Volume 04, No.6 Pages 46 - 47
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
XRM99に出席して
XRM99 Report
XRM99(International Conference on X-ray Microscopy, U.C.Berkeley,1-6 August 1999)に出席したので、感想を少し述べてみたいと思う。
21世紀は、医療、環境、エネルギー問題など様々な困難をさらに迎えることになる。X線顕微鏡はその中でも特に医療分野の問題解決に貢献できる。私は、昨年まで透過電子顕微鏡の分野で研究を行ってきたが、会議では、様々なタイプのX線顕微鏡を見ることが出来た。
透過電子顕微鏡で試料を観察する場合、その試料は薄片に切り取られ、真空中で脱水され、さらに電子ビームで焼かれる。とても生物など生きていられない。しかも試料は対物レンズの強磁場にさらされるので、生物のみならず非生物試料であっても必ずしも本当の自然現象を観察しているとは言いにくい面がある。しかしながら、実空間で1Å程度の優れた分解能を持ち、結像型エネルギーフィルターで材料内原子の種類を区別し、直接観察できるのは、透過型原子直視分析電子顕微鏡しかない。この点、X線顕微鏡は、光源、光学素子、結像光学系、及び検出器など現在、発展途上の段階にあるが、既に電子顕微鏡では出来ない優れた研究成果が数多く出始めている。
結像型透過軟X線顕微鏡では、Condenser Zone PlateとObjective Zone Plateをタンデムにならべて、既に20nm程度の空間分解能を達成している。ただ、軟X線は空気による吸収があるので、試料を真空あるいはHe中に封入する傾向がある。透過電子顕微鏡でも、通常は試料は真空中で観察されるが、試料を反応ガス中に封入して、例えば試料加熱を行いながら、試料表面原子とガス原子との化学反応を直接観察できるようなステージも普及している。昔の人は、戦後物が無かったせいもあるがガス反応装置どころか電子回折装置や電子顕微鏡まで、高射砲の薬莢(やっきょう)や廃品を利用して手作りしていたのだから、そのパワーを若い世代の我々は忘れてはなるまい。仁科芳雄先生がサイクロトロンにかけた情熱を忘れてはならない。
また、発表講演の中で特に装置開発で面白いと思ったのは、BESSY 2でNiemannらがアンジュレータ光を、磁気浮上させた回転ミラーで反射してCondenser Zone Plateのゾーン全体にミラーを回転しながら照明する方法で、アイデアとしては良く考えられていると思った。Dr.Niemannに「アイデアは、interestingだ!」と言ったら、なぜか本人も笑っていた。Radiation Damageについては、試料を瞬間凍結し、損傷を軽減する方法が採られていた。結像型透過軟X線顕微鏡は、クライオ透過電子顕微鏡とよく似ている。
結像型透過硬X線顕微鏡は、軟X線に比べて波長が短いため、mmからcmオーダーの厚い試料や生体のその場観察が可能となる。これは、超高圧電子顕微鏡には無い魅力といえる。会議の流れとしても、そろそろinstrumentationで成熟期を迎えつつある軟X線顕微鏡から硬X線顕微鏡に徐々にシフトしているように思われた。現在、結像型透過硬X線顕微鏡はsub-μm程度の空間分解能だが、将来さらに分解能が向上した場合、Zone Plateは回折効率の点で、拡大結像のために何枚も用いるわけにはいかないので、中長尺ビームラインが必要不可欠であることを再認識した。
結像光学素子としては、Zone Plateの他にも、空気の泡を直線状にならべたバブル型屈折レンズや、アルミ板に放物面のくぼみをつけた屈折レンズも提案されているが、現在のところどの素子も一長一短が有り、一概にどれがよいとは言えない。しかしながら、Zone Plateは、軟X線では既に実用化に成功した実績があるので、硬X線においてもマイクロビームの生成と結像能力の両方の点で生き残る見込みは十分にあると思われる。
応用研究としては、篭島(姫工大)らの、位相コントラストによる生きたカエルや虫の観察がとても好評で、会場から歓声があがっていた。特にカエルの体内を流れる組織液の様子までもがはっきりと見えていたことは、私にはとても印象的だった。同じく、位相コントラストの応用として、百生(日立)らは、Bonse-Hart型干渉計を用いて腎臓にできた癌組織の3次元観察を行っていた。どれも画質のよい美しい写真で、我々が25keVの硬X線でZone Plateを使って観察したノイズの多い像が恥ずかしく思えた(空間分解能では我々の方が優れていたのだが)。日本人はよく、プレゼンテーションが下手だと言われるが、これはとても励みになった。また、Bonse−Hart型干渉計を用いた場合の位相コントラストの像形成理論についてはBonse自身が吸収コントラストも両方取り扱った講演を行った。
PEEM(光電子顕微鏡)は、高輝度X線光源と電子顕微鏡の結像光学系の、両方の優れた部分を合わせたような装置で、空間分解能は未だ原子レベルには到達していない。しかし将来的に見て、SEM(走査型電子顕微鏡)などはPEEMに吸収されてしまう可能性は無いだろうか?この答えを考える時二つのタイプの研究者像が思い浮かぶ。一つは、知識や技術の集積型で、もう一つはそれらの蓄積型である。前者は日本人に多く、後者は欧米人が得意かもしれない。こういう風に考えるのは私だけかもしれないが、Scientistにとって、集積型ではどうしても未来の分析分野の行く末を考えると、終焉のシナリオしか見えてこない。現在のように様々な分析技術が向上し成熟期を迎え始め、互いに境界がなくなりつつあっても、Scienceにおいて新しいことが生み出せるのは蓄積型、いわゆる一芸に秀でることによって新しい展開を見出す能力だと思う。つまり、目標に向って深く掘り進んだ結果、「一点突破、全面展開」のようなことをやらなくてはならない。今回のXRM99で、私は過去に電子顕微鏡の分野で養った知識をさらにX線の分野で掘り下げて考えてみる必要があると思った。会議を終えて、X線顕微鏡の未来に、また新たな希望を持った。
最後になりましたが、本会議の開催に際し、ローレンスバークレー国立研究所のWerner Meyer-Ilse博士の訃報がございました。ご冥福をお祈りしたいと思います。
U.C.Berkeley校、Klark Kerrキャンパスにて
淡路 晃弘 AWAJI Mitsuhiro
(財)高輝度光科学研究センター
放射光研究所 実験部門
医学・イメージング グループ
〒679-5198
兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0831
FAX:0791-58-0830
e-mail:awaji@spring8.or.jp
略歴:岡山理科大学 大学院理学系研究科博士課程修了
理学博士 仁科賞(岡山県知事)
1993年9月 日本学術振興会海外特別研究員 Oxford大学客員研究員(Department of Materials, St Cross College)
1994年7月 BJCEM Scholarship to the 13th International Congress on Electron Microscopy (Paris,France)
(British Joint Committee for Electron Microscopy)
1997年4月 大阪大学 超高圧電子顕微鏡センター 非常勤講師
1998年4月 高輝度光科学研究センター 放射光研究所実験部門 研究協力員
1999年より Biographee:Who's Who in the World
(A Who's Who in America Publication)
最近の研究:透過結像型硬X線顕微鏡の開発
学会活動:日本物理学会会員、日本放射光学会会員、
Fellow of The Royal Microscopical Society(U.K.)
趣 味:水泳、ヨット、茶道(表千家)、乗馬