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Volume 02, No.6 Pages 35 - 36

6. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SRI ’97報告 ー加速器関連の動向ー
Report on SRI ’97 -Topics in Accelerator Science-

安東愛之輔 ANDO Ainosuke

姫路工業大学 高度産業科学技術研究所、Laboratory of Advanced Science and Technology for Industry, Himeji Institute of Technology

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 SRI'97での加速器本体関連の報告は、2つの招待講演、2つの口頭発表と27個のポスター発表があり、また次世代放射光源(Next Generation SR Source)として3つの招待講演があった。

 木原元央氏(高エネルギー加速器研究機構加速器施設長)より「Development of Synchrotron Radiation Storage Ring」と題し、これからの放射光源蓄積リングの課題のサーヴェイがあった。電子ビームのエミッタンス、運動量拡がり、バンチ長など現状より 1桁以上小さくしなければならないこと、非常に高密度の電子ビームに対して、軌道を初めとするビームの振る舞いを高度に安定化させること、充分に長い寿命を持たせること、これらは光源のみの問題ではなく、B-factoryやphi-factoryを初めとする「高輝度」の高エネルギー蓄積リングにも共通する問題であり、加速器物理の立場からしても非常にチャレンジングなものであること等指摘された。

 G. Kulipanov氏(ロシアBudker研)は、1〜40オングストロームでkWレベルの平均パワー、且つエネルギー分解能0.01%を可能にする加速器として、マイクロトロンのような、或いはT. Jefferson研のCEBAFの様な、4ターン程度のリサーキュレーション加速器を提案した。確かに極低エミッタンスをリングで実現するには巨大なものが必要となり、高密度の極短パルス・ビームをリングで維持するのは殆ど不可能な現状からすれば、電子ビームをSinglepass的に用いる方法が、次世代光源加速器として有力な候補の1つであろう。

 口頭とポスター発表29論文の内訳を分野毎に見ると、加速器全体:11(蓄積リング:7)、RF:5、ビーム診断:6、ビーム制御:2、FELなど:3、その他:2であり、研究所や国別で見ると、SPring-8:9 (ニュースバル:2)、KEK-PF:8、その他国内:6、日本以外のアジア:4、ヨーロッパ:2である。もともと加速器関係者の間では本会議への取り組みは全般的に薄いこと、先の5月にはPAC'97がVancouberで開催されたこと、また本10月には加速器科学発表会があること、さらには常設の施設報告ポスターがあることなど、加速器関連の論文は少ないことが予想されていた。それでも地元(国内ではSPring-8、国外ではアジア)と、常に光源に相応しい加速器を念頭に置きアクティビティの高いところ(?)(KEK-PF)からは、相対的に多くの寄与があった。以下に筆者の私見から見て今後の方向を示唆するようなものを数点紹介する。

 

(1)高調波(HOM)減衰空洞

 KEK-PFと物性研とで開発されたSiC吸収ダクト付き空洞は、PFで800 mA近くまでの蓄積運転の実績が示された。またB-factoryやリニア・コラーダーを睨んだ高調波取り出し口付きの714 MHz空洞も、 KEK-ATFで確実に動作している。空洞の精密温度調整やクローバー回路無しクライストロン電源などとともに、これらは高密度電子ビームの蓄積には不可欠な要素であり、着実に技術的に前進していることは将来を大いに期待させるものである(M. Hara, M. Izawa et al., S. Sakan aka et al., J. Dai et al., H. Kozu et al.)。

 

(2)ビーム診断技術

 蓄積リングでは周回毎の、輸送系では1通過での電子ビーム位置が検出できる高速システムは、ビーム・ロス無しのビーム入射を実現する上で大きな武器になるだけでなく、ベータトロン振動のモニターにもなり、加速器物理への深い理解の一助となる(T. Honda et al., Y. Kobayashi)。また放射光をフォトダイオードの列で検出しビーム・プロファイルの時間的変動を把握する(J. Y. Huang)ことは、ビーム不安定性のメカニズムを実験的に正しく理解して行く上で強力な武器となろう。レーザー光の後方コンプトン散乱(P. Klein et al.)や、今回発表は無かったが、ストリーク・カメラを用いた超高速だが時間領域が限られる測定などと一体化すれば、定量的な「加速器実験物理学」が育っていくと期待される。

 

