Volume 02, No.3 Pages 15 - 19
3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE
利用研究課題の審査結果について
Proposals Accepted for Beam Time at the Public Beamlines of SPring-8
(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI) SPring-8 Users Office
1.はじめに
平成9年10月から供用開始となるSPring-8の共用ビームライン(10本)の利用研究課題の応募状況については、本誌Vol.2、No.2でお知らせしました。平成9年10月から6カ月間の試行期間においては、各ビームライン(実験ステーションも含む)の性能評価を行う必要性から、今回の利用研究課題審査では、評価実験に関連した利用研究課題を優先的に受け入れることとしました。
応募のあった利用研究課題は、(財)高輝度光科学研究センター(以下「財団」という)の諮問委員会の下に置かれた利用研究課題選定委員会(主査 太田俊明・東大教授)で厳正、かつ公平な審査が行われ、129件の利用研究課題が選定されました。
2.審査方法
利用研究課題選定委員会では、適正かつ迅速に評価を行うため、生命科学、散乱・回折、XAFS、分光ならびに実験技術・方法の各専門分野毎に5つの分科会を設置して課題審査を行いました。なお、技術的な実施可能性および安全性については、施設者側で事前に評価が行われ、分科会での審査に当たっては参考意見として配慮されました。分科会での審査結果は、利用研究課題選定委員会で審議が行われ決定されました。
3.審査結果
審査結果を図1と表1に示します。不採択となった課題の大部分は、ビームラインの性能評価が十分に行われた後に実施すべきと判断された課題であって、科学的重要性が否定されたものではありません。また、条件付き採択についても同上の理由によるものです。また、表2には採択された利用研究課題のビームライン別内訳、表3には機関別内訳を示します。
図1 利用研究課題審査結果内訳
表1 審査希望分野別採択状況
審査希望分野 | 応募件数 | 採択 | 条件付 採択* |
不採択 |
Life Science | 42 | 28 | 13 | 1 |
(生命科学) | (22.1%) | (21.7%) | ||
Diffraction & Scattering | 82 | 51 | 16 | 15 |
(散乱・回折) | (43.2%) | (39.5%) | ||
XAFS | 26 | 16 | 9 | 1 |
(XAFS) | (13.7%) | (12.4%) | ||
Spectroscopy | 24 | 22 | 0 | 2 |
(分光) | (12.6%) | (17.1%) | ||
Method & Instrumentation | 16 | 12 | 0 | 4 |
(実験技術、方法) | (8.4%) | (9.3%) | ||
合計 | 190 | 129 | 38 | 23 |
*: 利用時間に余裕があれば配分する
表2 採択された利用研究課題のビームライン別内訳
ビームライン名 | 件数 | (%) | ビームライン名 | 件数 | (%) | ||
1. BL01B1 | XAFS | 16 | (12.4) | 7. BL25SU | 軟X線固体分光 | 12 | (9.3) |
2. BL02B1 | 結晶構造解析 | 17 | (13.2) | 8. BL27SU | 軟X線光化学 | 2 | (1.6) |
3. BL04B1 | 高温構造物性 | 11 | (8.5) | 9. BL39XU | 生体分析 | 13 | (10.1) |
4. BL08W | 高エネルギー非弾性散乱 | 3 | (2.3) | 10. BL41XU | 生体高分子結晶構造解析 | 21 | (16.3) |
5. BL09XU | 核共鳴散乱 | 23 | (17.8) | その他 | 5 | (3.9) | |
6. BL10XU | 高圧構造物性 | 6 | (4.7) | ||||
合計 | 129 |
