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Volume 03, No.1 Pages 32 - 34

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

Highlights in X-ray Synchrotron Radiation Research 報告 −生命科学分野−
– Life Science –

熊坂 崇 KUMASAKA Takashi

理化学研究所 播磨研究所 構造生物物理研究室 RIKEN Harima Institute, Structural Bio-physics Research Group

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 生命科学に関連した講演は“Biology Symposium”と題してカンファレンス3日目(11/19)から2日間の日程でMain Conferenceと並行して行われた。“Biology”とうたわれてはいるが、講演内容は殆んどが生体高分子の結晶構造解析に関するものであった。その初日の最初の講演はメイン会場で行われ、W.Hendrickson(Columbia Univ.)が、“The MAD method for analysing biological structure”と題して講演を行った。1988年以降報告されている多波長異常分散法による解析について原理や具体的な手法、統計を示しながら解説した。この手法の発展にはSeMetの導入技術やクライオ技術が重要な役割を果たして来ていることをあげ、さらに今後この手法に適したアンジュレータ光の利用によって多くの蛋白質の解析が期待できることを述べた。最後にウランを導入したエラスターゼを例にとって、軟X線領域での磁気共鳴散乱が位相決定に使用できる可能性を示唆した。
 その後会場を移して、ウイルスの構造解析をテーマに3題、核酸関連の構造解析を4題行った。まず、M.Rossmann( Purdue Univ.)から“Structural intermediates in the life cycle of some icosahedral viruses”と題して、ウイルスとその受容体の構造解析(ICAM-1)から相互作用の機序を明らかにした例を中心に発表があった。
 L.Liljas(Uppsala Univ.)の講演“Structural studies of coat protein mutants and RNA complexes in the search of an assembly mechanism for the small RNA phages”では、幾つかの構造を例にウイルスの解析について説明を加えた後、RNAファージMS2のRNAの認識機構を調べるため、キャプシドの結晶に適当なRNA分子を浸漬して構造決定を行った。その結果はウイルスゲノムのRNAヘアピン-転写酵素をコードしている領域-がコート蛋白質によって認識されることで遺伝子発現と再構成の調節を行っていることを示唆した。
 D.Stuart(Oxford Univ.)“The structure of double stranded RNA viruses-throwing light on some simple complex biological problems”:Bluetongue Virusの構造解析の最新の結果を発表した。高分解能のデータも収集可能な結晶は検出器等の制約から現時点では3.5Åの解析にとどまっているが、得られた電子密度図にはコア内部に4層のdsRNAが認められた。このストランドは折り畳まれて、5回軸にあたる接合部分を通って分泌されるような構造をもっていることが明らかにされた。
 T.Steitz(Yale Univ.)“Some principles of RNA-protein interaction inferred from structures of ribosomal components”では、まず、5S rRNAとα-Sarcin/Ricinのループ部分の構造について述べてから、講演最後の数分で5S rRNA全体の構造解析の進捗状況に触れた。電顕像から分子置換法で決定した位相を使って重原子クラスターの位置を決定し、電子密度の修飾を行って12Å分解能での電子密度図を得ることに成功している。その構造は見た目には電顕像を若干詳細にした程度のものであったが、詳細な構造解析が間近であることを窺わせた。
 S.Cusack(EMBL)“How class II aminoacyl-tRNA synthetases work”:RNA synthetaseは多くのグループによって全アミノ酸に対応する酵素の解析が行われているが、氏のグループで明らかにされたProtRNA,Asn-tRNA, Ser-tRNAの各合成酵素の例を引きながら、このファミリーのtRNA認識について詳細な説明がなされた。
 L.Pearl(Univ. Collage London)“Recognition and repair of mismatched DNA base-pairs”:DNAのミスマッチ修復はその修復長で2つのクラスに分類されるが、Short patchを司るUracil-DNA glycosylaseの構造解析を中心に変異酵素の活性の相違と比較しながら、構造と機能の関連について報告した。またミスマッチ認識機構についても配列の相同性の低い同種酵素との比較を行っていた。
 T.Richmond(ETH Z¨urich)“X-ray structures of the nucleosome core particle of chromatin at 2.8 A resolution”:histonとDNAの複合体の結晶構造解析である。DNAは全体の1/4ほどだけで蛋白質と結合し、overwind-underwindを繰り返しながらパッケージングされていることを明らかにした。
