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Volume 04, No.6 Pages 23 - 24

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

共用ビームライン整備に関するビームライン検討委員会の答申の概要(21本目以降)
Summary of the Public Beamline Committee’s Report on Construction of Public Beamline (After 21 Public Beamlines)

放射光利用研究促進機構 (財)高輝度光科学研究センター 企画調査部 Organization for the Promotion of Synchrotron Radiation Research・JASRI Planning Division

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 共用ビームラインの整備は、特定放射光施設連絡協議会からの諮問を受けた「ビームライン検討委員会」が、利用研究者から提案されたビームラインの技術的重要事項を検討評価し、その結果を同協議会に答申することにより進められます。

 SPring-8で当初計画された共用ビームラインは30本となっており、これまでに答申された共用ビームラインは20本に達しています。現在では15本が共用に供され、4本が建設中もしくは調整段階に入っています。

 21本目以降の共用ビームラインの整備に関しては、「ビームライン検討委員会」が、平成10年12月16日付けで特定放射光施設連絡協議会からの諮問を受け、本年2月から4回にわたり検討を行い、検討結果を本年10月4日に同協議会に対して答申(その1)を行いました。

 本稿では、この答申の概要を紹介します。


【答申の概要】
1.共用ビームライン整備の考え方

 これまで整備されてきた共用ビームラインは、主に既存の技術により設置が可能なものであった。しかしながら、共用ビームラインの整備が進むにしたがって、高度な研究への要求が増加し、その実現のために、技術開発の必要なビームラインの提案が増加してきた。

 ビームライン検討委員会では、技術開発が必要なビームラインであっても、SPring-8の性能を十分に発揮できるものであり、今後、先端的研究に寄与する計画であると認められるものについては積極的に選定の対象とすることとした。

 また、このような基本的考え方のもとで、共用ビームラインの整備にあたっては、SPring-8のビームラインの全体像における今後の研究分野や実験手法のバランスを勘案し、海外の放射光施設の状況にも配慮することとした。さらに、利用研究者から提案された計画の選定に際して、一層の客観性を確保するため、「ビームライン整備の優先度付け指標」を制定し、今回の選定から適用することとした。


2.選定経過

 計画の選定は、広く国内の利用研究者から「計画趣意書(Letter of Intent)」及び「計画提案書(Proposal)」の2段階の提案に基づく計画内容の検討評価により実施した。

 「計画趣意書」の募集に基づき、提案のあった27件の計画について検討評価し、「計画提案書」の提出を求めるものとして12件を選定したが、その際、類似の計画はまとめることとしたため、結果として10件の「計画提案書」の提出を依頼した。そして、提出のあった10件の「計画提案書」について、国内外のレビュアー25名から計画のオリジナリティ、将来性等に関する意見を求め、それらの意見も参考に検討評価を行った結果、早急に整備すべき6件の計画を選定した。

 また、平成9年6月に答申されたが、未整備の「表面界面構造解析ビームライン」については、現時点においても最優先で整備すべき重要な計画であることを確認した。


3.共用ビームラインとしての整備計画
(1)共用ビームラインとして整備すべき計画

 整備済み及び建設・調整中のものを含めSPring-8の当初計画どおり少なくとも30本を早急に整備すべきであると確認し、今回は、利用研究者からの提案の中から、まず平成12年度以降に特に早期に整備する必要のある6計画について結論を得た。

①X線分光分析ビームライン(アンジュレータ)

 材料、生体試料中の微量元素の状態分析、局所での高分解能蛍光X線分析を目指す。

②地球惑星科学ビームライン(マルチポールウィグラー)

 短時間でのX線回折データ収集に基づく時分割測定や、複雑な構成の微小試料部を通過するX線の回折実験を可能にし、地震発生メカニズム及びマントルダイナミクスなどに関する研究を行う。

③超高輝度軟X線共鳴分光ビームライン(アンジュレータ)

 30m長直線部からの干渉性の強い軟X線を用いて高密度発光分光、多光子光電子分光、二重マイクロビーム変調分光法などの第3世代を超えるような研究展開を目指す。

④生体高分子結晶構造解析(三重ステーション)ビームライン(アンジュレータ)

