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Volume 07, No.6 Pages 366 - 369

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

IWP2002(光イオン化国際ワークショップ2002年)の報告
Report of the Conference : International Workshop on Photoionization 2002

鈴木 功 SUZUKI Isao

産業技術総合研究所 計測標準研究部門 National Metrology Institute of Japan, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

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 8月22日(木)〜26日(月)に、SPring-8で光イオン化国際ワークショップ、International Workshop on Photoionization が約160名(そのうち約半数が外国から)の参加で催された(表1参照)。会議開始時は若干の雨にみまわれたが、逆にそのことで本年の猛暑がやわらぎ、ヨーロッパからの参加者には好都合であったようである。この会議は、英国とロシアの原子物理学研究者の交流をその源とみることができ、1990年にセントペテルスブルグでの“原子の光イオン化”を主題とする国際ワークショップをヨーロッパの研究者達が行ったのが第1回と呼ばれている。IWPと称するようになったのは、1992年のベルリンでの100人規模の会議が最初であり、その時より全ての先進国からの研究者が参加するようになった。ベルリン会議から日本人研究者も参加するようになり、ヨーロッパで4回、アメリカで1回開催された後の第6回を本年日本で開くことになった。本会議の主要なテーマは、原子、分子等の単色放射光、レーザー照射等による動的イオン化現象を基礎科学的な側面から解明してゆくことにあり、励起光によってターゲットはいかなる量子状態に遷移するか、励起状態はいかなる緩和過程を経て終状態に到るか等を理論的、実験的に追跡することである。



表1 国別の参加者分布の概要

日  本          81名
ドイツ           14名
スウェーデン        12名
米  国          11名
フランス          10名
その他のヨーロッパ    20名
アジア           3名
その他           7名

          158名
 
 
 本会議の開催を決定した時点では、日本の多くの研究者が本会議の主要なテーマと深い関わりをもってはいるものの、具体的な研究者集団としての組織がしっかりしているとは言い難い状況であった。そのような折、SPring-8利用者懇談会のサブグループが再編されることになり、個々のビームラインにとらわれない研究会サブグループの結成が推奨された。BL27SUの軟X線光化学グループ、BL23SU利用の人達を中心に「内殻励起ダイナミクスの最前線」を立ち上げ、他の放射光施設利用者にも呼び掛けて50名を越えるメンバーが参加した。2001年12月には、SPring-8 利用技術ワークショップの企画シンポジウム「第三世代高輝度光源を用いた内殻励起ダイナミクス計測技術の最前線」(SPring-8利用者情報、Vol.7,No.2,p.88,小池文博、参照)で、日本国内における本研究分野のサーベイと今後の方向性を探る研究活動を展開した。この研究会サブグループの中心的メンバーの多くが、IWP2002の組織委員会、実行委員会に参画し、会議開催趣意書、ファースト&セコンドサーキュラー等の準備を1年半以上の時間をかけて準備してきた。

 本会議の流れを時系列順におって、研究発表、行事の特徴を振り返ってみることとする。22日は午後2時から放射光普及棟で受け付け登録をした後、6時より食堂でレセプションが開催された。ヨーロッパ等での会議におけるものより、上等な料理、アルコール類が多く供され、参加者には大変好評であり、到着までの交通の不便さの不満も大分解消されたようであった。

 23日9時より、上田本会議議長(東北大)の司会により普及棟で開会式が行われ、上坪議長(JASRI)、吉良JASRI放射光研究所所長の歓迎の挨拶の後(写真1)、Amusia名誉委員(ヘブライ大)の光イオン化研究の将来と題する、本会議の研究主題に関わる講演があった。大橋本会議実行委員長による会議の進行上での注意、案内が説明された。引き続いて第1口頭発表セッションが行われ、Heの二重イオン化についての理論的研究をMalegat(CNRS)が超球座標Rマトリックス法での成果について話し、Cvejanovic(フリッツハーバー研)が、実験的側面からのアプローチ、電子・電子コインシデンス法での三重微分断面積による二つの放出電子の角度相関、エネルギー分配について講演した(表2参照)。
 
 
 
写真1 開会式
 
表2 口頭発表セッションのトピックス一覧
(第4、第10セッションはポスター発表)

1.    Double photoionization of He,
2.    Atoms and atomic ions,  
3.    Molecules,
5.    Atoms and molecules (hot topics and so on),
6.    Molecular core ionization,
7.    Molecular core excitation,  
8.    Clusters, adsorbates, and condensed matter,
9.    Ultrafast processes,  
11.    Intense field phenomena,
12.    Time resolved experiments,  
13.    Controlling quantum processes and a hot topic,  
14.    Round table discussion (Molecular dynamics: core vs outer-shell ionization),  
15.    Mini-symposium on light sources

