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Volume 04, No.3 Pages 80 - 82

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第2回SPring-8利用技術に関するワークショップ報告
Report on the 2nd Workshop of Experimental Techniques at SPring-8

伊藤 正久 ITO Masahisa

姫路工業大学 理学部 Faculty of Science, Himeji Institute of Technology

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 1999年3月4日、および、3月5日の両日、表記ワークショップがSPring-8の中央管理棟1階講堂と蓄積リング棟2階会議室を会場として開催された。北は札幌・北海道大学から西は福岡・九州大学まで、全国各地から計138名の参加者が集まり、盛大なワークショップであった。
 ワークショップに先立ち主催者側からの挨拶があった。最初に、JASRI・放射光研究所の菊田副所長がSPring-8の現状紹介と将来展望を含めた話をされた。施設側からの提案ともいうべき重要な話もあり、話題は多岐にわたった。そのキーワードを列挙すると、21本目以降の共用ビームライン建設、50〜150keVのミニポールアンジュレータビームライン、トロイカ方式によるビームラインの効率化、既存ビームラインの高度化、産業界による利用の促進、課題申請方式とプロジェクト方式、研究ハイライト、SPring-8のCOE化、等々であった。次に、SPring-8利用者懇談会の松井会長の挨拶があり、3月19日開催予定の拡大世話人会議における議題が、(1)RI実験棟、(2)長尺ビームライン、(3)長直線部利用、であろうことそして、これらを意識した議論が行われることを期待する旨の話をされた。また、本ワークショップの各セッションに関係しているビームラインとサブグループを整理して紹介された。次いで、このワークショップを企画された、利用者懇談会・坂田行事幹事からワークショップ開催に至る経過説明があった。
 今回のワークショップでは、生命科学系と材料科学系、それぞれ2つずつ計4つのセッションが用意され、生命系、材料系のパラレルセションで行なわれた。生命科学系はイメージングとタンパク質結晶解析構造のセッション、材料科学系は赤外光とコヒーレント光のセッションであった。それぞれのセッションは3時間で、5〜8名の講師によりSPring-8の現状や将来計画、展望等が話され、活発な討論が行なわれた。
 生命科学系のセッションは、現に稼動しているビームラインで行なわれた実験の成果を踏まえた報告、といった色彩が濃かったように思う。これに対し、材料科学系のセッションは、新しく誕生するビームライン(赤外光BL)、あるいは、新しく誕生したサブグループ(コヒーレントX線光学SG)のお披露目といった趣であった。筆者は、コヒーレントX線光学SGの一員であるので、コヒーレント光セッションにかたよることを予めお断りした上で、各セッションの概略を紹介してみる。
(1)イメージングセッション
 放射光を用いる種々のイメージング技術が紹介され、主としてそれらの生体試料への適用例が示された。特に、第3世代の非常に平行性の高いビームを用いた位相/屈折コントラストイメージは美しく、医療への応用を期待させられるものがあった。私事で恐縮であるが、筆者の親族が数年前に心臓のバイパス手術を受けたことがある。その際、手術前に、X線を使って冠動脈の血流をリアルタイムで見て、どこで血流が途絶えているかを調べる検査を行なった。この検査自体、5〜6時間もかかる手術に近いものであり、検査中の死亡率も1%程度はある、と医者から言われたのを記憶している。このような放射光を用いたイメージング技術が早く医療現場で実用化され、患者への負担が少しでも軽くなることを期待したい。
(2)タンパク質結晶構造解析セッション
 現在、SPring-8で稼動しているタンパク質結晶構造解析関係の4本のビームライン(BL41XU(共用)、BL45XU(理研)、BL44B2(理研)、BL24XU(兵庫県))で、それぞれどのような特色のある実験がなされているかが紹介された。さらに、建設中のビームライン(BL40B2(共用)、BL44XU(阪大タンパク研))も含めて、今後どのような研究が期待されるかが議論された。多波長異常分散法等の紹介や、10ミクロンオーダーの微小タンパク結晶の構造解析という意欲的な計画も示された。
