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Volume 04, No.2 Pages 21 - 25

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

XAFS BL01B1実験ステーションの現状
Current Status of the XAFS BL01B1 Experimental Station

宇留賀 朋哉 URUGA Tomoya、谷田 肇 TANIDA Hajime

(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Promotion Division

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1.はじめに
 ビームラインBL01B1は、広いエネルギー領域(4.5〜110keV)に渡り、多様な手法を用いてXAFS研究を行うことを目的として建設された。ユーザー利用は、1997年10月の供用開始以降進められており、現在までにTi K(4.9keV)からBi K(92keV)までの元素に対して測定が行われている。昨年の立ち上げ時期は前回の報告(本誌Vol.3,No.1,P17〜20)で述べたように、一つのXAFSデータを得るのに時間がかかる、分光器やミラーのセッティング変更が大変である、実験ハッチ内機器の使い勝手が悪い、XAFS計測プログラムにバグがある等、いくつかの問題を抱えていたが、一年の間に徐々に改善が進められてきた。本稿では、1999年2月時点におけるBL01B1の状況について報告を行う。BL01B1の建設計画の概要については本誌Vol.1,No.3,P27〜29を参照して頂きたい。

2.輸送系の概要

 BL01B1は、主要光学素子として前置コリメーションミラー、定位置出射二結晶分光器、後置集光ミラーが配置されたSPring-8偏向電磁石標準ビームラインのうちの一本である。このビームライン設計の特徴は、広エネルギー領域に渡り高エネルギー分解能、集光及び高調波除去を達成できるところにあり、XAFS実験用のビームラインとして適した性質を備えている。現状では集光は上下方向のみ可能であるが、将来的には二次元集光を計画している。
 分光器は、広いエネルギー領域がカバー可能な傾斜可変式二結晶分光器である。一組のSi(311)結晶を用い、光軸に平行に配置された軸の周りで結晶の回転を行うことにより、分光器真空チェンバーを真空リークすることなく高速にSi(111)、Si(311)及びSi(511)の各結晶面を切り変えることが可能である。第一結晶はフィン型直接水冷却タイプである。第二結晶は間接水冷却した平板結晶を用いている。分光器のブラッグ角の駆動範囲は当初3〜27degであったが、真空チェンバー内の水配管の改造等により、3〜32degに拡張された。これにより、各結晶面でカバー可能なエネルギー領域が低エネルギー側に多少広がり、Si(111):3.8〜37keV、Si(311):7.1〜72keV、Si(511):11.2〜113keVとなった。複数の結晶面が重複するエネルギー領域では、測定目的に適したエネルギー分解能、フォトン数、エネルギースキャン時のビーム安定性等を総合的に判断して結晶面を選択する。分光器のブラッグ角は回転軸に直結したエンコーダーにより読み取る。読み取り分解能は5×10−5 deg=0.18arcsecである(パルスモーターの送り分解能は0.2arcsec)。
 前置ミラーは、分光器の上流で光の縦方向の角度発散を平行化することにより、エネルギー分解能を高める機能を持つ。前置ミラーを使用した場合、スリットの縦開口を狭めることにより同程度のエネルギー分解能を得るのに比べ、数倍多いフォトン数が得られる。後置ミラーは、分光器の下流に設置され上下方向の集光を行う。両者は共に、反射材としてRhがコートされており、ベンダーにより光軸方向に沿って円筒面状に曲げられる。前置ミラーには白色光の熱負荷がかかるため、母材には単結晶シリコンを採用し、側面から間接水冷却している。後置ミラーの母材は溶融石英である。 ミラーの長さは共に1mである。両ミラーは全反射臨界角を利用し高調波をカットする機能も持つ。カットオフエネルギーに応じて、ミラーの傾き角は1〜7mradの範囲で設定する。ミラーは通常40keV程度まで使用し、それ以上では放射光光軸から外す。
 ミラーの傾き角を変えると反射光の方向も変移する。これに対応するため、前置ミラーから後置ミラーまでの間のコンポーネントは傾斜架台上に、後置ミラーから下流のコンポーネントは昇降架台上に設置されている。両架台の位置は傾斜架台下流端に設置されたレーザー測長器により計測される。傾斜架台の傾き角の分解能は±13μradである。
 入射光は前置ミラー上流の第一スリットによりまず整形され、後置ミラーの上流と下流に設置された二つのスリットにより輸送チャンネル内で生じた散乱が抑えられる。