 第2セッションでは、Heの二電子励起状態からの蛍光収率の話(Lambourne,P&Mキュリー大)の後、原子イオンの光イオン化断面積について、West(ダラスベリー研)が、イオンをターゲットとする研究の歴史的な発展を含めて、最近のCa+等での断面積が原子によって大きく変化している現象などについて、講演した。Kabachnik(モスクワ州立大)はAuger過程を完全実験として記述する際の本質的なパラメータについて説明した。第3セッションで、Poliakoff(ルイジアナ州立大)は、三原子分子の価電子イオン化光電子スペクトルを高分解能(〜10meV)で測定し、その形状共鳴、チャンネル間結合、Cooperミニマム等が、振動構造ピークにいかに影響するかを論じた。Cheng(台湾放射光研究センター)は、硫黄化合物の紫外線反応に放射光イオン化法を適用した研究を、Alcaraz(LURE)は、電離層周辺でのイオン分子反応を模擬する室内実験において、状態選別したイオンの反応をコインシデンス法で研究することの有効性を示した。

 第1日目の夕食後は、萌光館でのポスターセッション(第4セッション)で66件の発表が行われた。飲み物を飲みながらの議論が可能であった会場では、予定時間を30分以上も越えて討論、談笑が続いていた。近くで気分転換できる所が無いSPring-8 サイトという特殊性のためでもあろう。

 第2日目の第5セッションは、ホットトピックスを中心とするものであった。ホットトピックスは一般発表の中から特に話題性に富むとして5件選ばれたもので、口頭発表とポスターとの両者での発表を行った。Wehlitz(ウィスコンシン大)はHe自動イオン化での非双極子パラメータを論じ、Gibson(オーストラリア国立大)は、小さい分子のVUVレーザ分光を解説し、Latimer(ベルファースト王立大)は、VUV光での励起だけでなく、軟X線励起でも、分子から正イオンフラグメントと負イオンフラグメントがペアとなって多量に生成することを紹介した。

 分子の内殻イオン化に関する第6セッションでは、足立(PF)が、コインシデンス法により配向を指定した二原子分子、直線三原子分子での光電子放出角度分布の精密測定と部分波成分への展開、および理論計算との比較を論じ、Landers(ウェスターンミシガン大)が、小さい分子の内殻イオン化で生ずる光電子、フラグメントイオンの運動量を正確にコインシデンス法で計測する技術及びそれらで得られる分子ポテンシャルの効果、円二色性等について説明した。その後Pavlychev(セントペテルスブルグ州立大)が光電子と価電子の相関効果による形状共鳴への影響を理論的側面より論じた。

 午後の第7セッションでは、Piancastelli(トルベルガータ大)が、SPring-8での実験を含む世界のあちこちのグループと共同で実施している二原子分子、三原子分子の高分解能内殻光電子スペクトルで得られたRydberg軌道・価電子軌道混合等の話をし、De Fanis(東北大)は、主にBF3の内殻励起による分子分解過程での分子変形と内殻空孔寿命との関係を運動量イメージング法と高分解能電子分光法によるデータを用いて詳細に説明した。Gel’mukhanov(スウェーデン王立技術研)はX線共鳴ラマン散乱現象における高分解能光子励起でのデチューニング効果について論じ、パーティシペータ型共鳴オージェ電子放出における振動的変動を解説した。初井(分子研)は、CS2等のS 2p共鳴励起での電子放出スペクトルには、スピン禁制型のシェイクアップピークが強く観測されることを実験的および理論的側面より論じた。

 第8セッションでは、Be等のクラスターでの内殻イオン化に関して、代数型ダイアグラム構成スキームを含むグリーン関数法による計算をNobrodey(ハイデルベルグ大)が話し、希ガスクラスターの電子分光をTchaplyguine(ウプサラ大)が、金属表面吸着分子からのフラグメントイオン脱離をFeulner(ミュンヘン工科大)が、サイト選択的光子刺激脱離現象のイオン・オージェ電子コインシデンス法での研究を関谷(広大)が講演した。

 第9セッションからはレーザをツールとする研究が中心になり、Murnane(JILA)が300次を越える高調波発生法による高強度超短レーザパルスの特性について発表し、中空ファイバー利用でのEUVホログラフィーの高分解能化をはじめとする応用可能性等を示した。新倉(NRC)は、サブフェムト秒で励起されたH2分子での電子波束と振動モード波束の相互作用を分子時計という概念によって理解する試みを提示した。第2日目の夜もポスターセッション(第10)が行われ(66件)、予定時間を越えて論談の輪が継続していた。