(3)Single-pass FEL(自由電子レーザ)或いは SASE(自発振自己増幅)に向けて

 Single-pass放射光は次世代を切り開くと期待されるが、高い繰り返し率と、少なくとも蓄積リング並の安定性が要求される。たいていの施設には入射器にLinacを保持しているのであるから、加速器屋としては、FELやSASEを直接実験出来なくても、これに向けたハード・ウエアの改善へ取り組むべきであろう(K. Yanagida et al., S. Suzuki)。アメリカなどに任せるだけでなく、今後実験データの出てくることを期待したい。

 この他、超伝導加速器の限られたスペースを克服しての、放射光プロファイルでのx-y結合補正(K. Yamada & T. Hosokawa)、楕円偏光切替用局所軌道の制御(K. K. Lin et al.)などユーザーを念頭に置いた、制御の着実な進展も報告された。

 次世代放射光のセッションでは、Kwang-Je Kim氏(LBL)が(1)高輝度、(2)微小時間分解能、(3)高エネルギー化、をガイドラインとして、現有の技術を基礎に可能性をサーヴェイした。特に目新しいものはなかったが(勿論、そう容易くアイデアが出るものではない)、レーザー光と電子ビームとの相互作用の利用を強調した。これはレーザー技術の著しい発展の実績、既に微小な時間分解能と光軸の超安定化を実現していることなどを考慮したものである(現時点での問題は高いピーク・パワーと高い繰り返し率)。彼独自のアイデアは、部分的にイオン化された高エネルギーの重イオン・ビームに、遷移エネルギーに上手く整合したレーザー光を照射しビームの冷却と同時に、単色の大強度X線(数百keV)を得ようというものである。勿論光源は超低エミッタンスとなっている。重イオンビームの蓄積リングは大変高価なものであるから、高エネルギー電子加速器がそうであったように、既存施設の「生き残り策」として大いに発展するかもしれない。

 G. Materik氏(HASYLAB)はDESYのリニア・コライダー計画TESLAの技術と財産をそのまま用いるFEL(SASE)計画を紹介した。ステップ的に順次、400〜700、〜60、〜1オングストロームでの発振を目指している。もし日本でもKEKがこの様な戦略を採ると我々のような研究者には大なる脅威となるであろうが、この分野が大いに活性化されよう。

 山田廣成氏(立命館)は、50 MeVの電子加速器を円筒状の球面(?)ミラーで完全に囲み、遠赤外領域でkWオーダーの平均出力を目指す、光蓄積リングの現状を紹介した(分子研UVSOR建物内でリニアックを入射器として建設中)。ピコ秒のバンチ長なので完全にコヒーレントな光がレーザー発振することになる。ミラーの技術的問題や、強い自己増幅電磁場との相互作用と電子ビームの安定性など検討課題は多いが、誠に独特でチャレンジングである。また残留ガスとの散乱を積極的に利用するX線源蓄積加速器のプロトタイプ的な実験(AURORA)と今後の計画も紹介された(白色だが偏向電磁石とは異なりフラットなスペクトルを持つ)。本方式はコンパクトで強力なX線源としては有用かもしれない。

 今回初めてSRIに参加したものとして、加速器の位置づけが曖昧な感想を持ちました。加速器主体の会議との差や特徴をどうするか、これはプログラム委員の1人としての反省でもあります。利用やユーザー・サイドからみて切実な点をキー・ポイントに据えた催しにしていった方がよいのではと思います。

 

 

 

安東愛之輔 ANDO Ainosuke

昭和22年6月23日生

姫路工業大学 高度産業科学技術研究所

光・量子科学技術部門 電磁加速工学分野

〒671-22 姫路市書写2167

TEL:0792-67-4998

FAX:0792-67-4999

e-mail:ando@lasti.himeji-tech.ac.jp

略歴:昭和47年京都大学大学院理学研究科博士課程(物理学第二専攻)中退、同年高エネルギー物理学研究所助手(加速器研究系)、昭和56年より2年間米国フェルミ国立加速器研究所客員研究員、60年大阪大学核物理研究センター助教授、平成4年より理化学研究所大型放射光施設計画推進本部蓄積リング研究開発室長(副主任研究員)、平成7年姫工大高度研教授。理学博士。日本物理学会、放射光学会、アメリカ物理学会会員。大学に加速器科学の専攻分野を確立すべく微力ながら努力を続ける毎日。ラグビーとサッカーのテレビ観戦、狭い庭の草むしりが趣味。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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