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Volume 07, No.1 Pages 2 - 17

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

第9回(2002A)利用研究課題の採択について
The Proposals Accepted for Beamtimes in the 9th Public Use Term 2002A

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 JASRI Users Office

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 高輝度光科学研究センター(JASRI)では、利用研究課題選定委員会による利用研究課題選定の結果を受け、以下のように第9回共同利用期間における利用研究課題を採択した。


1.募集及び選定日程

(募集案内)

9月5日     利用研究課題の公募について

        SPring-8ホームページに掲示

9月17日    SPring-8情報誌9月号に掲載(予告は7月号に掲載)

(一般課題)

10月27日   一般課題募集締切り

(郵送の場合、当日消印有効)

11月21、22日 分科会による課題審査

(特定利用課題)

10月11日   特定利用課題募集締切り

10月15~22日 特定利用分科会による書類審査

10月31日   特定利用分科会による面接審査

(一般課題及び特定利用について課題選定及び通知)

12月10日   利用研究課題選定委員会による課題選定

12月14日   機構として採択し、応募者に結果を通知


2.選定結果

 今回の公募では643件の課題応募があり、これまでの最高となった。ここ数年、1年の前半の共同利用期間(A期)では応募が少なく、反対に後半(B期)では大幅に増加する傾向が続いていた。このため、今回は前回の応募数619件を下回るものと予想していたが、大幅な増加となった。一方、採択数は520件となり、これも過去最高となった。これは今回利用可能なビームラインが増えたことに対応している。連続する2回の公募状況を足し合わせたのが次の表である。年間を通した応募数及び採択数はともに順調に増加している。


                  応募課題数 採択課題数

第8回+第9回(平成13年9月~14年6月)    1,262     977

第6回+第7回(平成12年10月~13年6月)   1,084     789

第4回+第5回(平成11年9月~12年6月)    855     572


 今回の公募では成果専有利用の応募が6件あり、また特定利用への応募が3件あった。第1回から今回の公募までの、分野別、所属機関別、ビームライン別の応募数及び採択数を表1に示す。また、関連するデータを図1から図3に示す。



表1 利用研究課題 公募内訳





図1 各公募時における応募課題数と採択課題数




図2 採択課題の研究分野別所属機関別分類




図3 ビームラインごとの採択状況



 今回の採択結果は、件数では応募643件に対し520件(採択率81%)、シフト数では応募7,064に対し採択4,591(シフト採択率65%)であった。また、採択された課題の平均シフト数は8.8であった。利用研究課題選定委員会では、採択された課題の要求シフト数と配分シフト数の比(シフト充足率)を出来るだけ大きくする方針で課題の選定審査が行われている。今回、平均のシフト充足率は80%であり、特殊な結果の時を除いて、これまでで一番高いシフト充足率となった。

 研究分野別の採択課題数は、散乱・回折、生命科学、分光、XAFS、実験技術方法の順であった。また、採択課題の実験責任者の所属機関別では、国立大学が全体の半分以上を占めていることはこれまでの共同利用を通じて変わっていない。今回は海外からの採択数が増えている。

 今回の共同利用の対象としたビームラインごとの採択課題数、課題採択率、シフト充足率、平均シフト数、シフト採択数を表2に示した。採択課題数の多かったビームラインは、BL41XU(構造生物学Ⅰ)の53件(1課題あたり3.4シフト)、続いてBL02B2(粉末結晶構造解析)(同5.8シフト)の39件であった。これらのビームラインでは当然ながら1課題あたりの配分シフト数は少ない。ビームラインごとの採択率が低かったのはBL39XU(磁性材料)49%であり、以下BL02B1(結晶構造解析)58%、BL09XU(核共鳴散乱)68%と続く。この3本のビームラインについては、最近の公募時ではいずれも採択率は低くなっている。シフト充足率は、前述のように今回の審査では前回よりも増加した。その中でもシフト充足率の低かったビームラインは、BL02B2(粉末結晶構造解析)63%であった。

