ページトップへ戻る

Volume 04, No.6 Pages 48 - 49

6. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS

「みちしるべ:狸塚」縁起物語
The Origin of a Signpost “TANUKIZUKA”

pdfDownload PDF (366 KB)




 相生の駅からSPring-8行きのバスに乗りますと、まもなく道は国道2号線を離れて、ほどよく整備された「播磨テクノライン」をのどかに走ります。バスはやがて真広(まひろ)で山陽古道をよぎり、羅漢の里を左に見やり、春先にはみごとな彩りを添える椿並木の直線道路へと進んでまいります。と、前方に南北朝時代の歴史を留める感状山の山城跡の石垣が見え、ほどなく樹齢600年と言われる矢野の大きなムクの樹が右手に現われ、古い歴史を秘めた道を、バスはいよいよ西播磨の山懐に抱かれた渓流に沿って登っていきます。周辺の山々は山陽自然歩道が多く、四季を通して絶好のハイキングゾーンでございます。

 さて、この辺りは播磨科学公園都市が整備される以前には、村人以外にめったに人が訪れる事もなく、車もさして通らなかった地域でございます。ところがおん時ここに平成となり、立派な舗装道路が開通するや交通量は急増し、山間の環境は変貌いたしたのでございます。この事態は山に棲む多くの動物にとっても前代未聞の一大事。深夜に空前の速さで疾駆する自動車が目の前に現れるなど、祖先から聞き学ぶはずもなく、さしも知恵者の狸族も、路上で敢えない最期を遂げる「犬死」の(注釈:たぬきの字源は里犬)、相次ぐ惨事に見舞われたのでございます。狸ばかりではございません。人も思わぬ急カーブの難所に運転操作を誤り、車の反転やら谷へ落ちかかるやら、激しい事故が絶えないのでございます。余りのことに、これぞ狸の怨念による仕業ぞ、とささやかれるのでございます。

 かねてよりこの痛ましい惨状を目の当たりにしておりました姫工大理学部の面々は、どのような機縁仏縁神の道かわかりませんが、とある寄り合いの折、人と動物の真の共棲に想いをはせ、狸族の冥福とこうした怨念の払拭をも願って、ここは寄付金を募ってかの有名な信楽の狸を購入し、共々の無事なるを祈願する狸塚を造るべしと思い立ったのでございます。この奇特かつ崇高な精神は、人と自然との関わりへの関心と共に、伝え聞いた学内やSPring-8の有徳の方々の、心強い賛同をたちまちに呼び起こし、また道路を管轄する上郡土木事務所の方々や設置を担当する企業の方々からも、ここは一肌脱ぎましょうぞと、損得を越えた協力を惜しまずいただき、ここに遺族たる狸も泣いて喜ぶに違いない、多くの善意が結集した狸塚が完成いたしたのでございます。





 シンボルとなりました信楽焼の狸は、姫工大理学部の温厚なる三教授が、初夏の休日の一日、信楽の里に車にて赴き、あまた居並ぶ信楽焼の狸のなかより、姿器量のよろしき一匹を慎重に審議のうえ選考いたして、連れて戻ったものでございます。年寄りが選んだ狸は今の若者の趣味に合わないから、なるべく若々しい狸がよろしいなどと、納得の限りの議論をいたした次第でございます。身の丈86.5cm、体重29.5kgほどでございます。やや右上を見やりながら、愛嬌を振りまく風情の雄狸でございます。古来、信楽焼きは雄狸のみでございましたが、かわゆい雌狸も見受けたのでございます。店主が申すには、近年やんごとなき御方がお見えになったおり、雌狸はあらぬものかとお言葉があったそうでございまして、由来製作が始まったとのことでございます。陶器の狸は信楽のほか、笠間も有名でござんしょうと言いますと、かの店主が申すに、「笠間は信楽から習い覚えた技にて、元祖は信楽だわ」と狸腹で笑って答えたのでございます。店主差し出すサービスの玉露茶は黄金色とも見えて結構な味でございました。信楽狸八相縁喜との謂れがございます。傘は災難を避け、用心常に身を守り、目は八方に気を配り正しく判断、顔は愛嬌で商売熱心、徳利は徳がもてるよう、通は信用第一、腹は慌てず騒がず大胆な決断力、金袋は金運、尾は事の終わりは大きく太くしっかり、とのことでございます。徳利に丸八が描かれておりますのもSPring-8とのなにかのご縁でございましょう。余談になりますが、新宮方面は栗栖の「くりす食堂」には、この信楽狸の兄貴分とおぼしき狸が鎮座しております。ついでの食事時に御参拝なさるのも一興かと存じます。

 「みちしるべ:狸塚」は、矢野よりさらに山裾に分け入りました、能下(のうげ)の村落のS字曲がり(カーブ番号No.9)の道脇にございます。相生からの登り勾配の道路沿いの左側に、植木の小さな円形の刈り込みがありますが、そこに立ってございます。ここと決まるに及んだ縁起はことさらございません。真広と三濃山トンネル間の道を土木事務所の方々と往復して検分のうえ、上り下りいずれからもよろしきポイントと衆議一致で決めたのでございます。狸塚は平成11年10月7日に、ご賛同の世話人、地元区長、設置会社の方々にお集まりいただき、質素な除幕式をもって完成いたしました。行き帰りの道すがら、人類の犠牲になった狸への冥福を祈って戴き、はたまた車の運転の無事、そして人と自然との真の共棲へのみちしるべとお察しいただけますならば、われわれ賛同いたした者にとってこの上ない悦びでございます。狸塚の標注の裏には「この豊かな自然を畏敬し、調和ある共棲を願う。狸篤志一同」と、賛同いただいた方々の総意を集約して、この設置の主旨を書き記してございます。

 文末になりましたが、小動物の車殺傷をなくす工夫をいたしたいものでございます。聞き及ぶところによりますと、道路両側をつなぐ暗渠を作ることで被害が防げるとか。関係方面のご配慮をぜひいただきたく、この場を借りましてお願い申し上げる次第でございます。


                              発起人代表 坂井信彦(姫工大・理)



平成11年10月吉日

坂井 信彦 SAKAI Nobuhiko
姫路工業大学 理学部
〒678-1297 兵庫県赤穂郡上郡町光都3-2-1
TEL:0791-58-0144 FAX:0791-58-0146
e-mail:n_sakai@sci.himeji-tech.ac.jp


Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794