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Volume 04, No.2 Pages 45 - 46

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPring-8シンポジウムに参加して
Report from an Attendee on the 2nd SPring-8 Symposium

曽田 一雄 SODA Kazuo

名古屋大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya University

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 シンポジウムに軟X線共用ビームラインBL25SUのユーザーとして参加させていただいた。高エネルギーマシンであるSPring-8では、軟X線などの長波長ユーザーは少数派ということであろうが、ポスター発表65件のうち、軟X線関連7.5件、赤外線利用1件の合計8.5件(13%)が長波長利用関連の報告であった。口頭の報告では、原研軟X線ビームラインBL23SUと共用軟X線光化学ビームラインBL27SUの2本の軟X線ビームラインについて準備状況が報告された。また、30m長尺挿入光源BL19ISの報告では、超高輝度光源のSPring-8で初めて可能となる軟X線干渉光発生が話題となり、その活用に関して「斬新なアイデアを」とユーザー側に課題が投げかけられた。

 すでに共同利用が開始された軟X線共用ビームラインBL25SU関連の報告は全部で7件である。このビームラインは円偏光アンジュレータを光源としており、調整が進んでいる測定装置との関係から、今回BL25SU利用として報告された研究対象は、ほとんどが磁性関連のものである。今回のポスターでは、磁気円二色性測定の結果2.5件、高分解能光電子分光測定の結果3.5件が報告された。遷移金属元素2p内殻吸収スペクトルの磁気円二色性測定から、Fe合金、Mn合金などについて、それらの磁性を担う3d電子状態の軌道角運動量とスピン角運動量を直接明らかにすることができるようになった。高分解能光電子測定では、これまで主流であった100eV程度の光子エネルギー領域での比較的表面敏感な測定と対照的に、バルクに敏感な高いエネルギー領域を高分解能で使用できるようになり、近藤半導体のCe3d−4f高分解能共鳴光電子分光などが報告されている。

 ところで、研究交流施設(宿泊施設)から眺める朝霧に包まれた播磨科学公園都市は仙峡である。実際、科学文明と衝突するダイダラボッチの使い達も数多くいるそうだ。測定の時には、そんな幽玄な景色や自然をゆったりと味わう暇もなかった。もちろん、広い実験ホールのビームライン・ユーザーは大都市マンションの住人のようである。しかし、シンポジウムでは、ポスター会場で並んで発表していたBL39XUの磁気散乱・吸収サブグループの方々との楽しい交流もあり、このような交流を通じて、今後、軟X線領域とX線領域の相補的な研究の進展が期待された。個人的には、いつか自己紹介から「軟」の字を外してみたいものである。また、懇親会とその後研究交流施設のロビーで振舞われたワインに舌鼓を打ちながら、飲み過ぎて詳しい話題が何であったかは忘れてしまったが、面識のあるなしにかかわらず分野と年代を越えて教育についても話が弾んだ。マシンタイム中は休息に使えるかどうかも怪しかった施設を文字どおりに利用した有意義な一時であった。

 そんななか、先日テレビで見た、脳治療における低体温療法について思い出した。これまで脳死に至ると思われた人々がこの療法で快復する可能性があること自体も重要な意味があり、脳に出入りする血液温度の監視や脳内化学物質の活性化温度の研究など、最先端の技術や研究成果も興味深かった。もう一つ感銘を受けたのは、この療法の成功の陰に、冬眠中の熊の体温についての研究が光っていたことである。冬眠中の熊の体温がどれだけ下がったら、熊は眠りから覚めないか? 新しい療法に取り組んでいる医師の情熱や工夫・着眼の素晴らしさもさることながら、熊の体温に興味をもった研究があることの素敵さ。その論文の緒言には何が書かれているのだろう。これを見るにつけても、短期的な効率や効果のみが声高に叫ばれるように思われる昨今、大切な何かが教育や学問・研究から消えつつあるのではないか、と不安になる。

 SPring-8における長波長利用は、メインユーザーではないかもしれないが、高輝度赤外線ビームラインの建設準備や新しい軟X線サブグループの結成など、SPring-8の高輝度性を軸に着実に進展しているようである。先行ビームラインBL25SUも、当初予定より共同利用開始が遅れたが、今回のポスター発表では、他のビームラインと比べ、それを感じさせない。これもひとえにこのビームラインの建設を引っ張ってきたO大学S研究室のスタッフ、院生、そしてOBの方々の並々ならぬご努力の賜物であると感じた。実際、彼らの惜しみない助力がなければ、普段BL25SUの装置に触れていない私が、多くの新人を教育してもらいながら、短期間で実験をこなし、その成果をシンポジウムで報告することも、この報告を書くこともなかった。もちろん、SPring-8を支えている他の方々のおかげであることは言うまでもない。誌面を借りて感謝の言葉を伝えたい。
みなさま、どうもありがとうございました。



曽田 一雄 SODA  Kazuo
1954年生まれ
名古屋大学大学院 工学研究科
〒464-8603 名古屋市千種区不老町
TEL:052-789-4683 
FAX:052-789-5155
e-mail:j45880a@nucc.cc.nagoya-u.ac.jp
略歴:1982年名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期課程(結晶材料工学専攻)修了、工学博士。東京大学物性研究所軌道放射物性部門助手、大阪府立大学工学部数理工学科講師を経て、現在、名古屋大学大学院工学研究科結晶材料工学専攻助教授。日本物理学会、日本放射光学会、日本原子力学会会員。
最近の研究:加速器を利用した物性研究、特に、赤外から軟X線までの放射光を用いた固体の電子状態に関する分光学的研究。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794