Volume 07, No.2 Pages 95 - 97
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
SPring-8第9回マシンスタディ報告会
The 9th Meeting on Machine Studies of SPring-8
第9回マシンスタディ報告会が2002年1月24、25日の2日間にわたって中央管理棟1階講堂において開催された。今回は昨年の第7サイクル(2001年9月)から第9サイクル(2001年12月)までに実施されたマシンスタディが対象となり、28件の報告があった。スタディのテーマと報告者は以下の通りである。
シンクロトロン出射ビームのエミッタンス測定 深見 健司
シンクロトロン低エネルギー出射についてのパラメータサーベイ 深見 健司
蓄積リングのランプダウン試験 早乙女 光一
Sy低エネルギー出射とSSBTの調整 早乙女 光一
蓄積リング低エネルギー入射試験 早乙女 光一
金属ターゲット放射線角度分布の測定 鈴木 伸介
線型加速器分散部 BPM 出力ノイズの抑制試験 柳田 謙一
制動輻射γ線のフィリング依存性 高雄 勝
IDギャップのビームサイズに対する影響 高雄 勝
蓄積リングバンプ電磁石の調整 大島 隆
光学系改良後のレーザー電子光ビームの性能評価 郡 英輝
Coherent 振動における非線形smearの電流値依存性 田中 均
垂直ディスパージョンをプローブとした垂直エミッタンスの測定(その3) 田中 均
電磁石の振動が与える軌道変動の研究 中里 俊晴
ID23の位相駆動が誘起する軌道変動調査 中谷 健
真空計の散乱X線による影響(3) 馬込 保
クロッチ周辺の放射光強度分布の測定 馬込 保
ゴムホース破損原因調査のための放射線照射量の測定 妻木 孝治
同期回路システムとエネルギー圧縮システムの総合評価 安積 隆夫
NSへの線型加速器同期入射 庄司 善彦
BL38B2 二結晶分光器の調整 正木 満博
BL38B2蛍光坂モニターの位置校正 高野 史郎
バンチ長測定系の調整 中村 剛
バンチ長測定 中村 剛
Bunch by Bunch Feedback 試験 中村 剛
BPM 変位調査 大石 真也
真空チャンバーの振動が軌道変動に及ぼす影響の調査 大石 真也
BPM位置感度係数測定 佐々木茂樹
以上の報告の内、いくつかについて簡単に紹介する。
線型加速器の加速周波数2856 MHzとシンクロトロン、並びに蓄積リングの加速周波数508MHzとの同期関係を実現するために開発された同期回路システムの運用に向けたビーム試験が行われた。蓄積リングの周長変化に応じて変更される加速周波数は線型加速器のビームエネルギーゲインにも変化を与える。このエネルギー変化量を測定し、ECS rf位相に補正値を与えることで同期回路システム導入時にも安定したビーム供給が行えることを確認した。またこの同期回路はNew SUBARUへのビーム入射においても試験され、今後、電子銃出口でのビームパルス幅が250 psのビーム運転も期待される。
線型加速器の非分散部に設置されているBPMは本体、信号処理部の動作、校正が完了し、現在、線型加速器本体への導入が行われている。今回は1GeVシケインのエネルギー分散部に設置されているBPMのピックアップ信号について波形歪みの原因調査が行われた。ビーム試験は線型加速器中流部にあるエネルギー選択部で低エネルギービームを排除し、1GeVシケイン部 BPM 付近の真空チャンバーと低エネルギービームとの衝突を抑制したが、ピックアップ信号波形歪みは軽減されない結果を得た。前後の真空チャンバーへのビームから誘起される共振モードによる影響、放射光による光電子の影響についての議論がなされた。
シンクロトロンに関してはビームダンプへのトランスポートラインに2001年夏期長期運転停止期間に設置された6台の遷移放射光モニターによるビームエミッタンス測定(εx=218 nm rad@8GeV)、並びにカップリングの評価について報告された。蓄積リングの低エネルギー運転に関連してシンクロトロンの低エネルギー出射のいくつかの手法についてビーム出射点での位置再現性、安定性の観点から比較検討した結果が報告された。
蓄積リングにおけるランプダウン運転(8 GeVで入射蓄積したビームのエネルギーを下げていく)の結果が、ビームパラメータのエネルギーの観点から報告された。また、蓄積リングへの4GeV入射は実現できたが大電流の入射・蓄積には更に試験の必要がある。今後、低エネルギービームにおいて蓄積リングへの入射効率、蓄積電流の改善のために、入射エネルギー、ビーム輸送系(SSBT)での入射角度とビーム安定度についてのスタディを行う予定である。
その他の蓄積リングのスタディについて、以下の報告がなされた。
長直線部導入後のHHLV+4LSS Opticsでの垂直ビームエミッタンスの評価がなされた。測定は電子・電子散乱の発生確立の電子密度依存性を示し、垂直ディスパージョンをプローブとして用いて測定する方法が用いられた。測定結果として3.8±0.34 pm rad、カップリング比で0.06 %という報告であった。