 S.Burley(Rockefeller Univ.)“X-ray crystallographic studies of eukaryotic gene expression”:真核細胞 mRNA先端部分のCap構造を認識するcap-binding protein(eIF4E)の2.2Å分解能における構造解析を中心に報告した。Capは主として静電相互作用と水素結合で認識されていた。また、結合の調節をおこなう特定部位のリン酸化機構についてその構造上の解釈がなされた。 
 Biology Symposium 2日目は、Main会場で小角散乱に関する講演、S.Doniach( Stanford Univ.)“Studies of protein folding using time-resolved smallangle x-ray scattering”から始まった。この手法のターゲットや方法論について触れながら、リゾチームの変性過程の中間段階を明らかにした実験、狂牛病の原因物質であるプリオン蛋白質の会合についての研究について述べた。
 続いて初日と同様に会場を移し、膜蛋白質関連講演が4題と時分割実験関連が3題行われた。まず、J.Rosenbusch(Univ. Basel)“If this be magic,let it be an art: groping for the structure of membrane proteins”では、PorinとBacteriorhodopsinの結晶化と構造解析について述べ、また脂質のCubic Phaseを応用した膜蛋白質の結晶化についてもその有効性を説いた。
 N.Isaacs(Univ. Glasgow)“Structural studies on light-harvesting complexes and reaction contres from photosynthetic bacteria”は、光受容複合体LH2の2.5Å分解能での解析結果の報告であった。効率よく光エネルギーを受容し伝達するこの分子の構造はクロロフィル分子などを同心円上に配置し、放射光の蓄積リングによく似ていることを指摘した。
 T.Schirmer(Univ. Basel)“Crystal structures analysis of transmembrane channels: from general porins to maltoporin”:非特異的なporinである大腸菌OmpEは、透過穴は極性残基のつくる静電場を形成しゲートを形成していた。このモデルをもとにイオン透過性のシミュレーションを種々の条件について行った結果も実際を反映するものであった。また、Maltoporin(LamB)の構造にも触れ、芳香環をもつ残基が透過穴で列を成していることが明らかにされた。
 H.Michel(Max Planck Inst.)“Structure and function of the bacterial cytochrome c oxidase”:まず、Fvフラグメントを用いた膜蛋白質の結晶化について触れてから、表題蛋白質のO2 還元反応過程について、His-flippingモデルとペルオキシドモデルを示して説明した。
 I.Schlichting(Max Planck Inst.)“Crystal structures of intermediates occurring along the reaction pathway of cytochrome P-450cam”では、O2 のヘム鉄への結合中間体の構造解析について報告があった。白色ラウエ実験では捉えきれなかった中間体の構造が、低温トラップにより明らかにされるとともに、比較的長波長のX線成分の照射がO2 の乖離を促すことを実験によって示した。
 予定されていたJ.Hajduの講演は欠席のため、代わりにESRFのM.Wulffが“Realization of ultra fast structual kinetics of the ESRF”と題して、ESRFのID9の状況と得られた結果について示した。10msで動作可能なTriangular Shutterを使い白色光ラウエ実験によってMbCO, bRなどの構造変化を捕捉することに成功した事例について触れ、また開発中の高い時間分解能をもつストリークカメラについて報告があった。
 K.Moffat(Chicago Univ.)は、“Time-resolved macromolecular crystallography on the millisecond to nanosecond time scale”と題した講演を、馬のギャロップの連続写真から始め、時分割撮影の際のタイムスケールの重要性について示しながら、ヘム蛋白質とCOの複合体やPhotoactive Yellow Protein(PYP)の時分割データ収集について報告した。PYPの解析はESRFのシングルバンチモードを利用してナノ秒オーダーでの測定が行われ、chromophoreの構造変化は光照射後10ミリ秒程度経過して起こることが示された。
 ポスターセッションも並行して催され、Three-beam diffractionによる蛋白質結晶への応用に関する報告など、多くの発表が行われた。
 自身の英語の能力と予備知識の不足から、内容を正確かつ詳細に把握するには至らなかったことが残念であったが、大御所の興味深い最新の内容の講演が連続する盛りだくさんの内容に大いに刺激を受けることができた。その一方で、成熟しつつある蛋白質結晶構造解析という手法のなかで、どのように独自性を顕していけばよいのか考えさせられもした。
 
 
熊坂 崇 KUMASAKA Takashi
昭和43年10月31日生
理化学研究所播磨研究所
構造生物物理研究室
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町三原
TEL:07915-8-2815
FAX:07915-8-2816
e-mail : kumasaka@postman.riken.go.jp
略歴:平成8年東京工業大学大学院生命理工学研究科博士後期課程(バイオサイエンス)修了。同年理化学研究所研究員。博士(理学)。
最近の研究:金属プロテアーゼの結晶学的研究。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794