Volume 05, No.2 Pages 112 - 113
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第13回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムの報告(その1)
Report of the Joint Symposium on the 13th Annual Meeting of Japan Synchrotron Radiation Society and Synchrotron Radiation Science (Part-1)
昨年と同じ1月7日(金)から9日(日)にかけて、表題のシンポジウムが岡崎コンファレンスセンターで開催された。例年どおりならば出勤日となる会期翌日の10日月曜日が、今年はハッピーマンデー法による初の祝日(成人の日)となり、遠隔地からの参加者にとってもゆとりを持って臨める会合となった。会場も、これまでの竜美ヶ丘会館から分子科学研究所に隣接するコンファレンスセンターに移り、若干ではあるが利便性も向上したように感じる。肌寒い日和ではあったが、入り口脇のロビースペースでは暖を取りながらゆっくりと歓談したりインターネットでメールの確認をしたりもでき、終始落ち着いた気持ちで過ごせた。これもひとえに実行委員会や分子科学研究所の方々を始めとする関係者の御尽力によるものとこの場を借りて感謝申し上げる。
放射光Societyが研究内容ではなく実験手段で集まった研究者集団であることは旧来から言われている。その広がりを把握するのは既に筆者の能力を超えていたが、SPring-8の本格稼働に伴って医学や産業利用も大きなシェアを占め始め、もはや全体像をお伝えするのは不可能である。本報告では、筆者の印象に残った雑感を述べることにする。
初日は例年どおり各施設の利用者懇談会総会で静かに始まった。数年前まで学生であった筆者にとっては初めての総会出席となった。「ほとんど同じメンバーなのだからわざわざ会場を変えながら行う必要はないのでは」と思っていたが、存外議論は長引くものである。仕切りなおして会議を進めるためのプログラム編成であったと分かった。現状を将来展望にどう結び付けていくかという点で、各施設とも固有の問題を抱えていることが対比的であった。特にSPring-8、PF総会では両施設の棲み分け/共存が如何にあるべきかが共通の議題になった。世代間で両施設の利用の仕方に明確な温度差があるとする意見には少なからず賛同する面々もいたようであるが、いずれにせよ、施設側は如何に特色を出していくか(そしてユーザー側は如何なる研究をするか)という根本的な議論を深める必要があることでその場は決着をみたようである。SPring-8総会では二つの新サブグループ(SG)、「コヒーレント軟X線」と「脳機能研究会」が紹介され、それぞれのグループリーダーから簡単な研究展望の説明があった(詳細は本誌に掲載)。どちらのSGともSPring-8ならではの特色を活かした内容であり、上述の問題に一石を投じるものといえる。これに先立ち、逆に活動していないSGの解消や統廃合を近いうちに行う可能性も議題に登った。多くの利用者が恩恵を受けている旅費の支給は各SGを通して行っていることは周知であるが、数年の内にはこの財源確保も問題になるであろうことは容易に想像され、それまでに組織の柔軟性を持たせる必要があるというのも発端である。また、半期毎のマシンタイム申請の在り方も議論され、PFでいうS型のような課題採択も検討されていると報告された。建設フェーズから利用フェーズへと重心が移るにつれ、ユーザーからの声も多岐に渡ったものとなっている。
研究発表は、2つの特別講演、4つの企画講演、12件の施設報告、65件の口頭発表、205件のポスター発表、それに企業展示も44件と大盛況であった。特別講演は、大会場に用意してあった椅子だけでは足りず、後ろに簡易椅子を足してもまだ立ち見が出るほどの人気であった。ウイットに富んだ茅先生の分子集合体に関する研究紹介とヒ素事件の核心に迫る中井先生の発表は、終始聴講者を引き付け、ポスター討論で疲れた参加者を楽しませて下さった。それぞれに魅力的なタイトルを冠した企画講演は初日と最終日に2つずつ行われた。時間の都合上、筆者は企画1しか聴講できなかったが、昨年の村上先生の特別講演の続編である「軌道秩序」に関する話題の広がりと固体物理への有用性を感じた。ポスター発表に関しては、会場が狭かったとの声が多かった。先に参加がはっきりしている企業展示に十分なスペースを確保してしまったせいであろうか、対面的に廊下に配置されたポスターは一方を見ようとするともう一方の邪魔になってしまい、議論を妨げる格好になってしまっていた。しかし、205件という多数の参加は喜ぶべきことであり、この件数をさばくのに実行委員の方々も少ないスペースを有効に使おうと苦心されたものと拝察する。筆者の関係する分野に限って言えば、SPring-8を利用した研究はますます独自色をはっきりさせる必要を感じた。PFだけでなくHiSORもいよいよ稼働されるとなると、なぜSPring-8を使うのかが明確でないと、ただ何となく取ったデータばかりになってしまいそうである。これはまだ潜在的ユーザーである筆者自身の自戒でもあるが。
最後に本報告を書くことになった経緯について一言。SPring-8総会で「原稿依頼は快く引き受けて下さいますよう」と言われていた編集幹事の圓山先生から二度目の執筆依頼を受け、「まぁ報告ぐらい」と軽い気持ちで引き受けてしまったが、バックナンバーを見返して愕然。筆者のような浅学が預かる文面でないと恐れ多くなってしまった。遠ざかる記憶を呼び戻しながらも、せめて客観的な雰囲気だけでもお伝えできたなら幸甚に存じます。
中島 伸夫 NAKAJIMA Nobuo
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