Volume 05, No.3 Pages 181 - 183
2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
利用にあたって
Advice for Users
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門長 JASRI Experimental Facilities Promotion Division
SPring-8が1997年10月に供用を開始してから、もうすぐ2年半が過ぎようとしている。共同利用の中に利用研究課題の有効期間が最長3年の特定利用制度をもうけることがきまり、供用期間2000Bから開始されようとしている。また、利用研究課題の有効期間を6ヶ月から1年にするかどうかについてもいろいろな面から議論が行われている。これらについては、利用研究課題選定委員会の主査から説明や報告がおこなわれることとなっている。
供用期間2000Aがもうすぐ終了するにあたり、共同利用の現状など、施設側でうけとめてきたいろいろな問題などを以下に紹介しよう。
情報不足
SPring-8の情報が不足しているとの発言があるが、現実にはホームページにかなりの情報が掲載されている。考えられる第一の理由は、共同利用を運用・支援している(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)の立場が、その組織を含んでかなり理解しがたいことであろう。SPring-8を考える際に、原研および理研が建設を行ったのであるが、JASRIの役割は外部の方にとっては分かりづらいことは施設者側のメンバーとしても想像できる。第二は、放射光利用研究者がSPring-8のことを考えるにあたり、フォトンファクトリーをベースとして考えるために起こっている。JASRIの委員会でも、外部委員の方から“PFでは…”の発言がかなり日常的に耳にはいる。第三は、20年位前の初期の放射光利用では、フラックスが格段に多いこととエネルギー範囲が自由に選べることが特徴であったことに比べると、第三世代放射光の性質が第二世代のそれとはかなり異なっていることが理解されていないことからきている。ビームのエミッタンスといったことなどへの理解が足りないのではないか。エネルギーが8GeVであるから、単純にフラックスが飛躍的に増加していると誤解されている向きも少なくない。いずれにしても、放射光利用が一般的になっているのは喜ばしい限りではあるが、その取り組み方には当初のようなある種の期待と切迫感が失われているように感じる。第四は、月並みではあるが、情報を読みとるための放射光に関する基本的な理解が十分でないのではないか。施設者側にとっても情報の開示と広報活動はいろいろな難しさがあることは承知しているが、今後もっと積極的に活動していく方針である。
利用開始までの手続きなど
SPring-8で利用者が利用開始までに行わなければならない手続きは「SPring-8ユーザーガイド」に紹介されているとおりである。ユーザー登録などは自明のこととしても、各種の承諾書や申請書など手続きが所定の期間内に行われないことが日常的に発生しているのは残念である。
また、ビームラインや実験ステーションを熟知している利用者にとっては必要のないことであろうが、実験開始までにビームライン担当者に何らの問い合わせを行わない、もしくはビームラインハンドブックをチェックしないで実験にのぞみ、極端な場合には実験を実行することができなかったことがあるとも聞いている。ビームラインの仕様やステーション機器については基本的な情報はビームラインハンドブックに記載されているが、詳細については問い合わせされることをお願いしたい。
施設者側からは、利用実験を円滑に間違いなく行うためには、実験の前日までには来所されることを推奨したい。ビームラインや実験ステーションの状況を事前に前の利用者に聞くなどし、十分な実験計画をたてた上で放射光実験を行っていただきたい。利用者間でビームライン情報を引き継いでいくことは大変重要である。さらに、自前の測定装置をお持ちでない利用者もおられると聞く。SPring-8にも「オフライン」の装置が整備されつつあるので問い合わせをお願いしたい。最後に、自分の実験開始までに来所されなかった利用者もあると聞く。このような利用者に対して何らかのペナルティーを考えざるをえないのではと思う。
機器の損傷
実験には注意を払っても機器を壊すことがある。ビームライン担当者が想像できないことをされて機器に損傷を与えた場合があると聞く。このような場合、利用者はあらかじめビームライン担当者と相談するとかしていただきたい。万が一損傷が発生したときは速やかにビームライン担当者に報告していただきたい。このために次の利用者が2日間もビームタイムをロスしてしまったこともある。
利用報告
成果非専有課題については利用報告書を60日以内に報告していただくことになっている。ほとんどの利用者はこの締め切りを守られているが、一部の方は所定の期限以内に提出しない。このような遅れは、業務に無用の無駄を生むので厳守願いたい。また、実験結果をビームライン担当者に何ら報告しない利用者が大変多いようである。利用者が次回利用する際に、前回の結果をビームライン担当者が知っていることは重要であるし、利用研究課題選定に際しての「技術審査」にも資することは疑いもないのでお願いしたい。
以上はいままでの共同利用の際に起こってきた問題の内で気がついた問題を述べさせていただいた。後半は、SPring-8施設者として今後の取り組み方について述べよう。
研修会と講習会
初心者講習会は放射光の利用者を増やすために重要である。このような啓蒙活動は継続的に行われなければならない。とくに、アメリカやヨーロッパに比べると、日本では産業界の研究者・技術者による放射光利用が少ないとしばしばいわれる。JASRIでは産業利用を担当する「コーディネータ」および支援技術者をおいて産業界でのニーズを探り、積極的に対処することとなっている。また、放射光による実習付きの初心者研修会(JASRIでの講習会と研修会の定義は、研修会は実習付きである)も計画されている。
放射光利用の経験がない初心者への対応に加えて、中級者研修会も計画している。これは、1回の研修会あたり少数の利用者を対象として、立ち上げが終了しているビームライン/実験ステーションについて実習を行う。この研修を通して利用実験をビームライン担当者がいなくても円滑に行えるようになると考えている。
長期滞在(特定利用など)型の共同利用
SPring-8では利用実験の滞在期間を長く取り、実験をくり返すことによって次の実験にフィードバックし、より良いデータを持ち帰るようにすることが肝要であると考えてきた。しかしながら、SPring-8共同利用開始の当初は、“まず、できるだけ多くの研究者に使っていただいて、第三世代の放射光を理解していただこう”という考え方があって、利用研究課題の選定に際して、課題の採択率が高いままに現在まで推移している。採択率が高いということは、各課題あたりの実験シフト数が少ないことになるので、施設者側の上記の考え方が実現されてきたとは言い難い。今後、基盤的な研究成果に加えて、SPring-8ならではの研究成果が求められるようになるので長期滞在型利用は重要である。特定利用ではない課題に対しても、課題あたりの実験シフト数の増加が求められる。
課題選定の考え方
現時点では、課題の実行にあたって、ビームラインごとに異なった運用を行ってきてはいない。しかしながら、研究分野やビームラインによっては異なった運用を行った方が研究成果をあげることができる場合がある。サイクルごとにビームラインごとに運用に柔軟さを持たせることも企画していきたいと考えている。たとえば、サイクルの始めと終わりに3シフト位ずつ、テスト実験(試料、結晶、実験条件など)の期間を設定しておき、このテスト期間には緊急課題としてかなり直前に申請を受け付けることなどはいかがであろうか。また、シフトを「先端的な課題」(課題あたりのシフト数大)と「基盤的な課題」の分けて課題を採択することなども考えたい。
利用研究課題選定委員会において、課題選定の基本方針および運用の問題も併せて議論していきたいと考えている。
ここでは、施設者側の責任者として問題を報告し、取り組みなどをお願いした。SPring-8利用者懇談会では、SPring-8が加速器とビームラインの建設期が終了している状況から、利用研究ごとのサブグループを意識して再編成を計画していると聞く。施設者のもっている問題意識や今後の改善などについて、SPring-8利用者のご意見を忌憚なくうかがえたら幸いである。
植木 龍夫 UEKI Tatsuo
(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門
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