Volume 06, No.1 Pages 9 - 20
2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
第7回(2001A期)利用研究課題の審査結果について
The Proposals Accepted for Beamtimes in the 7th Public Use Term 2001A
1.課題採択日程
(募集案内)
9月15日 課題公募についてプレス発表及びSPring-8ホームページに掲示(一般課題)
10月21日 一般課題募集締切
(郵送の場合、当日消印有効)
11月16、17日 分科会による課題審査
(特定利用課題)
10月5日 特定利用課題募集締切
10月10~16日 特定利用書類審査
10月23日 特定利用分科会による面接審査
(課題選定及び通知)
12月4日 利用研究課題選定委員会による課題選定
12月8日 機構として採択し、応募者に結果を通知
2.選定結果
今回の公募では502件の課題応募があり、前回の582件に比べ大幅に減少した。ここ数年、1年の前半の共同利用期間(A期)では応募が少なく、反対に後半(B期)では大幅に増加する傾向が続いていた。今回も同様の傾向となっているが、前年の2000Aの応募が424件であったことから考えると1年全体としては大幅な増加となった。502件の応募には成果専有利用の応募1件、特定利用への応募3件が含まれている。分野別、所属機関別、ビームライン別の応募数及び採択数を表に示す。
今回の採択結果は、件数では応募502に対し採択409(採択率82%)、シフト数では応募5,593に対し採択3,895(採択率70%)であった。また、採択された課題の平均シフト数は9.5であった。前回の選定審査から、選定された課題の要求シフト数と配分シフト数の比(シフト充足率)を出来るだけ大きくするような方針のもと選定が行われている。今回、平均のシフト充足率は87%であり、前回の71%より大きく増加した。一方、課題選定率も増加し、これは配分可能なシフト数(前回2,800シフトから今回4,600シフト)が増加したのに応募課題数が少なかったことがその原因と考えている。
選定課題数の多かったビームラインは、BL40B2(構造生物学2)の39件(1課題あたり4.4シフト)、BL01B1(XAFS)の34件(同6.7シフト)、及びBL02B2(粉末結晶構造解析)の33件(同7.2シフト)であった。これらのビームラインでは当然ながら1課題あたりの配分シフト数は少ない。ビームラインごとの選定率が低かったのはBL39XU(生体分析)の57%であり、以下BL46XU(R&D2)63%、BL20B2(医学イメージング1)68%と続く。シフト充足率は、前述のように今回の審査では全体に増加している。その中でもシフト充足率の低かったビームラインは、BL02B2(粉末結晶構造解析)61%、BL20B2の66%等である。
研究分野別の採択課題数は、散乱・回折、生命科学、分光、XAFS、実験技術方法の順であった。この順位は前回と同様である。また、採択課題の実験責任者の所属機関別では、国立大学が全体の半分以上を占めていることはこれまでの共同利用を通じて変わっていない。
前回の公募から開始した特定利用(通常課題の実施有効期限が6ヶ月であるのに対し、3年以内の長期にわたって計画的にSPring-8を利用することによって顕著な成果を期待できる利用)では、今回の公募で3件の応募があり、そのうちから1件が採択された。審査は外部の専門家を含む特定利用分科会での書類審査、及び面接審査の2段階で行われた。採択された課題については概要を後述する。
成果専有利用として1件の応募があった。この課題についてJAERI責任者による公共性・倫理性の審査と技術的実施可能性及び実験の安全性の審査が行われた。さらに要求シフト数が対象ビームラインのビームタイムの10%に収まっていたことから、この課題は採択された。
3.利用期間
第6回(2000B)共同利用期間では、臨時の措置として2001年第1サイクルを加えて実施された。これは、平成11年夏期停止期間中における大型工事のため装置調整にかかる時間を長く確保したことによってそのままでは年間の前期と後期の共同利用の利用時間に長短のアンバランスが通常以上に大きくなることを緩和するための措置であった。このため、今回募集した第7回(2001A)共同利用の利用期間は2001年第2サイクルから第6サイクルまで(平成13年2月から6月まで)となり、この間の放射光利用時間は297シフト(1シフトは8時間)となった。このうち共同利用に供されるビームタイムは共用ビームライン1本あたり238シフトとなる。
