Volume 08, No.2 Pages 71 - 72
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
−分光分科会−
– Spectroscopy Division –
[1]姫路工業大学 名誉教授 Himeji Institute of Technology, Faculty of Science、[2]広島大学大学院 工学研究科
分光分科会は分光1(S1、主査:小谷野)と分光2(S2、主査:早川)とに分かれており、前者は軟X線・赤外吸収物性、後者は蛍光X線、XMCDとなっています。前任者の藤森淳先生のあとを受けて小谷野が全体の主査をお引き受けしてからすでに4期目になります。今期(2003A)も各分科会選定委員(主査を含めS1:5名、S2:4名。氏名はすでに公表されていますので省略します)のご協力を得て、無事選定作業を終了することができましたことをまずはお礼申し上げます。
今期から一般課題には旅費が付かないという新しい事態が生じたため、申請件数が減ることも予想されましたが、分光に関する限り過去最大であった前期(2002B)とほぼ同数の121件の申請がありました。上記の分野指定から、S1に申請される課題は従来3本の軟X線ビームライン(23SU,25SU,27SU)と赤外ビームライン(43IR)に関わるものに限られていましたが、今期から新たに(硬)X線ビームライン15XUに関するものが加わりました。一方、S2では前期まですべての申請が39XUに集中していましたが、今期は蛍光X線分析・分光関係の実験が37XUへ移動したこともあり、集中状況はかなり改善されました。関係するビームラインが非常に多数(10ビームライン)にわたったのもS2の今期の特徴と言えましょう。
いうまでもなく、分科会委員に課せられた最大の任務は科学的・技術的メリットと予想される成果、波及効果等を申請書から厳正に判断することにあります。しかし、それ以上に苦労するのは、配分可能ビームタイムをはるかに越える要求ビームタイムをいかに処理するかということです。これについては、平成13年4月の課題選定委員会(合同分科会)で確認された指針「課題採択率を低くし、シフト充足率を上げる(採択された課題については、申請シフト数が妥当である限り値切らない)」というのがあり、今回も最大限これにしたがいました。その結果、ビームラインによっては(とくにナノテク支援課題や特定利用が走っているビームラインでは)一般課題に対する課題採択率をきわめて低く抑えざるを得ませんでした。前述の39XUのように今期からかなり緩和されたビームラインもあるにせよ、科学的・技術的に評価の高い課題に必ずしもビームタイムを配分できないビームラインは依然として多く、このことに対する委員の精神的な苦痛は非常に大きなものがあります。さらに今期は、特殊モード運転希望シフト数を他のビームラインとの間で調整する必要から採択を見あわせざるをえなかった課題もあります(27SU、Aモード)。これらについてはご不満の向きも多いかと思いますが、選定委員の苦悩にもご理解をいただきたいと思います。一方、要求シフト数が配分可能シフト数に満たないビームラインもありました(43IR)。これに関しては、再募集はせず、すでに提案されている課題の中からある基準を満たすいくつかのものを選び、要求シフト数以上のシフト数を配分することにしました(すなわち、100%以上のシフト充足率)。
最後に、申請内容に関して一言しますと、SPring-8の必要性や実験計画が具体的に記述された課題に高い評価点がつくことはすでにいろいろな方がコメントしている通りです。しかし、よく記述された申請書ではあっても同様な系について他の研究者が既に実施している場合には課題のオリジナリティについての判断が非常に難しくなります。他の研究者の申請などにも触れた上で改善されている点(試料、測定技術等)が明確にされていると正しい評価が得られると思います。
小谷野 猪之助 KOYANO Inosuke
姫路工業大学 名誉教授
e-mail:koyano@sci.himeji-tech.ac.jp
早川 慎二郎 HAYAKAWA Shinjiro
広島大学大学院 工学研究科 物質化学システム専攻
〒739-8527 東広島市鏡山1-4-1
TEL:0824-24-7609 FAX:0824-24-7608
e-mail:hayakawa@hiroshima-u.ac.jp