 3日目の第11セッションは、強光子場中での現象が中心となり、Moshammer(マックスプランク原子核研)は、Neでの高励起電子が原子イオンと“再”衝突するという機構で、二重イオン化が進展するというモデルを説明し、星名(東大)はテラワットレーザ場でのCS2の分子変形をパルス電子回折法で観測する試みを話し、河野(東北大)は、アト秒レーザ場でのH2の分解過程の制御につき理論的手法を解説し、Ditmire(テキサス大)はローレンスリバモア研でのレーザ照射でのクーロン爆縮によるD2、CD4クラスターの核反応発生を含んだレーザソースの大強度化(1020ワット)に関して講演した。第12セッションでは、時間分解(フェムト秒)光電子分光でのGaAs表面の3d空孔の挙動の解明をDrescher(ビーレフェルト大)が話し、ピラジン分子等のポンプ・プローブ実験の二次元イメージング観測による角度分解光電子分光法を鈴木俊法(理研/分子研)が、小さい分子(NaI等)におけるポンプ・プローブ法での光電子スペクトルにおけるエンタングル波束の挙動の理論計算による解明を高塚(東大)が解説した。

 午後から、SPring-8の実験装置の見学会となり、およそ80名程度がBL-19からBL-27を見て回った(写真2)。その後、バスで神戸港に移動し、船上でのバンケットとなった。実行委員会では、本年は7月のうちから台風が関東地区を何度かかすめたこともあって、台風の襲来を心配し、予備の会場の手配をしていたところであった。幸いにして好天に恵まれ、神戸の夜景、明石海峡大橋の虹色のライトアップは昼のホットな科学的議論を十分に冷ましてくれ、参加者の多くは、日本の風景の美しさを堪能し実行委員会の手際の良さをほめていた。宴の最後に、次回のIWP2005は、ブラジルで開催され、共同議長として、de Souza(リオデジャネイロ大)、de Brito(LNLS)、Lindle(ネバダ大)が勤めることが発表された(写真3)。
 
 
 
写真2 サイトツアー(施設見学)の一風景
 
 
 
写真3 次回IWP2005の議長の挨拶(バンケットにて)
 
 最終日の第13セッションは、佐藤(東北大)が数百アト秒でのポンプ・プローブ手法でHgArのA状態分布の変調を解説し、Pettersson(ストックホルム大)がH2Oの固相、液相での水素結合の違いに関するX線吸収スペクトル、X線ラマン散乱分光の結果と分子動力学計算による結果との比較を発表した。

 第14セッションは、Morin(SOLEIL)が司会を勤めるラウンドテーブルディスカッションで、価電子軌道励起と内殻軌道励起での分子イオン化、分解の違いと類似性、波束の挙動の異同等につき、議論を高揚させることを試みた。短パルスレーザ利用での価電子励起では、二つの励起光子のフェーズを適切に調節することによって、解離反応を制御することなどにつき、また極小幅単色軟X線励起での内殻空孔寿命と分子振動運動とのモジュレーションの実現などにつき、個々の話題提供者への質問が多くあった。そのため、統一的なテーマを議論する時間が足りなくなってしまったのは残念であった。午後は、Sonntag(ハンブルグ大)の司会による新規光源に関するシンポジウムが行われ、レーザー利用での高強度、コヒーレント、短パルスのXUVと軟X線光源、X線レーザーの発展等、また加速器利用での特殊型アンジュレータ、エネルギー回収型リニアック、X線自由電子レーザー等の世界的動向および発表者自身のグループでの開発の進展状況につき、解説があった。閉会の挨拶として、佐々木名誉委員(JASRI)が本会議の印象を述べ、Sonntag議長が本会議の組織委員会、実行委員会の優れた会議運営に対して感謝の意を表明した。

 参加者数が、このIWPシリーズの中では最大であり、よく練られたスケジュールで会議が円滑に進行し、且つ研究発表に関しても活発な意見交換があったことなどで、本会議は成功であったと言える。またSPring-8、特に軟X線グループの研究成果を宣伝できた点で我国の放射光研究の活発さ、質の高さを訴えられたと考えられる。計画段階では、陸の孤島のこのサイトで開催することの不安および招待講演者として呼びたい方々のスケジュール不具合、ならびに会議開始近くでの予定者の不可抗力での変更等があったが、研究内容としても高いレベルでの議論が行われ、本会議運営に携わった1人として満足できるものであったと感じている。なお、この会議のサティライトとして、広島大、京都大で小規模国際会議が行われたことを付け加えておく。

 会議参加者への主にSPring-8での開催の利便性を問うアンケートを行い、3割程度の回答を得た。その中では、レセプション、宿舎は好評であったが、朝、昼、晩の食事に関してはかろうじて合格と言えるものであり、バンケット自身(神戸港からのクルージング)は満足であったが、長時間のバスでの移動には不満が出ていた。施設見学(1.5時間)は加速器部分も見たかったとか、もう少し時間が欲しかったなどの意見があった。当地への交通の便では、実行委員の努力のおかげで困った人達は殆どいなかったが、注ぎ込んだ労力は相当多かったことを記しておきたい。

 最後に会場周辺で積極的に会の円滑な進行を勤めて下さった本会議の実行委員、およびSPring-8関係者、アルバイトの学生諸君に感謝いたします。



鈴木 功 SUZUKI  Isao
産業技術総合研究所 
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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