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Volume 07, No.6 Pages 377 -380

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第2回サンビーム研究発表会
The 2nd Research Meeting of Sunbeam

広瀬 美治 HIROSE Yoshiharu

(株)豊田中央研究所 分析・計測部 Materials Analysis & Evaluation Div.TOYOTA Central R&D Labs.,Inc.

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1.はじめに
 我々、産業用ビームライン建設利用共同体(通称、サンビーム)は、昨年(2001年8月3日)[1]に引き続き、第2回の研究発表会を9月12日JASRI普及棟大講堂で開催した。このたび本誌面でその紹介をさせていただけることに大変感謝したい。
 研究発表会におけるJASRI・吉良研究所長の挨拶に述べられているように、SPring-8では、基礎研究ばかりでなく、放射光を利用して経済に役立つレベルで産業を発展させることも重要な目的で、産業界が良い成果を出すことを期待されている。我々は、サンビーム研究発表会が、産業界の放射光利用成果を発表する重要な機会であると位置づけられるようになることを目指している。
 さて、本年の研究発表会は、昨年と比べて以下の点で運営方法を変更した。
(1)午前中から実施し、各社の講演時間を12分から20分に増やした。
(2)SPring-8シンポジウムにあわせて開催した。
(3)利用推進協議会と共同で実施した海外交流(ESRF、APS、ALS訪問)の報告を行った。
(1)、(2)は、技術的討議の充実と参加者の確保が狙いであった。結局、JASRIの方々に多数ご出席いただき、昨年以上に活発な討議をしていただけたと思う。(3)は、今回、8月31日〜9月8日にESRFとAPSを訪問し、放射光の産業利用に関するワークショップを実施した結果の速報である。詳細は、11月13日の報告会で述べられる予定である。企業に対する有料分析サービスに関しては、見習うべき点が多い。また、海外の放射光施設の方が進んでいる実験技術に関しては、直接、海外のビームラインを利用することも検討すべきだと感じた。
 先ず、サンビームの概要を簡単に記し、各社の発表内容の概要を記す。

2.サンビームの概要
 サンビームの概要に関しては、本誌でも既に紹介されている[2,3]。サンビームに参加している会社は、神戸製鋼所、三洋電機、住友電気工業、ソニー、電力グループ(関西電力、電力中央研究所)、東芝、豊田中央研究所、日本電気、日立製作所、富士通研究所、富士電機総合研究所、松下電器産業、三菱電機(50音順)である。専用ビームラインを2本所有している(BL16XU、BL16B2)。建設費約9億円は13社が平等に負担した。1999年7月にビームラインが完成し、1999B期よりユーザ利用を開始した。BL16XUには、蛍光X線装置、X線回折装置、マイクロビーム装置がタンデムに配置されている。BL16B2にはXAFS装置、反射率装置、トポグラフィ装置がある。ビームラインの仕様はSPring-8のホームページから参照することができる[4]。ビームラインの維持管理や機能向上、およびビームタイムの配分など運用は構成会社から選出された委員によって行われており、必要な経費も毎年各社が平等に負担している。事務局およびビームライン運転支援をSESに委託している。実験課題は各社が申請し、ビームタイムは実験を効率的に行うように計画されてほぼ各社均等に配分されている。2001年の実績では年間各社あたり平均23日利用した。JASRIによる安全審査があるほかは、課題審査はない。成果占有課題も可能であるが、これまでのところ、すべての課題は成果非占有で実施されており、各期の完了後に成果報告書を提出することは共用ビームラインと同じである。各課題の実験は、利用会社の責任でJASRIの利用ルールに従い実施されている。一部、数社による共同実験、装置調整もユーザタイム中に実施されている。サンビームのホームページはhttp://sunbeam.spring8.or.jp/である。ホームページではサンビーム研究発表会で用いたスライドがPDFファイルの形式で、閲覧可能である。なお、専用ビームラインの契約は10年契約で、その中間で評価が行われる。サンビームの中間評価は来年の6月に実施される予定である。なお、サンビームの運営体制及びその課題に関しては[3]に大変よくまとめられている。是非ご一読下さい。

3.各社の利用状況(発表順)

