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Volume 03, No.1 Pages 34 - 36

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

Highlights in X-ray Synchrotron Radiation Research 報告 −計測技術分野−
– Technology on Measurement-

鈴木 芳生 SUZUKI Yoshio

(財)高輝度光科学研究センター 実験部門 JASRI Experimental Research Division

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 標記の研究会における、計測新技術分野に関する報告を求められてしまったが、実際のところ計測技術に関する新しい研究はほとんど見あたらなかった。会議のテーマとしては第三世代の高輝度シンクロトロン放射光源によって可能となったサイエンスとされていたようである。しかしながら現段階で第三世代光源(実際には今のところはESRFが中心)が新しい物理を切り開いているとは思えない。会議でまず重点をおかれていたのは、磁気円二色性(MCD)や磁気散乱等を利用した計測法と磁性体研究への応用であったが、計測技術として新しい内容では無く、MCDが完全な物性研究のツールとして使われている状況になって来ていた。この状況はもう一つの主要テーマであった核共鳴散乱に関しても同様であり、現在のメスバウアー分光が分析化学の道具になっているのと似たような状況になってきている。SPring-8はまだ立ち上げ途上にあることもあって、まだこのような物性研究の道具としての広がりが成り立つような状況にはなく、これから追いかけるのはなかなか大変と思われる。
 比較的新しく始まった計測法としてはX線のスペックルの利用があり、乱れた系の相関を測定する手法として注目されている。しかしながら広い意味でのX線のスペックル自体は以前から観測されていたものであり、特に目新しいものではない。スペックルの時間相関の測定も行われており、コロイド溶液の時間揺らぎにの測定に応用したデモンストレーション例等が示されていた。もっともレーザー光でのスペックルでも、現象自体の物理的描象が明確であるにもかかわらず、これといっためぼしい応用が無いことから類推されるように、未知の現象を解明出来るような新計測法としての応用があるかどうかはこれからの進展次第であろう。
 新しい手法としてはサファイア単結晶の180度後方反射の測定があった。サファイアはシリコンやゲルマニュウムの様な禁制反射が無いので、たとえば10keV~20keVのエネルギーの全域で適当な反射面が得られるそうである。とびとびの間隔を埋めるには温度をかえて格子定数を変化させる訳であるが、温度を100度もかえればほとんどのエネルギー領域がカバー出来るそうである。実験では飛行時間法で180度後方ブラッグ反射のロッキングカーブ測定が試みられていた。
 X線光学ではESRFで開発されている複合屈折レ ンズ、フレネルゾーンプレート(FZP;電子線リソグラフィーで作成したもの)、空芯型の一次元導波管等の発表があった。屈折レンズは、X線の屈折率が1よりわずかにではあるが小さいことを利用して、可視光のレンズと同様のレンズを作成して集光結象を行わせるものである。屈折率の関係で可視光とは凹レンズと凸レンズが逆になる。一段のレンズでは実用的な数値開口が得られないので10~100個程度のレンズを組み合わせて用いる。最新のデータでは集光ビームサイズ2.5ミクロンまで到達していた。もっともこの先になると収差やレンズの加工精度が問題になってくると思われる。この屈折レンズで光源の像を集光結像してリングのエミッタンス測定に応用する試みも報告されていた。同じように屈折を利用したプリズムでX線を波長分散させることも出来るが、まだESRFでは試みられていないようである。FZPは厚さ1.2ミクロンの金(電解メッキ)で最小線幅0.3ミクロンのものが作られており、集光ビームサイズとしては硬X線領域で0.7ミクロン程度が達成されている。10keV程度になると厚さ1.2ミクロンの金のゾーンでも位相変調型のFZPとして動作するが、まだ正確な集光効率は計られていないようである。X線導波管(XGT)もここ2、3年で急に実験が進んでいる分野であるが、今回の会議では対向して配置した二枚のX線ミラーのギャップを正確に調整して一次元の導波管として働かせる方法が発表された。従来の多層膜の手法で作られたXGTに対して、ギャップ間隔が可変であり、また完全な中空になるために減衰が小さい。実験結果で印象的であったのは、モードミキシングがほとんどなく(反射面の精度が高いためであろう)、きわめて理想に近い伝搬を示していることであった。
 イメージング技術の分野では、最近の流行はいわゆる位相コントラスト法であった。手法としては大きく分けて、Bonse-Hart型の干渉計を利用した可視光におけるZernike型の位相差法に類似した手法、平行性の良いX線を用いて被写体と画像検出器の距離を離すことによって干渉フリンジや屈折光を検出する手法、被写体を透過したX線を結晶アナライザーを通して観察する事によって屈折したX線の偏向を検出する手法の三種類がある。干渉計を用いる位相差CT(計算機トモグラフィー)以外は以前から観測されていた現象であるが、最近位相コントラストというネーミングと共に多くの研究者が集まってきたように思える。