表3 採択された利用研究課題の機関別内訳
機関名 | 件数 | (%) | |
国立大学 | 82 | (63.6) | 大学:106件 (82.2%) |
公立大学 | 12 | (9.3) | |
私立大学 | 12 | (9.3) | |
国立試験研究機関 | 6 | (4.7) | 国公立試験研究機関:12件 (9.3%) |
特殊法人 | 5 | (3.9) | |
公益法人 | 1 | (1.8) | |
民間企業 | 6 | (4.7) | 民間:6件 (4.7%) |
海外 | 5 | (3.9) | 海外:5件 (3.9%) |
合計 | 129 |
これらの結果につきましては、平成9年4月10日付けで財団の放射光研究所所長名で申請者に通知致しました。今回採択された研究課題は表4の通りです。
受理番号 | 実 験 課 題 名 | ||
粉末回折実験における結晶アナライザーおよび長尺水平平行スリットの分解能評価 | |||
摂動条件下での核共鳴散乱の研究 | |||
ヘモグロビンのX線非弾性散乱 | |||
ゼオライト担持Pd触媒のXAFSによる構造解析 | |||
担持Mo、W酸化物触媒のXAFSによる微細構造解析 | |||
強弾性体の一次相転移前駆現象 | |||
マキシマムエントロピー法によるフラーレン化合物の電子レベルでの構造研究 | |||
強磁性及び半導体-金属転移の共存するペロブスカイト酸化物の磁気円二色性 | |||
四面体分子結晶の超高圧力下における結晶・アモルファス構造解析 | |||
3元合金の構造ゆらぎ | |||
(財)高輝度光科学研究 センター |
小角散乱ビームラインの骨格筋X線回折実験への応用のテスト | ||
円偏光光電子回折 | |||
分子性結晶の高圧下の構造相転移 | |||
単結晶の蛍光X線ホログラフィー | |||
X線その場観察によるマントル構成岩石の構造と状態方程式の決定 | |||
超微量化学状態分析実験のための高分解能蛍光X線検出システムの開発 | |||
微小液滴中超微量金属の化学状態分析 | |||
全反射蛍光X線・散乱X線測定による薄膜界面の分析法に関する研究 | |||
細菌べん毛フィラメントのX線繊維回折法による構造解析 | |||
CePのスピン秩序化に伴う格子歪と電荷秩序化 | |||
六方晶チタン酸バリウムの相転移 | |||
高エネルギーX線を用いたK3H(SO4) 結晶の精密結晶構造解析 | |||
移相子を用いた単色X線磁気回折法の開発 | |||
シリコンウエハー表面における相転移現象の観察 | |||
高温における液体テルルの構造 | |||
全電子収量XAFS法による種々の金属板の局所構造解析 | |||
ヨウ化物イオンの種々の溶媒中における溶媒和構造 | |||
水溶液表面の全反射XAFS | |||
イオウの高圧高温相探索 | |||
ビタミンB12と結合する酵素ジオールデヒドラーゼの構造研究 | |||
2次元光電子分光装置の整備とスピン偏極光電子回路 | |||
軟X線ビームラインの整備と強相関係Ce近藤物質の高エネルギー分解能高エネルギー共鳴光電子分光 | |||
高分解能高精度内殻吸収磁気円偏光2色性測定装置の整備とスピン偏極バンド測定 | |||
Dr. Alok Banerjee |
Inter University Consortium for DAE Facilities (IUC-DAEF) |
Magnetic Circular Dichroism (MCD) in Li doped NiO. | |
Prof. Dr. Claus M. Schneider |
Max-Planck-Institut fur Mikrostrukturphysik |
Magnetic Microstructures in Ultrathin Magnetic Films | |
Prof. Se-Jung Oh | Surface and Interface Magnetism of 3d Transition Metal films Studied by Mangetic Circular Dichroism in Core-level Photoemission | ||
