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Volume 04, No.4 Pages 7 - 15

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

平成10、11年度整備アンジュレータビームライン
Undulator Beamlines Constructed in the 1998 and 1999 Fiscal Years

後藤 俊治 GOTO Shunji

(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン部門 JASRI Beamline Division

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1.はじめに
 平成10、11年度の二ヵ年度で高エネルギー分解能非弾性散乱ビームライン(BL35XU)、および、高輝度ビームライン(BL40XU)2本の共用アンジュレータビームラインの整備が進められている[1]。 いずれのビームラインも、要求される性能をこれまでの標準的なアンジュレータビームラインではまかなうことができず、既存のコンポーネント、要素技術をそのまま用いることができる部分と、新規に設計が必要なものが混在することとなった。このなかで、高輝度ビームラインの方が比較的仕様をまとめ上げるのが容易であり、平成10年度整備偏向電磁石ビームライン4本に引き続いて平成10年の8月ごろまでに仕様が確定し、発注作業が進められた。一方、高エネルギー分解能非弾性散乱ビームラインは、高エネルギー分解能を得るための背面反射分光器と背面反射アナライザーを実験ホール内の許されるスペースを無駄なく使い、パフォーマンスを最適にするための検討に幾分時間が必要で、平成10年度末ぎりぎりまで仕様確定と発注作業がもつれ込んだ。
 以下では、前号の平成10年度整備偏向電磁石ビームライン[2]に引き続いて、これら2本のアンジュレータビームラインに関して、各要素毎に基本的な仕様および現在の進捗状況等について報告する。

2.各ビームラインの仕様・構成
2-1.挿入光源

 BL35XUおよびBL40XUの挿入光源の主なパラメーターを表1に示す。いずれも真空封止型アンジュレータで、制御システム、形状変換部、真空システム、ビーム位置モニター、放射光インターロック等の周辺機器は、従来の真空封止アンジュレータと同じで大きな変更点はない[3−5]。 
 
表1 挿入光源の主なパラメーター 
 

  BL35XU BL40XU
挿入光源タイプ 標準型真空封止
アンジュレータ
真空封止
ヘリカルアンジュレータ
磁石列タイプ ピュアマグネット ピュアマグネット
周期長 32mm 36mm
周期数 140 125
最小ギャップ 8mm 7mm
最大K値 Ky= 2.4 Kx=Ky= 1.1
磁石 NEOMAX-35EH
(NdFeB系)
NEOMAX-35EH
(NdFeB系)

 
 
 BL40XUは結晶分光器を置かずに、アンジュレータの一次光のスペクトルをそのまま利用する高フラックスビームラインであるため、挿入光源はフラックスが大きいヘリカル型(位相は固定)を採用した。 得られるフラックスの計算例を図1に示す。磁石形状は、中心付近でのピーク磁場の大きさと一様性の向上、およびギャップ変化に伴う円偏光度の劣化を抑えるために、図2のような形状とした。中央の磁石列が垂直方向磁場を、左右のサイド列が水平方向磁場を形成する。また、ビームインピーダンスを低減させるため、中央の溝の部分はNiメッキしたCuのスペーサーで埋め、その上からCuメッキのNiシートで覆う。 
 
  
 
図1 BL40XU真空封止ヘリカルアンジュレータのビーム電流100mA時のフラックス
実線:水平50µrad、垂直50µradのスリットを通して得られるフラックス、点線:全フラックス 
 
 
  
 
図2 BL40XU真空封止ヘリカルアンジュレータ磁石形状[6]
(1)A列:水平方向磁場、(2)B列:垂直方向磁場。いずれもビームは図の上方を紙面垂直方向に通過する 
 
