Volume 02, No.2 Pages 34 - 35
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第10回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム報告
Joint Symposium on the 10th Annual Meeting of Japan Synchrotron Radiation Science
日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 利用系グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Experimental Group
去る平成9年1月8日から11日までの4日間、上記合同シンポジウムが東大(本郷キャンパス、山上会館等)において、日本放射光学会の主催、高エ研フォトンファクトリー(PF)、東大物性研軌道放射物性研究施設(INS-SOR)、分子研(UVSOR)、原研・理研大型放射光施設計画推進共同チーム(SPring-8)及びこれらの利用者懇談会の共催で約500名の参加で開催された。放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムとしては、第3回目である。INS-SORとその利用者懇談会が中心となってシンポジウムが実行された。
(1)特別講演
1月9日に次の3名による特別講演があった。筑波大の杉下靖郎教授が「放射光による心血管造影法とその応用」の題で二次元検出器系による冠状動脈の動画像撮影の高エ研での成果をビデオを見せながら講演された。東大の壽栄松宏仁教授が「新物質科学と放射光利用」の題でフラーレン等の新物質の研究で結晶構造や相転移の研究、電子状態の研究に放射光が重要な実験手法となっていることを紹介された。米国ローレンスバークレー国立研究所のNeville V. Smith博士が「Scientific Opportunities in the VUV and Soft X-ray Regions」の題でVUVと軟X線領域の高輝度光源(1.5〜1.9 GeV)であるALS(Advanced Light Sourse)の高分解能光電子分光、MCD(磁気円二色性)の利用について講演をされた。
(2)企画講演
①「放射光と中性子、中間子、陽電子との接点(4件)」、②「高輝度光源と利用研究(4件)」、③「高輝度光源のための加速器とアンジュレータ(4件)」、④「放射光による構造研究-ミクロから生体マクロ構造へ-(5件)」の4つの企画テーマで計17件の講演があった。①では、放射光、中性子、中間子、陽電子を利用した物性研究の特徴と相補性について発表があった。②では、SPring-8、トリスタンMR、東大物性研のVUV・軟X線高輝度光源、分子研の計画、成果が発表された。SPring-8について、平成8年10月にJASRI利用業務部の支援で開かれたシンポジウムの内容を中心にSPring-8の利用研究計画が発表された。分子研では、レーザーと放射光を組み合わせた新しい実験システムが開発されている。90 MHzで放射光とレーザーが同期され、分子のイオン化、解離、脱離、振動緩和の動的過程の研究を計画している。③では、高輝度光源を達成するための蓄積リングの問題点、特に軌道変動やビームの安定性について発表があった。また、挿入光源についてのSPring-8の戦略、ALSの現状と計画について報告があった。④では、放射光を使ったフラーレン、抗体、筋肉構造解析とX線顕微鏡、位相型CTのイメージング法の開発が発表された。
(3)口頭発表
前回よりも多くの40件の口頭発表があり、VUV・SX(生物)、加速器・装置、X線回折・散乱、XAFSのセッション毎に2日、3会場に分けて開かれ、各会場とも多くの聴衆を集めていた。
(4)ポスター発表
今回は、216件ものポスター発表があり、極めて盛りだくさんの内容と規模であった。この件数の多さもあり、会場が手狭となっていた。
(5)施設報告
既存の放射光施設報告、建設計画中の施設の紹介について13件のポスター発表があった。PF、SOR-RING、UVSOR、電総研、自由電子レーザー研究所の現存施設、SPring-8、立命館大学SRセンター、名古屋大学超小型放射光源(NSSR)、広島大学放射光科学研究センター、東北大学電子線科学研究センター、兵庫県ビームライン(HARU-HX)による放射光施設建設計画・進捗状況が紹介され、今回新たにニュースバル計画と放医研の医療用放射光施設の報告が加わった。各施設の現状・計画の情報交換に役立った。
(6)企業展示
昨年並みの29企業が展示を行った。
(7)施設シンポジウム
各放射光施設(INS-SOR、PF、UV-SOR、SPring-8、立命館大SRセンター)の利用者懇談会、シンポジウムがこの期間中に開かれた。SPring-8では、利用者懇談会総会が約3時間かけて開かれた。植木リーダーから本年10月供用開始に向けて施設の進捗状況、上坪リーダーからJASRIの運営体制、坪井室長から科学技術庁にも利用促進の体制ができたこと、またビームライン検討委員会での共用ビームラインの次期計画の審議について報告があった。
次回の日本放射光科学年会・放射光科学合同シンポジウムをSPring-8が実行することになっており、SPring-8関係者の協力が期待されている。
- シンポジウムプログラム-
(1)特別講演
1. 放射光による心血管造影法とその臨床応用
杉下 靖郎(筑波大医)
2. 新物質科学と放射光利用
寿栄松宏仁(東大大理)
3. Scientific Opportunities in the VUV and Soft X-ray Regions
Neville V. Smith(LBNL)
(2)企画講演
企画①「放射光と中性子、中間子、陽電子との接点」
1. 中性子を用いた物性研究
野田 幸男(千葉大理)
2. 中間子を用いた物性研究
永嶺 謙忠(東大理)
3. 陽電子を用いた物性研究
兵頭 俊夫(東大院総合)
4. 放射光を用いた物性研究
松下 正(高エ研PF)
企画②「高輝度光源と利用研究」
1. 高輝度光源SPring-8の利用研究計画
菊田 惺志(東大大工)
2. トリスタンMRを用いた超高輝度放射光発生とその利用
安藤 正海(高エ研 PF)
3. VUV・SX高輝度光源計画への期待
太田 俊明(東大大理)
4. 放射光に同期したモードロックレーザーシステムの開発
見附孝一郎、水谷 雅一、渡慶 次学1、平谷 篤也2(分子研、九大総合理1、広大理2)
企画③「高輝度光源のための加速器とアンジュレータ」
1. 光源の高輝度化
田中 均(原研・理研SPring-8共同チーム)
2. 高輝度光源におけるビームの安定性
中村 典雄(東大物性研)
3. SPring-8の光源戦略
北村 英男(高エ研、原研・理研SPring-8共同チーム)
4. 低エネルギー第3世代光源用アンジュレータの要件
佐々木茂美(LBNL)
企画④「放射光による構造研究-ミクロから生体マクロ構造へ-」
1. MEMによる結晶構造解析
坂田 誠(名大工)
2. 抗体FabとFvの三次元構造と分子の認識機構
佐藤 能雅(東大薬)
3. 放射光による筋肉の構造研究
若林 克三(阪大基礎工)
4. X線顕微鏡による細胞の観察
篠原 邦夫(東大医)
5. 位相型CTによる生体組織の観察
百生 敦(日立基礎研)
原見 太幹 HARAMI Taikan
昭和23年1月20日生
日本原子力研究所・関西研究所
大型放射光開発利用研究部利用系開発グループリーダー
〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町金出地 SPring-8 リング棟
TEL:07915-8-0834
FAX:07915-8-0830
昭和54年京都大学大学院理学研究科物理専攻博士課程修了、独マックスプランク生化学研究所研究員。原研就職後、原子炉安全工学部、研究炉管理部、大型放射光開発室加速器系開発グループを経て、現職。理学博士、日本物理学会、日本放射光学会会員。放射光の核散乱を通して見た生体物性研究を推進したい。