Volume 05, No.2 Pages 104 - 107
3. 原研・理研・R&Dビームライン/JAERI・RIKEN・R&D BEAMLINES
R&DビームラインIIIの概要
R&D Beamline III
[1](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン部門 JASRI Beamline Division、[2](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Division、[3]理化学研究所・播磨研究所 RIKEN Harima Institute
1.はじめに
SPring-8では、今までに2本のX線アンジュレータビームラインがR&Dビームラインとして整備されてきた。1本は、BL47XUであり、これはSPring-8で最初に立ち上がったビームラインの内の1本である。BL47XUは平成8年度に利用系メンバーが、測量、アラインメント、遮蔽性能試験、光学調整等をすべて内部スタッフのみで行い、その後のビームライン組み上げ発注仕様書作成の基礎を作った記念すべきビームラインであり、供用開始後には光学素子、イメージングのR&Dが行われている。2本目は、当初短周期アンジュレータ開発の目的で整備されたBL46XUであり、標準真空封止型アンジュレータの2/3の24mm周期のアンジュレータが設置され、主として高エネルギーX線利用R&Dに利用される。これを推進するために、平成10〜11年度に、新たに実験ハッチの建設を行い、高エネルギーX線利用のための多目的多軸回折計を整備している。
平成10年度の、偏向電磁石X線ビームライン(共用ビームライン)の整備に伴い、その有用性がますます認識されるとともに、偏向電磁石ビームラインでの各種R&Dの必要性が認識されるに至った。そこで、3本目のR&Dビームラインとして、BL38B1を整備することとなった。このビームラインでは、偏向電磁石ビームラインに関わる技術的R&Dを進めるばかりではなく、利用効率の向上に係るR&Dなどの利用ソフトウェアのR&Dも行われる。このためのターゲットとして、まずは現在利用者が急激に増大しつつある構造生物学分野のステーション機器を整備し、その利用効率の増大方法に関するR&D を進める。
しかしながら、本ビームラインはあくまで偏向電磁石ビームラインに関わる諸問題に対処するために設置されるものであるため、可能な限りのフレキシビリティを確保することが設計上の課題であった。これは本稿に示したように、少なくとも単色X線を用いる限りに於ては実現され、従って、様々な「新しい」実験ステーション機器のテストの場としても利用することが出来よう。本稿では、ビームラインの概要を紹介するとともに、当面のターゲットである構造生物学用実験ステーション機器の概要も紹介する。
2.ビームラインの概要
R&DビームラインⅢは標準的な偏向電磁石ビームラインであり、個々の要素に関する基本的な考え方は既に文献[1、2]に示した通りであるのでフロントエンド、制御・インターロックについてはそちらを参照されたい。ここでは、遮蔽ハッチおよび光学系・輸送チャンネルを中心に概要を述べる。
表1に遮蔽ハッチの仕様を示す。ハッチ内寸とはハッチパネル内面からの距離を示し、補助遮蔽体、アングル材などの突起物は含まない。BL38B1の遮蔽ハッチは隣り合うBL38B2と一体化し設計、施工された。BL38B1光学ハッチと実験ハッチを分離型とし、その間からBL38B2光学ハッチへのアクセスが可能である。これは前回報告したBL40XU、BL40B2遮蔽ハッチ建設と同様に狭いスペースを有効に活用した結果である。
表1 BL38B1の遮蔽ハッチ仕様
ハッチ外形を含む全体構成は図1に示す通りである。光学ハッチ内は標準的な偏向電磁石ビームラインの構成であり、BL40B2に類似した光学系を採用しているが、主な相違点は垂直偏向ミラーの視射角がおよそ2〜5mradの範囲で選択可能であることである。BL38B2との関係で約8m分離された光学ハッチと実験ハッチの間は、通常よりひとまわり口径の大きなICF203規格のシールド真空パイプによって接続され、真空パイプを動かすこと無しに、ミラーを退避させた場合のストレート光から視射角5mrad(偏向角10mrad)の反射光まで通すことを可能にしている。ただし、実験ハッチ内の放射光取り出しのためのベリリウム窓については、ビームの縦方向の動きに対して縦長の大口径の窓にするか、ベローズ等を用いて標準のベリリウム窓を縦方向に動かすか検討の余地が残されている。
図1 BL38B1の光学系・輸送チャンネル
ミラーの仕様については表2に示す通りである。現状ではサジタル曲率半径70mmのミラーを準備しており、視射角に応じて実験ハッチ内における焦点位置を変えることができる。図2は焦点位置を与えた場合の視射角および湾曲による子午線方向の曲率半径の関係を示したものである。視射角3〜4mradの範囲において実験ハッチ内の上流から下流に至るほぼ全域に焦点を合わせることが原理的に可能である。Rhコーティングの場合、その表面粗さ、表面状態にも依存するがカットオフエネルギーは視射角3mradの場合で約22keV、4mradの場合で約17keVとなり、実用上これより低エネルギー領域の利用が可能になる。これより高エネルギー領域はミラーを退避して利用することになる。なお、このビームラインで利用可能な水平取り込み角は1.5mradであるが、シリンドリカルミラーを用いた場合には、有限のミラーサイズのために水平、垂直方向ともにアクセプタンスが制限される。簡単な見積もりにより水平方向のアクセプタンスは0.7〜0.8mradになる。
表2 ミラーの仕様
図2 シリンドリカルベントミラーの焦点位置と対応する視射角、子午線方向の曲率半径の関係。
本ビームラインにおいては、後述する実験ステーション機器関係のR&Dに加え、ミラーの集光特性を評価したり、ミラーを退避させ結晶分光器におけるサジタル集光の評価を行うなど光学系評価に関しても多様なR&Dが可能となるものと考えている。
