Volume 08, No.2 Pages 61 - 63
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
2003A利用研究課題選定委員会を終えて
Report of the Proposal Review Committee for the 2003A Term
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究課題選定委員会 主査、姫路工業大学 理学部 Faculty of Science, Himeji Institute of Technology
1.はじめに
第4期の利用研究課題選定委員会(PRC)をお預かりしてから、はや2年が経過しようとしております。今期委員には、2003A期の課題選定は最後の作業でありましたが、後で述べますように、放射光利用の成果創出に対する施設側の責任がいろいろな形で議論されるようになっている背景の中で、選定に当たる委員の先生方の真剣さもますます強くなっておりました。先に、2003A期の選定に関する集計結果が施設側から報告されております[1]ので、ここでは、今期の選定の経緯と特徴を簡単に述べたあと、この2年間、委員会主査として何を目指し、それがどう達成されたか、また残された問題点は何かについて簡単に振り返ってみたいと思います。
2.今期の募集と審査
2003A期の課題応募数は、前回の過去最高751件よりやや少なく735件であり、B期よりA期で若干少なめになる従来の傾向を踏襲しています。しかし、結果として採択された課題数は最大の563件にもおよび、通年(B期+A期)でも前年より応募数で約220件プラス(前年も前々年応募数より約220件増)となり、確実に上昇の一途をたどっています。選定された課題の合計の要求シフト数5,655シフトに対して、今期配分できたのは4,836シフトで、シフト充足率(要求に対する割り当てシフト率)は86%(前回78%)にも達しており、成果創出の採択課題への期待感を増しています。審査を進める上で、委員会では、上記のシフト充足率の確保に加えて、平和目的、挑戦的利用に対する配慮を行いました。また、散乱・回折分野での1年課題の運用は2002B期から始まっていますが、今期も募集を行い、応募件数の半数に当たる8件を採用しました。
以上、採択課題を分野別にみますと、タンパク3000プロジェクトに対応する応募課題を含めた生命科学、回折・散乱、分光、XAFS、実験技術、産業利用の順に多く、生命科学への放射光利用の比率がアップしてきました。とくに地域的に見れば、近畿圏を中心にタンパク関連の利用者が増加しているのも特徴です。旅費支援など、施設側での利用者支援のあり方が変更されてから、心配していました北海道・東北など遠隔地からの利用者減少化は、少なくとも今回の応募数には表れておらず、ほっとしたというのが偽らざる心境です。
生命科学分野では、実験試料の特殊性から、試料準備後の短い時間内に実験したいという利用者からの要望にこたえるために、ビームタイムの全部を利用者に割り当てずに、一部留保する策をとっています。またこの形態は産業利用分野にも適用して、柔軟な利用体制を目指すこととしました。とくに産業利用分野での利用率は、BL19B2のみを対象とするとやや少なくなったように見えますが、実は、他の共用ビームライン全体で、かつ大学の先生方など産業界以外からの当該分野への申請を含めた採択課題数では、前回よりむしろ増えています。ここに来て、放射光の産業利用推進は施設を管轄する行政サイドからも強い要請を受けており、トライアルユースなどを含めた今後の対応が問われています。その一つとして、産業利用分科会では、生命科学分野と同様に、留保ビームタイムを確保して緊急の利用にも対処できる体制を取っています。
特定利用課題については、別稿で扱われますので、ここで詳細に触れることは避けますが、今期は1課題のみの採択となりました。現在の採択特定課題数はこの課題を含めて8件で、実験開始後1.5~2年の間に中間評価を受けますが、今期も、2001A期に採択された「高圧下における実験的精密構造物性研究手法の開発」研究(高田課題)について、責任者への書類審査および面接審査を行い、10 Gpa以上の実験的観測、構造解析技術の開発を積極的に展開することなどの条件付きながら、3年目の課題実験の遂行を妥当とする報告が諮問委員会になされて、過日承認されました。
3.第4期課題選定委員会の活動を終えるにあたって
この2003A期の審査をもって、第4期のPRC活動が終了いたします。村田隆紀前主査から私が任務を引き継いだ2年前には、かつての加速度的な新規ビームラインの建設ラッシュは既におさまっていました。つまり、ビームラインそのもの、あるいは実験ハッチ内部の測定装置の「高度化」という発展形態はあるものの、それまでのペースでのビームライン建設はほとんどしない、いわば安定期に入っていた訳です。言い換えれば、アウトプットの質や数が議論の対象になりつつあり、ビームラインごとの論文数などの表が明示的に公表されるようになりました。