IDギャップが及ぼすビームサイズ、水平方向エミッタンスへの影響について報告された。全ての IDギャップ全開時に比べて全閉時には約20%の減少が確認され、1mA/bunchではベータトロンチューン(垂直)、シンクロトロン振動数、バンチ長に対して電子の集団効果がかなり影響しているデータが示された。蓄積リングでのコヒーレント振動の挙動についてピングによる実験結果とシミュレーションの比較が行われた。SPring-8で開発された6次元粒子追跡コードを用いて、短時間で急激に減衰するビーム航跡場の効果を考慮した場合と、しない場合で複数の条件で測定結果との比較が行われた。この結果、実際に観測されたビームのコヒーレント振動の減衰は、最低次のビーム振動モードから誘起される横方向ビーム航跡場の効果が重要な役割を担っていることが分かった。今後、Top-up運転のための基礎実験等の解析においてもこの効果を考慮し、さらなる Model精度の向上が期待される。
イオントラップ現象のメカニズム解明のため、セル3光取出し部に鉛ガラスを設置し、散乱γ線強度のフィリング依存性を調べた。真空度を蓄積電流で規格化し、各フィリングパターンでのγ線強度の比較が示された。同時に水平、垂直ビームサイズ、シンクロトロン振動数の測定を行い、各々の相関を調べた。結果として散乱γ線強度と垂直ビームサイズは同じフィリングパターンに依存性をもっており、フルフィルではパーシャルフィルに比べて2倍の増加が認められた。またシンクロトロン振動数に関しては有意な差は認められないことが示された。
四極磁場を微小変化させたときの磁場中心からのオフセット量とCOD発生量からBPMの位置感度係数を実験的に得るための、手法と解析結果が示された。測定はステアリングによるシングルキックを与えたときのCOD発生量を取得し、これらから仮定される2次曲線の曲率により位置感度係数を得るものである。特に、水平方向について示された測定結果は2次曲線と異なるものであり、この原因についてはステアリングによるシングルキックのためにCODがリング全体にわたり発生し非線形領域まで達しているとの推測がなされた。今後は四極電磁石のみにオフセットが発生できるようにローカル・バンプを生成し、線形性の良いところで上記測定を行うとのことであった。
マルチバンチ、シングルバンチでの横方向不安定性を抑制するため、開発が進められているbunch by bunchフィードバックの原理、回路構成、ビームを用いた構成モジュールの試験結果が報告された。シングルバンチビーム運転において蓄積されたビームをキッカー電磁石により横方向に振動励起したときのフィードバック有無による減衰時間の比較を計算、測定の両面から評価し、フィードバックが有効に動作していることを確認した。今後、システムの複数並列化を行い、多様なフィリングパターンへの対応を考えている。
蓄積リングのビーム軌道変動、安定化に関して、電磁石の振動、真空チャンバーの振動の測定、及び周波数分析がなされた。DCから1kHzの範囲で発生しているビーム軌道変動への寄与は真空チャンバー振動によるものが大きいことが判明し、冷却水配管経路、流量調整によりかなり振動が抑制できることが分かった。
トップアップ運転には必須である蓄積されたビームに対するバンプ電磁石の影響について報告された。バンプ電磁石の漏れ磁場の影響を縮小するため磁場強度、タイミングの最適化を行い、入射効率の向上、振幅の抑制が実現できた。さらにオプティクスの非線形性の影響を計算と測定の両面から行った評価が示された。
ID23の位相駆動が誘起する軌道変位を極力小さくするために軌道変動測定から補正励磁テーブル作成までの自動化についての報告がなされた。これによりユーザー運転に使用するギャップ駆動領域での静的な軌道変動は5mmまで縮小された。
長直線部上流セルのBPMがビーム電流値増加に伴い変位する問題が見出され、原因調査が行われた。100mA蓄積時にアブソーバー部で80 ℃までの温度上昇があり、これによる50mmのBPMの変位がレーザー変位計による計測で観測された。またその他の部分における変位測定も必要である。
加速器ビーム診断装置であるBL38B2に設置されている3台の蛍光坂モニターの内、上流から2台のモニターに関して4象限スリットとの相対的な位置校正が行われた。また別の報告では、同じくBL38B2に設置されている二結晶分光器について、第1結晶への放射光熱負荷の影響について報告され、ロッキングカーブについて理論計算と測定結果の相違点について議論がなされた。今後、ロッキングカーブの再評価、ブラッグ角依存性の詳細測定、単色X線の垂直方向空間分布、エネルギー校正を行い、さらに定位置出射のための結晶微調整機構パラメータの決定を予定している。
放射線による機器構成部品の影響と損傷、及び遮蔽設計の参考データとして放射線測定が蓄積リング、線型加速器L3BT部で行われ、各種放射線検出器からの放射線強度、分布が示された。
スタディ詳細に興味のある方は、本報告会で使用されたOHPのコピーが中央制御室に保管されているので参照下さい。
安積 隆夫 ASAKA Takao
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:asaka@spring8.or.jp
田中 均 TANAKA Hitoshi
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:tanaka@spring8.or.jp
大熊 春夫 OHKUMA Haruo
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:ohkuma@spring8.or.jp