アンジュレータ光を用いた高分解能小角散乱装置による生体超分子の溶液散乱測定 | |||
高温高圧X線その場観察による地球内部物質の相転移、融解、レオロジーの研究 | |||
トキイロヒラタケ由来色素タンパク質のX線構造解析 | |||
高圧下におけるFe-FeS系融体の構造解析 | |||
MCDによるGd/Fe、Y/Feアモルファス多層膜の磁性の研究 | |||
タバコネクロシスウィルス、ペルオキシダーゼおよびアミラーゼインヒビターのX線結晶解析 | |||
構造からみた酵素の耐熱化機構 | |||
電子材料の薄膜作製、エッチングならびに微細加工 | |||
高圧低温単結晶構造解析のシステム開発 | |||
高温高圧下における液体テルル、ヨウ素のXAFS | |||
高温高圧下における液体テルル、ビスマスの密度 | |||
高分解能光電子分光による金属/SiC界面形成初期過程 | |||
金属内包のC60のXAFS | |||
アミノアシルtRNA合成酵素とtRNAの複合体のX線結晶構造解析 | |||
固液界面の動的構造解析 | |||
内殻励起磁気円二色性測定による希土類金属・3d遷移金属合金および多層膜の磁性の研究 | |||
金属酸化物マトリックス中の微量Zr、Nb、Mo酸化物のXAFSによる構造解析 | |||
放射光と真空カメラによる遷移金属結晶中の電子密度分布の超精密測定 | |||
機能性核酸分子の構造基盤の解明 | |||
核共鳴非弾性散乱法の開発研究 | |||
核共鳴非弾性散乱によるHg系高温超伝導体における格子振動の研究 | |||
低次元性物質における振動状態の核共鳴非弾性散乱による研究 | |||
放射光核共鳴散乱によるカシミール効果の研究 | |||
X線CTR散乱における多波回折効果 | |||
X線回折散乱法による表面・界面構造研究 | |||
固体酸素高圧相の結晶構造解析と分子解離の探索 | |||
固体酸素ε高圧相の単結晶構造解析 | |||
XAFSビームラインの総合性能生評価II-低、中エネルギー領域- | |||
PGDSの結晶構造解析 | |||
アモルファス強磁性体の核共鳴散乱 | |||
核共鳴放射光を用いた超高圧下57Feメスバウアー分光 | |||
核共鳴前方散乱の時間積分測定 | |||
XAFSビームラインの総合性能評価I-高エネルギー領域 | |||
Bacillus由来アミラーゼの結晶構造と機能の解析 | |||
Mg2SiO4-Fe2SiO4系の高圧相平衡関係の精密決定 | |||
金属イオンのXANESスペクトルによるビームライン分解能の評価 | |||
タンパク質結晶解析(MIR-OAS)共用ビームラインにおけるルーチン解析の実証 | |||
タンパク質結晶解析(MIR-OAS)共用ビームラインの立ち上げ | |||
磁気コンプトン散乱の実験環境(検出器、低温、磁場)の性能評価 | |||
高エネルギーX線の円偏光度の測定 | |||
300-keVX線用モノクロメーターの性能評価 | |||
INTER UNIVERSITY CONSORTIUM FOR DAE FACILITIES |
DEVELOPMENT OF MULTILAYER AND NUCLEAR MANOCHROMATORS WITH MeV-μeV BANDPASS | ||
CONSORTIUM FOR DAE FACILITIES |
STUDY OF VIBRATIONAL DYNAMICS IN TRANSITION METAL-METALLOID, METALLIC GLASSES | ||
アルカリハライド薄膜単結晶の局所的格子構造のXAFSによる研究 | |||
シリカガラス中の極微量Cuイオンの構造と発光特性の関係 | |||
超臨界水の構造解析 | |||
APD電子検出器による197Au核励起現象の観測 | |||
多波長異常分散法によるリボソームタンパク質 S7 のX線結晶構造解析 | |||
Tm化合物における高圧力下・低温でのメスバウアー分光 | |||
BL01B1 XAFSビームラインにおけるXAFS観測システムの調整 | |||
電子収量XAFS法による新しい赤色蛍光体(La1-xEux) O2CN2のEu周囲の局所構造 | |||
表面単原子層からの内部転換電子放射の測定 | |||
