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Volume 16, No.2 Pages 137 - 138

4.SPring-8 通信/SPring-8 Communications

利用研究課題審査委員会を終えて 分科会主査報告3 -XAFS・蛍光分析分科会-
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair - XAFS and Fluorescence Analysis –

宮永 崇史 MIYANAGA Takafumi

弘前大学大学院 理工学研究科 Graduate School of Science and Technology, Hirosaki University

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1.はじめに

 私はSPring-8が供用利用を開始して間もなくの2000年代の前半に、研究者として大変お世話になり、SPring-8の強力な光源を利用していくつか仕事をさせていただきました。特に、青・緑色半導体の材料であるInGaN薄膜中の微量なIn原子の周囲構造解析は強力でなおかつ高エネルギーのSPring-8のXAFSビームラインで測定が可能になった研究例です。当時は大学院生も一緒に兵庫県まで出かけ、意気揚々として研究する雰囲気でしたが、その後時代は厳しくなり、遠く離れた、地方国立大学からはSPring-8はなかなか利用しづらい施設となってしまいました。2005年あたりの磁性材料の磁気XAFSの仕事を最後に、SPring-8とは縁が遠くなっていたところに、審査委員の依頼を受け、以前の恩返しの意味も含めて、引き受けることにしました。ところが、なかなか皆様との日程が合わずに、任期のうちほぼ半分の会議を欠席せざるを得なかったことを残念に、また申し訳なく思っています。その点で、分科会の他の委員の方々には大変ご迷惑をおかけしたことをまずお詫び申し上げます。

 

 

2.課題審査

 久しぶりにSPring-8で実行されている研究内容を知る機会となり、まず気がついたことは、当時と比べて研究課題名が実に魅力的(もっといえば、派手)になったなあということでした。XAFSあるいは蛍光分析というのは放射光利用の中でも物質・材料への応用の最前線にあり、研究手法自体は成熟してきたと言うこともあるかもしれません。10年前の牧歌的な課題名に対して、今では戦略的なイメージを持たせなければならないと言うことでしょう。科学を社会へアピールするには必要なことなのかもしれません。ただ、面白いのはある分科会(ビームラインといった方がいいのでしょうか)では、実に単純明快な、牧歌的な課題名がまだ並んでいるところもあります。そのコミュニティーのおかれている社会的位置を反映しているのかもしれません。このように、XAFS・蛍光分析分科は応用に力点を移しつつあるのですが、私が審査中にいつも期待していたのは、「おお、放射光X線でこんな事ができるのか?」という新しい試みに関する研究でした。中には、そういう課題にも遭遇し心が躍る気持ちがしました。SPring-8、特にその中でもXAFS・蛍光分析分科が社会から期待される役割を考えると、そういう基本的な研究を採択することは難しいのかもしれませんが、今後はそういう方面の発展も期待したいと思います。

 

 

3.レフェリーの方法

 課題審査委員会は、レフェリーの審査結果に対する審議がなされます。現在は1課題に対して4名のレフェリーがついていますが、評点がばらついたり、コメントがまとを得ていなかったり、の審議がなされます。私も当初申請者として、SPring-8の申請に対するレフェリーのコメントは無味乾燥な形式的な文章だったなあという記憶があります。しかし、今審査委員をやってみると、これもいろいろ議論された中での結果であったと理解はしております。今は一人のレフェリーが何件の課題を審査しているのかわかりませんが、私が以前レフェリーを引き受けたときには、かなり多くの件数が依頼されたと覚えています。なかなか、人の論文や課題を審査する時間がとれない昨今、あまりに量的に無理があると、ともすると研究者の倫理観が薄れていくように私自身も感じました。アメリカの有名雑誌のレフェリーをやったときには「レフェリーを断る研究者が多い昨今、よく引き受けてくれた」という丁寧なお礼の手紙が郵送されてきました。そういう状況であることを認識して、レフェリーが倫理観を保ち、自主性を発揮できるシステム作りが大切だろうと思います。