Cu配線のX線マイクロビームによる評価(日立製作所 長谷川正樹)
 半導体産業のロードマップによれば、2004年にはLSIの配線の幅は100nm以下となり、電流密度がさらに増加するため、配線故障を防止する、より高度な技術が求められている。配線不良を計測する技術としてX線マイクロビーム法は結晶配向分布、歪みや応力の計測に不可欠の技術であるが、BL16XUのマイクロビームはビーム径1µm以下を実現し、世界最高レベルに達している。本ビームラインを用い、走査型蛍光X線顕微鏡法を応用したCuエレクトロマイグレーションにおける原子拡散の新しい観察手法を試みている。

SR-X線回折を用いたFIELO GaN単膜基板の結晶性評価(日本電気 小林憲司)
 青色レーザダイオード等の開発を目指し、低転位密度のGaNバルク基板(自立基板)の開発競争が熾烈である。選択横方向成長を用いたHVPE-GaN基板は、低転位密度である。膜厚を厚くすると自然剥離し、自立基板が得られるが、まだ、反りが存在する。X線回折装置を用い、厚さ方向に20µmの分解能で(3690)ロッキングカーブを測定した。剥離面から結晶面側に100µm進むとツイスティング(a軸のばらつき)が解消すること、Δd/dは剥離面側で最大0.003%あったが、結晶面側に100µm進むとほぼ0であること等がわかった。厚さ方向の結晶性評価により、ひずみや欠陥の少ないGaN基板を得るための成長条件を得る指針が得られた。

放射光蛍光X線分析の電子材料への応用(松下テクノリサーチ 尾崎伸司)
 次世代半導体デバイスの開発には、高集積度のため、Siウエーハ上の不純物検出限界をさらに向上することが求められている。実験室系での全反射蛍光X線(TRXF)の検出限界は1010atoms/cm2である。BL16XUのTRXF装置(波長分散型検出)とBL40XUの高輝度光源を組み合わせて108atoms/cm2を達成した。さらに、濃縮法と組み合わせて106atoms/cm2という世界最高レベルを達成した(富士通研究所、東芝、住友電気工業との共同研究)。また、蛍光XAFSにより数10ppmオーダの微量金属元素の状態分析が可能であることも示した。

SR光による光学薄膜の膜質評価(三菱電機 上原 康)
 レーザダイオード等の光学デバイスに反射率制御膜は重要な役割を果たしている。BL16B2のX線反射率装置を用い蒸着法とECRスパッタ法で作製したSiOx膜の違いを明らかにすることを試みた。ECRスパッタ法で作製したSiOx膜は蒸着膜に比べ、密度が高く、より滑らかな界面を有することを明らかにした。X線回折やXAFSを用いることができない薄膜のキャラクタリゼーションにX線反射率法が有効であることがわかった。

異常透過像拡大による高空間分解能X線トポグラフィー(富士電機総合研究所 田沼良平)
 半導体デバイスの微細化に伴い、1µm以下の高空間分解能な構造評価技術が求められている。0.5〜10µmの幅のトレンチ構造を持つSi(100)基板の(022)反射に伴う異常透過光を、非対称反射を用いるビーム拡大の方法とフレネルゾーンプレート(FZP)用いる拡大結像法により観察し、分解能を評価した。計算によると、Si(311)を用いたビーム拡大法(エネルギー8.78keV)、FZP(エネルギー8keV)の理論分解能はともに0.1µmである。実験結果から1µm以下の分解能が得られることがわかった。現在、SiC、GaN単結晶基板開発においても高空間分解能な構造評価技術が求められており、放射光の利用が期待できる。

シリコン絶縁膜のX線反射率(ソニー 劉 光佑)
 X線反射率法は1〜10nmオーダーの極薄シリコン絶縁膜の構造評価技術として有望であるが、広いダイナミックレンジの測定を精度よく行うことと得られたデータのパラメータフィッティング法に課題が残っている。テスト試料としてSiN(9nm)/SiO(2nm)/Siを用い、上記の問題の解決を試みた。波長1.38AのX線を用い、PF-BL15CとSP8-BL16XUで実験を行った。BL16XUではθ=8.21°まで振動を観測することができ(I/Io≒10−10)、高輝度放射光を用いて第1の問題が解決できた。初期値の推定にマキシマムエントロピー法(MEM)を用いることが有効であることを示すことができ、第2の問題も解決できた。