(3)赤外光セッション
 このセッションは今年度から建設がスタートする赤外光ビームラインに関するものである。まずこのBLの建設推進母体である赤外物性SGの世話人である難波氏から、赤外物性SGの目指すところ、並びに、赤外光BLの全体像が示された。ついで予定されている2つの実験ステーション、赤外顕微鏡ステーションと表面科学ステーション、についてそれぞれのステーションの概要と、そこでどのような実験を目指しているか、あるいは、どのような研究が期待できるか、が話された。硬X線ビームラインに長年慣れ親しんできた筆者には赤外光ビームラインの構成が非常に新鮮に感じられた。
(4)コヒーレント光セッション
 このセッションはこれから建設される2種類の大型ビームラインに関するものである。一つは、いわゆる30m長直線部を利用した超高輝度アンジュレータビームライン、もう一つは1km長尺ビームラインである。どちらも基本的には理研のビームラインであるが、対応するSGからの協力を得てBLの建設・運営を行なっていきたい、とのことであった。30m長直線部アンジュレータBLは硬X線BLと軟X線BLの2種類が計画されている。理研の北村氏からそれぞれの光源の概略が示された。現在のSPring-8標準アンジュレータの約5倍の長さということで、その超高輝度ビームにはわくわくさせられるものがある。ただし、出射されるパワーも強烈(出射点から100m先の1mm平方あたり100W)で、硬X線領域では傾斜型分光結晶が唯一そのパワーを吸収可能であるが、軟X線領域では現時点ではこのパワーに耐えられる分光器がない、とのことであった。従って軟X線BLはヘリカルあるいは、8の字アンジュレータとならざるを得ない、とのことであった。理研の石川氏からは1km長尺BLの概要の説明があった。1kmのビームダクトを保護する建屋の建設はさぞ大変だろうと思っていたのだが、実はその必要がなく、ビームダクトを大気中に露出する方法でBLの建設が可能である、ということで驚いた次第である。また、このBLを使った、重力場による赤方偏移の検出の可能性が示された。村井氏からは放射光とは異なるX線光源である“コヒーレントレーザープラズマX線レーザー”の紹介があった。これは、強力レーザーにより発生するプラズマからX線(ここでは89.2eVのエネルギー)が放射されるが、それが部分的にコヒーレントでありX線レーザーである、とのことであった。輝度が5×1025photons/sec/mrad2 /mm2 in 0.1%B.W.にも達する、という紹介があった。ただし、“X線”とは少なくとも空気を透過するものでなければならず89.2eVを“X線”と呼んでよいのだろうか、また、レーザープラズマX線は1時間程度に1発出射するns程度の極めて短いパルスであるのでそのdurationも加味した輝度でないと放射光の輝度と直接比較はできないのではないか、という指摘もあった。しかし、プラズマ“X線”が有力な次世代光源の一つであることは間違いないであろう。次いで、長直線部BLで期待されるであろう実験、X線パラメトリック散乱、超精密ポラリメトリーによる核力検知の可能性、および、軟X線ラマン散乱、の紹介・提案が、それぞれ、菊田氏、雨宮氏、辛氏よりあった。
 最後に、放射光利用実験に関する私見を少々述べてみたい。本ワークショップでは第3世代高輝度放射光を利用する実験・研究の紹介であったが、SPring-8の高輝度特性を有効に利用する実験を行なうには、放射光源に関する知識が相当に必要だと思われる。光源には偏向磁石に加え、直線アンジュレータ、ヘリカルアンジュレータ/ウィグラー、8の字アンジュレータと多種多様の挿入光源がある。放射光ユーザーは自分の計画している実験にはどの光源・ビームラインが最も適しているかを判断しなくてはならない。しかし一般ユーザーがこれらの放射光源の特性をすべて把握するのは容易ではない。適切な例ではないかもしれないが、先日、脳死患者からの臓器移植が大きな話題となり、その分野では臓器提供者と移植患者とを橋渡しする移植コーディネーターの存在が知られるところとなった。そこで放射光の分野でも、放射光源に精通し、かつ、個々の放射光利用実験もある程度理解していて、ユーザーと放射光源の間を橋渡しできるような専門家(放射光コーディネーターとでも呼ぶのだろうか?)が必要なのではないだろうか。  
 
