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Volume 16, No.4 Pages 272 - 276

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第2回世界加速器会議(IPAC’11)報告
Report of IPAC ’11 (The 2nd International Particle Accelerator Conference)

満田 史織 MITSUDA Chikaori[1]、大熊 春夫 OHKUMA Haruo[1]、松原 伸一 MATSUBARA Shinichi[2]、田中 均 TANAKA Hitoshi[3]

[1](財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI、[2](財)高輝度光科学研究センター XFEL研究推進室 XFEL Division, JASRI、[3](独)理化学研究所 播磨研究所 XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN

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1.はじめに
 第2回世界加速器会議(IPAC'11)がスペインのサンセバスチャンにて開かれた。IPACは、2009年までは、ヨーロッパ(EPAC)、アメリカ(PAC)で隔年開催(更に、アジア(APAC)が別に3年毎に開催)されていた会議を統合した文字通りの加速器の分野では世界最大の国際会議である。第1回は日本がホストとなり2010年に京都で開催された[1][1] 水野明彦、大熊春夫、稲垣隆宏:SPring-8利用者情報 15 (2010) 179.
 台風12号上陸の影響により、SPring-8からの参加者も一部は一日遅れでの出発となった。会議が開かれたサンセバスチャンと高速バスで1時間ほど離れている経由地(最寄りの国際空港がある)のビルバオは国境付近のフランス地区も含めて、ケルト海に面するビスケ湾に沿ったバスク地方と呼ばれる地域にあり、スペイン文化とは民族風習の異なる文化圏となる地域である。
 会議は2011年9月4日から9日までの6日間に渡ってサンセバスチャン(バスク地方ではDonostiaと呼ばれる)の旧市街地のケルト海に面した港を背にするKURSAAL国際会議場(写真1)にて開かれた。口頭発表は座席数1000人規模の聴衆を収容できる大ホールとその半分の500人ほどを収容できる中ホールの二つの会場に分かれて行われた。参加登録者が約1200人であることを考えると十分な大きさの会場である。ポスターセッションは口頭発表会場の階下の会議室エリアの2つの中会議室、1つの大会議室にまたがり開催された。毎日、平均300件以上のポスター発表があり、ポスター前で闊達な議論をするには、もう少し広めのスペースが欲しいところであった。それ以外においては非常にスムーズな進行で発表が行われ、1000人を超える規模の参加者が集う国際会議としては配慮の行きとどいた会議運営であり、ホストの膨大な努力に感謝したい。
 プログラムは初日午前のプレナリー招待講演、木曜日午後の各賞の受賞講演、最終金曜日の招待講演は主会場でシングルセッションにより行われた。その他の時間の口頭発表はパラレルセッションで行われた。口頭発表は朝の9時から途中休憩・昼食をはさみながら夕方の4時まで行われ、その後2時間はポスターセッションが行われた。口頭発表の件数は招待講演(30分)が33件、プログラム委員会により一般発表申込みの中から選択された一般口頭発表(20分)が51件であった。その他に産業関連の招待講演として5件の発表があった。ポスター発表の件数は発表のキャンセルが目立った日もあったが、申し込み件数は1376件に達している。
 33件の招待講演の内、7件が放射光関連の発表であり、その内の1件がXFEL/SACLAの現状とコミッショニングについての講演で、初日のプレナリー招待講演の中の1件として選ばれ、重要な招待講演として高く評価されていることが明らかであった。
 51件の一般口頭発表の内、13件が放射光関連の発表であり、XFEL/SACLAのビームモニターに関する講演とSPring-8アップグレード計画SPring-8 IIの設計に関する講演の2件が選ばれた。
 正確に数えきれてないかもしれないが、ポスター発表においてはXFEL(X-ray Free Electron Laser)関連の発表が85件、放射光利用に向けてのERL(Energy Recovery Linac)関連が10件であった。放射光リングに関しては160件の発表があった。発表件数からも世界の加速器施設のうち放射光関連の加速器施設がいかに多く存在し、そこでの技術開発の進歩が存在感を増してきているのかがよくわかると同時に、また、発表内容から次世代(第4世代、第5世代?)放射光施設への建設・計画が着実に世界中で進められているのも感じられる。

