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Volume 02, No.3 Pages 39 - 41

6. 談話室/OPEN HOUSE

CERNおよびESRFでの計算機環境の現状
Computing Environment at CERN and ESRF

西野 吉則 NISHINO Yoshinori

(財)高輝度光科学研究センター 情報システム部門 Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI) Information Systemes and Technology Division

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1.はじめに

 現在SPring-8では、情報システムの整備、並びに各種業務の情報化に向け検討を行っている。この活動の一環として、3月19日から28日までの日程で、CERN(European Laboratory for Particle Physics)およびESRF(European Synchrotron Radiation Facility)における計算機・ネットワーク環境、情報システム、図書館の電子化につき調査したので報告する。CERNへは寺田(企画調査部)、西野(情報システム部門)が、ESRFへは八木(実験部門、情報システム整備ワーキンググループ座長)、寺田、西野が赴いた。

 

 

2.CERN

 CERNでの計算機支援を行っている部門には、主に研究系を対象としたInformation Technology(IT)部門と主に事務系を対象としたAdministrative Support(AS)部門がある。共に150人程度規模の大きな部門で、その活動からもこれら部門だけで情報の研究所と言って良い程である。研究分野、規模等はSPring-8と異なるものの、情報の分野でも世界をリードしている研究所の1つであり、参考にすべき点は多い。実際、IT部門の人に話を聞くと、ESRFを含めヨーロッパ内の放射光施設からも招かれてしばらく滞在し、計算機・ネットワークに関する議論をした経験があると言っていた。

 余談になるが、CERNはWorld-Wide Web(WWW)の発祥地としても知られている。CERNのホームページ(http://www.cern.ch/)を見ると"CERN is the birthplace of the World-Wide Web."と書かれている。我々は、Tim Berners-Lee氏(現在MIT所属)と共に WWWの発案者としてAssociation for Computing(ACM)Software System賞を受賞したRobert Cailliau氏にも会うことができた。4月に開かれるWWWの国際会議用に準備した資料を使い、WWW誕生の経緯、CERNのWWWの状況等について説明を受けた。

 

2.1.Information Technology(IT)部門

 IT部門の主な活動は、データ処理支援、Desktop(UNIX機、PC)環境整備、ネットワーク整備、ソフトウェア開発、エンジニアリング支援である。

 CERNの基幹LAN(Local Area Network)は、複数のFDDI(Fiber Distributed Data Interface: 100 Mbit/sec)で構成され、それらが3.6 Gbit/sのスイッチで結ばれている。データ処理用には、さらに高速のHiPPI(High Performance Parallel Interface: 800 Mbit/sec)も導入されている。また、対外ネットワークには、ATM(Asynchronous Transfer Mode: 155 Mbit/sec,etc.)も用いられている。LANに関する当面の方針では、FDDIを廃止しFast Ethernet(100 Mbit/sec)、Gigabit Ethernet(1 Gbit/sec)に置き換え、またより高速のスイッチを導入する見通しだ。LANについて、ATM、FDDIに比べての、Ethernet方式の利点としては、10 Mbps, 100 Mbps, 1 Gbps ...のネットワークが容易に置き換え・共存ができ(scalability)、また技術的にも確立しているのでより安価なシステム構築ができるのではないかと話していた。

 CERNの計算機センターには、CORE(Centrally Operated RISC Environment)と呼ばれるデータ処理システムが構築されている。COREは7 TeraBytesのディスク、自動(ロボット)化された大型の磁気テープサーバ、および250の分散化された計算機によって構成され、それらがHiPPI、FDDI等の高速ネットワークで結ばれている。計算機は分散化の方向にあるが、大量のデータ蓄積は中央で行うメリットが高く、この状況は当面変わらないであろうとする見方をしていた。

 

2.2.Administrative Support(AS)部門

 AS部門では、事務の情報化、図書業務などを行っている。

 事務の情報化に関しては、AIS(Advanced Information System)という、Oracleをサーバとしたクライアント・サーバ(c/s)型のシステムが稼働している。このシステムを構築するにあたっては 1990年にOracleにシステム全体に関するコンサルタントを依頼し、その結果13の開発アイテムを抽出し、その中で優先順位の高いアイテムから順に、より詳細なシステム設計を行っていったという。現在では、CERN内部の書類はほぼ全て電子化(ペーパレス化)されているとの事である。システムのデモを見る事が出来たが、変化の多い組織にも拘わらず、徹底したシステム化がなされている。物品購入、休暇・残業届、出張、プレプリント等々に関する承認行為もすべて電子的に行われている。また、権限のある人は予算、人事に関わる過去・現在・将来の様々な情報を数値・チャートで見ることが出来るようになっている。今後はJAVA/JDBC(Java DataBase Connectivity)を用い、よりベンダー依存のないシステム構成にする予定との事であった。