高誘電体薄膜の蛍光X線分析(東芝 竹村モモ子)
 放射光蛍光X線分析は広範囲の元素を高感度高精度で測定し得るという特長を持つので薄膜の組成分析、不純物分析に有効である。高誘電体(high-k)薄膜の分析や薄膜中不純物分析への応用を検討している。たとえばHf系高誘電体膜中酸素について検出下限15ng/cm2(HfO2の膜厚換算で0.1nm)が得られた。高精度定量のためファンダメンタルパラメータ定量ソフトの適用を試みたが良い結果は得られず検討を継続している。また厚み300nmのAl膜中1014/cm2程度のアルゴンを定量しアニ—ルによる変化を観察できた。

光ファイバー中のドーパント元素の局所構造解析(住友電気工業 飯原順次)
 Geを高濃度ドープした光ファイバの伝送損失を低下させることが求められている。光ファイバ中のGeの局所構造およびそのGe濃度依存性(3〜48モル%)をXAFS解析(BL16B2、透過法XAFS)により調べた。Geは金属の状態では存在せず、Ge-O四面体がひずんだ構造をしている。Ge濃度が増えると吸収端が高エネルギー側にシフトすることが見出された。しかしながら、EXAFS解析によると、最近接のGe-O距離はGe濃度に依存せず一定であった。今後、第2近接まで含めた構造解析および上記のシフトと構造の関連を明らかにし、低損失化を図る。

アンジュレータX線を用いたゲート酸化膜の高精度反射率測定技術開発(富士通研究所 淡路直樹)
 半導体産業のロードマップによれば、2004年にはゲート酸化膜の厚さは1nm以下に達する。それに備えた解析技術の構築が必要である。膜が薄くなるにつれてX線反射率で観測される振動の周期は長くなり、X線強度の観測に必要なダイナミックレンジも大きくなる。現状の市販装置は、X線波長1.541Aで2θmax=6°ダイナミックレンジ約6桁で最小膜厚は1.5nmである。BL16B2では、2θmax=9°ダイナミックレンジ約7.5桁で最小膜厚は1nmである。アンジュレータを用いるBL16XUでは、X線波長1.4Aで2θmax=35°ダイナミックレンジ約12桁で最小膜厚は0.3nmに達することを確認した。膜を、表面、中間、界面の3層に分けてはじめて、SiO2(1nm)/Si試料の解析に成功した。今後は、一様な膜の積層ではなく、原子配列モデルと実験との比較が必要となる可能性が高い。

電中研における放射光を活用した材料評価技術の開発(電力中央研究所 山本 融)
 SOFC、MCFCなどの高温型燃料電池に関する研究では、電極材料の結晶構造や、燃料ガス中に含まれる硫黄化合物などを除去する吸収剤の化学形態の評価が可能となり、今後の材料開発、機構解明、システム評価などへの応用が期待できる。SiCパワー半導体材料に関する要素研究では、SiC単結晶基板、ならびに表層酸化膜・界面の性状の評価が可能となり、SiC単結晶基板、界面制御技術の評価などの先端材料開発に適用できる。石炭・燃焼灰中に含まれる微量な含有成分の検出や、触媒材料の化学形態の評価が可能となり、触媒材料の機能解明、火力プラント内部での石炭含有成分の挙動解明研究への適用が期待できる。

XAFSによるリチウム二次電池用Sn系負極の構造解析(三洋電機 三上 朗)
 次世代リチウム二次電池の開発のためにSn系負極材料(Sn+Co20wt%、厚さ2µm)の充放電サイクルによる構造変化をライトル検出器を用いた蛍光XAFS解析により調べた。この材料はアモルファスであり、X線回折等の手法が適用できない。メッキ成膜された充放電サイクル前の時点でSnとCoが均一ではないこと、充放電サイクルが進むにつれて、Snの周辺からCoが減少することが明らかとなり、耐久性向上のための指針が得られた。

