ページトップへ戻る

Volume 07, No.2 Pages 93 - 94

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第5回SPring-8利用技術に関するワークショップ(加速器)
The 5th Technical Workshop for SPring-8 Utilization (Accelerator)

高橋 敏男 TAKAHASHI Toshio

東京大学 物性研究所 Institute for Solid State Physics, University of Tokyo

pdfDownload PDF (12 KB)


 12月18日午後に「加速器によるビーム性能の改善と利用実験の新たな展開」と題するセッションに参加した。講演者は宮原氏をのぞき施設のスタッフであった。題目にあるように、前半は加速器のビーム性能の改善に関して、どのような試みが行われているか、または計画されているかについて、問題点も含めてユーザーにも理解できるように分かりやすく説明するという観点からの講演であった。後半は、ビームの特性を利用した実験結果の報告や実験の提案、あるいはビームに対する要望などであった。参加者は約60名で、そのうち約半数が施設外からの参加者であった。施設からの参加者も大半は加速器以外の人であった。パラレルセッションであったにもかかわらず関心のある方々が多数参加されていた印象である。全体を通して活発な質疑がなされていた。
 全体として、放射光リングはもちろん、線型加速器、シンクロトロンについても高品質なビーム生成のための試みが絶えずなされている印象をもった。また、利用系の方では、核共鳴散乱、パルスレーザと放射光X線の同期実験、TOFによる光電子角度分布の測定など、放射光のパルス性、時間構造を利用した特徴ある研究がかなり進展している様子が伺えた。加速器系としても今後引き続き性能の改善の計画があり、利用系からもすでに得られた実験結果をもとに、ビーム性能改善や運転モードに対する要望もあり、両方の観点から議論し相互理解する上で非常に良い企画であったと思った。
 講演は、普段あまり聞く機会のない内容や最新の話題に富んでおり得るところが多かった。その中からいくつか印象に残ったことを以下に紹介することにする。1つは、2GeV〜4GeVの低エネルギー運転である。4GeV-100mA運転の場合と現在の8GeV-100mA運転との比較がなされた。低エネルギー運転では、エミッタンスを小さくでき、干渉性の高いビームが得られることになる。とくに、軟X線領域では魅力的な光源になるようである。X線も10keVから15keV程度までは十分使えるようである。今後、これだけ大きな蓄積リングをつくることは世界的に見ても困難な情勢にあるので、当初の狙いとは異なるがSPring-8の特徴をだす一つの方向であろう。
 宮原氏の講演もこれに関連し、軟X線の研究の新しい展開を期待するものであった。光と物質との相互作用には階層性があるとの切り口で、現状の光源、27m長尺アンジュレータ、FELとでは、それぞれボーズ縮退度が5〜6桁づつことなり、全く異なる物理が期待できるとのことであった。空間情報を含んだ分光学が可能になるという表現をされていた。縮退度が大きくなるといままで非干渉性であったものも干渉性をもつようになる。たとえば、異なる原子でおこる非弾性散乱過程も位相の相関をもつようになれば、新しい物理が展開されるであろう。
 光源の新しい流れとして、新第3世代光源、およびERL(Energy Recovery Linac)についての紹介があった。前者は、低エミッタンス中型リングにおいて真空封止ミニギャップアンジュレータを導入することにより、ほどほどのコストで高輝度なコヒーレントX線を得ようと言う計画である。現有の第3世代にも匹敵する性能がだせるという。SLS(Swiss Light Source)を引き合いにその将来性が伺える内容であった。また、放射光のスペクトルを示すときに、これまでは、エミッタンスのみが強調されエネルギー広がりのことが考慮されておらず、特に高次光では大きな影響をうけることが指摘されていた。今までその点が考慮されていなかったのがむしろ意外な印象をもった。ERLはFELに準ずる新しい光源として着目されているようである。FELでは使い捨てのビームを周回させて再度Linacに逆位相で通し、エネルギーを回収してもらいエネルギー効率を高めようという発想のものである。まだ実験段階のようであるがコヒーレントX線源として大いに期待したい。
 リング電流が一定になるように、一定の間隔で絶えず入射するトップアップ運転の可能性も検討しているとのことである。現状のように、1日1回ないし2回といった特定の入射時があるわけではなくなる。ユーザー側からすると、測定の中断を気にせずに実験を行えるメリットがある。特に、寿命が短いセベラルバンチ運転などでは効果的になる。たとえば、寿命が3時間のときに、数%の範囲内で一定にするには、220秒に1回程度の頻度でたえず入射すれば良いとのことである。施設側では運転するにはいくつかの課題を抱えているとのことであるが、ユーザー側からすると、各入射時には短時間ではあるがビームは変動することになるので、その対策さえなされればほとんどの実験ではメリットがあるように思った。
 SPring-8は、バンチモード、トップアップ運転、運転エネルギーなどに関して多様なモードで運転できる可能性のあるリングになっている。運転モードの設定は、今後SPring-8の発展の鍵を握る大きな要因であるとの印象をもった。それには、光源側と利用側の情報交換、相互理解が不可欠である。その意味でも、今回のような議論できる場を今後も機会をみて設けて欲しいと思った。




高橋 敏男 TAKAHASHI  Toshio
東京大学 物性研究所
〒277-8581 千葉県柏市柏の葉5-1-5
TEL・FAX:04-7136-3370
e-mail:ttaka@issp.u-tokyo.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794