 表2にはあわせて、ビームラインごとの採択課題の分野別分類を示している。ここでの研究分野は、次に示す課題審査に当たった小分科会の分類によっている。

 L1 :生体高分子結晶構造解析

 L2 :小角散乱

 D1 :結晶構造、構造物性

 D2 :高温・高圧構造物性、地球惑星科学

 D3 :共鳴散乱、非弾性散乱

 X :XAFS

 S1 :軟X線・赤外吸収物性

 S2 :蛍光X線、XMCD

 M :実験技術、材料創製



表2 ビームラインごとの採択状況




表3 分野ごとの採択状況




 表3に、分野ごとの応募及び採択課題数、課題採択率、シフト充足率、平均シフト数を示した。ここからは、例えば生体高分子結晶構造解析では平均シフト数が少ないが、共鳴散乱、非弾性散乱や蛍光X線分光、XMCDではシフト数が多くなっていることがわかる。

 特定利用(通常課題の実施有効期限が6ヶ月であるのに対し、3年以内の長期にわたって計画的にSPring-8を利用することによって顕著な成果を期待できる利用)では、今回の公募で3件の応募があり、そのうちから1件が採択された。審査は外部の専門家を含む特定利用分科会での書類審査、及び面接審査の2段階で行われた。採択された課題については概要を後述する。

 成果専有利用として6件の応募があった。この課題についてJASRI責任者による公共性・倫理性の審査と技術的実施可能性及び実験の安全性の審査が行われた。これらの6件の課題はすべて採択された。内訳は民間からが4件、その他からの申請が2件であった。


3.利用期間

 年間の前期と後期の共同利用の利用時間に長短のアンバランスが通常以上に大きくなることを緩和するためこれまでと同様に、年当初の第1サイクルをB期に繰り入れていることから、今期第9回(2002A)共同利用の利用期間は平成14年第2サイクルから第6サイクルまでとした。利用時期は、平成14年2月から7月までとなっている。この間の放射光利用時間は282シフト(1シフトは8時間)となった。このうち共同利用に供されるビームタイムは共用ビームライン1本あたり225シフトとなる。


4.利用対象ビームライン及びシフト数

 今回の募集で対象としたビームラインは、共用ビームライン23本(R&Dビームライン3本を含む)とその他のビームライン5本(原研ビームライン3本及び理研ビームライン2本)であった。今回から新たに募集を開始した共用ビームラインは、BL13XU(表面界面構造解析)である。

 今回、第8回共同利用期間のビームタイムは合計で94日282シフトであり、共用ビームライン1本あたりではビームラインの調整や緊急課題用などにJASRIが留保する20%を除く225シフトがユーザータイムとなる。ユーザーが利用可能なビームタイムは、これにR&Dビームラインの30%のビームタイム及び原研・理研から提供されるビームタイムを加えて合計約5,000シフトとなった。

 今回の採択では、既に利用されている特定利用課題が5課題になっていることや、これまでと同様に、生命科学分科における蛋白質結晶ができたときの緊急の利用や実験条件のチェックに使用する分科会留保シフトをBL41XU(構造生物学Ⅰ)、BL40B2(構造生物学Ⅱ)及びBL38B1(R&D(3))で設けたことなどから、共同利用期間に利用されるビームタイムは約4,600シフトとなった。


5.生命科学分野におけるビームタイムの留保

 生命科学分野における生体高分子結晶構造解析では、特に実験試料の特殊性から、短い時間でもいいから試料の出来具合をチェック出来るような利用をしたい、試料が出来たときに緊急に利用したいと言った要望が強い。このような要望に応えて、これまでBL41XU(構造生物学Ⅰ)及びBL40B2(構造生物学Ⅱ)のビームタイムを留保し、サイクルごとに該当する課題を募集し、緊急課題に準じた取扱いで利用を行った。今回では、新たにBL38B1(R&D(3))においてもこの留保シフトの取扱いをすることになった。留保シフトの供するビームタイムはBL41XUで45シフト、BL40B2で23シフト、BL38B1で22シフトとした。この留保シフトの取扱いについては、前回同様緊急課題に準ずる扱いにすることとするとともに、各サイクルに割り振り、申請を受け付けることとした。申請の際には実験の必要性がわかるようにしていただき、それを分科会において審査されることとなった。詳しくは、本誌20ページのお知らせを参照されたい。


6.課題選定審査における留意点及び検討事項

(1)課題選定では、前回と同様、1課題に十分な実験時間を確保するために、選定された課題の要求シフトに対する配分シフトの比率(シフト充足率)を確保することにつとめた。