高温高圧水中で生成した600合金の皮膜と溶存水素濃度の関係(原子力安全システム研究所 寺地 巧)
 MA600(Ni,Cr,Fe合金)は原子力発電所の主要な部位で使用されている。溶存水素濃度(DH)により応力腐食割れ感受性が異なり、DH=1ppmでクラック成長速度が最大となる。BL16XUのX線回折装置(入射角1〜0.1°)を用い、合金の表面に生成する酸化被膜の結晶構造のDHによる変化を調べた。DH=0ではNiOによる厚い皮膜を生成する。DH=1ppmでは、スピネル酸化物による針状晶が生成する。DH=1.75ppm、4ppmではスピネル酸化膜による薄い皮膜を形成し、酸化皮膜と母材との間には金属Niが濃化した領域が存在する。DH=1ppmの領域はNiOとスピネル酸化物の境界と考えられる。酸化皮膜構造と応力腐食割れ感受性の間に相関が見出された。

高温真空加熱炉を用いたin-situXAFSによる鋼中微量元素の状態分析(神戸製鋼所(コベルコ科研)渡部 孝)
 ナノメタルプロジェクトにおける鋼中ナノスケ−ルの析出物(ナノクラスター)の構造解析に、in-situ高温XAFSを用いた。マイクロアロイFe-0.3% C-2.0% Cu-0.5% Mo-0.5% V-0.5% Ti-0.5%Nb中の各微量添加元素が加熱処理中に固溶〜析出〜再固溶へと状態変化する様子を明らかにした。各元素の存在状態は、可能なモデル格子を仮定して、FEFF8で計算したスペクトルと比較して推定した。特にCuは室温で特異的にfcc構造をとることが世界ではじめて推定された。粒界で金属間化合物を形成している可能性がある。今後、微量添加元素の状態変化と機械的性質との関係を明らかにしていく。

µビームを用いたXAFS、XRD応用例-Li二次電池、快削金型鋼-(豊田中央研究所 妹尾与志木)
 BL16XUのマイクロビーム装置(ビーム径2µm)を用いてXAFS、XRD実験を実施した。µ-XAFSでは、正極材料であるLiNi0.8Co0.2O2において、サイクル試験による劣化状態の場所による差異が非常にわずかであること、即ち粒子の大きさ、表面か内部かによらず一様に劣化していることを明らかにした。Al添加快削金型鋼を切削したバイト最先端部のµ-XRDを用い、切削時に鋼中のAlは溶融してAl2O3となり、その際の潜熱の効果で冷却効果を発揮すると推定した。

4.まとめ

 前回も参加してくださった方々から見ると、前回に比べてどうだったでしょうか。今回初めて参加された方はサンビームについてどんな印象をもたれたでしょうか。是非、ご感想なり、ご意見をサンビームのメンバーにお聞かせください。
 我々の第1の使命は、所属する企業に役立つことである。ただし、我々の多くは、企業において直接、生産や材料開発に携わっている部門ではない。分析・解析部門の役割は真実を明らかにすることである。SPring-8の放射光を用いて、従来の手法では得られなかった解析結果を明らかにすることである。従って、我々の貢献度は、具体的な数値として表すことが大変難しい。しかし、生産や材料開発部門と緊密なコミュニケーションを保ち、一番知りたいことをスピーディに明らかにしていけば、本当に役に立つはずである。その意味では、我々と生産や材料開発部門とは運命共同体である。
 サンビームの各社利用を通じて産業利用の成果をアピールしていくことが我々の基本であるが、サンビームの枠に収まらない応用分野もある。JASRIの産業利用チームのご支援を賜りながら、産業利用の領域を広げて行きたいと考えている。サンビームの利用に関しJASRIの皆様には日頃から大変お世話になっているが、今後ともご支援を賜りますようお願いいたします。
 最後に、前回に引き続き、今回もプログラムの印刷、会場の準備、受付等に、JASRI利用業務部の皆様に多大なご協力をいただいた。ここに厚くお礼を申し上げます。

参考文献
[1]平井康晴:SPring-8年報(2000年)99,101.
[2]古宮 聰:SPring-8利用者情報Vol.2,No.4(1997)18.
[3]久保佳美:SPring-8利用者情報Vol.6,No.2(2001)103.
[4]平井康晴ほか:SPring-8利用者情報Vol.4,No.4(1999)16;泉 弘一ほか:ibid.Vol.4,No.4(1999)20



広瀬 美治 HIROSE  Yoshiharu
㈱豊田中央研究所 分析・計測部
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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