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Volume 03, No.5 Pages 12 - 15

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

軟X線光化学BL27SUの現状
Current Status of Soft X-ray Photochemistry BL27SU

大橋 治彦 OHASHI Haruhiko

(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Promotion Division

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1.はじめに
 軟X線光化学ビームラインBL27SUは、気相及び気相・固相界面を主たる対象として、軟X線励起光化学反応研究を推進するビームラインである。軟X線光化学サブグループと軟X線CVDサブグループを中心に実験ステーションの整備が進行中である。
 BL27SUの特色を装置技術上集約すると、①新開発のFigure-8型アンジュレータ、②気体試料を窓なしで扱えるビームラインと実験ステーション機器、③高分解能軟X線分光器の3点があげられる。
 光源には、反応で生成する解離種や電子の脱離相関測定による反応ダイナミックス解明のために、SPring-8の高輝度軟X線に直線偏光性が強く求められた。これに答えるべくFigure-8型アンジュレータ[1−3]が新たに開発された。1998年4月22日にはハート型の美しい幾何学模様をしたパワー分布が観測されている。このユニークな挿入光源については既に本誌で田中・北村による紹介[4]があり、近況は改めて詳しくお伝えすることになろう。
 BL27SUの当初の実験計画についてはユーザーサブグループ小谷野猪之助、奥山雅則らによる報告[5−6]がある。本稿ではBL27SUの概要を整理した上で、1998年6月における現状を報告する。

2.BL27SUの概要
 実験ホール側の全体概要を図1に示す。光源点から60〜85m離れた位置に散在する3ヵ所の実験ステーションに放射光を導くための3本のブランチ(それぞれa、b及びc)と、光学ハッチから構成される。ハッチ内には各ブランチに光を分岐するための3つの前置鏡(M0’,M0及びM1)と新型アンジュレータの光源特性を計測するための装置が設けられる。 
 
 
 
図1 BL27SUビームラインの実験ホール側全体概要図 
 
 光学系模式図を図2に示す。ブランチa、bには平面鏡MO’でそれぞれ3.2度、2.2度だけ蓄積リングから遠ざかる方向に水平偏向された放射光が導かれる。一方、ブランチcを選択した場合にはM0’を光軸から退避させる。放射光は円筒鏡M0、M1でそれぞれ垂直・水平方向に集光され、かつ2.4度蓄積リング方向に水平偏向され軟X線回折格子型分光器に入射し実験ステーションcに至る。なお分光器の詳細は別の機会に報告させて頂く。
 いずれのブランチとも互いに排他利用である。 
 
 
 
図2 BL27SU光学系の模式図 
 
3.BL27SUの現状
(1)ハッチ
 BL27SU光学ハッチ(全長16m)及び各実験ステーションへの電気・冷却水・圧空配管などのユーティリティ類は1998年2月までに完成した(図3)。 
 
 
 
図3 BL27SU光学ハッチ 
 
(2)ブランチa及びb
 ブランチa、bの輸送チャンネルは1998年春までに設置され、実験ステーションbにはCVD実験装置が接続された(図4及び図5)。減圧雰囲気の気相・固相界面の軟X線励起光化学反応によって物質の合成、加工、改質を試みるための装置である。3段の差圧排気と、2室の反応容器がビームラインに直列に並べられ、超高真空雰囲気で接続されている。取り込みビームサイズをφ10mm(最大)としたとき、ビームラインを超高真空に維持したまま、反応容器にガスを0.1Paまで導入して約5桁の差圧排気が可能である。差圧排気能力は圧力範囲、ガスの種類、取り込みビームサイズに依存する。試料ホルダには10mm角×1mm厚程度の板状試料を取付けることができる。反応容器には傍熱方式の加熱機構と5軸の試料位置調整機構を有している。試料は反応容器を大気に晒すことなく交換可能で最大8個までストックできる。現在のところ反応性気体試料の導入は、除害設備がないためできない。 
 
 
 
図4 BL27SU(bブランチ)・CVD実験装置 
 
 
 