 図書業務に関しては、貸出管理をWWWを用いて行っている他、高エネルギー関連のプレプリント、CERN発行の各種レポートの検索もWWWから出来る様になっている。ちなみに、電子的に承認を受けたプレプリントは自動的にこのデータベースに送られ、検索・閲覧可能となる。外部データベースに関しては、INSPECのサイトライセンスをとっておりWWWを用い各人が自由に検索できる。他のデータベースに関しては、多くの図書館と同様、検索のコストの問題から、専門のオペレータのみが操作できる。

 

 

3.ESRF

 ESRFでは、Computing Services(CS)部門が研究系および事務系の計算機支援を行っている。CS部門は50人規模の部門である。

 ESRFのネットワークのバックボーンにはEthernet を用いており、各ビームラインはサブネットワークを持っている。また、実験データの転送には一部ATMを用いている。これは、NICE(Networked Interactive Computing Environment)と呼ばれる、実験データの蓄積・解析システムの一貫である。ESRFでは、750 Mbytes/dayを超えるデータ転送を行うビームラインは通常のEthernet接続の他、ATM接続しなければならないことになっている。それ以外のビームラインに関しては、Ethernet接続のみでも構わず、その場合データ処理は各ビームラインごとに行うとの事であった。現在、7つのビームラインがATM接続されており、さらに3つのビームラインがATM接続される予定である。

 NICEでは、各実験グループに1つのアカウントを発行し、同一のユーザIDで計算機室にある計算機クラスタにアクセスできる。アカウントの有効期限は、特別な理由のない限り、実験後4週間となっており、その時点で、ディスク上のデータは全て消去される。通常、実験の後、退所前に利用者はDAT(Digital Audio Tape)/4 mm DDS(Digital Data Storage), 8 mm, DLT(Digital Linear Tape)等のメディアに生データ・解析結果等を保存し持ち帰る。このように中央で一括したデータ蓄積を行うと、各ビームラインでRAID(Redundant Arrays of Independent Disks)等の信頼性の高いハードウェアを設置、保守するコスト・人手を省け有利であると話していた。ちなみに、SPring-8では、中央でのデータ蓄積を行わない方向での議論が、情報システム整備ワーキンググループで行われている。

 事務系の情報システムとしては、MIS(Management Information System)というシステムが運用されている。主に物品購入に関わる手続きを電子化したシステムだ。MISは1990年から稼働しているものの、Oracleをサーバとしたc/s型主体となったのは1996年からだということだ。現在は5名程度がMISに携わっており、現在のシステムも主にinhouseで開発したそうである。しかし、in-houseで開発するメリットは短期的にみたコスト面くらいで、外注した方がより様々なメリットがあるだろうと話していた。

 ESRFの図書館は、同じ敷地内にあるILL(Institut Laue-Langevin)と共同で運営されている。図書館ではWWWを用い、蔵書検索・貸し出し管理を行っている。文献検索では、OCLC社の科学文献データベースCD ROMを隔月で購入しており、所内のネットワークを介して検索できるようになっている。この方法をとると、on-line文献検索に比べup-to-dateな情報は得られないが、料金にとらわれず自由に検索できるメリットはある。

 

 

4.おわりに

 CERNでは、情報システム開発・支援が各実験プロジェクトと強く結びついており、巨大ではあるがまとまりのある組織に感じられた。ESRFもCERNを模した形での、比較的大きな情報システムを持っているが、その評判は様々であった様に思う。このあたりは、高エネルギー物理の施設であるCERNと放射光施設であるESRFの分野による違いであろうか。

 放射光施設では、利用分野の広さから計算機・ネットワークに対するニーズも様々である。逆に、その様な分野であるからこそ、利用者、他の利用者支援グループの声の聞ける位置での情報システム支援の必要性を感じた。

 

 

SPring-8よりヘール・ボップすい星を望む

1997年3月18日 AM4:30 大阪大学産業科学研究所、SPring-8利用者懇談会 広エネルギー領域サブグループ 大田健一氏 撮影

 

 

 

西野 吉則 NISHINO Yoshinori

昭和43年9月16日生

財団法人高輝度光科学研究センター

情報システム部門

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町SPring-8

TEL:07915-8-0837

FAX:07915-8-0850

略歴:平成8年大阪大学大学院理学研究科博士課程(物理学専攻)修了、理学博士。同年(財)高輝度光科学研究センター。趣味:スポーツ一般。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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