Volume 04, No.5 Pages 18 - 20
2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
第4回の課題選定を終えて
After the 4th Proposal Review Commitee Meeting
(財)高輝度光科学研究センター SPring-8利用研究課題選定委員会 主査/京都教育大学 教育学部 Department of Physics, Kyoto University of Education
1.はじめに
SPring-8の共同利用は立ち上げの段階から本格的な利用のフェーズに入りました。利用研究課題選定委員会(PRC)は平成11年4月から第3期の委員会が発足し、私が主査を勤めることになりました。第1期と第2期は、委員会そのものを立ち上げ、課題選定の方法についての道筋をつけることについて、太田先生が努力してくださいました。その後を継ぐことになった私の役割は、公平性と透明性を確保しながら、利用研究課題選定を円滑に進めることに尽きると思っていますが、その責任の重さに圧倒されつつあります。しかし引き受けた以上は全力を尽くす覚悟でいます。どうかよろしくお願いいたします。
この委員会の初めての仕事として、第4回の課題選定をようやく終えることができました。課題選定の結果の概要については利用業務部によるまとめの記事がありますが、選定の作業の中で議論になった事柄や今後の課題について、委員会の立場から簡単なまとめを行い、あわせて今後の課題申請をされる方々への委員会からの要望を記すことにいたします。
2.課題募集まで
第3期の委員会は様々な点でこれまでの委員会と異なっています。まず委員の数が28人から35人に増えました。これは主として散乱・回折と生命科学の分科の課題申請が際立って多くなり、従来の委員の数では対処できなくなったためです。これらの分科では分科会にさらに2つの小分科会を設けて作業を行いました。また申請書の形式を生命科学だけを別にして、選定作業をしやすくする工夫もしました。また今期からは新たに成果専有課題の募集を始めました。ただしこの課題については、技術的実施可能性及び安全性の審査のみが行われて委員会における科学技術的妥当性の審査は行いません。
3.課題選定作業
課題選定の作業については、利用者情報のVol.3,No.6(1998年11月)に太田先生が詳しく紹介されていますが、国内の他の放射光施設、特にフォトンファクトリーの審査の方法とは大きく異なっていることを理解して頂きたいと思います。一言で言えば、SPring-8では半年ごとに利用研究課題を募集するために、課題選定に長い時間をかけることができず、レフェリー制度を設けずに課題選定委員がすべての課題を短時間で審査することを余儀なくされていることです。具体的な課題選定作業を紹介する方が、理解しやすいと思われますので、今期の場合を例にとってそのプロセスを記します。
今期は6月19日に課題の公募が締め切られました。申請された課題は利用業務部で分科ごとに仕分けされ、分科の審査を行わない成果専有課題を除くすべての申請書が、締め切りの約1週間後に分科会の委員あてに送られます。委員はこの申請書のすべてについて評価したものを、簡単なコメントを付してインターネットを使って利用業務部に送り返します。この作業は1週間で終えなければなりません。分科によっては、80から100課題以上を1週間で見なければなりませんので、その作業には大変な労力をかけることになります。一方この間に、施設側でのビームライン担当者による技術的実施可能性のチェックも行われ、必要なコメントが付されます。集められたすべての回答は、再び利用業務部で整理されて、分科会に提出されます。申請課題数の大幅な増加にあわせ、今期の分科会審査の会合は7月8日から9日まで2日間を使って行われました。特に生命科学、回折・散乱、XAFSなどの申請課題数の多い分科は、深夜に至るまでの作業を余儀なくされました。この分科会には、必要に応じてビームライン担当者の意見も聞く事があります。ここで採否の決定と同時にビームタイムの割り振りまで行います。分科会の席にはノートパソコンが準備されていて、結果をすぐに入力して、配分されたビームタイムが自動的に集計されるようになっています。