図5 CVD実験装置上面図 
 
 図6に、光源点からおよそ63m地点のCVD装置に取り付けられたサファイアに、放射光を照射した際の発光の様子(写真中央の横長輝線)を示す。フロントエンドXYスリットで芯のみを切り出している。 
 
 
 
図6 CVD装置に取り付けられたサファイアに放射光を 照射した際の発光の様子(写真中央の横長輝線) 
 
(3)ブランチc
 ブランチcには軟X線回折格子型分光器[7]と光化学実験装置が設置される。
 図7に光化学実験装置の側面写真を示す。直径φ520mmの太鼓型の真空容器は入射光軸周りに−20〜+110度の範囲を高真空に保ったまま回転できる。容器には光軸を見込むように円筒鏡型オージェ電子分光装置、飛行時間型イオンエネルギー・質量分析器等が備え付けられ、かつ内部には磁気シールドが施されている。これにより多様な分子の軟X線励起過程で生成される光電子や解離イオンの角度相関測定を可能としている。
 軟X線回折格子型分光器は、紆余曲折があったが不等間隔刻線型回折格子を用いた分光器を採用することになった。1997年秋に光学素子を含む契約が行われ、1998年秋の設置をめざし製作が進められている。
 
 
 
図7 BL27SU(ブランチc)・光化学実験装置 
 
4.むすび
 ユーザー利用を開始しているとはいえ、計画のごく一部がようやく試験的に稼働に漕ぎ着けたに過ぎない。率直に言って非力なBL担当者共々ビームラインごと課題の山の中に埋もれているのが現状である。
 本務の傍ら実験ステーション機器の立ち上げに精力的に当たっている軟X線光化学及び軟X線CVDの両サブグループのワーキングメンバーには頭が下がる。光学系の設計を含め未熟な担当者を叱咤激励頂いている琉球大学石黒英治教授をはじめサブグループ関係者に謝意を表する。
 BL27SUは共同チームが建設を担ってきたいわゆる「先行10本共用ビームライン」の一つであり、はからずもそのトリを務めることになった。昨秋までの怒濤のビームライン建設・立ち上げを切り抜けた先達の貴重な経験をもとにBL27SUの光を目にするところまで来た。厳しい工程の中、輸送チャンネルコンポーネントに関して、設置や多量の結線等、現場作業のほぼ全てをSPring-8テクニカルスタッフの尽力によって為し得た。SPring-8関係各位の支援なくして今日に至ることはできなかった。
 また受注各社においては円滑で安全な作業を実施いただいた。ブランチa、bの輸送チャンネルコンポーネントの多くは、この種の機器を初めて手がけた主に関西地区の複数のメーカーによって製作された。限られた予算と時間をご理解いただき創意工夫に努めて下さった方々を忘れてはならない。
 今後、分光器の設置とcブランチの接続工事を間近に控えており、BL27SUは再び建設現場の様相を呈するであろう。関係各位にはご理解とご支援をお願いする。


参考文献
[1]T.Tanaka and H.Kitamura : Nucl.Instrum.and Meth.A364, 368(1995).
[2]T.Tanaka and H.Kitamura : J.Electron Spectroscopy and Related Phenomena 80,441(1996).
[3]T.Tanaka and H.Kitamura : J.Synchrotron Radiation 3, 47(1996).
[4]田中隆次、北村英男、本誌Vol.3,No.2(1998) 39.
[5]小谷野猪之助、奥山雅則、本誌Vol.1,No.5(1996)14 .
[6]I.Koyano,M.Okuyama,E.Ishiguro,A.Hiraya,H.Ohashi,T.Kanashima,K.Ueda,H.Suzuki and T.Ibuki : J.Synchrotron Radiation 5,545 (1998).
[7]E.Ishiguro,H.Ohashi,Li-jun Lu,W.Watari,M.Kamizato and T.Ishikawa : VUV12 (1998) to be published.



大橋 治彦 OHASHI  Haruhiko
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 利用促進部門
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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