(2)特定利用課題のうち2000Bから開始した3課題について中間評価を開始し、当該の課題実施責任者に資料作成を要請した。

(3)産業利用ビームライン(BL19B2、共用ビームライン)の利用については、ビームライン及び測定装置類の立ち上げを勘案しながら募集することとしたため、今回はこの募集より遅れて追加募集することとなった。このため、産業利用分科会では、ビームラインの整備状況と今後の運営の方法、特に分科会留保シフトの考え方などについて検討した。


7.産業界の利用

 今回の公募で、民間企業からは37件の応募があり、26件が採択された。また、前回の公募時に大きく増加した「実験責任者が大学またはJASRIの職員などであるが、共同実験者に民間の研究者が加わっている共同研究課題」は今回19件の応募があり、そのうち17件が採択された。

 また、前述のように産業利用ビームライン(BL19B2)を利用する課題が追加募集されることとなっている。本誌が発行される頃にはその課題も採択されている。これによって、産業界からの利用や産官学による共同利用が増加し、本格的な産業利用が行われることになると期待される。


8.特定利用課題の採択

 2000B共同利用から開始したSPring-8特定利用については、今回は1件の課題が採択された。今回採択された課題は、平成14年2月から3年以内の期限で実施していただくものである。今回採択された研究課題の概要を以下に示す。


課題番号:2002A0008-LD3-np

課 題 名:高分解能(磁気)コンプトン散乱測定による巨大磁気抵抗物質の電子及び軌道状態の研究

実験責任者:小泉昭久

利用するビームライン:BL08W

3年間の要求シフト数:254シフト

2002Aの要求シフト数:36シフト(配分36シフト)

研究概要:

 現在、巨大磁気抵抗効果(CMR)を示す物質の研究が精力的に行われている。例えば、ペロフスカイトMn酸化物は、最近の強相関電子系における様々な研究を通して、電子の内部自由度とそれらの結合状態が、CMRを含めた系の物性に重要な影響を与えているということが広く認識されるようになってきた。また、新たなCMR物質Sr2MoFeO6は、高い磁気転移温度を持ち、低温のみならず室温においてもCMR効果を示すことから注目されている物質である。

 本課題では、上記2つの酸化物試料を主対象にして、SPring-8を用いて電子・軌道状態の研究を行い、CMRの起源に迫ることを目的とする。このような巨大磁気抵抗物質を研究するにあたり、放射光を用いた高分解能コンプトンプロファイル(HRCP)・磁気コンプトンプロファイル(MCP)測定では、測定試料の純度・表面状態や、測定温度、磁場の有無についての実験的制約が無いため、ホールドープ系の試料における測定、磁気転移点前後での温度変化の測定、CMRに関連して磁場依存性の測定等が系統的に行えるという有用性がある。また、入射X線に円偏光X線を用いると、磁性電子のみの運動量分布を反映したMCPが測定されるが、CMR物質においては、磁性と伝導を担う電子のみを選択したデータが得られることになる。

 本課題では、このような放射光を用いた利点を十分に生かし、ホール濃度依存性、磁場依存性、温度変化、プロファイルの異方性を測定し、分子軌道計算・バンド計算から求められる理論的プロファイルとの比較を行う。これはCMR効果を含めた磁性と伝導性との関係、CMRと軌道状態との関係を研究する上で、有効な実験手法となり得るものと期待される。また、コンプトン散乱測定を軌道研究という観点から捉え、軌道状態の直接的観測手法の確立を目指すという点にも意義・特色がある。


課題選定委員会での審査意見:

 CMR物質における磁性と導電性の相関に着目して、高分解能磁気コンプトンプロファイル測定を行うことは、CMR物質の基礎物性の理解はもとより工業的応用の観点からも興味が深く、特定利用研究課題としてこの種の材料に関する知見の早期の蓄積を計ることは妥当と考える。しかし研究実験の遂行に当たっては、軌道自由度とCMR特性との関係や、プロファイル自身に含まれる系の電子状態に関する情報等の取得、ならびに検出系の改善等による測定の効率化を視野に入れた綿密な実験計画の下に、マシンタイムの有効活用に十分配慮されたい。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794