Volume 05, No.2 Pages 82 - 83
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
SPring-8の特定利用制度について
On the SPring-8 Long Term Use
(財)高輝度光科学研究センター SPring-8利用研究課題選定委員会 主査、京都教育大学 教育学部 Department of Physics, Kyoto University of Education
はじめに
SPring-8の供用開始から2年を経て、共同利用実験は順調に行われています。これまで延べ5000人を越える利用者によって、800件以上の共同利用研究課題が実施されていて、成果も生み出されつつあります。
しかしこれまでの共同利用は、6ヶ月ごとの課題審査、6ヶ月以内の実験実施という形態をとってきたために、実験の早期遂行ははかることができましたが、長期的な展望に立ったプロジェクト型の研究を行うための制度としては機能しにくい面がありました。このため、以前から課題選定委員会の中では、新しい共同利用のカテゴリーを設ける必要性が議論されてきました。また、ユーザーの方々からもこのような制度の新設を望む声がありました。
そこで、今期の委員会の新しい課題として、このような長期型の研究にふさわしい制度の新設を議論してきました。具体的には昨年10月に、諮問委員会の決定に従って「特定利用制度特別検討部会」が設置され、委員長の佐々木先生の指名で私が座長となり、課題選定委員会分科会の主査と諮問委員会から若干名、それに所長・副所長をはじめとする施設者からの代表で構成するメンバーで、2月までに都合4回の会合を開いて検討してきました。このことは、利用者情報の1月号の第5回課題選定委員会の報告の中でも簡単に報告したものです。このたびこの制度についての成案を得て、諮問委員会に報告することができましたので、この紙面を借りて報告いたします。
特定利用制度の趣旨
この制度は、SPring-8における共同利用のうち、計画的にかつ効率的にSPring-8を利用することにより顕著な成果が期待できる研究課題に対して、長期にわたってSPring-8のビームタイムを確保するものです。この制度の導入によって、SPring-8の特徴を生かし、科学技術分野において傑出した成果を生みだす研究、新しい研究領域及び研究手法の開拓となる研究、産業基盤技術を著しく向上させる研究などの一層の展開を図ることをめざしています。
制度新設の必要性
冒頭に述べたように、供用開始から2年の間に多くの研究が順調に実施され、成果も生み出されていますが、2年余りの実績に加えて、共用ビームラインの増加や利用状況を踏まえて、長期的、計画的な展開によって一層顕著な成果が期待できる新たな制度の導入が必要であることが認識されてきました。
特定利用制度の内容
この制度の性格から、これまでの課題選定制度にはなかった新しい内容を含ませることとしました。
a.分野の推奨
課題選定委員会は、SPring-8の特徴を生かした研究への応募を奨励する目的で、特定の分野を推奨することができるものとしました。ここで推奨する研究分野はSPring-8の整備状況、施設の特徴を考えながら、委員会の中に「特定利用分科会」という新しい分科会を設置して検討し、正式には課題選定委員会で決定することにしています。
ただしこの分野の推奨は、この制度への応募分野を制限するものではありません。また、課題選定委員会における審査は、推奨された分野に関わらず、b.に述べる特定課題選定の審査基準と同一の基準で審査することにしています。
b.利用研究課題選定における審査基準
この制度における利用研究課題(以下、特定課題とする)の審査は、これまでの6ヶ月を有効期限とする共同利用の選定基準に加えて、
1)長期の研究目標、研究計画が明確に定められていること
2)SPring-8を長期的、計画的に利用することによって、
①科学技術分野において傑出した成果が期待できる、
②新しい研究領域及び研究手法の開拓が期待できること、
③産業基盤技術の著しい向上が期待できること、
を考慮して行われます。
c.選定作業
(1)選定作業を行う委員会
特定課題の選定は、利用研究課題選定委員会で行います。特定課題は、公募により提案されるものとし、提案された課題の審査は、特定利用分科会で行うものとします。
(2)特定利用分科会の構成
諮問委員会委員等の学識経験者、課題選定委員会の特定利用分科会以外の分科会の主査、施設者側の専門家から構成され、合計15名程度とすることにしました。
(3)課題審査
申請された課題については、まず分科会で書類による1次審査をおこないます。その後ヒアリングによる2次審査で候補課題を選定することにしました。審査には、必要に応じて特定利用分科会委員以外の外部の専門家を加えるものとします。これらの外部の専門家は特定利用分科会で選びます。課題選定委員会は分科会の審査結果等を審議して、結果を機構及び諮問委員会に報告することは、これまで通りです。
e.利用期間
最長3年とします。
f.ビームタイムの配分
特定利用における配分ビームタイムは、ビームラインごとに共同利用に供されるビームタイム枠の10~20%程度を目安とすることにしました。しかし、研究によってはこれを超えるビームタイムを必要とする場合もあると考えられますので、その場合には、一般共同利用を過度に圧迫しない範囲でビームタイムの配分することができるものとしました。
g.中間(事後)評価
実施された課題については適当な時期に中間評価を行います。中間評価では、実施状況の把握と次年度以降の課題の継続、中止を決定することにしました。また、必要に応じて、改善の助言も行います。中間評価は、書類審査とヒアリングによって行います。また、評価においては、外部の専門家の意見を聴くことができるものとしました。また、計画終了後に事後評価を行うことにしました。なお、評価制度については引き続き検討することにしています。
h.成果の取り扱い
成果は公開されるものとし、毎年、公開の場で成果及び経過を報告するものとします。公開の場は、SPring-8シンポジウムが最適でしょう。
なお、この制度をいつからスタートさせるかについては、施設の状況を勘案して決めることになりますが、当初目標にしていたのは、2000B期からのスタートでした。その場合には、一般の課題募集に先立ってこの制度に基づく研究課題の募集をしなければならないことから、分科会の設置、申請書の作成、広報などの準備を急いで行わなければなりません。まだまだ忙しい作業が当分のあいだ続きます。この制度の新設が意義をもつかどうかは、審査基準にうたわれた質の高い研究の応募があるかどうかにかかっていることは言うまでもありません。世界最高性能を誇るSPring-8の放射光を使って、新しい成果を生みだす意欲ある研究の提案が数多くなされることを期待しています。
村田 隆紀 MURATA Takatoshi
京都教育大学 物理学教室
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