 BL35XU、BL40XUともに挿入光源の蓄積リングへの設置は、1999年夏期停止期間中におこなわれる。
 
2-2.フロントエンド
(1)フロントエンドの構成・仕様
 BL35XUのフロントエンドは、SPring-8で最も一般的な標準真空封止型アンジュレータ対応の機器構成・仕様となっており、既にこのタイプのフロントエンドは8本(BL09XU、10XU、11XU、29XU、39XU、41XU、44XU、47XU)分建設済みで、順調に稼動している。図3に標準真空封止型アンジュレータ対応のフロントエンド機器配置を示す。この標準的なフロントエンドにおいて、放射パワーを処理しながらビームサイズ成形に寄与する機器は、
 (a)固定マスク    :1段、固定式で7mm角(全幅で333µrad角)に成形、
 (b)前置スリット    :可動式で直径4mm(直径154 µrad)に成形、
 (c)XYスリット    :可動式でフロントエンド出口のビームサイズを可変に成形、となっている。  
 
  
 
 
図3 標準真空封止アンジュレータ用フロントエンド機器配置図(BL35XU) 
 
 
 図4にBL40XUのフロントエンド機器配置を示すが、標準型に比べて特殊な機器配置となっている。 光源がヘリカルアンジュレータであるこのビームラインは、光学系において分光器を使わずに軸上近傍の一次光だけ使用するとの方針に至ったことから、当初10µrad程度で固定した放射光をフロントエンドから取り出すことを求められた。しかしながら、これではフロントエンド出口でのビームサイズが約0.4mmにしかならず、コミッショニングにおける軸出し作業などが非常に困難になるものと予想されるため、マスクで50µrad程度にカットし、後は必要に応じてXYスリットで成形する方針とした。この結果、マスクでほとんどのパワーを吸収(全放射パワー4.6kWに対し約4.5kW @K=1.2、100mA運転時)しなければならないため、マスクを前段と後段に分けて放射パワーを処理する設計とした。光源から約22.4m離れた位置にある前段マスクで直径7mm(312.5µrad)に、前段マスクから約1m下流にある後段マスクで直径1mm(42.7µrad)に絞る。前段、後段ともマスク出口径は固定になっているが、当然アライメントの軸と実際の光軸との間にはズレがあり、コミッショニング時に直径1mmの出口を光軸に合わせる必要があるため、後段マスクのみXYステージに搭載し可動式としている。また、後段マスクは、XYスリットで成形せずに使用する場合を想定して、XYスリットと同様にダブルスリット構造としており、受光部の母材であるGlidCopで直径1.1 mmに、ヘビーメタルで直径1mmに出口径を絞っている。これは、ワイヤカットによるGlidCopの加工に比べて機械加工によるヘビーメタルの加工のほうが精度が上げられること、受光時の熱膨張による開口サイズの変化をできるだけ少なくできることによる。マスクを抜けてくるパワーがごくわずかなものになったため、前置スリットを設置する必要が無くなり、かつXYスリットも標準型のものよりかなりコンパクトなサイズになった。コミッショニング時には、光電子モニターを用いて後段マスクとXYスリットの中心を光軸に合わせる。その他の光位置モニター、真空保護や放射線防御に関わる機器の構成・仕様は、BL35XU同様に、従来の硬X線アンジュレータ用フロントエンドと同じである。  
 
 
 
 図4 フロントエンド機器配置図(BL40XU) 
 
 また、BL40XUはフロントエンド専用冷却系に新規接続される最初のビームラインとなる。現在フロントエンドの冷却水はL1系と呼ばれる蓄積リングの電磁石、真空と共通の冷却システムから供給されているが、計画当初時に比べて光源のパワーアップ化が非常に進んだことなどから、L1系の冷却水の絶対量が不足する事態に陥ってしまい、今後2年間に渡ってフロントエンド専用の冷却系を新設するものである。平成11年の夏にA、Dブロックを、平成12年の夏にB、Cブロックを完成させるため、BL35XUについては来年の夏までは既存のL1系に接続される。FE専用冷却系では所定の最大流量(標準的な挿入光源用フロントエンドで170L/min)が流れる場合でも取り合いバルブ位置でIN側とOUT側の圧力差が5kgf/cm2以上確保できる仕様になっている。また、取り合いバルブ〜フロントエンド各機器間の配管部分の圧力損失をできるだけ小さくするために、取り合いバルブサイズを従来の25Aから65Aに、また、フロントエンドの母配管サイズも25Aから32Aに変更し、その間も徐々に絞っていく配管径としている。フロントエンド専用冷却系の詳細については、近々に「SPring-8利用者情報」でも紹介する予定である。
(2)建設・整備状況
 この2本のフロントエンドの本格的な建設は平成11年度夏期運転停止期間(1999年7月3日〜1999年9月5日)におこなわれるが、5月の連休ごろ(第5サイクルと第6サイクルの間の運転停止期間)から工事は開始されている。既に、架台や共通レールの搬入、収納部天井の通線用コア抜き等の作業は終了しており、さらにサイクル間の停止期間を利用して共通レールの精密アライメントも順次実施中である。