2日目の午後には各分科会の主査と委員会主査が合同で、配分するビームタイムの最終的な調整を行います。これは複数の分科に関連するビームラインがいくつかあるため、ビームタイムの再調整を必要とする場合があるためです。こうして選定された課題は、施設側で安全審査が行われ、7月22日に行われた委員会で最終案が審議されて、諮問委員会に推せんする案が作られました。諮問委員会は7月25日に開催され、1999B期の採択課題が最終決定されました。このように、公募の締め切りから採択の決定まで期間はわずか5週間でしかないことが、SPring-8の課題選定の特徴といえるでしょう。しかもこの作業を年に2回行うことになります。
4.今期の特徴
1999B期の特徴は、新しいビームラインの工事や調整、夏期のシャットダウンを含むため、10月から12月までの3ヶ月間となったことです。配分できるシフト数も1つのビームラインあたり139シフトになりました。1999A期が共同利用期間の暦年への変更に伴って6ヶ月よりも長かったこともあって、今期の配分が如何に窮屈な状況にあるか、想像していただけることと思います。それでも新しい5本のビームラインや原研、理研、R&Dビームラインの一部を含めて、配分できたビームタイムの合計は2300シフトとなり、A期に配分された2700シフトに比較して、それほど大きな差は生じませんでした。
今回からは、採択された課題名は研究者のアイディア保護の観点から、採択時点での公表は行わないことになりましたが、実験終了後60日以内に報告書を提出する義務があることから、課題名非公表の期間は6ヶ月程度となります。
成果専有課題の募集も今期から開始されました。これらについては、利用業務部のまとめを参照してください。
5.評価基準について
申請された研究者にとって、課題がどのように評価されたのかは、最も関心の深いことです。審査結果が通知されてから、JASRIや私のところに様々な質問が寄せられています。課題選定に際して最も重要なことは、公平でしかも透明なプロセスで行われることであります。SPring-8では他の放射光施設とは異なり、課題選定委員をはじめすべての委員会名簿は利用者情報で公開されます。
今回からは、不採択となった課題には原則として何らかのコメントをつけて通知することにしました。ただ、不採択の理由は、必ずしもその課題の申請書に不備があった場合ばかりではなく、139シフトという限られたビームタイムを配分するために相対評価をした結果であることをご理解いただかなくてはなりません。また今の段階では、まだ実験ステーションの整備に対してより有意義であると判断できる課題に、高い評点を与えることも必要になります。PFでは申請課題審査を外部レフェリーに依頼して絶対評価を行い、ビームタイムの配分はその評価に基づいて、施設で行われますが、これは課題が2年間有効であるということとも密接に関連していると思われます。半年を一期とするSPring-8でこの方式をとらず、相対評価を行うことは先にも述べたとおりです。私自身は今のところPFの審査にはかかわる立場にはありませんが、関係者に伺った情報を総合して、この点についてもう少し説明を加えます。
SPring-8とPFに於ける課題審査は、評価基準は類似していますが、手続きに関する考え方には大きな差があり、競争率も1~1.5倍程度の場合と今回の様に3倍強の場合では審査自体も変化せざるを得なくなります。
PFの場合は学問的価値に最もウエイトがあり、ビームタイムの需給状況に関係なく一定の水準を基準としています。また、時間を掛けて外部の審査員に審査を依頼しており、時としては相当量のコメントがあり、PFのPACの分科会はこの審査員の意見を相当参考にして行われると伺っています。このため専門外の分野についてもある程度の判断をすることが出来ることになります。
一方、SPring-8の場合は利用可能な時間が決まっていますので、現実には時によって採択の閾値は変化することになります。また、審査もPRC委員のみで行っていますので、短時間の内に少人数で多数の課題を審査する現状では、特に理由がある場合以外は個々の課題に学問的な観点にまで立ち入った「不採択となった理由」を付けることは不可能であろうと思います。その代わり(立ち上げ期の特殊事情は除き)採択された課題はほぼ確実に実行できますし、審査に要する時間も短縮できることになります。
もちろん、現行の課題選定が最上の方法であると言うつもりは全くありません。今後もよりよい審査のあり方を探ることも、委員会の大きな課題であると思っています。