写真1 IPAC'11の会場のKURSAAL国際会議場



2.リング型放射光関連の発表
 口頭発表の内、主だったものは、今年の3月に蓄積に成功した地元スペインのALBA、ブラジルの新しい放射光リング計画Sirius、電子蓄積リングの非線形ダイナミックスをテーマにしたレビュー講演が目に付いた。ブラジルのSirius計画ではハードX線の必要なBLのみNeFeBの永久磁石を使った短い2 Tの偏向電磁石を使う(既にプロトタイプ機を製作)という報告があった。省コストにもなるであろうし、果敢な技術的挑戦は素晴らしいと感心した。
 前述したように極低エミッタンスを目指したSPring-8 IIのラティス(電磁石配列)設計も一般口頭発表(写真2)に選ばれた。約60 pm・mradのエミッタンスを得るために6つの偏向電磁石を約30 mのユニットセルの中に配置(現在のSPring-8では同じ長さのユニットセルの中には2つの偏向電磁石)した設計の詳細とそれに伴う安定領域の縮小などの困難さの克服についての報告を行った。報告後のコーヒーブレイクの時に他の放射光施設のスタッフから「SPring-8のアップグレード計画はストレートフォワードで、放射光が次に進むべき道を的確に捉えている」というような趣旨の賞賛の言葉を掛けられたのは大変うれしかった。

写真2 SPring-8 IIについての口頭発表


 また、ESRFからは、垂直エミッタンス低減についての発表があった。達成された値自体(3.2 pm・rad、結合比0.06%)は驚くほどのものではなかったが、ESRF自身としては従来の一桁下の値を達成していたのには感心させられた。ポスター発表でもSwiss Light Sourceの2 pm・mradを切る値を達成しているという報告があった。SPring-8は運転開始当初から垂直エミッタンスは非常に小さかったが、それを超える施設が出てきており、更なるビーム性能向上が必要であることを肝に銘じる一つの事例であった。
 少し毛色の変わった発表として、オルセー大学で進行中のレーザコンプトン散乱による40〜90 keV領域のX線光源の開発が一般口頭発表に選ばれていた。この手の光源開発は日本でも進められており、決して目新しいものではないし、なぜこの計画が口頭発表に選ばれたのかは必ずしも明確ではないが、小規模なX線光源開発としての意義はあると思う。放射光と言えるのか異議があるかもしれないが、放射光・FELのセッションの中で発表があった。


 さて、蓄積リング放射光に関する施設については、主だった国々で計画、建設が進められており、世界中で1国1施設といっても過言ではない程、3 GeV近傍の中規模の放射光施設が多く作られる時代となり、それらの技術報告・建設状況・施設運転報告が多数あった。かたや、既に建設から年数を得て十分に役割を果たしてきた施設に関しては、より高輝度な放射光を目指し、第3世代放射光施設から次の世代への放射光施設への再建設、アップグレード計画が開始されている。いずれの施設においても現状から数10 nm・radへの2桁低い極低エミッタンスを達成し、更に蓄積電流の増強により102〜103倍の高輝度化を目指すものである。
 本会議で目に付いた次世代放射光施設のエミッタンス目標値として、すでに建設が始まっているスウェーデンのMAX-IVは0.3 nm・rad(3 GeV)、まだ、計画検討の段階で建設に至るかどうかは不明確な点もあるが、スタンフォードSLACのPEPXは、以前のラティス検討を更に次のステップに進めて、水平と垂直のカップリングを100%にしたラウンドビームにより12 pm・mrad(4.5 GeV)という検討結果を発表していた。
 各報告でも、極低エミッタンスと真空チェンバ内で安定的にビームを存在させる空間領域ビームダイナミックアパーチャーを拡大させることの両立の難しさが多く述べられている。放射光施設としての加速器性能の限界を追求するにあたり最大の難関であることが理解される。これらの困難を打開すべく、ラティスの最適化、有限空間内の加速器チェンバ内を周回するビーム粒子の多体運動を、いかに現実の物理現象を多く反映しシミュレーションできるか、などの計算コードの新たな開発や、コード同士の比較・検討、ビーム運動の理論的な解明などの発表が多数あった。これらの報告から技術的な要素開発とともに、同時に精力的にビーム物理学の理論的な発展が推し進められていることがわかった。SOLEILからのシミュレーション・理論解析のサマリートークの結論を借りるならば、「数年以内に新しい加速器技術と理論、大規模解析が可能な手頃なコンピューターシステムが獲得され、新しい加速器の最適化手法のもと加速器の限界を押し上げるならば、それがより高輝度な光、回折限界光の生成を確固たるものとするだろう」と10年先の次世代蓄積リング放射光の飛躍的な発展が期待できる。
 リング型放射光として提案のあるERLについてもKEKを始めとするいくつかの発表があった。ALICE@Daresbury、Cornellからの報告はあったが、蓄積リング放射光に比べるといささか低調であったという印象を持った。


