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Volume 03, No.3 Page 37

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第1回SPring-8シンポジウムに参加して
Report of the 1st SPring-8 Symposium

八木 健彦 YAGI Takehiko

東京大学 物性研究所 Institute for Solid State Physics, University of Tokyo

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 放射光利用研究者の期待を担った第3世代の放射光リングもいよいよ本格的に稼働を始め、その第1回目のシンポジウムが3月17日から3日間西播磨の研究支援センターで開催された。
 初日は加速器やビームラインの立ち上げを担当した人たちから、現状と今後の予定などについて全般的な説明があった。次々と登壇する担当者たちが皆若く元気あふれ、自分たちの仕事に自信と誇りをもって取り組んでいる様子が伝わって、新しい世代の施設の立ち上げにふさわしい雰囲気であった。これら担当者の並々ならぬ熱意と努力のおかげで、先行したESRFの立ち上げ時よりかなり短かい時間で、電子の入射から蓄積リングの運転、さらには放射光のハッチへの導入までこぎつけられたのだと、改めて感じさせられた。蓄積リングはその後さまざまな調整を経て、第3世代にふさわしい、ほぼ設計通りの性能が出始めていることはユーザー側としても大変うれしいことである。
 2日目は先行した10本のビームラインにおける、利用実験の成果報告が行われた。当然ながらまだ装置の立ち上げ段階のグループがほとんどで、科学的な成果があがっているグループはごく限られていた。しかしBL04の地球科学グループのように、すでにその成果がScience誌にも発表され、SPring-8における最初の成果として新聞紙上をにぎわしたものもあり、早くもSPring-8の威力の片鱗をうかがわせるものであった。地球科学グループの実験は、20万気圧を越す超高圧下で1500℃以上に加熱した試料に偏向電磁石からの白色X線を照射し、粉末X線回折を行ったもので、X線の光学系としては比較的単純なこともあり順調に本番の実験にこぎつけられた。しかしそこに至るまでには、SPring-8側の担当者の献身的な努力と、国内の多くの研究グループの協力体制があって、装置の設計や立ち上げ、予備実験などが行われてきた。今回の成果はそれらの努力が早くも実ったものとして、大変喜ばしいものである。このように蓄積リングからの光を直接使う実験は予期したとおりの強い光を得て実験もほぼ順調に進んでいるが、ミラーやモノクロメータなど多くの光学素子を使って単色化や集光を行っているグループからは、現時点では必ずしも期待したとおりの強い光は得られていないという報告もあった。SPring-8が国際的なレベルで真に魅力的な施設となり、すばらしい成果が出るか否かは、ひとえに各々の装置に最終的に到達する光の質によって決まる。従来にないエネルギーや強度を持った放射光を照射するわけであるから、技術的に新たな問題が出てくるのは当然であり、それらの問題が一刻も早く克服できるよう期待したい。
 最終日は今後の建設予定のグループからの報告に続いて、ビームライン検討委員会からの報告があった。実験ホール内を見るとまだスペースはたくさんあり、新しい建設計画の余地も十分残っていると思っていたのが、現在空いているスペースの多くはすでに建設予定が決まっており、まだ白紙状態の場所はわずか10本程度しか残っていないとの報告は意外であった。今後残されたスペースを確保して新しい実験を始めるためには、よほど説得力のある計画を提示しなければいけないであろう。最後に、課題採択やユーザー支援体制などの現状報告と今後の方針などが紹介された。これらはユーザーにとっては実験のしやすさを左右するきわめて重要な問題だけに、活発に意見や要望も出され、3日間にわたる第1回目のシンポジウムは無事終了した。
 シンポジウムの全体的な印象としては、全く新しい施設の立ち上げ時期で誰もがまだ試行錯誤を繰り返している状況だけに、ユーザーが全体の様子を把握するには大変有意義な集まりであった。ただ今後、多くの体制がルーチン化してきた場合には、どのような形のシンポジウムがよいのか、議論が必要なところであろう。ともあれ多くの研究者の期待を担った新しい放射光実験施設は無事離陸をしたようである。今後いかに魅力ある成果が出てくるかは、ハード面での一層の整備と共に、研究者が実験しやすい環境を作りだすソフト面での充実、そして何よりユーザーの熱意が必要だと感じさせられた3日間であった。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794