3.試料位置でのビームの性質
 以下では、蓄積リング電流値70mA運転時に計測された試料位置でのビームの性質を述べる。
試料位置でのビームサイズは、後置ミラーにより上下方向が集光された場合、0.06〜0.2mm(FWHM)である。水平方向のサイズは試料前スリットで決定される(最大20mm)。
 エネルギー分解能は、ミラー挿入時(〜40keV以下)には、前置コリメーションミラーの理想形状(放物面)からのずれと分光器結晶の回折幅から決定される。各結晶面を使用した場合の測定値は、Si(111):ΔE/E〜2×10−4、Si(311):ΔE/E〜6×10−5、Si(511):ΔE/E〜3×10−5である。ミラーなしの場合(〜40keV以上)は、光源の上下サイズ(〜0.1mm)と受光スリットの上下幅により決定されるビーム角度発散と分光器結晶の回折幅から決定される。通常、受光スリットの上下幅をサブmmに設定し、2〜10eVの分解能で実験を行うことが多い。
 試料位置でのフォトン数は、4〜110keVの領域で109 〜1011 photons/secである。
 SPring-8偏向電磁石光源は高いエネルギー領域までフォトン数が多いため、高調波カットを行うことが必須となっている。40keV以下の領域では、やむを得ない状況以外、ミラーによる高調波カットが推奨される。ミラーを入射光に対して適当な角度に傾けることにより、一次光に対する反射率は70%以上でかつ高調波の混入比を10−5 以下に抑えることが可能である。但し反射材としてRhがミラー表面にコートされているため、スペクトルに影響が生じ得る元素(Re及びRh)では使用に当り注意が必要である。40keV以上でミラーを使用しない場合、高調波の混入比は、分光器結晶の平行度を100%チューンした状態で1%以下である。

4.実験ハッチ内整備機器
 実験ハッチ内には、アルミハニカム製定盤(1.2×2m)上に、試料前4象限スリット、計測機器及び試料周辺機器が設置されている(図1)。ミラーの傾き角を変えると、試料位置での放射光の高さは最大250mm変化する。それに対応して、定盤の高さをパルスモーター駆動により調整する。
 
 
 
図1 
 
4-1.計測機器
 標準的な計測方法はイオンチェンバーを用いた透過法XAFSである。イオンチェンバーは6.5cm長、17cm長及び31cm長の3種が用意されている。イオンチェンバーの電流値は、電流アンプで増幅、VFコンバーターにより電圧−周波数変換された後、カウンターにより計数され、ユーザーPC(DOS/Vマシン)に取り込まれる。イオンチェンバー用のガスはHeからKrまでの各種純粋及び混合ガスが用意されている。各ガスは予め成分比が調整された状態でボンベに充填されている。高いエネルギー領域ではXeガスを封入したイオンチェンバーが用意されている。封入ガス圧は標準では1kgf/cm2である。
 蛍光XAFS測定用には、Lytle検出器と単素子Ge検出器が用意されている。また各種の散乱光吸収用フィルターが用意されている。Lytle検出器は、散乱除去スリットの材質がAl、検出部のガス吸収層の厚さが50mmである。現在、高エネルギー対応型のLytle検出器を計画中である。Ge検出器は、素子の有効面積が200mm2、吸収厚さは10mmであり、113keV以下で95%以上の吸収率をもつので、高エネルギー領域まで使用可能である。
4-2.試料位置調整台
 微小試料等の位置調整用には、パルスモーター駆動のXZステージ(耐荷重:15kg)が用意されている。送り分解能はX軸、Z軸共1μmである。
全反射配置XAFSや結晶試料に対するXAFS計測用には、精密θ回転ステージ(耐荷重:15kg)が用意されている。これにはパルスモーター駆動の2θ回転ステージ及びZステージが付いている。送り分解能は、θ軸:0.005arcsec、2θ軸:0.001deg及びZ軸:1μmである。
 これらのステージは、ユーザーPCからパルスモーターコントローラーを介して制御することができる。制御ソフトにより試料を移動しながら放射光の吸収量や散乱量をモニターしながら最適セッティングを行うことが可能である。ユーザーが自前のステージ類を持ち込む場合、パルスモータードライバー及びケーブルが準備されていれば、この制御ソフトを利用することが可能である。
4-3.試料温度調整
 クライオスタットは、6.5〜300Kの範囲で試料の温度調整が可能である。温度安定性は±0.1Kである。冷却速度は室温から6Kまで約50分である。冷凍機運転時には振動が生じ試料位置が±10μm程度変動する。この振動が計測機器へ伝播すると測定信号にノイズが発生する。それを防ぐためにクライオスタットと定盤との間には防振ゴムが挿入されている。水冷小型電気炉は、300〜1070Kで温調可能である。温度安定性は±1K以下である。電気マッフル炉は、300〜1870Kで温調可能であり、現在立ち上げ準備中である。これらの機器にはいずれも透過光測定用窓と蛍光測定用窓が取り付けられている。標準の窓材はカプトンである。Lytle検出器、Ge検出器と組み合わせることにより蛍光モードの測定が可能である。