3.FEL関連の発表
 FELに関しては、口頭とポスター合わせて90件ほどの発表があった。
 日本のXFEL/SACLAに関しては、今回のIPACの2週間前に韓国で開かれたFEL国際会議でも多くの発表が行われたが、ここでも12件もの成果発表がなされた。特に、前述した会議初日にはXFEL/SACLAの招待講演(写真3)があり、大変な注目を集めた。座長からは、「日本のXFELプロジェクトSACLA」について、5年間で行われたプロジェクトが計画通り進み、本年の6月に1.2 ÅのX線レーザ発振に見事成功したことが紹介された。講演では、加速器の各コンポーネントの現状と性能についての紹介があり、コミッショニングについて、夏期停止期間までに更にレーザの発振波長領域が0.8〜1.6 Åまで広がった事、レーザパワーの増強(最大4 GW)および安定性やレーザ再現性の改善などについて詳しく述べられ、2012年3月からは本格的なユーザー利用が開始されることが報告された。
 また、一般口頭発表でもSACLA成功の重要なカギを握るビームモニターシステムの開発、その性能についての詳細な発表が行われた。その他、ポスター発表でも、各種加速器要素技術、モニター、真空、制御など、SACLAのために新規に日本で開発された機器、システムについての成果発表が行われ、多くの人たちの興味を集めた。これらの多くは、SACLA以外の加速器にも有用であり、この国際会議を通して日本の開発した技術が海外において広く使用されることが期待される。一つの具体的な例としては、今後建設される高加速勾配の加速器システム用RF源のレビューにおいて、Xバンドと共にCバンドが取り上げられたことである。Cバンド加速システムはSACLAにおいて初めて主要加速システムとして用いられ、大きなトラブルなく安定に稼働したことが評価された結果であろう。
 FELに関する他の発表に目を向けると、硬X線領域のレーザを発生させるLCLSと軟X線領域のFlashの施設では、シングルショットでのタンパク質の構造解析を視野に置いた実験やポンププローブなどのX線、超短パルスレーザ光の特性を利用したユーザー実験が進められているとの報告があった。気になったことは、設計スペックを大幅に上回る出力やパルスエネルギーが精密実験には必要という論調だ。これは直前の上海FEL会議でも強く感じられたことである。TWレーザ出力や極端に高いパルスエネルギーの必要性の不自然な程の強調は、XFEL生成を目的とするには合理性を欠く、リニアコライダー技術をベースとする欧州XFELを後押しするためのプロパガンダに聞こえ、XFEL自身にとってはかえってマイナスではないだろうか。実験に有効な光子数は、レーザ出力の他、例えばナノサイズのサンプルにマッチしたレーザの空間プロファイルを実現する方向でも、まだ3桁を遥かに超えるゲインが見込まれる。トータルとして、どのようなレーザをどのように供給していくのか、実験サイド等と十分に議論を行い、X線光学系も含め、SACLA独自のシステムを構築していく必要性を痛感した。
 日本のSACLAなども含め、真空紫外より短波長のFEL施設が盛んに計画・建設されている状況の中、アジアからも、計画を進めている上海、韓国から関連するポスター発表があった。また、FELや加速器からのCSR(コヒーレント放射)によるTHz光の発生に関する発表も多くあった。個体レーザシステムでは発生ができない、1 mJ/pulse以上の発生を目指した報告などがあった。SACLAにおいても、偏向電磁石によって曲げられた電子ビームによって、THz光が発生していることが確認されている。これらはレーザ部の特性を反映しているので、電子ビーム診断への利用をSACLAでも多面的に検討している。
 また、FELの不安定性に言及する発表、特にシーディングを始めレーザ発振の安定化に向けた多くの発表があった。現在多く実現されているSASE(Self Amplified Spontaneous Emission)-FELでは、発生するレーザ光が多モードであり、ノイズから増幅がスタートするので、中心波長、パルスエネルギーの変動が避けられない。LCLSからは、バンチ長を10 fs以下まで圧縮し、SASEのモード数を大幅に減らし、スペクトル領域でシングルピークのSASEを生成する検討が報告された。アト秒パルスやスペクトルライン幅の狭帯域化が可能である反面、基本的にはSASEであるから、中心波長や強度にショット毎の変動が残り、またパルスエネルギーにも制限がありそうだ。現状では、シーディングが、安定かつ高強度のシングルモード短波長FEL生成のもっとも有望な方法と思われる。
 FELのシーディングについては、各施設でその実現に向けたプロジェクトが進みだしており、この会議でも大きなトピックスになっていた。利用実験が進められているドイツDESYのFlashでのシーディング型FEL開発と、イタリアElettraのFERMIの2件の招待講演では、各々のプロジェクトの計画、進捗状況についての発表がされた。Flashではシーディング型FELの実現化に向けて、ビームタイムのかなりの時間をそれに割いているようであるが、特にシードレーザのパワーが上げられないという問題があり、順調には進んでいないようである。また、FERMIにおいては、昨年、波長260 nmの外部レーザにより電子ビームにモジュレーションを与えて、シーディングされた43 nm(6次高調波)の発生に成功し、短波長化が計画されている。その他、X線領域でのシーディングでは、アンジュレータ間でモノクロメータを用いてスペクトルのバンドパスを行い、それを増幅するセルフシーディングの手法についても紹介があった。現状のSASE FELをシングルモード化し、時間コヒーレンスを高め、本当の意味での短波長レーザを生成する試みはまだ始まったばかりであり、目標到達には相当の時間を要しそうである。
 数年前より個体レーザシステムによる、真空崩壊強度とされる1024 W/cm2以上の超高強度電場生成が目指されている。完成したSACLAなどのXFELの数十GWを超える高出力レーザが、回折限界まで超精密集光システムで集光された時、1024 W/cm2に近い超高強度電場が実現できる可能もある。SACLAは完成したばかりであり安定性などの性能向上が目指されるが、SACLAの稀有な光特性を利用した実験成果が速やかに出てくるよう、マシン側も更に努力を積み重ねていかねばならないであろう。

