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Volume 02, No.5 Pages 41 - 43

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SRI ’97報告 −光学系−
Report on SRI ’97 -Optics-

玉作 賢治 TAMASAKU Kenji

理化学研究所 マイクロ波物理研究室 Microwave Physics Laboratory

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 初めに私事で恐縮であるが、私はSPring-8では標準型2結晶分光器の立ち上げを手伝わせて頂いている。しかし、私は(少なくとも1年前までは)放射光分野の専門家ではない。またSRIという会議の性格上本稿のテーマである光学関係の話題は発表の多くの部分を占めていたが、遺憾ながら紙面と私の能力の都合によりここではそのごく一部の紹介にとどまらざるを得なかった。本報告ではなるべく海外の放射光施設の発表を優先して取り上げ、SPring-8のものは思い切って削除した。以上のような理由で各分野の専門家の方々には物足りない所もあるかと思うがご容赦頂きたい。

 さて光学系の大物である分光器とミラーでは、多くの興味深い発表が見られた。BESSYのErko等(プログラム番号5M01)はCZ法によりSi1-xGex結晶を作成し、一方向に連続的にxを変化させて格子定数の制御を行うことに成功した。このような結晶を分光器やミラーに用いる利点として以下の事柄を挙げていた。(1)まず結晶の深さ方向にGe濃度を変化させたものは放射光による熱膨張の効果を補償できること。(2)一方表面方向に格子定数を変化させることにより、結晶を曲げることなしに光の発散を取り除いたり集光させたりできること。では実際に分光器に使う際に気になる結晶の質であるが、例えばSiとSi0.96Ge0.04の(220)反射でのロッキングカーブの幅は共に4.5"と良質であり、Ge濃度を変化させていった時の場所依存性もx〜0.1ぐらいまでよく制御されていた。また深さ方向にxを変化させた結晶を用いたスーパーミラーは、15〜20 keVの範囲で通常のものより反射率が高くなる(R〜35%)データを示していた。

 分光器に内蔵する集光系としてLNLSのMazzaro等(7PA07)は非常に軽量なサジタルフォーカス用ベンダーを発表していた。彼等の2結晶分光器は1軸カム式であるため、パルスモーターを用いた重量級のベンダーを取り付けることができない。そこで彼等は電磁石によるベンド機構を採用し、500 gを切る軽さを達成した。結晶は中心の高さがベンドによって動かないようにリブ付きの菱形をしており、その横方向の2つ頂点に計4つ電磁石が装着されている。ベンド量の調整はネジにより行うようだが、ベンドによる結晶のねじれ等は4つの電磁石により動的に行うことができる。ベンダーによりNiのK吸収端で、平面時に比べて20倍の強度が得られかつロッキングカーブの幅は10%増しに抑えられていた。その時のスポットサイズは490 µmだという。

 高圧力下での回折実験のための分光と集光を兼ねた光学素子としてSLSPのSchulze等(6PB33)は円柱型に曲げた結晶で分光器を設計した。この結晶の厚さは1 mmで曲率半径が1 mになるように曲げられている。使用する回折面の非対称度を適切に選び、Laueケースで用いることによりBorrmannファン内の光を全て1 m離れた集光点に集めることができる。その大きさは光源のサイズで決まっており、彼等の測定では8.4 µmであった。

 軟X線斜入射分光器のデザインとしては、Dragon(SGM)、不等間隔、SX-700などがそれぞれの特徴に応じて採用されていた。この中では定偏角でスリット固定のため調整のしやすい不等間隔回折格子が流行しそうであった。例えばKEKのWatanabe等(7PA13)は、不等間隔回折格子で10000近い分解能を達成し、スポットサイズは0.1 × 0.9 mm2まで絞れたという。またグレーティングの前段に集光ミラーを置くことにより収差を減らす工夫がなされていた。

 回折格子と結晶分光器の境界領域である1〜2 keVの軟X線領域で進展が見られた。結晶側からは結晶育成が難しく熱伝導度は悪いが適当な格子定数を持つYB66を実際に使用した分光器が分子研のKinoshita等(5PA30)から発表されていた。SRSのSmith等(7PB42)もYB66を分光結晶として用い、ベリリウムや水晶よりも優れた性能を得ていた。

 YB66以外にも新しい分光結晶がいくつか実用段階に入っていた。ESRFのMitchell等(5PA37)は熱伝導度がシリコンの14倍優れているダイヤモンドを用いて分光器を作成していた。しかし、ロッキングカーブの幅は3.6 mdeg.(@13.5 keV、理論値0.75 mdeg.)と結晶性には改良の余地が残されていた。PALのPark等(5PA43)はSi/Ta多層膜を用いて、ΔE/E = 0.035(FWHM = 0.09°)の小角散乱用の分光器を作製していた。

 強力な放射光を受ける分光器やミラーの結晶の変形をいかに抑えるかが問題点として議論されたが、次の2例はユニークな解決方法であった。

 HASYLABのSchulte-Schrepping等(5PA47)は "Torii-design"(鳥居型)のSi(111)結晶を作成し分光器に用いた。"鳥居"の中央部に水を循環させ、両翼を機械的に押すことにより水圧と熱による変形を手軽に矯正していた。その効果は500 Wの負荷時で27.6"あった半値幅(@9.5 keV)を8.3"にすることができ、1000 W時でも11.5"まで戻していた。