2-3.放射線遮蔽ハッチ
 図5、6にそれぞれのビームラインについて輸送系・光学系と合わせて放射線遮蔽ハッチの全体図を示す。ハッチ設計における基本的な原則、一般事項は偏向電磁石ビームラインの場合[2]とかわることはない。表2にBL35XUおよびBL40XUのハッチの基本仕様を示す。  
 
  
 
図5 BL35XUの放射線遮蔽ハッチおよび輸送系・光学系 
 
 
 
図6 BL40XUの放射線遮蔽ハッチおよび輸送系・光学系
 
表2 BL35XU,40XUハッチの仕様
 
 
 
 BL35XUの実験ハッチは、上流側から実験ハッチ1、2、4、3と呼ぶことにしている。これは、主として用いられる実験モードにおいて、実験ハッチ3の終端部に設置された背面反射分光器によって高エネルギー分解能化された単色光が実験ハッチ4に戻ってくる格好で導入されるためである。実験ハッチ3に光学ハッチにおいて単色化された放射光を導入しながら実験ハッチ4内にアクセスすることを可能とするため実験ハッチ4にはシールドパイプが設置されている。このように実験ハッチ4には、高エネルギー分解能化され高次光を含まない放射光しか導入されないため照射線量は他のハッチに比べて極端に少ない。このため、遮蔽体としての鉛は必要なく、鉄10mm厚のハッチパネルによって構成される。
 背面反射型分光器を極力光源から遠ざけながらも、実験ホール内の外周側のエクスパンションジョイントから1m以上実験ハッチを離して最低限の通路を確保するために、実験ハッチ3の下流側は切り欠かれた構造となっている。実験ハッチ4の複雑な構造は、同様に実験ホール内の通路の確保と大型回折計の収納の両立を図った結果である。
 BL40XUのハッチは隣り合うBL40B2と一体化し設計、施工したためBL40XUの光学ハッチと実験ハッチの一部の収納壁側側面はBL40B2光学ハッチとの共通壁とすることができた。これは前回報告したような、既設ハッチの裏側の狭いスペースにフロントエンド遮蔽体を設置する困難さを避けるための有用な方法であった。