融剤を用いた黒鉛-ダイヤモンド変換のその場観察 | |||
臨床医学試料の全反射蛍光X線分析法の開発 | |||
細胞レベルでのSR-XRFイメージングとTUNEL染色とのコンビネーション分析法の開発とその応用 | |||
IPを用いた時間分解強度測定による光励起単結晶構造解析法の開発 | |||
高温における液体 IIIb-Te 混合系の構造 | |||
高分解能蛍光X線分光とスピン選択XAFS | |||
走査型硬X線顕微鏡による微量元素の状態分析 | |||
高分解能光電子分光とMCD測定によるDO3型(Fe1-x Vx)3Al合金の電子状態の研究 | |||
高分解能結晶構造精密化に基づく生体高分子結晶構造解析ビームラインの性能評価 | |||
エピタキシャル成長したBaTiO3超薄膜およびそれを含む超格子の構造評価と相転移 | |||
ホスト-ゲスト包接化合物有機微小結晶のX線構造解析 | |||
異常分散効果を利用した有機化合物の絶対配置決定 | |||
時分割X線回折測定による光駆動プロトンポンプ(バクテリオロドプシン)の機能発現過程で生じる構造変化の実時間測定 | |||
Photoactive Yellow Proteinの変異体を用いた溶液構造の安定性と光による構造変化 | |||
温度ジャンプによる蛋白質折り畳み過程の時分割X線溶液散乱測定 | |||
銅アミン酸化酵素のトーパキノン生成機構の極低温条件下での時間分割解析 | |||
BL39XU光学系の評価 | |||
磁気散乱・吸収測定装置の評価 | |||
MCDによる強磁性3d遷移金属化合物における多電子励起状態 | |||
偏光変調モードによるPtL2,3-吸収端X線磁気円二色性の測定 | |||
液体カルコゲンの構造の圧力変化 | |||
III-V 化合物の高圧相からのアモルファス化 | |||
大腸菌とマウス由来突然変異原ヌクレオチド(8-oxo-dGTP)分解酵素の構造 | |||
酸化物ガラス中のNdイオンのK-吸収端EXAFSによる局所構造の測定 | |||
原子・分子の高分解能共鳴オージェ電子スペクトル | |||
高温高圧下の超臨界流体セレンの構造 | |||
超臨界流体水銀の構造 | |||
核共鳴散乱高性能核モノクロメータの開発 | |||
核共鳴散乱X線を利用した強度相関・干渉実験 | |||
高いエネルギー準位をもつ原子核による核共鳴散乱 | |||
核共鳴散乱X線の基礎過程 | |||
14.4 keV核共鳴X線波長の絶対測定 | |||
ヘマタイト完全結晶における57Fe核共鳴ブラッグ散乱を用いたX線回折学の研究 | |||
チトクロムc酸化酵素の高分解能X線結晶構造解析 | |||
ハロゲン架橋一次元金属錯体の微小結晶構造解析および光誘起構造変化の研究 | |||
高分解能X線回折による準周期超格子膜の構造評価 | |||
結晶構造にもとずくチトクロム酸化酵素の水素イオン能動輸送機構の研究 | |||
Native Thin FilamentおよびF-actin配向ゾルのX線繊維回折 | |||
Dmitry G. Vassylyev |
Crystal structure analysis of Phe -tRNA-synthetase from T. ther- mophilus complexed with 1)tRNA; 2) tRNA and phenyladenylate; and 3) tRNA and Phe;4) Phe and ATP 5) ApA4;6) tRNA and ApA4 | ||
トロポミオシンの単体および他の蛋白質との複合体の結晶構造解析 | |||
トロポニン複合体の結晶構造解析 |
4.今後の予定
平成9年5月からビームラインの試験調整運転が開始される予定となっており、8月頃までには10本の共用ビームラインについて、個別にその進捗状況が把握できる見込みです。採択された利用研究課題に配分するシフト数、利用期日につきましては8月頃に連絡します。ビームラインの整備や試験調整運転の進捗状況によっては、採択された課題でも利用期間や利用可能な装置に制限を受けること、あるいは利用できないこともあります。利用にかかわる手続につきましては8月以降に行われます。