 APSのKhousary等(5M09)は1200 × 100 × 100 mm3のSi結晶を0.15°の照射角で使い1500 Wの負荷下で1年間の使用に耐えた実績を持つミラーを紹介していた。巨大な結晶面での入射光の強度分布による歪み(mapping)と熱による曲がり(bowing)を問題とし、それを除去するために次のような方法を採用していた。まず放射光が当たり熱くなる表面中央部を両側から銅ブロックにより間接冷却する。その一方で裏面を温める。これにより表面付近での熱膨張の効果を相殺するというものである。このために11個の熱伝対を用いたという。結果は良好で、変形が7 µrad 程度、全長にわたっての傾きの誤差は2 µrad程度に抑えられていた。この方法をチャンネルカットの結晶分光器に用いる計画もあるという。

 軟X線領域での多層膜ミラーでも明るい光源に対する熱対策がなされていた。NTTのTakenaka等(7PA04)は、Mo/Si多層膜の間に障壁を設け、Mo/C/Si/CやMo/SiC/Si/SiCとした。この障壁層により高い熱負荷のもとでも原子の拡散による多層膜の劣化を抑えることができるという。

 集光のためにミラーを曲げる方法としてESRFのSignorato(7PA02)は、ピエゾ素子による機構を提案していた。長さ150 mmのピエゾ素子を2段一組にして数組を並べてミラーと裏板の間に挟みこむ。ミラーの長さは第1ミラーが450 mm、第2ミラーが750 mmである。上段と下段のピエゾ素子の伸び縮み具合を加減することによりミラー全体を1 kmから3.5 kmの範囲の曲率半径で曲げることができる。この方法では曲げの機構が反射面の裏側全体に装着されているために一様にきれいに曲げることができるという。

 AISTのTamura等(7PD39)はFresnelゾーンプレートの新しい作成方法を発表していた。従来のように単結晶を加工して行くやり方ではなく、スパッタリングによりAg/CやCu/Alの多層膜をバームクーヘン状に成長させてゾーンプレートを作成していた。集光能力はAg/Cのゾーンプレートの1次の集光点で0.5 µmφ(@8.54 keV)、効率は6〜11%という。

 軟X線領域で働く移相子が発表された。NTTのHaga等(5M05)は、補強のための基板を使わない独立したMo/Si多層膜を作成した。この多層膜は基板がないために透過配置でも高い透過率で使用できる。特に波長13.4 nmで反射率と透過率が共に27%となりビームスプリッターとして働くことが示された。この多層膜を用いれば、軟X線領域での干渉計や偏光解析などの応用が期待できるという。また波長32 nmで円偏光が得られるという。東北大のWu等(5PA20)はMo/SiとAl/YB6の多層膜を透過配置で使い55〜90 eVの範囲で偏光子として機能させていた。

 ESRFのCedola等(5PB07)は、硬X線領域(>13 keV)の導波管を作成し実時間で使える顕微法を示していた。導波管はクロムの平面ミラーが向き合った形をしている。2つのクロム面は137 nmの間隔があり、クロム層の薄くなった導入部から内部に入った光は導波管内で反射されながら出口に向かう。最終的に導波管から出た光は約0.7 mradの発散角を持ち、しかも波面がそろっている。導波管の出口に対象物質を置き、その像を後方のスクリーンで観察することにより、1次元のphase contrast microscopyを実時間で行うことができる。彼等は実際に像を示し、その分解能は0.1 µmよりは良いとしている。

 日立のMomose等(7L06)はLaue-Laue-Laue型の干渉計と位相板を組み合わせて、臓器のphase contrast tomographyを撮影した。干渉計内に置かれた目的の物質をX線が透過する時に生じる位相の変化を同じく干渉系内に置かれた位相板を使って求め、それを3次元的に構成しなおして立体像を得ていた。また応用を視野に入れて2結晶で作られた大型の干渉計の設計も示していた。

 東大のKikuta等(5M04)はBragg角がπ/2になる反射を用いた光学素子を発表した。この光学素子はチャンネルカットのSi結晶で、2つの平行平板部分をX線が透過する程度に薄くしてある。このため多重反射により2枚の結晶面間に定在波が立ち、光学素子の反射率と透過率は波長と共に激しく変化する。この性質を利用して2枚の結晶の間に物質を入れて干渉計として用いるなどの応用が示された。また2枚の結晶の間隔などのパラメータを変えることにより、反射率や透過率の波長依存性を変えることができるという。間隔を調整したものを何台か使ってSi(991)π/2反射で14.6 keV付近で0.03 meVのエネルギー幅を持つ単色光を取り出せる可能性も指摘した。

 以上かけ足でSRIでの光学関係の話題をつまみ見た。全体として本会では既存の装置の性能強化や高輝度放射光への対応といった工夫が随所で見られ、また幾つかの新しい光学素子が発表されていた。しかし私の個人的な感想では"第3世代"という言葉があちこちで引用され次世代の話までされていたのに比べて、光学系はやや後手に回っているように思えた。次回のSRIでは"これぞ第3世代"と言われるような発表がSPring-8利用者からなされることを期待している。

 

ロビーにて:後列左よりG. Rosenbaum(APS)、R. Madden(NIST)、R. Haensel(キール大学)、上坪(SPring-8)、K. Holmes(マックスプランク研究所)、H. Winik(SSRLスタンフォード大学)、S. Hasnain(CLRC.ダレスバリ)、前列John Blewett(ブルックヘブン研究所)

 

 

 

玉作 賢治 TAMASAKU Kenji

昭和42年9月5日生

理化学研究所マイクロ波物理研究室

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町

TEL:07915-8-1858

FAX:07915-8-0830

略歴:平成8年東京大学大学院工学系研究科博士課程卒業(物理工学)。同年理化学研究所入所。博士(工学)。日本物理学会会員。最近の研究:高温超伝導体の光物性。特にジョセフソンプラズマ。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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