2-4.輸送チャンネル・光学系
(1)輸送チャンネル・光学系の概要
(a)BL35XU
 図5および図8に輸送系・光学系の構成を示す。先に述べたように、このビームラインは光学ハッチと四つの実験ハッチから構成される。光学ハッチ内の構成は基本的に標準アンジュレータ用のものである。ただし、二結晶分光器は水冷のピンポスト結晶でなく、液体窒素冷却が予定されているほか、ビームパイプのスペースは必要に応じて、コリメーター、集光レンズ、強度モニター等を挿入することが計画されている。実験ハッチ1以降の光学系については後の実験ステーションにおいてまとめて述べることにするが、いくつかの実験モードを可能とするために実験ハッチ4には最終段の実験ハッチ3の背面反射結晶分光器へとビームを導くシールドパイプ(鉛厚さ1mm)や、高低差370mmの2段のビームに対して実験ハッチ1と2の間にて遮断するための二段下流シャッタなどが特別に導入されることになる。実験モードについては2-53-1も合わせて参照されたい。
(b)BL40XU
 図6に輸送系・光学系の構成を示す。このビームラインでは結晶分光器を用いず、Kirkpatric-Baez配置の集光ミラー系により二次元に集光される。初段に水平偏向ミラーが置かれ視射角3mrad、偏向角6mradにて実験ホール側に曲げられた後、後段の垂直偏向ミラーにより視射角4mrad、偏向角8mradにて下方に偏向される。ミラーのコーティングは両方ともRhで最大20keV程度までの放射光が利用できる。その他のコンポーネントは標準型もしくはそれに準拠したものが用いられる。スリット、Be窓等は偏向電磁石ビームライン用と同等の熱負荷対策をしたものであり、また、下流シャッタについても遮蔽ブロックの上流側に水冷銅アブソーバを付加したものを新規に設計した。
 輸送チャンネル各コンポーネントの設計・製作は順調に進められ、機器据え付けについては1999年8月ごろから順次開始されていく予定である。
(2)分光器
 BL35XUは光学ハッチまでに限ってみれば標準的なアンジュレータビームラインであり、分光器の位置での熱負荷は最大300〜400W/mm2になると想定される。分光結晶には標準的なシリコンの111反射を使用するが、その冷却方式は、従来の水冷ピンポスト方式に代わって、液体窒素冷却が採用される。液体窒素による冷却には、直接冷却と間接冷却が検討されており、現在進められているビームラインでの評価試験により決定することになる。
 駆動機構はアンジュレータ対応の標準型を現在製作中であり、各軸の分解能等は従来品と同等で十分な性能を有している。対応するブラッグ角は3〜27°で、全範囲にわたって定位置出射が可能である。 今回から各軸すべてに正確な指標が取りつけられることになり、指標に合わせるだけで立ち上げ前に必要な調整ができるようになる。また、分光器の設置誤差等を含む光軸のずれを補正するために、手動で真空チャンバーごと上下左右に移動できる機構も付加される。
(3)ミラーおよびミラー調整機構
 図5に示されるように、BL35XUのミラーチャンバーには、ビームを下流に素通りさせるためミラー本体表面から370mm下にビームダクトが設置され、これを通してミラーの下流に設置された背面反射結晶にビームが導かれる。光源方向に反射された光は一旦シリコンの非対称反射により370mm上にはねあげられ、ミラーにより二次元集光される。ミラー形状はサジタル円筒面の母材をベンダーで子午線方向に湾曲して得られる擬似トロイダル形状である。ミラーには熱負荷がかからないため、冷却機構は使用しない。母材はシリコン単結晶、反射材はPtである。ミラーの寸法は長さ1000mm、幅100mm、厚さ50mm、サジタル曲率半径36.23mmである。
 BL40XUでは、ヘリカルアンジュレータ光を単色化せず直接ミラーで受け、二次元集光をおこなう。集光は2枚のミラーをKirkpatric-Baez配置にし、鉛直・水平方向を独立に集光する。両ミラーの形状は平面母材をベンダーにより湾曲して得られる円筒面形状である。ミラーには最大100W程度の熱負荷がかかるため、間接水冷却機構が側面に取り付けられる。母材には熱特性の優れたシリコン単結晶を用いる。反射材はRhである。ミラーの寸法は、水平集光ミラーが長さ700mm、幅70mm、厚さ30mm、鉛直集光ミラーが長さ400mm、幅50mm、厚さ30mmである。
 ミラーベンダーは、偏向電磁石ビームラインで使用されているものと設計原理が同じSPring-8標準のクランプ回転型湾曲機構である。
現在、両ビームラインのミラー本体及び湾曲機構の製作が順調に進められている。

2-5.制御・インターロック
 BL35XUおよびBL40XUにおける制御システムは、これまでに蓄積したノウハウを基に、既存の制御システムをそのまま導入する予定である。ただし、ビームラインの構成が複雑なBL35XUのインターロックシステムに関しては、幾つかの特殊な点があるため、以下にBL35XUにおけるビームラインインターロックの概要を示す。
 BL35XUは、一つの光学ハッチと四つの実験ハッチにより構成され4種類の実験モードが想定されている。これらの実験モードは、3種類の分光器により分岐する4種類の光路に対応している。図7は各ハッチのレイアウトと放射光の光路(①から④)についての模式図である。実験モード、すなわち、この光路の切り替えによって、放射線防護から規定される実験ハッチのインターロック動作は大きく変化する。特に、1と3の光路については、一度実験ハッチを通り抜けた放射光が再度戻ってくることから、2台のエンドストッパ(ES)、3台の下流シャッタ(DSS)の動作条件、および、実験ハッチの開閉状態について、これまでにない複雑なインターロック動作が必要となる。現在、これらのインターロック動作の詳細を策定中である。 
 
