態で複合体の構造を解く。(2)より大きな複合体の構造を高分解能で解く。(3)蛋白質の結晶構造と計算機シミュレーションとを結合する。(4)大きな複合体の結晶構造から動的ゆらぎを理論予測する、等。
 高木(Harvard med. school)によるintegrinに関する講演は興味深かった。Integrinは細胞外の情報を細胞内に伝え、また逆に細胞内の情報を細胞外に伝える膜蛋白質である。高木らは電子顕微鏡を用い単粒子解析を行い、integrinの活性化による構造変化を明らかにし、その電子密度にintegrinの結晶構造を合わせることで重要な残基を同定し、その残基に変異を導入しその同定を確認した。また、横山(東大、理研)によるhuman epidermal growth factorのreceptorに関する講演も興味深かった。X線構造解析による複数の構造により構造変化に重要な残基を同定し、その残基に変異を導入しその仮説を確認した。これらのレセプター研究に同様な戦略を見て取ることができた。
 また、米倉(阪大、ERATO)は、flagella filamentとそのキャッピング蛋白質(HAP2)を低温電子顕微鏡を用い解析し、対称性のミスマッチを利用した、フィラメントの伸張とそのキャッピングとを同時に満たすメカニズムを発表した。同様な対称性のミスマッチは山下(理研)により報告されたF-actinキャッピング蛋白質(CapZ)とF-actinの間にも見られ、キャッピングメカニズムに、ある種の共通性があるのかもしれない。沈(理研)はX線結晶学によりphotosystem Ⅱを構造解析し、Mnクラスターの配置から電子伝達メカニズムを推定した。また、Vassylyev(理研)はT7 RNA polymerase elongation complexの結晶構造からRNAの転写モデルを構築し提唱した。筆者はX線繊維回折法を用い作成されたF-actinのモデルをもとにフィラメントの安定性を議論した。これらのモデルは他の方法により完全に確認されているわけではないが、構造からメカニズムが必然的に見て取れる場合があることを示している。
 北尾(原研)は蛋白質の運動性を評価するためのJAMモデル(Jumping-among-minima model)を解説し、このモデルを適用し、NMRにより観測される溶液中のhuman CD2の運動が2つの低次運動モードで表すことができ、さらに、基質の結合に伴う構造変化がその2つの低次運動モードで説明できることを示した。このようなモデル解析は、静的な構造から動的な運動を予測し機能を理解する上で有用であると思われる。また、原研(木津)にはCPUが512個の並列コンピュータ(1TBメモリー)があり、より現実を模した状況下で蛋白質のシミュレーションを行うことが可能になったとの報告があり、近い将来コンピュータシミュレーションが蛋白質の機能理解の重要な1分野になるかもしれない。中迫(慶応大)は蛋白質のまわりには組織化された水が1層あり、その水は蛋白質の運動に伴い再組織化されると報告した。蛋白質の運動を考える上で水を考慮に入れる必要があることを示した。
 村上(阪大、PRESTO)からmultidrug efflux transporter AcrBの結晶構造、竹田(理研)からLol蛋白質の結晶構造、Tahirov(理研)からAML1/CBFbeta, Myb-C/EBPbetaの結晶構造の報告があった。また、ポスターセッションから選ばれ紹介された、足立(理研)による低温で状態固定されたhemoglobin R/T状態の構造解析、堀(理研)による無細胞系を用いた膜蛋白質発現系の開発、中津によるluciferaseの発光色を決めている残基の同定、も優れた報告であった。
 最後に、玉島さんをはじめとする事務の方々、シンポジウム・ポスターセッションの準備・運営をしてくださった方々に感謝したい。漠然ではあるが、シンポジウム参加者が蛋白質の構造からそのメカニズムを理解する色々な戦略を感じ取っていただけたなら、幸いである。今回の理研シンポ及びポスターセッション開催についてご意見がある方は以下のアンケートまで。
http://sbc00.harima.riken.go.jp/SBJC/poster/quest_entry.html


 
 
ポスターセッションの風景  
 
 
 
 
講演風景(講演者:横山)

プログラム:
膜蛋白質の構造と機能
岩崎憲治(理研)&吾郷日出夫(理研)
村上 聡(阪大、PRESTO)
 Crystal structure of bacterial multidrug efflux transporter AcrB.
高木淳一(Harvard medical school)
 Conformational modulation of the ligand binding function of integrins.
沈 健仁(理研)
 Mechanisms of light-induced electron transfer and water oxidation in photosystemⅡbased on its three-dimensional structure.
横山茂之(東大、理研)
 Crystal Structure of the complex of human epidermal growth factor and receptor extracellular domains.
竹田一旗(理研)
 Structures of Lol proteins involved in trafficking of outer-membrane lipoproteins in Gram-negative bacteria.


蛋白質の機能理解へのアプローチ
小田俊郎(理研)
北尾彰朗(原研)
 Jumping-among-minima model for protein dynamics in the native state.
中迫雅由(慶応大)
 Influence of water on structure and dynamics of proteins.


フィラメント状構造体のダイナミックス 
前田雄一郎(理研)
小田俊郎(理研)
 Modeling of F-actin: mechanism of F-actin stabilization by natural drugs- phalloidin and dolastatin 11.
山下敦子(理研)
 Crystal structure of CapZ: architecture of a heterodimer complex and mechanism for actin filament capping.
米倉功治(阪大、ERATO)
 Electron cryomicroscopy of bacterial flagellar structures.


DNA/RNA結合装置のメカニズム
海老原章郎(理研)
Dmitry G.Vassylyev(理研)
 Structural studies of single- and multi-subunit RNA polymerases: High resolution structures of a bacterial RNA polymerase holoenzyme and T7 RNA polymerase elongation complex.
Tahir H.Tahirov(理研)
 Mechanisms of promoter DNA recognition by AML1/CBFbeta, Myb and C/EBPbeta.


PosterからのShort Talks
牧野浩司(理研)
足立伸一(理研)
Freeze-trapping of reaction intermediates in protein crystals
堀 哲哉(理研)
Expression, purification and refolding of M2 muscarinic acetylcholine receptor on cell-free system
中津 亨(理研)
Bioluminescence Color Catalyzed by Firefly Luciferase

小田 俊郎 ODA  Toshiro
理化学研究所 播磨研究所 構造生物化学研究室 先任研究員
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2822 FAX:0791-58-2836
e-mail:toda@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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