5.制御系
5-1.光学系のセッティング

 よりよいXAFSデータを収集するには、実験条件(エネルギー領域、エネルギー分解能、計測方法等)に合わせて、ビームライン光学系を最適なセッティングに持っていくことが不可欠である。BL01B1では特に3.8〜113keVという広いエネルギー領域に対応するため、複数の光学素子の位置を最適位置に調整する必要があり、制御の手順が複雑になっている。
 BL01B1での主な光学系のセッティング変更は、分光器の回折面切換と、ミラーの傾き角変更の2つである。分光器の面切換では、第一・第二両結晶のあおり角変更、第一結晶の第二結晶に対する平行化及び定位置出射調整を行う。また、ミラーの傾き角変更では、両ミラーの傾き角変更及びベント量変更、傾斜架台傾き角及び昇降架台高さ変更、実験ハッチ内定盤高さ調整、後置ミラーの高さ調整、及び第二・第三スリットの高さ調整を行う。
 XAFS実験ではユーザーや測定元素が頻繁に替わるため、他のビームラインに比べ光学系のセッティング変更の頻度が高く、多い時には一日2、3回行われることもある。このため、光学系のセッティング変更は迅速、精確かつ簡便に行うことが求められる。これに対処するため、セッティングの変更をユーザーPCから自動制御するプログラムが整備されている。このプログラムでは、作業者が入力するパラメーターは基本的には分光器の結晶面もしくはミラーの傾き角のみである。各光学素子は最適位置のテーブルが作成されており、その位置まで移動する。微調整が必要な場合は更に位置決めスキャンを自動的に行うようなっている。現状、分光器結晶面切換とミラー傾き角変更はそれぞれ30分程度で完了する。これは、XAFSの標準スペクトルを一つ測定するのに要する時間と同程度である。
5-2.エネルギースキャンの改善
 XAFS実験の場合特に、限られた時間内にできるだけ多くの試料の測定を行いたい。そのため分光器のエネルギースキャン時に実際の計測時間以外に要する時間を出来るだけ短縮することが必要である。光学素子の制御はビームラインワークステーションを通して行っている。分光器を次の測定点のエネルギーまで送る時は、通常分光器の動作状態をビームラインワークステーションに問い合わせながら送る。この通信には時間を要する。この通信を回避するために、分光器へ送りコマンドを送ってからデータ計測が可能になるまでの時間(分光器の移動が終了し、送り動作の際に生じた振動が停止するまでの時間)を実測し、これを計測開始までの待ち時間として設定するようにプログラムを改良した。この改良により、1点あたりの計測以外の時間が1.5秒程度に短縮された。
 分光器をエネルギースキャンする際、第一結晶はリニアガイド上を並進移動する。この時、リニアガイドの不完全さにより第一結晶と第二結晶の平行度が崩れる。これにより放射光強度が変動する。特に高エネルギー領域では分光器結晶の回折幅が狭いため、強度変動が顕著になる。XAFS測定では種々の理由により測定光の強度は滑らかに変動することが望ましい。そこで、ピエゾ素子で第一結晶を振りながら入射光強度を測定し、最大強度の位置を二次関数フィッティングで求め、第一結晶をその角度に送るという手順で制御を行っている。このピエゾ素子制御にはエネルギー1点あたり1秒程度かかり、上記の分光器の送りに要する時間(約1.5秒)を含めると計2.5秒程度要する。
 XAFS測定では通常低エネルギー側から高エネルギー側へエネルギースキャンすることが望ましい。これは主に測定の早期に吸収端のジャンプ量やXAFS信号の大きさが判明し、試料の善し悪しが判定できるためである。当初、この方向のスキャンは分光器の動作性能維持のため許可されていなかった。最近、第一結晶の荷重キャンセル機構が正常に動作することを確認し、制御プログラムを改良をすることにより可能となった。
5-3.ユーザーが使用する制御・計測プログラム
 分光器、ミラー等の光学素子の制御、実験ハッチ内機器の制御及びXAFS計測は、ユーザーPCから操作する。ユーザーは図2に示されるメニューから駆動するプログラムを選択し操作するようになっている。プログラムはNational Instruments社のアプリケーションソフトLabVIEWで書かれている。XAFS計測では図3に示される画面上で操作を行う。ユーザーは、エネルギースキャンパラメーターの読み込み及び書き込み、ピエゾ素子による第一結晶の制御の選択等を行う。パラメーターファイル及びデータファイルのフォーマット(ASCII)は、KEK PFの野村氏の作成されたものに準拠しているので、パラメーターファイルはそのまま使用することが可能である。パラメータファイルは現場で作成することも可能である。得られたデータはフロッピディスクで持ち返って頂く。 
 
