Volume 01, No.4 Pages 47 - 48
5. 談話室/OPEN HOUSE
APS周辺見て歩き
around APS
日本原子力研究所 関西研究所 The Japan Atomic Energy Reseach Institute (JAERI) Kansai Iustitute
7月29日から8月8日にかけてシカゴで開催された二つの国際会議に参加した。一つは、APSが会場であったことでもあり、私の目から見たAPSの一部、及びその周辺について雑感を述べるのがここで私に与えられた仕事らしい。
まず、APSとは直接関係ないが最初に参加した“First International Conference on Synchrotron Radiation in Materials Science(ICSRMS)”に苦言を呈さずしてこの報告書は始まらない。会場は、イリノイ工科大学がSears Towerの近くに持つビルの一室で、そこの大学の教授が会議のchairmanであった(悪口を書くので名前は伏せることにするが、知りたい方は連絡してください)。結論をいうとこんなひどい国際学会は前代未聞で、しいて誉め言葉を探すと学会を主催する際にこんなことはしてはいけないという例を身をもって示してくれた“反面教師”的存在の学会であった。今後の参考のために教訓を箇条書きにすると、(1)招待状に嘘は書かない。(参加者は、250~300人を予定、招待講演者の持ち時間は25分、という招待状をもらったが、実際の参加者は100人足らずで、開催一週間前の電子メールで私の持ち時間は60分と言ってきた。)(2)WWWに会議案内を出すのならup-to-dateの情報を。(3月上旬に招待状をもらったのであるが、WWWの招待者リストの中には私の名前は最後までなく、招待状は間違いだったと判断した程であった。)(3)プログラムは早く確定すること。(余りにも何もアナウンスがないので、開催一週間前に問い合わせた所、仮ではあるが、とことわってプログラムを電子メールで送ってきた。一応、そこで私の名前を見つけた)(4)会議案内には大事な情報を忘れずに。(招待状、会議案内ともにアブストラクトが必要であるとは書いてあったが、刷り上がり6ページ/招待者の論文を提出するなんて、これまた開催一週間前まで連絡なかった。)(5)勝手にホテルの予約をキャンセルしない(主催者が私のためにホテルを予約してくれたまではよかったが、行ってみるとなぜか主催者側でキャンセルされていた。これは、私だけではなかった。)、等々他にもいっぱいある。二年後にThe Second ICSRMSを千川先生をchairmanとして日本で開催されることが決まった。私もお手伝いするようになりそうなので、上で述べたことに十分気を付けていい会議にしたいものである、ということで反面教師の会議であった。
さて、APSについて触れよう。8月4日から7日までAPSを会場としてIUCrのsatellite meetingが開催された。ICSRMSでもそうであったが、ここでもやはりESRFでの研究発表が目を引いた。例えば、(1)何と固体水素の単結晶を作ってそれの高圧下の回折実験を成功させたもの、(2)コヒーレントX線を使って、①相転移近傍の揺らぎを測定したもの、②結晶表面のmorphologyを議論した研究、(3)高エネルギー分解能X線非弾性散乱による固体中素励起の研究、等は私にとって非常に興味のある報告であった。(1)なんぞは、研究者の意気込みが無謀とも思える試みを成功させたものとして教えられるところが多い。もちろん、APSにおいても第三世代の光源ならではの類似の、しかし性能的にはもちろんESRFの上を狙った研究計画が走っている。Dr. Shenoyの話によれば、コヒーレントX線に関しては、ESRFでの経験を生かして窓を全く使わない差動排気を利用したビームラインを建設することを決定したということである。また、先駆的な仕事として高い評価を得ている毒ガス、いや失礼、反応性ガスを使った結晶成長のその場観察を成功させた(SSRLでの実験)Dr. Stephensonが、IBMを退職してその装置とともにアルゴンヌにやってきており、装置の組み立てを始めていた。これらすべての研究は、残念ながらSPring-8では計画段階で表に出てきていない。しかし、APSも順調というわけではなく、予算の関係で当初の予定よりかなり遅れているようである。実験ホールに入るとビーム架台だけが立てられてパイプの据え付けを待っているいくつかのビームラインが寂しそうであった。
最後にAPS周辺ということで余談を。ICSRMSとAPSでのsatellite meetingの間に1日のブランクがあり、その日を前出のDr. Stephensonの家に泊まった。家はAPSから車で30分ほどの所にあり、家のすぐ前が沼で数種類の水鳥が戯れている閑静な住宅地であった。家はといえば、five bed roomsの馬鹿でかいものでそこに夫婦二人だけで住んでいる。このような環境のこのような家が3000万円足らずで購入できるそうである。もちろん私にとってアメリカは初めてではなく、住宅環境は日本とえらい違う事は十分に理解しているつもりではあったが、あらためてショックを受けた。彼らも言っていたが、APSに実験に来た友人や共同研究者を泊めて実験の合間の安らぎを与える事ができるそんな環境が本当にうらやましく思った。これだけでいい実験データが得られそうである。こんな山奥のSPring-8の「光都21」ですら4~5000万円もするという日本の住宅環境を怨みながら毎日SPring-8に通っている。
水木 純一郎 MIZUKI Jun’ichiro
昭和25年11月11日生
日本原子力研究所関西研究所
〒305 つくば市御幸が丘34
TEL:0298-50-1144
FAX:0298-56-6137
略歴:昭和54年東北大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了、日本学術振興会奨励研究員、McMaster大学(カナダ)、Ames国立研究所(Iowa State大学)研究員を経て、60年日本電気㈱基礎研究所、平成8年2月日本原子力研究所、昭和63年東京大学先端科学技術研究センター客員助教授、平成2年東北大学電気通信研究所非常勤講師、理学博士、日本物理学会、アメリカ物理学会、結晶学会、日本放射光学会、各会員。最近の研究:放射光、中性子線を用いて物性研究。今後の抱負:放射光X線を用いた新しい構造研究の開発と表面・界面物性の研究により、新しい物を予測、創造したい。趣味:登山、テニス、相撲。