Volume 07, No.6 Pages 354 - 355
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
SPring-8の産業利用推進 現状と今後の計画
Industrial Application of SPring-8 (Present and Future Program)
(財) 高輝度光科学研究センター 所長室 産業利用グループ JASRI Industry Support Section, Director's Office
1.現 状
SPring-8産業利用ビームライン(共用、BL19B2)が本格的に稼動をはじめたのは、H13年度後半(2001B)からである。その年、早速、このビームラインを中心として、その他の共用ビームライン(BL02B1など)、産業用専用ビームライン、兵庫県ビームラインも参加して、「トライアルユース」が実施されたのは、周知のとおりである。
また、産業利用ビームラインの特徴である産業界が研究課題をタイミングよく実施できる課題選定委員会留保分のビームタイムも、第1回がH14年10月8日を期限として公募が開始された。これに対し、数多くの課題が申請され、選定委員会が選定およびビームタイム配分に苦慮している状況である。ここで選定された課題は、12月のユーザータイムに実施される。なお、12月2日を期限とした第2回目も公募されている。ご関心のかたは、SPring-8のWebをみていただきたい。
(BL19B2では、ユーザータイムの50%を共用の一般課題申請枠、30%を留保枠として運用している)
産業利用ビームラインの稼動、講習会・研修会の開催、コーディネータを含めた産業利用を推進するJASRIの組織の活発な活動によって、H13年度後半(2001B)の「産業界からの申請による利用実績件数」は産官学共同申請を含めると、総利用実績件数の約10%、H14年度前半(2002A)では、約16%と増加している。特に、2002Aでは、トライアルユースが実施されたことで、多くなっている。ちなみに、H14年度後半(2002B)の選定課題は、約10%である。ただし、利用実績は、先ほどのBL19B2の留保枠課題を含めるともっと多くなる見込みである。
2.今後の計画
(1)講習会・研修会
H12年度から未知のユーザーやX線の利用経験の少ないユーザー(初心者)を対象に講習会を実施している。H13年度も含めて、良く使われる材料分析の手法を解説することを中心に、初心者を対象として開催し、550人が受講した。
H14年度からは、表1のように、テーマを確定し、先端技術や研究動向も含めた実践型講習会として、実施中で、ユーザーの自立支援、早期の成果獲得に結び付けていく方針である。
H15年度では、上記の方針をより進め、ユーザーが多いXAFS、先端技術としてのマイクロビームをテーマとして取り上げる。特に、XAFSについては、国内のほかの放射光施設との連携を念頭において、SPring-8のリーダーシップが発揮されるように動いていく。さらに、これまでは講習会のレベルであった先端技術や研究動向の周知徹底をはかるため、
・メッキ、防錆技術も含めた表面改質の評価
・環境分析
・LSI用新材料評価
をとりあげ、ワークショップを開催することを考えている。ここでは、海外の動向も把握するため、著名な研究者・技術者を招待し、講演をお願いする予定である。
一方、SPring-8をすぐにも使いたいユーザーに対して実験設備のハンドリングを習熟させるため、H12年度以来、実際にビームラインを使った研修会を開いている。研修会では、実験装置を扱うので受講数はかぎられるが、それでも、H13年度までに、約250名が受講している。
表1 平成14年度SPring-8講習会の開催、予定
表2はH14年度に実施する研修会である。H14年度においては、社会的関心が高いと思われる分野を中心にテーマを設定した。
H15年度においては、研修会も、テーマおよびその数を限定し、
・イメージング
・蛋白結晶構造解析
・応力解析
などを開催する予定である。
表2 平成14年度SPring-8研修会の開催実績、予定
(2)H15年度の全体施策
SPring-8への社会的関心は、かなり高くなっていると思われるが、産業界全般への関心が高まっているとは、まだまだ言い難い。産業界に対するSPring-8の貢献が明確になるには、もう少し時間がかかるようである。既にSPring-8の威力を十分感じている分野、業界においても、個々のユーザーから聞く声は、どのようなものがどのように測定できるのか、ということである。その意味で、H13年度に実施した「トライアルユース」は、参加者がSPring-8の威力を把握するに十分な機会であった。より多くの未経験ユーザー、より高度な使い方を検討しているが課題申請にはもうひとつ確証が必要と考えているユーザー、などのためには、もうしばらくは、同様なトライアル的な体験が必要と思われる。
このような考え方に関連省庁が理解を示していただき、「トライアルユース(TU)」を、経常的な施策として、H15年度から行うことを検討中である。実施にあたっては、TU課題選定委員会、TU評価委員会を再度組織し運営していくことになるが、産業全体の利用推進方策を検討する委員会も組織し、利用推進方策を提言してもらうことも考慮中である。もとより、このTUは広範囲な分野に対して行われるべきものであろうが、限られた時間、予算を活用するためには、重点課題を指定し成果が上がる具体的なターゲットも必要である。結果が理解しやすく効果的イメージング技術、最近非常に関心の高い応力評価技術などが、早急に実用化が期待されているテーマである。
なお、SPring-8中間評価で提案されている重点化などにともなう運用方法の変更について、産業利用の分野でも、JASRI内で検討中であり、SPring-8の特徴を生かして実用化の成果が十分期待される利用分野については、JASRIが分野を指定して課題を公募し、JASRI主導で重点的に利用を推進することも考えられている。産業界のユーザーにとっては、本施策の早期実現のため、今後の展開に注目していただきたい。
3.おわりに
放射光の利用を一層進めるためには、産官学の共同研究としてのプロジェクトの実施、実験代行も含めた分析・解析サービス、を検討中であることを付記する。どちらも、JASRIだけではできない方策であり、広く産業界の協力をお願いしたい。
なお、産業利用推進の諸情報については、詳細がSPring-8のホームページ(www.spring8.or.jp)にのせられる。常時、見ていただきたい。
古池 治孝 KOIKE Harutaka
(財)高輝度光科学研究センター
放射光研究所 所長室 産業利用グループ
〒671-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0947 FAX:0791-58-0948
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