Volume 08, No.2 Pages 66 - 67
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
−散乱・回折分科会−
– Scattering and Diffraction Division –
東京工業大学 応用セラミックス研究所 Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology
分科会の委員や内部スタッフなどの多くの方々に助けられ、何とか散乱・回折分科会の主査を無事に終えることができました。本分科会は審査する課題が非常に多いために、審査員の人数を増やしていただきました。そのため、散乱・回折分科会は3つに細分化されています。神経を使う作業の中、以下の分科会の委員の方々には大変お世話になりました。(分科Ⅰ)坂田誠、水木純一郎、村上洋一、(分科Ⅱ)入舩徹男(Ⅱ主査)、川村春樹、下村理、田村剛一郎、(分科Ⅲ)並河一道(Ⅲ主査)、石川哲也、塩谷亘弘、瀬戸誠(敬称略)の方々です。本当にありがとうございました。
まずは簡単に、課題審査の様子を紹介します。散乱・回折分科会では、少人数の分科Ⅰ, Ⅱ, Ⅲに分かれて、小分野ごとに課題を審査しています。そして厳正な審査の後に、各課題に対し、関係するビームラインへの配分シフト数を決めています。
各分科の主査の仕事は、審査委員に1次審査課題を割り振ることから始まります。1課題当り3人以上の委員による1次審査となります。申請〆切後すぐに、審査すべき課題の申請書が利用業務部から各委員に送られます。各委員は、1週間以内に審査を終え、その結果を直ちにweb入力します。これは、多くの課題を短時間でみる過酷な審査です。その後、利用業務部による時間に追われる作業が入り、審査資料がまとまりますと、1泊2日の分科会が開催されます。厳正な審査になるよう、公平で正確であることを大切にしています。各委員間で予備審査の評点が大きくずれることはそんなに多くはありませんが、ずれた場合には必ずこの分科会で丁寧に議論しています。また、必要に応じて、ビームライン担当者へのヒヤリングを施したこともありました。
散乱・回折分科会での審査の特徴として、学問的レベルに対する評価に加え、第3世代の放射光を用いる必要性が課題採択の際の判断基準に入っています。この分野の実験を日本で行おうとすると、フォトンファクトリーでの実験も想定されますので、SPring-8でなければできない実験であるかどうかがビームタイム配分への優先度に影響しています。これは、配分可能なシフト数が限られているため、その中でビームタイムを適切に配分するときの境界条件の1つに充分なると考えるからです。最近では、たとえ採択率が低くなっても、課題実行に必要なシフト数を充足するように心掛けています。多くの課題が不採択になる場合もあり、実験できない不満へとつながると思われますが、量より質のすばらしい研究結果を期待するときの宿命かもしれません。審査委員としては、フェアな審査をする以外に道はありません。もちろん、立ち上がったばかりのビームラインなどへは柔軟な対応をしています。個人的には、他の放射光施設を利用した実験とうまく棲み分けられればいいなと思っています。
審査課題数が多くて、うれしい悲鳴をあげたというのが散乱・回折分科会の委員の偽らざる感想です。この状況は、SPring-8が広く認知されてきたことに加え、課題の有効期間が半年であるという課題審査の特殊性から生じたものと考えています。そのため、1年課題や専門委員制(レフェリー制)の導入を他の分科会に先駆けて試行するなど、本分科会として課題選定制度に積極的に関わってきました。
平成13年には、「分野ごとに特徴ある課題選定」を検討するワーキンググループで、物性分野での長期的な実験を必要とする課題の取扱いについても議論していただきました。分野の特徴や実験の種類によっては、一度の実験で測定が完結しない場合が多いというお話を幾度となく伺っていました。長期的な課題としては特定利用課題というのがありますが、そのようなプロジェクト研究とまではいかない研究が対象でした。散乱・回折分科会で検討しました結果、分野の特徴として半年では終了しない課題がビームラインによっては大半を占めており、要求シフト数の少ない課題でも2回実験を行うことに重要な意味があるとの結論に達しました。そのときの議論では、(1)半年有効では1回しか実験のチャンスが与えられないが、物性実験では制御すべき実験上のパラメーターが多く、研究が完了あるいは一区切りしないことが多い、(2)例えば、超格子反射の出現の有無をみてから、次のステップの測定が決まるというようなケースが存在する、(3)高輝度光の利用で測定時間が短縮された面はあるが、第3世代放射光の特徴を利用して光の質を格段に向上させようとすると、直ちに測定時間の短縮とは繋がっていかない、(4)成果の公表が遅くなるという意見があると思われるが、半年で完結しないのであるから、1年保証で完成度が上がり、逆に公表も早まり、出版数も増えると期待できる、といったものでした。
以上のような理由から、完成度が高く長時間測定が多い3本のビームラインを選び、1年間有効課題として試行してみたいという意見をワーキンググループに提案致しました。その結果、皆様もご存知のように、1年間有効課題の試行をBL02B1で2002Bから実施することとなりました。基本的には年1回の公募ですが、A期とB期のサイクル数の差(30%程度)を留保分にとることが可能な、B期からA期を通じた1年間を課題の有効期限としました。この募集で1年分の審査を行い、後半部分のビームタイムのシフト数も仮決定しています。また、半年の課題にも対応できるように、30%程度の留保タイムについて、A期にも半期の課題を受け付けるようにしました。
課題選定委員会で議論されました専門委員制(レフェリー制)の導入の是非につきましても、散乱・回折分科会の分科Iでまず試行してみることになりました。この方式のメリットは、(1)審査の小分野ごとに復数のレフェリーへ審査依頼ができ、(2)分科会に審査委員が出ていない小分野の課題も正確に審査でき、分野での評価に偏りが出にくいこと、(3)1人のレフェリーが審査する課題数を減らすことができること等です。書類審査の結果を統計処理することで小分野間での偏差をなくした上で、分科会で検討して最終的な採否を決定しました。また、レフェリーの数を限定することで、研究内容の守秘には特に気をつけました。
第1回目のレフェリー制度の試行では、事務や分科会の負担が予想外に大きかったようですが、自動化できる部分も多々見つかりました。将来の課題選定の効率化を考えますと、どうしても手を付けなければならない問題のようです。申請書に記載された分野が現実の審査体制に合っているかどうかを調べること1つをとっても、機械的には進まない色々な問題がありました。このことと関連して、受け付けた申請を適切な分科会に割り振るという作業での利用業務部の方々の苦労を知りました。
SPring-8のような巨大施設での課題審査では、どのような方法が適切なのかを判断することは非常に難しいと思われます。すべての人が満足するような解は求まらないでしょう。現に、国内外の放射光施設では、それぞれ異なった課題審査の方法がとられています。我々の目指すところは、課題採択の方法を含めてユーザーフレンドリーな環境になっており、放射光実験がやりやすく、施設の研究レベルが高くて成果が上がりやすい環境を整えることにあると思います。そのためには、施設にすでに存在する体系を必要に応じて変更できる「柔軟さ」が、これから益々大切になっていくことでしょう。
新しい制度を試行するに当りご援助いただきました、壽榮松先生をはじめとするJASRIスタッフの方々に、また、課題選定委員長や分科会の委員の方々に厚くお礼申し上げます。
佐々木 聡 SASAKI Satoshi
東京工業大学 応用セラミックス研究所
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