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Volume 03, No.5 Pages 29 - 30

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SPring-8医学利用研究ワークショップ
SPring-8 Workshop on Medical Applications of SPring-8

八木 直人 YAGI Naoto

(財)高輝度光科学研究センター 実験部門 JASRI Experimental Research Division

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 (財)高輝度光科学研究センターでは、昨年(平成9年)からSPring-8における医学利用研究のありかたについて、内外の研究者を集めて議論を重ねてきた。特に昨年秋からは、「SPring-8医学利用研究懇談会」として、座長を国立京都病院長(現兵庫県立成人病センター総長)の阿部先生にお願いし、臨床医や行政の立場から、医学利用研究の安全性や倫理性の問題を含めて議論をお願いしてきた。ここでの議論を集約する意味で、また個々の医学利用研究のテーマについてSPring-8で実験を計画されている研究者の方々から計画をお聞きして、これからのSPring-8での医学利用研究の基本方針を議論するために、平成10年6月9日に兵庫県立先端科学技術支援センターにおいて「SPring-8医学利用研究ワークショップ」が開かれた。
 このワークショップの参加者は、SPring-8医学利用研究懇談会のメンバーの他に、SPring-8利用者懇談会の医学利用サブグループのメンバー、ビームライン検討委員会のメンバー、SPring-8のスタッフで医学利用に関係する研究者、などであった。ワークショップでは、上坪所長の挨拶に続いて、舘野(放医研、以下敬称を略)から「臨床研究において許容される放射線被曝量」についての説明があった。その後、個別の研究課題についての説明に移り、血管造影については梅谷(JASRI)と盛(東海大)から、各種のCTについて武田(筑波大)、加藤(放医研)、豊福(九大)から説明があった。ここで昼食をはさんで、午後は光子活性化療法について篠原(東大)から、さらに従来の医学利用とは若干異なるが医学側からの関心の高い硬X線顕微鏡とX線回折法について鈴木(JASRI)と八木(JASRI)から説明があった。最後は新しいX線イメージング技術の医学診断への応用として、屈折コントラスト法について山崎(神戸大)、位相コントラスト法について百生(日立)の解説があった。それぞれの発表には多数の質問があり、活発な討論が行われた。
 この後、ワークショップは総合討論に入り、SPring-8における医学利用研究の今後について総論・各論を交えた議論があった。ガン診断や微細血管の造影、さらに定量性の高いCTなどの重要性が指摘され、またSPring-8の近くに建設されている兵庫県立粒子線治療センター(平成12年度完成予定)との関係も議論された。医学利用サブグループのメンバーからは、臨床研究に使えるようなビームラインが将来1本はほしいという要望が出された。
 本ワークショップの目的の一つとして、医学利用研究施設に建設される挿入光源ビームラインの仕様を決めることがあった。医学利用研究施設には3本の中尺ビームラインを建設するスペースがあるが、現在最初の1本として偏向電磁石を光源とする医学利用R&Dビームラインが建設中である。その他の2本は挿入光源ビームラインであるが、そのうちの1本は平成10年度からの建設が決まっている。以上のような議論をふまえて上坪所長から、このビームラインはアンジュレータを光源とした単色ビームラインとして建設し、偏向電磁石ビームラインと合わせて異なった特徴を持つビームライン2本で基礎研究・動物実験を十分に行う、そしてその成果を見て臨床応用を含めてもう1本の挿入光源ビームラインの仕様を検討する、という方針が示された。
 医学利用研究においては、他の研究分野とは異なり多くの利用者は実験装置にあまり詳しくない。そのため、重要な研究分野をいくつか決めて、必要な実験装置を施設者側で開発するというプロジェクト的な研究体制が必要となる。また、将来臨床研究を行うためには医学利用研究の評価を行う評価委員会や、安全性・倫理性を検討する委員会も必要となる。これらを段階的に行っていくために、まず医学関係者や放射光研究者を集めた「SPring-8医学利用推進委員会」を作って計画を進めていくことが、阿部座長から提案された。
 SPring-8における医学利用研究は、まだこれから始まるという段階であるが、このワークショップにおける質疑応答では臨床サイドからの高い関心がうかがわれた。この期待を裏切らない研究成果が得られることを期待したい。



八木 直人 YAGI  Naoto
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所
実験部門/利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:07915-8-0908
FAX:07915-8-0830
e-mail:yagi@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794