 タンパク質などの生体高分子の結晶構造解析を目的として、微小結晶の回折データ収集、高回折分解能での回折データ収集、多波長異常分散法(MAD)による位相決定用の回折データ収集のための多重ステーションを持つビームラインを建設する。

⑤X線発光解析ビームライン(アンジュレータ)

 2種類のX線発光解析用スペクトロメーターを設置し、X線2次光学過程スペクトロスコピーを展開する。

⑥高輝度高エネルギーX線ビームライン(ミニポールアンジュレータ)

 高エネルギーX線の研究は、これまでコンプトン散乱と一部の試みの他はまだほとんど取り組まれていない。この未踏の領域に焦点を絞り込み、SPring-8としての独自の研究展開を図る。


(2)共用ビームラインとして整備するのが適当なその他の計画

 先端的な技術開発の実施、利用者層の拡大などの観点に配慮した施設者の立場から2件の提案があり、本委員会で提案の趣旨等を議論した結果、以下の2件について共用ビームラインとして整備することが適当であるとした。

①偏向電磁石型R&Dビームライン

 最先端施設として基盤拡充と利用者への最新技術提供の重点強化を図るため、白色光や高エネルギーX線を必要とするR&Dを行う。

②産業界による放射光利用の促進を目指したビームライン

 一般産業界の利用の促進を図るため、放射光利用の経験がない利用研究者の技術習得や様々な研究展開を促進する。



参考資料   ビームライン検討委員会委員(平成10、11年度)

(平成10年度16名)
委 員 長
 佐藤  繁
  東北大学大学院 理学研究科 教授

委員長代理
 下村  理
  日本原子力研究所 関西研究所 放射光利用研究部 部長
 雨宮 慶幸
  東京大学大学院 工学系研究科 教授
 飯田 厚夫
  高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所研究主幹
 石川 哲也
  理化学研究所 播磨研究所 主任研究員
 植木 龍夫
  JASRI利用促進部門 部門長
 柿崎 明人
  高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 教授
 北村 英男
  理化学研究所 播磨研究所 主任研究員
 熊谷 教孝
  JASRI加速器部門 部門長
 古宮 聰
  株式会社富士通研究所 基盤技術研究所 主管研究員
 笹本 宣雄
  日本原子力研究所 東海研究所 中性子科学研究センター 次長
 菅  滋正
  大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授
 月原 冨武
  大阪大学 蛋白質研究所 教授
 平井 康晴
  株式会社日立製作所 基礎研究所 主任研究員
 松井 純爾
  姫路工業大学 理学部物質科学科 教授
 水木 純一郎
  日本原子力研究所 関西研究所 主任研究員

(平成11年度16名)
委 員 長
 松井 純爾
  姫路工業大学 理学部物質科学科 教授

委員長代理
 下村  理
  日本原子力研究所 関西研究所 放射光利用研究部 部長
 雨宮 慶幸
  東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授
 石川 哲也
  理化学研究所 播磨研究所 主任研究員
 大門  寛
  奈良先端科学技術大学院 大学物質創成科学研究科 教授
 尾嶋 正治
  東京大学大学院 工学系研究科 教授
 北村 英男
  理化学研究所 播磨研究所 主任研究員
 古宮  聰
  株式会社富士通研究所 基盤技術研究所 主管研究員
 坂井 信彦
  姫路工業大学 理学部物質科学科 教授
 月原 冨武
  大阪大学 蛋白質研究所 物理構造部門 教授
 虎谷 秀穂
  名古屋工業大学 セラミックス研究施設 教授
 水木 純一郎
  日本原子力研究所 関西研究所 主任研究員

(施設者側委員)
 植木 龍夫
  JASRI利用促進部門 部門長
 菊田 惺志
  JASRIビームライン部門 部門長
 熊谷 教孝
  JASRI加速器部門 部門長
 多田 順一郎
  JASRI安全管理室 室長


Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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