Volume 04, No.2 Pages 19 - 20
2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
課題審査を終えて −実験技術、方法等分科会−
– Method & Instrumentation Division –
1.審査を終えての一般的感想
第一に感じたことはこの分科会の「実験技術」とはなにかということがあまり明確でなかったことである。私は当初、純粋な意味での実験技術の開発テーマを期待し、他の分科会とくらべれば応募数も少ないであろうとたかをくくっていた。ところが実際にふたをあけてみると半年ごとに40を越えるような結構な数の応募があったのである。この大部分は実質的にはビームラインや装置の立ち上げにかかわるものであった。しかし詳細にみると次のような分類ができたものと思われる。①ビームラインが立ち上がっておらず本当に立ち上げが必要なもの、②ほぼ立ち上がっているが新しい技術や方法を導入したのでそれなりのテストが必要なもの、③通常の共同利用ができるようになっているが、建設者のプライオリティで「立ち上げ」とみなして通常の実験をおこなうもの。
実は、課題の公募は装置が完成してから行うのが普通であり、その意味では①、②は公開するには時期尚早なのである。しかし諸般の事情により課題の公募を急ぎ、立ち上げが必ずしも十分でない時点で課題の公募をおこなったというのが、そもそもの矛盾の根元であったかもしれない。しかし審査員はこの諸般の事情をよく理解したうえで、上のような微妙な差異に注意しつつ審査をおこなった。
本来の意味での「実験技術」、すなわちすでに立ち上がったビームラインにおいて新しい実験技術上のテーマについて研究する申請課題ももちろん存在していた。ところが逆に「ビームラインが立ち上がっていないので実行不能」と判定されてしまったものもある。これは結果として「不採択」となることを意味するが、決して申請者の責に帰すべきものではない。しかし「不採択」を通知された申請者にとっては現実にはゆゆしき問題である。
そこで現在のような過渡的な建設期においては、多少の「機会均等主義」的な配慮もおこなった。すなわち、半年ごとに申請の機会があるので、似たような申請である場合「一回休み」にして、異なる課題に機会を与えるということである。特に、新しくできた施設の場合、利用者の裾野を広げることも重要であるので、多少そのような配慮をしたわけである。
しかしながら、前記の①のカテゴリーは実際に相当の時間を必要とするのでその多くは採択せざるを得ないのが多かったように思う。ただし②、③にも配慮して配分時間を圧縮したものが多い。この場合、オフラインでもできるような立ち上げ作業はビームタイムに算定しなかったのは当然である。
以上のように、この分科会での審査はいろいろなファクターを考慮せねばならず、委員の間でも結構激しい議論があったと思う。おそらく次期の審査委員は本来の「実験技術」に関するテーマとは何かについてあらかじめ議論しておいたほうがよいと思われる。この内容は、ビームラインの完成度によっても異なるので、簡単な物差しではなく結構複雑できめの細かい物差しが必要になるかもしれない。
2.審査の形式について
課題を半年ごとに公募し、はっきりと時間配分を決めるやりかたは、大部分の利用者にとって大変ありがたいことだと思われる。とくに学生をかかえる大学の研究者にとっては、学位論文その他の関係でスケジュールが明確であることは研究計画立案の上で望ましいことである。この形式は今後も是非継続してほしいと考えている。また、原則としてPFのように外部レフリーに頼んだりしないということも、それぞれの期における審査の公平性をたもつためにはよいことである。PFの場合、外部レフリーによって著しく評価が異なり実質的に不公平が生ずる危険性があるからである。
ただ、時間配分まで決めるとなると審査員の負担はそれなりに大変で2日がかりの仕事となる。そこで提案であるが、審査員は任期を終えたら原則として全員、またはせめて半分でも交代したらどうか。それは、審査員にもいろいろな独断と偏見がありうるので、その任期中には同一の基準で審査できても、どこかで考え方の違う審査員を入れないと長期的に公平性を保てないからである。
3.申請文を書く上での要望
特に「実験技術」だから強調するわけではないが、定量的な表現がほしいと思うことがある。たとえば「非常に強力な」とか「十分小さく無視できる」とかいう表現にしばしば出会うが、もう少し定量的に表現してほしいところである。場合によってはオーダーについて2桁くらいの誤差で表現してもらえば十分なことも多いのである。審査員もすべての分野の専門を網羅しているわけではないので、申請者が常識と考えていることも審査員が知っているとは限らない。定量的に書いてさえあれば「本研究は非常に重要である」などと書いてなくても、およそ重要性の見当はつくことが多いのである。
宮原 恒昱 MIYAHARA Tsuneaki
東京都立大学大学院 理学研究科 物理学専攻
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