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Volume 16, No.2 Pages 85 - 86

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

重点産業利用課題成果報告会
Symposium Report on the Industrial Application Proposals

廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro

(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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 重点産業利用課題は領域指定型の重点研究課題として、平成19年1月26日に重点領域推進委員会で平成19年度と平成20年度の2年間指定を受け、さらに平成20年10月2日の第6回選定委員会で平成23年度までの継続が承認され、重点産業利用課題は領域指定型の重点研究課題として実施されている。

 重点産業利用課題においては、SPring-8合同コンファレンスなどの機会を利用してほぼ半年間隔で成果報告会を計4回実施している。これまでは重点産業利用課題成果報告書の最新号に掲載された成果を対象に報告会を開催していたが、今回は2009B期の課題に加えて公開延期が終了した2007A、2007B、2008A期の課題も対象に平成23年3月2日にコンベンションルームAP品川において報告会を実施した。

 報告会は大野専務理事の挨拶で10時15分に開会し、筆者による重点産業利用課題の実施概要報告の後、利用者による午前3件の成果発表講演が行われた。最初に新日本製鐵の木村氏が「チタン表面酸化膜の構造解析」と題して2007A期にBL46XUで実施した課題(公開延期課題)の成果を報告した(写真1)。木村氏は軽量な金属材料であるチタンに優れた耐食性を与える厚さ数nmのチタン酸化物層(不働態被膜)を微小角入射X線散乱で評価し、不働態被膜がanatase型に類似した構造であること、および課題実験で得られた知見が知的財産取得に活用されたことを報告した。次いで、大林組の人見氏が2009B期にBL47XUで実施した成果を「加力試験によるコンクリート変形挙動の直接観察」と題して、引張り試験をしながらCTで組織の変形挙動を観察した結果を報告した。この実験によりコンクリートに含まれる化合物成分ごとに変形挙動が異なる可能性が見出され、コンクリートの脆性的挙動解明に一歩近づいた印象を与える興味深い発表であった。午前の最後は旭化成の松野氏が「水熱条件下でのトバモライト生成過程のその場観察」と題してBL19B2で2009B期に得られた成果に加えて、日本分析化学会2010年度先端分析技術賞を受賞したその場観察技術開発に関するここ数年間の試行錯誤の過程も含めて発表した。産業利用分野で一定の成果を得るためには多くの試行錯誤と長い年月が必要なことを改めて印象づける発表であった。

 

写真1 新日本製鐵(株)木村氏講演の様子

 

 昼食休憩を兼ねて正午から午後2時まで6件の公開延期課題を含む計19件のポスター形式による成果発表が行われた。研究対象は毛髪、皮膚角層などのヘルスケア分野からLSIや光ファイバーまで非常に多岐に渡っていたが、異なる分野でも測定や解析技術では共通した事項もあり異分野の発表者間で情報交換が行われていた(写真2)。

 

写真2 ポスター発表の様子

 

 午後には2件の成果発表講演が行われ、京都大学の畠山先生は2009B期にBL14B2で行ったXANES測定より明らかになった鉄触媒の触媒活性種についての成果を「触媒クロスカップリング反応の開発と工業利用:in-situ XAFS測定による触媒活性種の同定および構造解析」と題して報告した。この課題は民間企業との共同研究の一環として行われたもので、重点産業利用課題が産学連携の場としても機能していることを示す発表となった。次いで江崎グリコの田中氏が「歯の初期う蝕病巣での脱灰・再石灰化における結晶学的解析」と題して同社が馬鈴薯澱粉から調製した新しいリン酸化オリゴ糖カルシウムがハイドロキシアパタイト形成による初期虫歯部位の回復に効果を有することを証明したBL40XUでの実験について報告した(写真3)。この成果は特定保健用食品の認可にも利用され、SPring-8の産業利用分野の拡大を示す発表であった。

 

写真3 江崎グリコ(株)田中氏講演の様子

 

 年度末の開催であったが多くの方にご参加いただき、5回目の報告会は山川常務の挨拶で無事閉会することができた。成果発表をして下さった利用者の皆様、報告会の準備と運営にご尽力下さった皆様に深く感謝する。

 

 

 

廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro

(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-2804

e-mail:hirosawa@spring8.or.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794