 
 
図2 
 
 
 
図3 
 
6.ユーザーの準備
6-1.実験計画

 各ユーザーに対しては、配分されたビームタイムの数週間前に、計画されている実験内容等について、ビームライン担当者側からe-mailによる問い合わせを行い、その回答をもとに準備事項の確認を行っている。初心者ユーザーに対しては、熟練ユーザーのビームタイム時に実地研修して測定手順を習得して頂き、その際に実験の打ち合わせを行うことを計画している。また、BL01B1の状況や使用マニュアル等を掲載したWWWホームページ(http://bl01b1. spring8.or.jp)を公開している。より詳細な情報に関しては、そちらで随時提示して行きたい。
6-2.試料の調整
 BL01B1の実験準備室では錠剤整形、シール等簡単な試料調整のみ可能である。SPring-8全体では共用の化学実験準備室の利用が可能である。設備の内容及び使用方法等についてはWWWホームページ(http://haruya.spring8.or.jp/CAD/chemlab/chemlab.html)を参照して頂きたい。透過法でのXAFS測定では試料濃度、厚さの均一性が求められるので、可能な限りBN等を担体にして錠剤にする等の工夫を行うことが望ましい。

7.今後の課題
 XAFSスペクトルの測定時間は、この1年間でかなり短縮されてきたが、分光器のエネルギースキャンは更に高速化されることが望ましい。これに対応するため分光器の動作機構の改造を含めた検討を進めている。
 光学系のセッティング変更は現状、ビームライン担当者もしくは担当者から許可を与えられた者のみが行うことができる。ユーザーは、ビームライン担当者と相談しながら光学系のセッティングを決定し、調整を担当者に依頼する方式になっている。このため、光学系セッティング変更は10:00〜18:00に行うよう制限させて頂いている。将来的に光学系の調整をユーザーが行えるようにするには、一部ユーザーPCからの制御が自動化されていない装置の改良、安全性の確認、ユーザーの教育等をクリアすることが必要であり、現在準備を進めている。
 最後に、BL01B1の整備、運転に協力して頂いているテクニカルスタッフの高崎大輔氏を始めとするSPring-8内部スタッフと旧建設サブグループのメンバーに感謝いたします。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794