第2回SPring-8利用技術に関するワークショップ(目次)
(平成11年3月4日(木)〜5日(金)) 
  
 開会の挨拶
1.挨拶       菊田 惺志(JASRI・放射光研究所副所長)
2.挨拶       松井   純爾(姫路工業大学・SPring-8利用者 懇談会会長)
3.経過説明    坂田 誠(名古屋大学・SPring-8利用者懇談会行事幹事) 
 
○イメージングセッション   3月4日 14:30〜17:30 
 
Ⅰ蛍光X線イメージングと生体計測への応用
 1.走査型X線顕微鏡と得られる画像について 早川慎二郎(東大院工)
 2.SPring-8での生体中微量元素計測の可能性について 武田 志乃(筑波大)
 3.SRマイクロビームとパーキンソン病について 高田 康治(京大院工) 
 
Ⅱ位相/屈折コントラストイメージング
 4.X線干渉計を用いた位相コントラストイメージング 百生 敦(日立・基礎研)
 5.屈折コントラストイメージング 津坂 佳幸(姫工大理) 
 
Ⅲマイクロビーム技術と顕微鏡
 6.1〜10keVのX線顕微鏡 木原 裕(関西医科大)
 7.硬X線フレネルゾーンプレート製作とマイクロビームの生成 上條 長生(関西医科大/SPring-8)
 8.X線屈折レンズとBL47XUにおけるイメージング実験 香村 芳樹(播磨理研)
  
○赤外光セッション 3月4日 14:30〜17:30 
 
Ⅰはじめに
 1.SP8赤外BLの概要とねらい 難波 孝夫(神戸大) 
 
Ⅱ赤外顕微鏡ステーション
 2.ステーションの概要と地球科学利用 篠田 圭司(大阪市立大)
 3.医学利用 三好 憲雄(福井医大) 
 
Ⅲ 表面科学ステーション
 4.ステーションの概要とねらい 桜井 誠(神戸大、分子研)
 5.IRASからの期待 川合 真紀(理研)
 
懇親会(SPring-8食堂)18:00〜19:30
 
○蛋白質結晶構造解析セッション   3月5日 9:00〜12:00
「タンパク質結晶学が創り出すサイエンス−何をやるべきか?何ができないか?」 
 
1.はじめに 三木 邦夫(京大院理)
2.タンパク質結晶学BLの現状と将来 神谷 信夫(播磨理研)
3.生物超分子複合体結晶学  月原 富武(阪大蛋白研)
4.時間分割動的結晶学 足立 伸一(播磨理研)
5.高分解能MAD法による結晶学 中川 敦史(北大院理)
6.理研ビームラインの目指すもの 井上 頼直(理研)
7.微小結晶構造解析への期待 森本 幸夫(姫工大理)
8.X線構造生物学の今後 三木 邦夫(京大院理) 
 
○コヒーレント光セッション   3月5日 9:00〜12:00 
 
1.30m超高輝度アンジュレータの特性 北村 英男(理研)
2.コヒーレントレーザープラズマX線レーザーの開発研究 村井 健介(大阪工業技術研)
3.1km長尺ビームラインの特性  石川 哲也(理研)
4.X線パラメトリック散乱 菊田 惺志(JASRI)
5.光学2次過程の光物性 辛  埴(東大物性研)
6.超精密光学活性の測定  雨宮 慶幸(東大工) 

 
伊藤 正久 ITO  Masahisa
姫路工業大学 理学部物質科学科
〒678-1297 兵庫県赤穂郡上郡町金出地1475-2
TEL:0791-58-0145 FAX:0791-58-0146
e-mail:itom@sci.himeji-tech.ac.jp
専門:回折構造学
現在の研究テーマ:主に強磁性体を対象としたX線磁気回折
による磁気構造



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794