 
 

図7 BL35XUの実験モード 
 

3.実験ステーション
3-1.高エネルギー分解能非弾性散乱ビームライン BL35XU

 BL35XUはこれまでの標準的なビームラインと比べ、ビームライン光学系と実験ステーションに関してより一体となって考慮しなければならず、全体設計にはひときわ努力がなされたビームラインである。このビームラインでは高エネルギー分解能非弾性散乱(IXS)および核共鳴散乱(NRS)の二つの手法を用いて物質の動的解析がおこなわれる。この実験目的を達成するには、とりわけ、〜meVすなわち結晶によるエネルギー分解能ΔE/E<10−7による非弾性散乱実験をおこなうためには、ビームライン全体設計に影響を及ぼすような少々複雑な光学系が必要になる。詳細については本稿の他参考文献[7]を参照されたい。
 非弾性散乱のスペクトロメーターにはBragg角が90°近い背面反射配置がしばしば用いられるが、このためにビームライン全体が大きなものにならざるを得ない。なぜならば、この幾何学配置は分光器や結晶アナライザにおいてエネルギー分解能を落とさずに大きな角度のアクセプタンスをもたらすが、入射光と反射光を空間的に分離するために距離を大きくする必要があるからである。さらに、ここで必要とされる程度に高いエネルギー分解能を得るために選ばれるシリコンの高次反射は比較的反射率が低く、また、高精度な温度制御を必要とするため、できれば一回反射の分光器が望ましいわけである。このため、高エネルギー分解能の分光系としての最初のコンポーネントである背面反射分光器は可能な限り光源から遠ざける必要がある。実際には蓄積リング棟の実験ホール内で収まるぎりぎりの距離として83m程度となっている。背面反射分光器は常温付近にてmKのオーダーで精密に制御する必要があり、現在SPring-8インハウスにて開発が進められている。
 背面反射後のビームは入射ビームの真上を通り光学系により適当な高低差(370mm)がつけられた後、試料位置に導かれる(図8下側参照)。試料位置は背面反射分光器から19m戻ったところに位置する。この距離を確保し、この間で平行配置のSi 111非対称反射を用いることにより往きのビームと試料への帰りのビームに十分な高低差を与えることが可能になる。また、途中には9:1集光となるように設計されたミラーが挿入され必要に応じて150×150㎜2 (FWHM)までビームサイズを絞ることができる。ミラーによる反射ビームについては最大6mradまで上向きに偏向される。このため、実験ハッチ4内の帰りのビームダクトは傾斜架台上にて角度を変えることが可能で、場合によりミラーを軸から外し、水平にビームを導くことも可能である。 
 
 
 