写真3 XFEL/SACLAの招待講演



4.その他
 この会議では加速器技術の進歩・発展に大きく寄与した個人に学会賞が授与される。この中の二つの賞は、加速器技術の国際的な協力体制の発展に強いリーダーシップを発揮した業績でKEKの黒川真一氏に、また世界で初めての超伝導マグネットを用いたサイクロトロン加速器RIBF(Radiation Ion Beam Facility)の建設に成功し加速器技術の発展とともに原子核物理の新たな領域の開拓に成功したとして、理化学研究所の矢野安重氏に授与された。日本の加速器技術の先進性と世界的な発展への貢献度をうかがい知ることが出来る。
 最後になるが、紙面の関係で詳しくは延べられなかったが、もちろんIPACは放射光とFELだけの会議ではないので、高エネルギー物理学の加速器、J-PARCなどのハドロン加速器など、多くの加速器についての技術開発についての報告があった。それらの中には、要素技術、ビーム診断など多くの共通の話題があり、それらは大変に勉強になった。この質実ともに申し分のない国際会議に参加できたことに感謝し、今後の放射光、FELなどの発展に寄与していく気持ちを新たにした会議であった。



参考文献
[1] 水野明彦、大熊春夫、稲垣隆宏:SPring-8利用者情報 15 (2010) 179.



満田 史織 MITSUDA Chikaori
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0863
e-mail:mitsuda@spring8.or.jp

大熊 春夫 OHKUMA Haruo
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0858
e-mail:ohkuma@spring8.or.jp

松原 伸一 MATSUBARA Shinichi
(財)高輝度光科学研究センター XFEL研究推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0928
e-mail:matsubara@spring8.or.jp

田中 均 TANAKA Hitoshi
(独)理化学研究所播磨研究所 XFEL研究開発部門
〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-2857
e-mail:tanaka@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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