Volume 01, No.5 Pages 25 - 28

5. ニュースバル/NEW SUBARU PROJECT

ニュースバルについて
New SUBARU PROJECT

安東 愛之輔 ANDO Ainosuke

姫路工業大学高度産業科学技術研究所 Laboratory of Advanced Science and Technology for Industry Himeji Institute of Technology

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 SPring-8の1 GeV LINACを入射器とする真空紫外・軟X線発生装置「ニュースバル」とその建設に直接責任を持つ姫路工業大学高度産業科学技術研究所(以下高度研)については、既に本誌の前身であるSR科学技術情報第5巻12号(1995年)28頁に寺澤所長が寄稿しておりますので、本稿ではセールス・ポイントと現状に絞ります。図1に装置の配置を示します。

 

図1

 

 

1.電子蓄積リングとしての特徴:短バンチ・ビームと長直線部

 両端で運動量分散のない、2台の偏向電磁石BMからなる光学系を1ユニットとし(DBAラティス)、出来るだけエミッタンスを小さくしていますが、此のユニットの中央の運動量分散最大の点に逆方向偏向電磁石BIを導入し、モメンタム・コンパクション・ファクターαpを出来るだけ小さくするのみならず、自由に正負に可変なようにしてあります(標準として±10-3の間)。即ちエネルギーの大きい電子は通常のBMでは曲げられ難く外側を走りますが、BI中では内側を走ります。BIの上下流にある4極電磁石のダブレットによりBIでの運動量分散を調整し、中心の電子に比べ軌道長を長くしたり、短くしたり出来るようにしています。このとき、軌道長の相対的変化=αp× エネルギーの相対的変化(δ)、となります。αpの大きさが0.001ではバンチ長(rmsで)7 mmですが、1 mm程度の短バンチ長化を目指します。この様な短バンチでは電荷密度が非常に高くなり、電子同士のクーロン散乱でエネルギーを大きく失ったり得たりする頻度が無視できなくなり、ビームの寿命が極端に短くなります。また真空チェンバーに囲まれた空間に放出される電磁場が、ビーム自身に跳ね返りビームは不安定な挙動を示すようになります。バンチ長が10 mm程度以上で、真空チェンバー最狭部の1/3程度以上のバンチについては、解析的にも実験的にも比較的良く理解されています。それによると数mmなどとても不可能となりますが、ニュースバルのようにチェンバー最小径の1/10以下になると様子が根本的に変化し、単純に外挿するとかえって安定になると言う予測もあります。解析的取扱いも緒に付いたばかりですので、を小さくしバンチ長を系統的に短くしてゆき実験的に現象を正しく把握することが、加速器物理の観点から強く望まれています。この様な領域ではαpδとともに変化すること(αpの高次項)を正しく取り込む必要があり、ビーム光学としても此の高次項を正しく制御することが絶対に不可欠です。UVSOR、ACO、ALSやESRFでいくつかの実験がありますが、通常のDBAラティスで無理やり不整合を起こし、運動量分散を正負に大きく波打たせαpを小さくしていますので、その高次項は全く制御できておりません。また高度研とSPring-8との共同研究でその様な領域では、放射の量子効果からシンクロトロン振動の位相自身の拡がりが重要になることが明らかになっています(世界初)。ニュースバルはαpの高次項の制御を当初から取り込んでいますので、従来とは全く新しい知見を得るものと期待しています。ここでのビームの振る舞いに対する深い実験的理解は、放射励起と減衰で決まる電子リングのエミッタンスの限界を打ち破り、高輝度小型放射光源の実現や新光源開発の基礎となるものです。

 もう一つの特徴は、周長119 cに比べ非常に長い直線部(14 c)を2ヶ所設けていることです(周長の約1/4)。SPring-8は四極磁石を再配置してやっと30 cが4ヶ所(周長の約1/12)ですので、如何に長直線部の比率が大きいかご理解下さい。実質12 cの挿入光源(ID)を設置しますがこれほど長いIDは世界初ではないでしょうか?