図8 BL35XUの光学系・実験機器の配置図 
 
 試料そのものは低温領域で温度制御するためHe循環式クライオスタットに取りつけられ、十分な大きさを有するEulerian Cradle(Huber 512.1)上に搭載される。場合によってはEulerian Cradleを取り外し、別途高圧セル等の重量200kg、直径 500mmまでの重量物を搭載することも可能である。
 スペクトロメーターは二つの独立したアナライザーアームを有する(いずれもHuber社製)。一方は散乱面が垂直な、すなわちアームが縦方向に動くもので、4〜10meV程度の比較的高いmomentum transferの測定に用いられる。もう一方のアームは10m長のもので散乱面が水平、すなわち水平方向に動くものである。これによりエネルギー分解能〜meV、10Å−1以下の小さなmomentum transferの測定が可能になる。結晶アナライザーの方向を正しく保持するためには縦方向のアームにおいて約30µrad、水平方向のアームにて15µradの極めて厳しい精度での動きが要求される。背面反射結晶アナライザーそのものはおそらく、このビームラインで最も難しいコンポーネントとなる。要求されるエネルギー分解能の点で、単に結晶をベントする方法は用いることができず、大きさ0.7×0.7×3mm3のシリコン完全結晶の小片10000個以上を球面状に磨かれた基板上に貼り付けることにより製作される。結晶アナライザーはNECにより製作される予定で、現在、SPring-8と製作方法や性能の最適化に関して共同開発が進められている。
 一方、核共鳴散乱実験は上流の実験ハッチ1、2においておこなわれる。実験ハッチ1(NRS-1)において高エネルギー分解能分光器が組まれ、試料は実験ハッチ2(NRS−2)に置かれる。ハッチを分離することにより分光器の温度を安定に保ったまま試料、測定器のセットアップ等ハッチへのアクセスが可能になる。また、コリメーター、集光レンズ、偏光子等の付加的な光学系が光学ハッチ内の予備スペースに挿入されることもある。検出器としてはいくつかの種類のアバランシェフォトダイオードを用いる予定である。
 最後にこのビームラインにおける付加的な使用形態について簡単に述べる。上記集光ミラーを光軸からはずし、ミラーと試料間の真空ダクトを傾斜架台により水平に戻すことにより、非集光で発散の小さなビームを用いることが可能である。これにより小さなqの領域において分解能の高い測定が可能になる。また、実験ハッチ2(NRS−2)から実験ハッチ4(IXS)の試料位置に向けて直接ビームを導入することも可能なように輸送系、インターロックが構成されており、測定に使用するエネルギーなどの自由度を広げることができる。

3-2.高輝度ビームラインBL40XU
 このビームラインは、生体高分子(非結晶、世話人 大阪大学 猪子洋二氏)から構造生物学研究用小角散乱ビームラインとして提案されたものだが、ビームライン検討委員会では構造生物学研究用にこだわらず汎用性を持たせて建設するようコメント付きで答申された。したがって実験ステーションも汎用性を持たせるために、基本は上面に何も固定しない長さ3m、幅1mの実験架台からなる。その上流に高速(10µs程度)と中速(1ms程度)の2つのシャッターとアブソーバ、スリットを設置する架台を置く。実験架台には、小角散乱実験用としてX、Zステージに乗った試料ステージと長さ約2.5mの真空パスを設置できるようにする。これらは軽量に設計し、容易に組み立て解体が可能なように配慮している。X線検出器としては、毎秒5000フレーム程度の高速CCDカメラ(低残光性蛍光体を使用したX線イメージインテンシファイア付き)を準備する。また、高速シャッターとイメージングプレートの組み合わせも重要な検出器となるであろう。さらに反応の励起用にYAGレーザーを設置する予定であるが、安全設備の問題があるため設置はビームライン完成後となる。実験ステーション機器の概要について図9に示す。 
 
 
 
図9 BL40XUの実験ステーション機器 
 

4.おわりに
 これら2本のビームラインは、先の偏向電磁石ビームラインに並行して、もしくは、ほぼ連続的につながる格好で整備が進められている状況にあり、今秋以降には試験調整運転がはじめられる見通しである。
 最後に、ビームライン建設に関して各方面にてご尽力を頂いた原研、理研、財団の事務の皆様、多田室長をはじめとする安全管理室の皆様に感謝します。

参考文献
[1]石川哲也:SPring-8利用者情報Vol.3,No.5,7-10(1998).
[2]後藤俊治他:SPring-8利用者情報Vol.4,No.3,53−64(1999).
[3]T.Ohata et al.:J. Synchrotron Rad,5,590−592(1998).
[4]原 徹他:SPring-8利用者情報Vol.1,No.3,19−23(1996).
[5]T.Hara et al:J.Synchrotron Rad、5、403−405(1998).
[6]T.Koda:私信
[7]A.Q.R.Baron,Y.Tanaka,S.Goto,K.Takeshita,T.Matsushita and T.Ishikawa:"An X-Ray Scattering Beamline for Studying Dynamics",J.Phys.& Chem.Solids,Accepted for Publication,(1999).Also available from the authors(please send e-mail to baron@ spring8.or.jp)



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