6.検討課題
委員会で議論になっている検討課題についても、ここで簡単に紹介したいと思います。
まず緊急課題の考え方についての議論があります。これは施設で留保している約20%のビームタイムを使って、緊急かつ重要な課題申請があったときに対応できるようにしてあるものですが、どのような課題を「緊急かつ重要」と評価するかについて、委員会の中でもさまざまな議論のあるところです。また、このことについては、分科によっても考え方が異なり、例えば生命科学の分野では、新しい蛋白の結晶が用意できたことで、緊急課題として認めることができるという考え方に立っています。更に世界で3つの大型放射光施設が稼働している現在では、国際的に競合する研究課題も少なくありません。このような課題も緊急課題として位置づけるべきである、という考え方も委員会の中にあります。いずれにしても、このことについては課題申請を処理していく中で、徐々にそのあり方についての考え方がまとまると考えられます。
現在の課題の期間が6ヶ月に限定されているために、その期間内に研究を終了しなかったものは、継続課題として申請されることになります。しかしながら、研究課題の中には元々6ヶ月で終了することが難しい課題もあります。また今後は、大型の研究費を取得して長期間まとまったビームタイムを使用したい、という研究グループも生まれて来ることでしょう。PFでは、このような研究プロジェクトに対しては、S型の課題というカテゴリーを設けていますが、SPring-8でもこれに対応したカテゴリーを新設することの検討が始められることになりました。詳細についてはまだ未定ですが、2000B期からこのカテゴリーでの利用が始められるよう、準備が行われます。
7.申請に際しての要望
課題申請については、これまでも様々な方法でPRがなされています。最近では利用者情報のVol.4,No.3(1999年5月)に、第2期のPRC分科会の主査の方々がこれについて詳しく記されています。その中でたびたび指摘されていることに、課題名が抽象的、一般的でなく、具体的に何をどのように研究しようとするものかが分かるものにすべきこと、必要なビームタイムの合理的な根拠が示されていること、などがあります。それ以外にも問題となり得る具体的な例を一つ紹介しますと、ビームタイムの過大要求があります。要求がそのままの形で認められないことを見越して、少し多めに申請することはよくあることですが、それにも自ずから程度があります。例えば今回の申請の中には、1課題で100シフトを超えるビームタイムを要求されるケースもありました。これは1つのグループであるステーションの今期のビームタイムの70%以上占有したい、という要求になります。たとえ研究内容が優れたものであっても、このような並はずれたビームタイムの申請が、審査する側でどのように読まれるかついて、少しだけ想像力を働かせていただきたいと思います。要は申請される際に、一度自分自身を審査する立場に置いていただいて、「この申請書が審査される際に、無理のない申請であると読めるかどうか。限られた時間内で第三者が読んだときに理解できるように、わかりやすく書かれているかどうか。」という目で、もう一度見直していただくことが必要でしょう。
8.おわりに
いろいろと述べましたが、SPring-8のビームラインはまだ建設途上のものが多く、62本のビームラインがすべて設置されるまでには、まだまだ長い時間がかかります。委員会としても課題選定を行うごとに新しい問題が生じて、それらを検討しなければならないことになります。そして、これらのことを半年に1回の定期的な課題選定と同時に行うことになります。この稿が掲載される利用者情報には、早くも2000A期の課題募集の記事が掲載されています。この課題選定は11月には終了しなければなりません。このことからも、PRCの現状を理解していただけるのではないでしょうか。このSPring-8そのものと同じように、PRC自身もまだ完成された機関ではなく、動かしながら考えて行く段階にあります。これらの事情をご理解いただいた上で、建設的な提案を事務局までお寄せ下さる事を期待しています。
村田 隆紀 MURATA Takatoshi
京都教育大学 物理学教室
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