そういう中で、監督官庁あるいは社会全般に対して、成果創出のための施策を「施設主導」の形で提示することが求められるようになりました。つまり、従来の一般利用課題の審査が中心の、施設側からすればいわば受身の課題採択ではまかりならぬ、という雰囲気が生まれてきたのも事実です。そのために、施設が先頭に立って重要な利用課題をどう選定・審査すべきかについて、当PRCの立場や考えをヒアリングする要請を受けまして、小職以下、各分野(分科会)主査の先生方と施設側の幹部の方々と数回にわたって議論を交わしました。このことはPRC委員会のたびに委員に周知し、分科会主査以外の委員の先生方にも認識を深めていただきました。
その結果、平成15年度以降、重点研究課題を4つのカテゴリーに分けて推進することが決まりました。これは、施設が受ける「大型放射光施設(SPring-8)に関する中間評価」に対する改善策の一環として運用されるもので、一般利用課題(これには、従来の特定利用課題も「長期利用課題」と名を変えて含ませる)に以下の3つのカテゴリーが加わります。
1)領域指定型:成果の早期輩出や産業応用を目的に機構が指定し、課題を公募します。従来の「ナノテク支援」と「タンパク3000」はこのカテゴリーとなります。
2)利用者指定型:成果だけでなく、SPring-8支援ができるパワーユーザーを機構が指定し、課題は非公募です。
3)戦略型:新しい利用技術開発のために、機構自らが実施するもので、課題は非公募です。
ビーム供用開始以来、一般利用課題(特定利用課題を含む)のビームラインごとの利用比率は約80%となっておりました。しかし、国から施設への経理体制の変更や、上記の課題選定の重点化に伴って、一般利用課題の占める割合がビームライン全体として50%以上ということになりました。旅費支給が原則としてなくなった一般利用課題に代わって、重点研究課題には財政の許す限り支援が受けられる点で、積極的に重点利用に参画する姿勢が利用者としては必要でしょう。ここにいたる過程で、PRC分科会メンバーからさまざまな意見が出され、施設側の責任者からも提案がなされました。利用者の立場からすれば、必ずしもすんなり了承されたものばかりではなく、紆余曲折がありましたが、国や地方自治体の方針変更あるいは財政逼迫情勢の中で、基本的には、この変革に協力しなければ双方が不幸になることも想定されます。上記の重点課題の遂行は、試行的な要素を含んでおり、今後起こるであろう問題点を徐々に改善しながら展開せざるを得ません。皆さんからも施設の改革を見守りながら協力していただけますよう、退任するに当たってお願い申し上げます。
従来の課題審査は、生命科学(L)、散乱・回折(D)、XAFS(X)、分光(S)、実験技術・方法(M)、の各大分科の中に小分科を設けて行ってきました。小職の着任以来、上記の分科すべてで同一の審査方法をとるよりも、大分科ごとに特徴ある審査やマシンタイム配分を行って参りました。加えて今回、小分科のいくつかの編成を組みなおして、さらにそれぞれの分野の特徴に応じた審査体制を取れるよう提案し、認めていただきました。すなわち、「医学」課題を医学専門の先生方におまかせすること、S2小分科会で審査してきた「蛍光X線分析」を、分光分野からXAFS分野に組み替えて、分光分野はより「分光」らしい課題に限定したこと等々です。また課題数の増大で、一人の委員が負担する課題数が100件にも達し、委員個人の負担や審査スケジュールの点などで、公平な審査を進める上での支障をきたすおそれが出てきたことから、レフェリー制度(PRC委員以外の外部委員による審査)を導入することも決めました。
以上、上記の改革の中には、私の在任期間中にも実施したかった事項ながら、都合で次期15年度から実施予定となったものも多くあります。しかし、先述の課題選定の重点化や審査体制の強化のきっかけができあがった段階で、PRCを次期委員会に引き継ぐことができたことは幸いでした。私の任期は終わりますが、高輝度放射光利用のさらなる発展や改革のために、今後も何らかの形で寄与できれば嬉しいと思っています。この2年間、PRC分科会主査をはじめ委員の皆様と、利用者の方々のご協力に感謝とお礼を申し上げます。ありがとうございました。
参考文献
[1]SPring-8利用業務部:SPring-8利用者情報Vol. 8, No.1(2003)3.
松井 純爾 MATSUI Junji
姫路工業大学 大学院 理学研究科 物質科学専攻 教授
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