 またこれらの長直線部はアイデアが固まり次第、レーザーなどの他ビームとの相互作用をベースにした新光源や、ビームの冷却など夢多いテストに対応できます。

 なおニュースバルの自然エミッタンスは、1.5 GeVで67 nmであり、電子エネルギーをE(GeV)、偏向電磁石の台数をN(ニュースバルでは12)とすると5100(SPring-8では5900)E2/N3nmであり純理論的限界に近く、極限を窮めているといっても過言ではありません。

 

 

2.現状

 加速器本体と挿入光源は本6月に落札し、この12月からは建屋の建設がSPring-8サイトで始まります。電子ビーム輸送系と放射光ビームライン2本の建設は'97年度から始まります。またSPring-8など学外の方々の参加を得て「ニュースバル利用検討委員会」も本6月に発足し、光源開発に向けた取り組みと放射光利用の有様の検討を深めています。来年3月には取りまとめ報告する予定です。

 蓄積リングは1 GeV入射で最高1.5 GeVですが、0.7 GeV、さらには0.5 GeVまで下げることが出来るよう努力しています。周長118.716 cで、RFは500 MHzで最大加速電圧250 kV程度とし、KEK-PFと東大物性研SORとで開発されたSiC減衰ダクトつきの空洞1台を用います。ハーモニック数は198ですが、通常は100バンチ程度で500 mAの蓄積電流を目指します。このとき予想されるスペクトラルのブリリアンスは図2の通りです。挿入光源については、本来なら「利用検討委員会」の結論を見て決定すべきものかもしれませんが、予算執行の都合上これに先行せざるを得ませんでしたので、図2のような波長領域をカバーするようにしました。主なパラメータは以下の通りです。

 

周期長(mm) 周期数 K値
短尺アンジュレータ 80 30 1.57〜6.32
長尺アンジュレータ 60 200 0.95〜2.3
超伝導ウィグラー 350 1 262

 

図2

 

 K値は1よりも大きいので上2つは多極ウィグラーと呼ぶべきでしょう。従って高調波が基本波と同程度又は以上の明るさを持つので、これを積極的に使おうと考えています。ビームラインは図3の実線8本(ID用3、FEL用1、BM用4)を'99年度中までに完成させ、点線4本(BM)を将来用としています。ビームラインの長さは概ね30 cで、内約8 cは基幹チャンネルとしてトンネル内となります。BM用は10度偏向点を光源とします。高度研スタッフとしては、ナノ・メータ・スケールでの微細加工として数百eV以下での縮小投影露光やホログラフィーと数keV領域でのLIGA、またkeV以下の光を用いた新素材開発など、更にはkeV〜数十keVでのX線顕微鏡やトポグラフィー技術の基礎及び応用の開発等が出来ないものかと思っております。FELには周期長(mm)× 周期数=160 × 34又は320 × 17の可変周期長多極ウィグラー(電磁石方式)2式からなるオプティカル・クライストロンを用い、200 nm〜7 μm(0.5〜1.0 GeV)の基本波での発信と高調波発生をねらっています。'98年の夏にはこれら放射光の本格的利用が出来るよう日夜健闘しています。

 

図3

 

 また書写キャンパスには15 MeVのLINACが6 MeVで稼働しており、約60 μmのFEL発信に基本的に成功しています。本装置も'98年にはニュースバル実験棟へ移設し、〜10 μmのFELを、ニュースバルからの放射光と同時に用いたり、電子ビームと相互作用させることなどを計画しています。

 

 

 

安東愛之輔 ANDO Ainosuke

昭和22年6月23日生

姫路工業大学 高度産業科学技術研究所光・

量子科学技術大部門 電磁加速工学分野

〒672-22 姫路市書写2167

TEL:0792-67-4998

E-mail:ando@lasti.himeji-tech.ac.jp

略歴:昭和47年京都大学大学院理学研究科博士課程(物理学第二専攻)中退、同年高エネルギー物理学研究所助手(加速器研究系)、昭和56年より2年間米国フェルミ国立加速器研究所客員研究員、60年大阪大学核物理研究センター助教授、平成4年より理化学研究所大型放射光施設計画推進本部蓄積リング研究開発室長(副主任研究員)、平成7年姫工大高度研教授。理学博士。日本物理学会、放射光学会、アメリカ物理学会会員。大学に加速器科学の専攻分野を確立すべく微力ながら努力を続ける毎日。ラグビーとサッカーのテレビ観戦、狭い庭の草むしりが趣味。

 

 

SPring-8/SACLA INFORMATION

ISSN 1341-9668 EISSN 2187-4794