Volume 05, No.1 Pages 42 - 43
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
「SPring-8磁性研究ワークショップ」報告
Report of SPring-8 Workshop on Magnetism
「SPring-8磁性研究ワークショップ」は第3回SPring-8シンポジウムのサテライトワークショップとして、前日の10月13日(水)、SPring-8の中央管理棟1階の講堂で開催された。当日は、ユーザービームタイム(第9サイクル)の最終日であるにもかかわらず、記帳していただいた方の人数が計53名と、予想以上の参加者数であった。講演内容は磁性に関係する応用実験研究、実験技術さらに理論研究と充実しているものであった。各講演について活発な議論がなされたことはもちろんのこと、今サイクルに得られた最新データが発表されたり、当日飛び込みの講演申し込みがあったり、講演者の中には実験を自動測定にして講演したりで、活気とダイナミックさを感じたワークショップであった。
SPring-8シンポジウムでは施設及びビームラインに関連した報告・討論が主題であるため、本ワークショップはそれの内容を補完するかたちで、現在SPring-8で展開している研究の成果や近い将来展開される磁性関連の研究テーマに関して発表と討論を行い、ビームライン(あるいは実験手法)の壁を越えて研究者相互の風通しをよくすることを主旨として開催された。さらに、理論と実験の両分野の連携を促すことを考慮して、磁性に関係する理論研究についての発表も行われた。
実験手法に関して、MCD、磁気ブラッグ散乱、共鳴磁気散乱、磁気コンプトン散乱、共鳴発光分光、光電子分光、X線吸収分光についての報告があり、そのうち、4件はX線磁気ブラッグ散乱と磁気コンプトン散乱、光電子分光とMCD、光吸収とMCDのように、異なる実験手法を組み合わせた報告であった。また、理論研究としてはMCD、X線吸収・発光分光、光電子分光、磁気コンプトンの実験結果と比較して理論的考察を行った報告の他、金属超格子の磁気構造、物質創製の発表があった。実験技術に関する内容としては、ダイヤモンドを用いた移相子の開発・応用、磁気コンプトン散乱強度の改善、高分解能コンプトン・スペクトロメータの開発、10Tや15Tの強磁場下の磁気吸収、磁気散乱実験装置の開発が報告された。
磁性研究が第3世代放射光の先端的特徴を活かした研究分野の一つであり、世界的に見て実験技術の革新と応用研究分野の拡大が急速に進んでいる。このような状況下で、SPring-8においても磁性研究に関係するビームラインのラインナップも充実しつつある。計画中、建設中のビームラインもあるが、BL08W、BL25SU、BL39XUなどのビームラインは「建設・立上モード」から「ユーザーモード」に移行しつつある、あるいは移行を完了している。「ユーザーモード」におけるサブグループ及び世話人の役割が議論されているが、そのひとつの可能性として、例えば「磁性」をテーマとして各サブブループが世話人を中心に協力し、サブグループに属さない研究者にも声を掛けながら、各ビームライン間、実験と理論の間、実験技術と応用研究の間、そして研究者間の交流を意識的に進める核として機能することではないかと思う。
「SPring-8磁性研究ワークショップ」は(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)とSPring-8利用者懇談会の共催で開かれた。具体的にはコンプトンSG(世話人:坂井信彦氏)、磁気散乱・吸収SG(圓山裕氏)、固体電子物性SG(菅 滋正氏)、非弾性散乱SG(田中良和氏)、理論SG(馬越健次氏、小谷章雄氏)の世話人の先生方と原研の水木純一郎氏とJASRI、櫻井吉晴で、各SGから推薦していただいた講演リストをもとにプログラムを作成した。紙面の関係上、全ての講演に対して適切な要約を書くことができないが、ワークショップの概略をつかんで頂くためにプログラム(講演題目と講演者)を以下に示した。
最後に、近い将来SPring-8において、物性研究の目的に応じたサブグループ横断的な研究グループが幾つも組織され、物性研究のCOE拠点の一つとして研究活動がますます活性化されることを期待したい。
(追記)本ワークショップでは各講演のアブストラクト集を作成しましたので、各講演の内容について詳しく知りたい方にはご要望によりアブストラクト集をお送りいたしますので、下記までご連絡ください。
(財)高輝度光科学研究センター
利用業務部 佐久間明美
TEL:0791-58-0970 FAX:0791-58-0975
e-mail:sakuma@spring8.or.jp
「SPring-8磁性研究ワークショップ」プログラム
「はじめに」 水木純一郎(原研)
「SmFe2 のX線磁気ブラッグ散乱とX線磁気コンプトン散乱」 宮川 勇人(東大、生研)
「X線共鳴発光分光による希土類鉄ガーネットの電子状態」 河村 直己(理研)
「Gd/Fe多層膜のXMCDによる元素別磁場ヒステリシス測定」 小泉 昭久(姫工大)
「希土類化合物のL端吸収及び発光と磁気円2色性」 福井 啓二(岡山大院)
「Spin and Orbital Magnetic Moments in Superlattices of Transition Metals」 城 健男(広大)
「Electronic Structure and Bonding Mechanism using Full-potential Calculations」 Aniruddha Deb (JASRI)
「ホイスラー合金Co2 TiSnの光電子分光と磁気円二色性」 新井 龍志(阪大院)
「YCo5- x Bx のCo2p内殻光吸収の磁気円二色性」 新井 龍志(阪大院)
「DO3 型規則合金(Fe1- x TMx)3AlのTM L2,3 吸収端MCD」 曽田 一雄(名大)
「Pd-Fe合金の光電子分光とMCD」 室 隆桂之(JASRI)
「La2 -2xSr1+2xMn2 O7(x=0.42)の軌道配列」 小泉 昭久(姫工大)
「Materials Design and Fabrication of Ferromagnet with Transition-Meatl
Atom doped in the Wide Band-gap Semiconductor ZnO and GaN」 佐藤 和則(阪大、産研)
「強相関絶縁系の光電子スペクトルにおけるインコヒーレント成分の支配」 富田 憲一(物構研)
「PEEMによる磁性体のミクロ領域の分光」 菅 滋正(阪大)
「X線移相子を用いた偏光状態の制御と応用」 鈴木 基寛(JASRI)
「アンジュレータ光と移相子を用いた単色X線磁気回折法」 荒川 悦雄(東学大)
「90°コンプトン散乱法による磁気散乱強度の改善と運動量分解能」 坂井 信彦(姫工大)
「15テスラ超伝導磁石によるX線磁気散乱実験計画の概要」 中村 哲也(理研)
「高磁場下のXMCD」 圓山 裕(岡山大)
「Cauchois型高分解能コンプトン・スペクトロメータ」 櫻井 吉晴(JASRI)
「反強磁性NiOの共鳴磁気散乱スペクトル」 並河 一道(東学大)
櫻井 吉晴 SAKURAI Yoshiharu
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 実験部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2723 FAX:0791-58-0830
e-mail:sakurai@spring8.or.jp