Volume 04, No.1 Pages 50 - 51
6. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS
さんぽ やぶにらみ
Promenade, a Cynical View
散歩とはなんだろうか。第四版新明解国語辞典によれば、「(行く先・道順などを特に詳しく決めることなく)気分転換・健康増進や軽い気持ちの探索等に出て歩きまわること。」とある。それならばいっそ時空を越えて思うままに脈絡もなく徘徊し、盃を手に与太話をトバしてみようではないか。連載初回なのでSPring-8および周辺をざっと探索してみようと思う。
テクノ中央 SPring-8にやって来る人の大半が通過する公園都市内のクレーターである。人造かカルデラかは今となってはもうわからない。盆底の交差点には信号機があり、通勤時間帯にはしばしばポリースの立番もある。テクノとはナイスなネーミングと言えよう。標識にはTekunoとローマ字表記されている。英語とも日本語とも違う未来の語感である。スバラシイ。テクノで連想するのはテクノカットであり往年の効果音バンドYMOである。それはともかく、クレーター内壁上部にはハリボテのモノリス群がずらりとならんでいる。夕刻になると怪しい赤光を放っている。炉心から放出されるチェレンコフ光には遠くばないが発光体は美しい。発光は夕刻のみのようである。近づいてみよう。発光体基部が特に美しい。付近に住む筆者は、数年前に軽トラックでこれらが搬入される光景に驚いた。数十トンはあろうかという巨石がナント軽トラの荷台にあったのである。念のため後日ケリを入れてみたところ、まがいものの鈍い音がした。交差点脇には岩石で覆われたドームがある。放棄された都市ガスの半地下式タンクの天蓋である。周囲には付帯設備は一切ない。単なるオブジェにも見えるような気がする。勇気ある諸姉諸兄は、ドームにへばりつき岩のすき間から中を覗いてみるのは如何だろうか。できれば夜。
マンホール テクノ中央交差点より相生側に進むとヘリポートへの登り道が分岐している。問題はこの坂道にあるおびただしいマンホールのフタである。なぜにこんなにマンホールが必要なのか。マニア必見であろう。
たぬき あるいはアクセントを後ろから2番目にもってきてタヌーキィと発音してもいいかもしれない。TANOUQUISとでも綴るのだろうか。公園都市の建設による丘陵の人工化でもっともひどい目にあっているのは彼(彼女)らかもしれない。しばしば車道を横断中あるいは横断途中に轢かれた無残な姿を見かける。たまに旨そうなのも落ちているが、肉は臭く生姜や牛蒡、味噌で味付けた程度では食えないと聞く。藁に包んで埋めておくと匂いが抜けるとも聞くが、そこまでして喰おうとは思わない。鹿もいる。運悪く事故に遭うのもいるが、公園鹿などとは比べ物にならない敏捷さと用心深さをもっている。もちろんシカセンをちらつかせても生暖かい角や尻尾の裏側の無毛地帯にタッチするのは不可能というものだ。
テクノ中央からSPring-8方向に進むと、左手に広大な法面が見えてくる。長尺ビームライン用地の端部である。上空からの写真では、巨大な前方後円墳の一部にもみえる。後世の考古学者はこの台地を宗教儀式、あるいは円盤の発着場の痕跡と思うかもしれない。埴輪や副葬品を埋めておくのはどうだろうか。山腹のぐるりを切り取られた三原栗山とともに、後年巨大なトマソンとなるだろう。千年の後、このあたりはどうなっているだろうか。列島の人口は今よりずっと減って、都市計画もたぶん放棄されているに違いない。異民族の蹂躙をうけているかもしれない。いずれにしても鹿や猪、もしかするとツチノコなんかも群遊する丘陵に戻っているだろう。温暖化がすすみマラリヤ蚊に汚染された低地から移り住んできた人々の居住地になっているかもしれない。そのころにはの地上部分はすべてSPring-8は失われ、民話の中に語り継がれているかもしれない。科学史の教科書に載っているかもしれない。三原栗山のぐるりからは、プラチナなんかが発掘されて騒がれているかもしれない。
土盛 SPring-8構内をみてみよう。構内食堂とリング棟の間には大きな築山がある。風情のない土盛である。やはり、うわさの通り、蓄積リングからの強力な放射線から食堂を守る遮蔽体なのだろうか。(編集委員注:これはうそ。本当は食事中に無枠な中央管理棟を視界から消すための遮蔽と聞いている。)
食堂前のドルイ(左の築山;右は食堂)
中央管理棟前のオブジェ 造形上の賛否はここでは言わない。2本の角の間で回転するのは、原研と理研の狭間に翻弄されるSPring-8を抽象しているともきく。そういえば、JASRIはJAERIとRIKENから2文字ずつもらい、放射光のSが間に入っているではないか。このオブジェの基部には冷却水の噴霧装置が設置されている。制御盤のありかは秘密だ。(編集委員注:作成者の意図では、周易の八卦の「震」の図形で、これには「陰気が充塞した所に一陽発生してようやく活動しようとするかたち」の意味があり、この播磨科学公園都市におけるSPring-8の位置付け、基礎研究の画期的な展開を期待する意味がこめられていると聞いている。)
2本の角
中央管理棟センターホール 吹き抜けの天窓
夜明け SPring-8でみる夜明けは、これは本当に絶景である。漆黒のやまなみ。きっぱりとした稜線の向こうが濃紺から茜色に変化する時刻である。中央管理棟屋上からがよろしい。眼下に蠢く下賎な輩のことも忘れられるかもしれない。
ボルカノ SPring-8となりの丘の上にあるパスタ屋。窓際からの一望が楽しめる店である。寒い日には、施設内の冷却塔から立ち上る湯気が美しい。店名の由来は、店のある丘がかつて火山だったことによる。もちろんうそである。カレーがうまい。
さて、公園都市から下界に降りるルートは一般的にはテクノ中央からの3ルートと三日月町方面がメインであるが、造成地周辺からは他にも何本かの車道が降りている。土地勘ある逃走のためには平時からの調査が肝要であろう。私は5本知っている。
(放射光研究所 加速器部門円型加速器グループ 島田太平)