 

 

4.論文発表数

 もう一つ、審査委員会でよく話題に上ることでは、SPring-8の発表論文数がライバルのESRFやAPSに比べて劣っているのはなぜか?どうすれば、論文数が増えるのか?という問題があります。この問題を検討した委員会の答申には、論文が少ない理由として次のようなものがあげられています。1)発表言語が英語であること、2)海外との研究交流が少ないこと、3)論文発表は研究者の自主性にゆだねられており、施設側からの働きかけが十分ではないこと、4)論文数を次の審査結果へ反映させる仕組みが十分でないこと。1)および2)に関しては、私も認めるところです。これは、放射光研究に限ったことではなく、日本語は国際語となりにくい上に、学術的には成熟した言語のため普段から英語を使用しなければならない必要性の小さいことを考えますと、そのことが日本の研究レベルの低さを意味するものではないとも言えます。しかし、3)および4)の考察はある意味で、逆効果に働く可能性もあります。国立大学が法人化されて以来、大学上層部からはことあるごとに、3)あるいは4)のような評価を受け続けている、我々地方国立大学の研究者は反発してしまうのでしょう。審査委員会席上でも、「やはり、論文発表は研究者の自主性を高める、あるいは倫理性を高めるしか方法がないよ」というささやきが耳に入りますが、なかなかそれを答申として文章にできないのが本音だと思います。システムとして、自主性を高める仕組み作りが必要なのだろうと思います。あと、最近では外部資金獲得件数や金額が研究者の評価として重要視されてきています。これも、私のひがみかもしれませんが、外部資金の多く取れる、応用的な研究はさほどアウトプットを気にしない状況にあるようにも見受けられます。斬新なアイデアで資金を獲得することに優れた研究者は、アイデアは出すが、結果をまとめて論文にしておこうという意識は少ないのかもしれません(現に、私の近くにはそういう高額な資金を獲得する優秀な研究者がいますが、論文発表には無頓着です)。一方、研究の取りかかりは地味でも、得られた結果をきちっと発表することが大切と考え、長年掛けて壮大な成果を作り出す研究者もいます。どちらかというと、純粋科学研究者に多いように思います。従って、私が先に述べたように、派手な課題名で外部資金をたくさん取る仕事が増えてくると、発表論文数が逆に減る原因にもなっているのではないでしょうか。学術的に意味のある基礎研究課題もある程度採択しておくことが先々のことを考えても必要なのかもしれません。その場合は、研究課題の有効期限を少し長めにすることも必要でしょう。学術的研究というのは、そのステップステップで論文にまとめながら進めてゆくので、その都度論文は書かれます。ヨーロッパの放射光を利用している知人が何人かいますが、彼らは長年同じような地味なテーマで研究を続け、優れた論文を発表し続けています。最近のヨーロッパでもこのようなスタイルの研究者は居心地が悪いようですが、日本でも再考すべきと思います。

 

 

5.おわりに

 分科会主査報告という場を借りて、一般性の乏しい、個人的な感想ではありますが、この世界中に充満する閉塞感を打破する方法の助けにならないかと思い、書き並べてしまいました。人の業績を評価すること、あるいは研究施設のアクティビティを評価することはいつの世にも困難がつきまとうことですが、委員長を中心として真摯に議論されてきたこの審査委員会は大変重要であると思っています。近視眼的な成果をあげる議論ではなく、長い目で見た日本のサイエンスの質を高めるような議論をこれからも続けられるよう期待しています。繰り返しになりますが、半分くらいしか本委員会の役に立てなかったことを深く反省して、報告を終えたいと思います。

 

 

宮永 崇史 MIYANAGA Takafumi

弘前大学大学院 理工学研究科

〒036-8561 青森県弘前市文京町3

TEL:0172-39-3551

e-mail:takaf@cc.hirosaki-u.ac.jp

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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