 干渉計を用いた位相差法は定量的な屈折率分布が求められる優れた手法であるが、技術的に難しい為に、実際に行っているのは百生(日立)及びBonse(Dortmund Unv.)の位相コントラストCTだけである。被写体と検出器を離す(普通は1m~2m程度)手法に関しては、手軽に誰にでも出来るためか多くの発表があったが、物理的に新しい内容はなかった。この方法を位相コントラストと呼ぶのは正しくなく、Gaborホログラフィーあるいは屈折コントラストと呼ぶべきである。より正確には一般に行われている実験条件を考えると物理的には可視光のシュリーレン法と同じものである。この方法を利用して材料評価のCTを試みている例もあったが、本来のX線CTの前提条件と矛盾する(CTはX線の直進が前提条件である)ので、干渉計を用いた位相差CTとは異なり、多くの場合コントラストには位相差によるもの以外の強いアーティファクトが含まれている。得られた像から意味ある結果を引き出すためにはこのあたりの問題が解決されなければならないであろう。結晶コリメータとアナライザーを用いる手法(X線光学としてはBonse-Hart型の微小角散乱カメラと同じ)も位相コントラストとするには抵抗がある。この場合のコントラスト生成はX線の偏向角によるものであることから考えると、位相コントラストではなく屈折コントラスト(あるいは極小角散乱コントラスト)と呼ぶべきであろう。このような方法での画像計測にあたっては、コントラスト生成の原因を得られた像からだけでは定量的に求めることが出来ないことに十分注意する必要があると思う。
 従来の吸収コントラストの高分解能CTに関してはBonseの発表にあったが、画質を含めた装置の改良は着実に進んでいる。三次元画像で実試料に対して5ミクロン程度の解像度が得られている様に見えた。
 X線検出器では単結晶シンチレータ膜でX線を可視光に変換してから光学的に拡大結像してCCDで読み出す形式の高分解能検出器の発表があった。解像度で2ミクロン以下が示されていた。X線ズーミング管の0.5ミクロンにはまだ及ばないが、検出効率はかなり高いと思われる。
 医学利用に関しては、従来の主流であったヨード造影剤を用いた冠状動脈造影法の研究が(少なくとも発表の上では)影を潜め、かわっていわゆる位相コントラストや散乱回折コントラストによる新しいメディカルイメージングの研究がほとんどであった。もっとも動物実験もまだおこなわれておらず、ファントムを用いた原理実験の段階である。ESRFを中心とした医学利用ビームラインは今までアンジオグラフィーに特化したビームラインとして作られていたので、すぐにシュリーレン法等の手法に変わることが難しいのではないだろうか。
 ESRFの施設を見学する機会があったが、印象的であったのはESRFではSPring-8と比べて熱負荷の問題がほとんどないことであった。分光結晶に関しても用途によっては普通の間接冷却で足りるほどである。偏向電磁石ビームラインでは電子エネルギーが低い(SPring-8が8GeVに対してESRFは6GeV)ことから明らかであるが、挿入光源に関しても、ESRFでは直線部真空チェンバーのためにアンジュレータの最小ギャップが16mmに押さえられている(アンジュレータの全長は大体同じである)。このため同じ電流値とX線エネルギーで比較するとSPring-8より1桁程度低い放射パワーに納まっている。想像するにこの為もあって、ESRFではアンジュレータのギャップ変更による軌道補正もほとんど問題ないのであろう。この点で、真空封止型で最小ギャップ8mmを実用化してしまったSPring-8では、一台のアンジュレータで必要なほとんどの硬X線波長域をカバー出来るという優れた点があるものの、熱負荷に関してはきびしいものがある(アンジュレータの交換や保守も難しい)。現在はSPring-8がまだ設計値電流での運転を行っていない(現在は20mAを上限としている)が、それでも既にESRFよりアンジュレータの放射パワーは強い。もっともESRFでもこれからは直線部の真空チェンバーの厚さをかえて通常型のアンジュレータで最小ギャップ11mmを目指すそうであるので、案外熱負荷やビーム安定性が問題になってくるかもしれない。液体窒素冷却の結晶分光器を採用し始めたのもこのためかもしれない。ただし、見学した段階ではまだ液体窒素冷却の分光器は搬入据えつけが終わったところで、コミッショニング(試験調整運転)はこれからとのことであった。
 

鈴木 芳生 SUZUKI Yoshio
昭和30年3月19日生
(財)高輝度光科学研究センター 実験部門
〒678-1298 兵庫県赤穂郡上郡町
SPring-8リング棟
TEL:07915-8-0831
FAX:07915-8-0830
e-mail:yoshio@spring8.or.jp
略歴:昭和59年東京大学大学院理学系研究科博士課程(相関理化学専攻)修了、59年4月から日立製作所、平成9年4月から高輝度光科学研究センター。理学博士、日本物理学会、放射光学会会員。
最近の研究:X線光学、特にX線顕微鏡光学の研究。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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