今回の第1サイクルの措置は、昨年の夏期運転休止期間の大型工事に伴う臨時の措置であったが、従来から指摘されている共同利用の前期と後期の利用時間の長短のアンバランスを解消する有効な措置として今後継続することを考えている。これらの情報は適宜、本誌やホームページでお知らせすることとなるが、応募の際には最新の情報も踏まえて申請されることをお願いする。
4.利用対象ビームライン及びシフト数
今回の募集で対象としたビームラインは、共用ビームライン20本(R&Dビームライン3本を含む)とその他のビームライン5本(原研ビームライン3本及び理研ビームライン2本)である。
今回、第7回共同利用期間のビームタイムは合計で99日297シフトであり、共用ビームライン1本あたりではビームラインの調整や緊急課題用などにJASRIが留保する20%を除く238シフトがユーザータイムとなる。ユーザーが利用可能なビームタイムは、これにR&Dビームラインの30%のビームタイム及び原研・理研から提供されるビームタイムを加えて合計約4,600シフトとなった。
今回の選定では、BL43IR(赤外物性)において実験装置の立ち上げ課題を優先して選定されたことや、生命科学分科における蛋白質結晶の出来具合のチェックや実験条件のチェックに使用する分科会留保シフトをこれまでのBL41XU(構造生物学1)に加えて今回はBL40B2(構造生物学2)でも設けたことなどから、共同利用期間に利用されるビームタイムは約3,900シフトとなった。
5.生命科学分野におけるビームタイムの留保
生命科学分野におけるSPring-8の利用では、特に実験試料の特殊性から、短い時間でもいいから試料の出来具合をチェック出来るような利用をしたい、試料が出来たときに緊急に利用したいと言った要望が強い。このような要望に応えるため、前回の課題採択では生命科学分科会でBL41XU(構造生物学1)のビームタイムを留保し、緊急課題に準じた取扱いで利用を行った。今回は、BL41XUに加えて新たにBL40B2(構造生物学2)でこの留保シフトの取扱いを開始することとした。留保シフトの供するビームタイムはそれぞれのビームラインで30シフトずつとした。この留保シフトの取扱いについては、前回同様緊急課題に準ずる扱いにすることとするとともに、各サイクルに均等に割り振り、申請を受け付けることとした。申請の際には実験の必要性がわかるようにしていただき、それを分科会において審査されることとなった。詳しくは、本誌23ページのお知らせを参照されたい。
6.特定利用課題の選定
2000B共同利用から開始したSPring-8特定利用については、今回は1件の課題が選定された。今回採択された課題は、平成13年2月から3年以内に実施していただくものである。今回選定された研究課題の概要を以下に示す。
課題名:高圧下における実験的精密構造物性研究手法の開発
実験責任者:高田昌樹
(名古屋大学大学院工学研究科)
利用するビームライン:BL10XU
概要:
近年のダイアモンドアンビルセルを用いた高圧技術の進歩により、10Gpa付近での電子輸送現象を初めとする物性研究が盛んに行われるようになった。高圧力下での物性研究の利点は、元素置換効果等とは異なり、系を変えることなく連続的な変化を追尾することができることにある。その具体例としては酸化物超伝導体の超伝導転移温度が加圧によって変化することであろう。また、近年ではマンガン酸化物の圧力誘起絶縁対金属転移も報告されており、軌道整列との関連が議論されている。このような物性と関連して構造を理解する構造物性の研究では、電子密度レベルで構造を明らかにする精密な構造解析が望ましい。しかしながら現状では非常に大きな実験的制約があり、高圧下での精密な構造を解明する研究が活発に行われているとは言い難い。
本研究の目的はダイアモンドアンビルセルを使用したときに生じる全ての困難を克服し、高圧下での精密構造物性研究法をSPring-8において実現することである。
研究の第一段階の目標として、10Gpa以下の圧力範囲における精密構造物性の研究法の確立を図る。その上で超伝導転移温度の圧力依存性が全く逆のTl系およびCa系の電子レベルでの構造を求めCuO2面の電子構造の圧力変化が実際に異なっているのかなどの課題を構造的に解明する。
第2段階として、10Gpa以上における精密構造物性の研究法の開発を行う。この圧力領域ではダイアモンドアンビルセルは用いることが出来ないことから、圧媒体にHeを用いて静水圧性を克服する。また、試料作成法を精査に行い、粒径のそろった試料を用いて強度不均一性を克服する。これらの試みを、単純金属Cs、Rbについて100Gpaに至るまでの構造転移の実験的観測で確認する。
SPring-8利用研究課題