3.実験ステーション機器
実験ハッチでは、XAFS測定と蛋白質結晶の単色X線回折測定を行うことができるようになる。ハッチ内の機器についてはなるべく既設のビームラインとの共通化を図り、XAFS測定に関してはBL01B1を、回折測定に関してはBL40B2およびBL44B2を参考にしている。ハッチ内にはBL44B2と同じ設計の定盤(Huber社製)を設置する。この定盤は2軸の並進機構と2軸の回転機構を持ち、上下ストロークはミラーの視射角変更に伴う反射光の上下移動に追従することが可能である。その上に光学レール(シグマ光機社製)を固定する。また、この定盤より上流側には十分なスペースがあり、回折計等の比較的大きな装置を持ち込むことも可能である。通常は、上下機構のみの定盤(SPring-8周辺技術グループ製作)を持ち込むことになる。高次光除去が不十分な場合には、この定盤上にミラーとゴニオメータ(神津精機社製)を設置して高次光除去を行う。
XAFS測定では、定盤のレール上にシグマ光機社製の自動4象限スリット、試料位置調整用の自動XZステージ、応用光研社製のイオンチャンバーが設置され、透過法測定を行うことができる。イオンチャンバーは6.5cm長、17cm長、31cm長の3種類を用意し、ガスはHe,N2,Ar,Krの4種類を用意し、必要に応じて混合器を用いて成分比を調整したガスを用いることを可能とする。蛍光法測定では、Lytle検出器(EXAFS社製)やBL01B1と共用で使用する単素子高純度Ge検出器(Ortec社製)を設置することが可能である。また、BL44B2が所有している19素子Ge半導体検出器(Ortec社製)についても、装置が空いていれば、借用して使用することが可能である。
電子収量法測定では、BL01B1と共用で測定セルを使用することが可能である。試料温度はHeガスによる熱伝導方式のクライオスタット(Oxford社製)により、3.8Kまでの冷却が可能である。測定系の制御は、BL01B1で使われているものと同じプログラムで、ナショナルインスツルメンツ社のLabVIEWで制作したものを用意している。このプログラムにより、定盤、自動4象限スリット、自動XZステージの制御から、XAFS測定まで行うことが可能である。
蛋白質結晶のX線回折測定では定盤のレール上にリガク社製のシャッタ、コリメータ、ダイレクトビームストッパ、ゴニオメータが設置される。ゴニオメータの回転軸は水平方向であり、偏向電磁石ビームラインの水平方向の偏光成分を持つビームにおいて、垂直方向に強く出る回折光を効率よく収集できるようにしている。これらの制御は全てリガク社の用意するソフトウェアにより制御することが可能である。検出器はレールとは別の架台上に設置され、光軸方向および光軸に垂直な方向に検出器を移動させることが可能である。検出器はCCDとして。Area Detector Systems Corp. 社製のQuantum-4Rを用意している(表3)。また、必要に応じBL40B2などで使われているイメージングプレート、R-Axis IV(リガク社製)を用いることも可能である。クライオスタットには、BL40B2などで使われているリガク製の冷却窒素ガス吹き付け装置(空気中の窒素ガスを抽出して冷却する方式のもの)を用いる。また、実験ハッチ内にエアコンを設置し、湿度をコントロールする。吸収端測定にはペルチェ冷却方式を用いたシリコンPINフォトダイオード、Amptek社製のXR-100CRを用意している。ビームラインにはDEC社製のAlphaワークステーションとSGI社製のO2ワークステーションを用意しており、その場でのデータ処理も可能としている。
表3 CCD Quantum-4R(Area Detector Systems Corp.社製)の仕様
4.おわりに
ここでは、偏向電磁石X線R&Dビームライン(R&DビームラインⅢ)に関して、ビームライン及び実験ステーション機器の概要を紹介した。本ビームラインは、平成12年5月末のハードウェア完成、秋からの運用開始を目途に建設が進められている。
謝辞
本ビームラインの製作には、JASRI利用系の大勢のメンバーが関わっており、本稿の著者達は共同作業の結果をとりまとめたものである。また実験ステーション機器に関しては、理研ビームラインⅡの建設の経験が大幅に活かされており、いろいろと御教示いただいた足立伸一博士をはじめとする関係者に深く感謝する。
参考文献
[1]後藤俊治他:SPring-8利用者情報Vol.4,No.3(1999)53〜64.
[2]後藤俊治他:SPring-8利用者情報Vol.4,No.4(1999)7〜15.
後藤 俊治 GOTO Shunji
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0831 FAX:0791-58-0830
e-mail:sgoto@spring8.or.jp
竹下 邦和 TAKESHITA Kunikazu
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-1847 FAX:0791-58-0830
e-mail:ktake@spring8.or.jp
谷田 肇 TANIDA Hajime
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-1833 FAX:0791-58-2752
e-mail:tanida@spring8.or.jp
石川 哲也 ISHIKAWA Tetsuya
理化学研究所・播磨研究所 X線干渉光学研究室
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2805 FAX:0791-58-2807
e-mail:ishikawa@spring8.or.jp