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Volume 05, No.1 Pages 37 -38

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第3回SPring-8シンポジウムに参加して(その1)
Report of the 3rd SPring-8 Symposium (Part-1)

小柴 俊 KOSHIBA Shun

香川大学 工学部 Faculty of Engineering, Kagawa University

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 去る10月14日15日の2日にわたってCASTにて開催された第3回SPring-8シンポジウムに参加しました。

勉強のつもりできた浦島太郎
 私のシンクロトロン放射光実験の経験は大学院生の時に筑波のPFで少々X線異常分散回折の実験をやっていたことがあります。そのときは化合物半導体GaAs/AlAsの超格子の構造解析を行ったのですが、その後10年間ほどは化合物半導体GaAs/AlAsの量子細線の作製・評価等のナノ構造の研究を行っており、その間のシンクロトロンの実験の発展についてはあまり知ることがありませんでした。この4月に香川大学工学部に赴任して新しく研究室を立ち上げるに当たってこれまでに得られた結晶成長を元に何か新しいことができないかと思い、勉強するつもりで参加しました。

いろいろな人々に会えた
 SPring-8には私の大学院研究室の先輩、後輩がおり、また学生時代にお世話になった先生方にもお会いすることができました。また上坪所長を始めとする職員の方々や姫工大の伊藤先生や京都大学の河合先生などシンクロトロン光分野をリードする研究者の方々とお会いしてお話を聞くことができいろいろ学ぶことが多かったと思います。

感想を頼まれた
 そうした中で編集委員をされている岡山大学の圓山先生よりシンポジウムの参加した報告を書かないかとのお話がありここに書くしだいです。先にも書きましたように私自身はまだ勉強中の身でまだ正式のユーザーではありません。ですからここに書きますのはポットでてきた素人が感じたことであり、ここにあるマチガイや誤解については私自身の不勉強によるものです。

光源系の進捗状況

 今回のシンポジウムはまだ3回目でありSPring-8もまだ建設途中ということもあり報告・発表の内容も将来計画の紹介、光源・ビームラインの立ち上げやその輝度・精度といった性能、あるいは検出器・測定計の設置など作業の進捗状況に関する報告が多かったようです。これはシンクロトロン光の実験としては当たり前なのかもしれませんが光源の設計から分光器、試料のマウント、検出器のほとんど全てが既製品ではなくオリジナルの設計による物であることです。今回のシンポジウムではシンクロトロン光ならではの高輝度に起因する分光結晶の液体窒素による冷却や位置分解能を持つX線検出器の開発など興味深い物がありました。また同時にこれらの作業を伴うビームラインの立ち上げに認められる期間が6ヶ月しかないこと、またその後はマシンタイムの優遇はなく他の利用者と同様の利用申請を行わなくてはならないと聞き、その厳しさに驚きました。

申請の厳しそうなこと
 SPring-8は共同実験施設であり実験を行うには申請を行わなければなりません。半年毎の申請ということではその申請する実験内容は1回か2回の測定で成果が期待できるかなり煮詰まったテーマにする必要があるように思われます。こういった場合、野心的だけど結果の予測の難しいテーマや準備や測定に時間がかかりそうなテーマは申請しづらいように思えました。

どのBLに持っていけばいいの?
 さて申請をする際に申請書の前でハタと困るのがいったいどのビームライン(BL)に自分の実験が適しているのかということです。シンクロトロンには数十本のビームラインがありハッチの数に至ってはその数倍です。使用するエネルギー領域で大きく分けられるのでしょうが測定対象によっては低温、高温、磁場等の試料環境や空間分解、時間分解測定、トポクグラフ、スペクトル測定、偏向特性、高分解なのか高輝度なのか様々な実験があって、それぞれに適するBLやハッチがどれであるかを判断するのは大変なことです。ホームページにBLの紹介がありますが現実には細かいところは目星のBL担当者に聞かねばならず忙しい担当者を煩わせることになりかねません。実はこのシンポジウムに参加したのも、どのBLが自分の実験のイメージに近いか知りたかったためです。今後はエネルギー、パルス、偏向などの光源の性質の他、空間分解、時間分解、エネルギー分解といった測定様式や温度、圧力、励起状態といった試料環境などの複数項目について各BLやハッチの情報が必要になることでしょう。

ナノ構造屋から見て
 先にも述べましたように私はこれまでナノメートル寸法の化合物半導体ヘテロ構造を扱ってきたので試料に関してはそれが構造評価であれ物性評価であれ測定試料全体が一様とは言えない場合が多く、試料のこの部分ではこの構造・特性がでるが他の部分ではそうでないと言うような空間分解能を持った測定の必要性を感じています。こうした点から「SPring-8におけるマイクロビーム/走査型顕微鏡と結像顕微鏡の現状」の発表と「兵庫県ビームラインの現状」の微小ビームについての発表が興味深いものでした。また機能性材料を対象にする場合、それがデバイスとして動作・機能している状態で測定や電気や光によって励起した状態の変化など時間分解測定の必要性は明らかで今後シンクロトロン光の2光子吸収等の様々な実験の可能性を感じました。
 シンクロトロン放射光の高い輝度は従来の光源では信号が弱いため困難だった空間分解、時間分解、エネルギー分解を組み合わせた測定が可能にする事でしょう。

ものを作るシンクロトロン?

 このほかにもシンクロトロンを構造や物性の評価手法ととしてだけではなく製造手段として使えないでしょうか。
 シンクロトロン放射光の高輝度、高平行度の光はたとえば表面すれすれに入射する事で表面部分のみを励起・加熱する等、材料の特定部位を励起・加熱するのに向いているように思えますし入射光のエネルギーを選ぶことによって吸収端近傍の共鳴吸収を利用して特定の元素を励起できるでしょう。さらには偏向方向についても留意すれば更に選択性はあがります。これは従来の化学反応を促進するのに熱を使っていた従来の方法では作製困難だった物が作れる可能性が生じます。たとえば分子線エピタキシーでInAs/GaAs化合物半導体ヘテロ構造をエピタキシー成長させる場合、GaAsの最適の温度は580℃前後ですがInAsの場合、この温度ではIn原子が基板表面から再蒸発してしまうため500℃前後に下げる必要が生じます。このためInAsの上にGaAsを結晶成長する場合GaAsの最適温度を採ることを難しくし結晶の質やヘテロ界面の出来に妥協を余儀なくさせています。シンクロトロン光が表面のGa原子を選択的に励起・加熱する事ができればこのようなヘテロ界面の構造制御に威力を発揮するのではないかと思います。
 このように従来は熱というランダムな形でエネルギーを供給して反応を促進していたのですが放射光のようにエネルギーを共鳴的・選択的に供給することでこれまで熱による揺らぎによって作製困難だった材料・構造の実現が期待できます。

 以上、シンポジウム報告とは名ばかりの好き勝手なことを書きましたがシンクロトロン放射光を用いた研究の今後の発展が感じられたシンポジウムでした。



小柴 俊 KOSHIBA  Shun
香川大学 工学部 材料創造工学科
助教授
〒760-8526 香川県高松市幸町1-1
TEL:087-832-1342
FAX:087-832-1695
e-mail:koshiba@eng.kagawa-u.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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