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Volume 03, No.2 Pages 58 - 59

7. ユーザー便り/A LETTER FROM SPring-8 USERS

SPring-8を利用しての感想
Impressions after using the SPring-8

沼子 千弥 NUMAKO Chiya

徳島大学 総合科学部 Faculty of Integrated Arts and Science, Tokushima University

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 BL39XUでの共同利用実験に参加するために、鳴門の渦潮を越え、明石焼きに後ろ髪引かれながら車を走らせSPring-8に到着したのは、1997年11月上旬のことです。冬と呼ぶにはまだまだ早い時期でしたがSPring-8付近ではお土地柄、朝夕の冷え込みが厳しく、外ではすでに厚手のジャケットが必要でした。しかしSPring-8のホール内ではトレーナーにジーンズといった軽装のユーザーがほとんどで、これだけ広い空間にもかかわらず暖房が十分に利いていて快適です。些細なことかもしれませんが衣類の重量や気温は以外にヒトの行動を制限しており、体力勝負の放射光実験(?)ではこのような些細なことも積もりつもって全体の作業効率に影響を与えることもしばしばです。私のSPring-8に対する第一印象は、「ヒトに優しい実験施設」でした。
 私自身がSPring-8での放射光実験に参加したのはまだこの一回のみで、ユーザータイムが開始されてからの実験について第一印象しか持っていないユーザーのひとりです。しかし一般ユーザーの方がビームラインでの実験設備の次に興味があることは、宿舎や食堂といった設備の快適さに関することだと思います。BL39XUでの蛍光X線分析実験に関しては、東大の早川先生や金材研の桜井先生、東京理科大の中井先生のお書きになられた報告書に詳細がありますし、ここでは実験に参加したときの私個人の感想を述べさせていただこうと思います。
 まずは共同利用の申請書をインターネット経由で簡単に入手できることや、個人登録用の写真に関してデジタル画像のファイルをインターネットメールに添付して事務に提出する事も可能であるなど、インターネット時代にOPENした実験施設にふさわしくインターネットを活用する形での合理化を図っていることをうれしく思いました。またビームラインに設置してあるパソコンにはチャット用のソフトが常駐させてあり、中央管制室や他のビームラインの状況をリアルタイムに把握することができるのも便利でした。ギャプの変更の要求を出したり、ビームダンプが起こった時どのような原因で復旧にどれくらいかかるのかがすぐ文字情報として流れてくる、これまた時代の先端技術の有効利用です。利用者サイドに遊びごころのある方が多いのもまた一興で、我々は実験中でもその時のワールドカップ予選の様子を伺い知ることができました。
 ホールだけでなく、宿泊施設もまたとても快適でした。新しくてきれいで広くて、毎日清掃のサービスが入って、そこにはSPring-8のマークの刺繍の入ったタオルやパジャマがあって(ぜひこれらを販売してください。我々のグループでは是非欲しい!との声が後を絶ちませんでした。)、お風呂とトイレが独立していて、洗面台に曇り止めのウォーマーまで付いているだけではありません。カードキーを使っての入退室や、温度コントロールをしながらお湯を張ってくれてさらに追い焚きもしてくれるお風呂など一般のレベルを遙かに越えたハイテク装備になっているのです。
 食堂もメニューが充実しているほか、朝・昼・夕の3回ともメニューが違うので、ここで一日食事をとっても飽きることはありませんでした。なにより利用者にはこの食堂での食事が半額になるプリペイドカードが支給されるので、とても安くおいしいものをいただけました。強いていうならば、実験の関係で食事が定刻にできないこともあるので、営業時間を現状の各2時間から少しでも延長するか、もしくは夜まで開いている売店を設置していただきたく思います。
 最後に忘れてはならないのは、ユーザーの実験を陰で支えている重要な存在、そう、自転車です。以前ESRFを見学した時にも、放射光実験施設の内部の移動に自転車が利用されていることに驚きました。動力をヒトの運動でまかない大きさも手頃である自転車という交通手段は、なるほど巨大な第三世代の放射光実験施設の移動に適しています。その時はまだSPring-8は建設途中でしたが、日本人の見学者の間では「ディスカウント店で安売りしている自転車を買い込んで、SPring-8のユーザーに売ったら、一儲けできる!」などという冗談が出たくらいです。このささやかな我々の野望が見抜かれたからとは思いませんが、実際のSPring-8では、共同で利用できる自転車を施設の方で多数配備してくださり、個々のユーザーが自転車を持ち込む必要がなくなっておりました。
 特によく考えているなぁと感心したのは、共同利用の自転車をホール内で乗り捨て自由にしたことと、大きなかごが付いている3輪タイプの自転車など多種多様の自転車を配備していたことの2点です。乗り捨て自由となると実際には、ヒトの出入りの多い出入り口やラインの近くに自転車が放置してあることが多く、まさに必要な時にすぐ自転車を拾うことができる合理的な関係が成立していました。ユーザーの数に対して自転車が十分配備されているので、うまく需要と供給のバランスがとれているのでしょう。また3輪タイプのものは液体窒素の入ったデュワー瓶を運ぶときにも台車のかわりに使うことができ、忙しい実験の中、とても助かりました。よく考えてみれば、ホール内部の移動が自転車で、ホール外の食堂や宿泊施設が徒歩というのも世間一般の感覚とは逆で、おもしろいですね。また、コンピュータ制御のハイテク設備群の中で、自転車という古典的(?)な道具が負けず劣らず活躍している様子は、とても小気味よいものです。
 ヒトは、コンピュータのみで生きるにあらず、というところでしょうか。
 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794