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Volume 04, No.2 Pages 13 - 14

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

課題審査を終えて −生命科学分科会−
– Life Science Division –

田中  勲 TANAKA Isao

北海道大学大学院 理学研究科 Graduate School of Science, Hokkaido University

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はじめに

 平成10年度から11年度にかけて、第2回、第3回利用研究課題選定委員会の生命科学分科会の主査を仰せつかりました。稼動しはじめて間もないSPring-8の課題審査のこと、まだ多くの問題点を残していることを感じながら審査をして参りました。今後、一層健全な運営がなされ、よりすばらしい研究成果が上がることを期待して、特にPFにおける審査との違いに言及しながら、現在の審査方法、含まれる問題点などを記しておきたいと思います。今後、応募される方、あるいは課題審査を担当される方の参考に少しでもなれば幸いです。


採択率

 PFの生命科学分野(特に単結晶分野)では、申請者にビームタイムをできるだけ平等に配分しようとする姿勢で運営されてきたように思います。この点、SPring-8では、「よりよい課題を選定するように」との方針をより強く打ち出しています。生命科学分野では、第2回の公募で78件中の56件、第3回の公募で99件中75件が採択されました。(PFの生命科学1では、採択率は90%以上でしょう。)不採択課題の多くは、科学的には妥当であってもSPring-8の必要性が薄いもの、準備が不十分なもの、あるいは申請書に必要な情報が欠落しているものなどで、SPring-8をより必要とするテーマ、準備が完了しているテーマに譲って頂いたものです。不採択課題が出るのは、もとはと言えばビームタイム不足に原因があるわけで、ビームラインを一層充実する必要があるのはもちろんですが、応募する方もこの辺を認識して次回に臨んで頂きたいと思います。


有効期間

 PFでの課題の有効期間が2年間であったのに対しSPring-8では課題の有効期間は半年です。「半年の有効期間に課題を終了する」のがたてまえとなっています。これはしかし、生命科学研究の現状に必ずしも合っているとは思えません。多くの実験では、回折データをとった後に実験室での実験にフィードバックをかけることが必要とされます。少なくとも1年程度の期間が欲しいというのが一般的な希望でしょう。しかし、単結晶構造解析もスピード勝負になってきていることは否めません。ESRFもAPSも有効期間を半年で切っていることを考えれば、今後、有効期間が延長されることはあまり期待できません。となるとユーザーは半年の間に何ができるかをよく見極めて申請書を書くことが必要になってくるでしょう。


内部審査

 半年毎の審査を迅速に進めるためにSPring-8における課題審査は課題選定委員会だけで行われることになっています。外部のレフリーに委託するのでは審査に時間がかかりすぎて間に合わなくなるというのがその主な理由です。この辺の事情は、利用研究課題選定委員会主査が利用者情報(Vol.3,No.6,1998)で詳細に説明しています。しかし、公募締切りから実際の配分までに3、4ヶ月を要していたのではPFとあまり変わらないと言われても仕方ないと思います。今後、公募締切りと実際の配分の間隔をもっと短縮する努力が必要と思います。そうすることで、まだビームタイムを使っていないのに継続申請するというような矛盾が少しは軽減できるものと思います。


緊急課題

 生命科学分野では、この2年間に緊急課題の申請が4件ありました。実際には最後の半年に集中しています。その内3件までが採択されています。これからわかるように緊急課題採択へのしきいは必ずしも高いわけではありません。申請書を書いてからビームタイムが配分されるまでに一年近くかかってしまうのでは、研究の進展の早い生命科学分野を勝ち抜くことはできません。緊急課題が提出される度にメールでやりとりをしながらこれに対応しなければなりませんので審査委員、事務局の方は大変ですが、このシステムをもっと充実させて迅速解析の切り札として使うべきであると考えています。「緊急課題の要件」についてはまだ十分に議論されていませんが、緊急課題に採択されたテーマは、結果を迅速に出す義務が伴うのは当然のことであると思います。


ビームタイム配分

 PFとは異なって、SPring-8の課題選定委員会はビームタイムの配分も行うことになっています。したがって、課題は4段階で評価されますが、それ以上に、何シフトが配分されるかということの方が重要になってきます。実際のところ、この配分方法は一番の大きな問題をかかえているのではないかと思っています。科学を審査することはできても現場に精通していない審査委員がビームタイムを適正に割り振ることは困難です。ビームライン担当者等の意見をもっと尊重すべきでしょう。ビームタイムが配分される日も時間も半年も前に決まってしまっていて変更は不可能というような運営もされるべきではありません。生命科学の研究者は、「なまもの」を扱っていることを考慮して、運営にフレキシビリティーが欲しいところです。


フォーマット化

 審査をしていて重要な情報が欠落していると感じることが多々ありました。生命科学のような分野では魅力的なテーマは無数に設定できます。しかし、ビームタイムの申請ですからビームタイムが必要な理由、それが有効に使われるという保証が欲しいところです。この意味で結晶に関する情報は不可欠です。また、対象とするサンプルの構造が既に発表されている場合には、以前の構造解析に言及した上で、それと何が違うのかを明記することは必須でしょう。こうした情報の欠落をなくして適切な審査ができるようにするため、また、応募者と審査員の負担を軽減するために、生命科学分野では申請書のフォーマット化を検討中です。


分野区分

 PFの生命科学分野は、生命科学1と生命科学2として、単結晶解析とそれ以外に別けてありますが、SPring-8では一つの部門しかありません。したがって、審査委員も単結晶解析と溶液散乱の専門家が共存することになっています。しかし、単結晶構造解析と溶液散乱とでは実験手法も得られる情報も全く異なります。これを同じ土俵で評価するのには無理があります。生命科学分野の応募総数が100件近くなって、すでに一つの部門で審査するのは限界に来ていることと考え合わせて、次回はぜひ、生命科学分野を、研究内容によってさらに細分すべきだと思います。


おわりに

 現行の課題選定制度の問題、応募者へのお願い、事務局へのお願いなどを雑多に織り交ぜて書きなぐりましたが、今後、より充実した課題選定・利用システムができることを望んで止みません。



田中 勲 TANAKA Isao
北海道大学大学院 理学研究科
〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
TEL:011-706-3221 FAX:011-706-4905
e-mail:tanaka@polymer.sci.hokudai.ac.jp


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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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