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Volume 01, No.4 Pages 23 - 27

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

線型加速器のコミッショニング
Commissioning of SPring-8 Linac

横溝 英明 YOKOMIZO Hideaki

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 加速器グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Accelerator Group

Abstract
The construction of the linac has been completed. The beam commissioning was successfully started on August 1st, 1996. The electron beam was transported up to a beam-dump at the end of the linac on August 8th. Precise alignment of the linac was achieved within the error of ±0.2 mm using the laser system. A computer-aided automatical aging system was developed and successfully operated for the microwave aging inside the waveguides and accelerator columns. It took only 550 hours to reach the fullpower operation of whole klystrons.
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1.はじめに

 アトランタオリンピックがたけなわを迎えている1996年8月1日、SPring-8線型加速器ではビームコミッショニングの開始を迎えた。兵庫県西播磨サイトでは連日30度を越える暑い日が続いていたが、いよいよ電子ビームを発生させる日を迎えて線型加速器棟の室内にも熱気が満ちあふれていた。

 線型加速器の建設は、平成3年3月から開始した。まず、先行試験が必要となる電子銃周りを含む電子入射部と加速管などの製作を開始し、引き続いて、平成5年度から残り部分の製作を開始した。加速器が据え付けられる線型加速器棟は平成6年秋に完成し、平成7年4月から先行して製作したものを含めて一括して据え付けを開始した。平成7年12月までには大型機器の据え付けを終了し、平成8年3月までに機器単体での試験を終了した。4月からマイクロ波による加速管、導波管等のエージングを行ってきた。このような経過を経て、平成8年7月31日に5年半に亘る建設フェイズを終了し、いよいよ8月1日からビーム運転という新しい段階に入ったことになる。

 本文では線型加速器の概要と、据え付け結果、ビームコミッショニングの状況を報告をする。

 

 

2.線型加速器の概要

 線型加速器は、電子銃から出口スリットまで全長140 mあり、さらに39 mの輸送系を経てシンクロトロンへ接続している。それらが据え付けられる線型加速器棟は地上2階建であり、その平面図を図1に示す。1階が電子ビームが通過する加速管室であり、2階がクライストロンやそれらの電源などが設置されるクライストロン室である。

 

図1 線型加速器棟 平面図

全長約180 m、地上2階建であり、1階に加速管、2階にクライストロンや各種電源などが設置されている。

 

 加速管は全部で26本使用する。1本当たり81個の空胴が連らなる、長さ2.835 mの進行波型加速器である。製作方法は、大型真空炉を使用したロウ付法である。各セルの位相調整は、気圧、温度、湿度を補正した状態で自動調整機械を使って行った。加速管の使用条件30℃において各セルの位相精度が±2℃の範囲内に充分収まる高性能の製品が完成した。これらの加速管2本ごとに1本のクライストロンからマイクロ波を供給することにし、クライストロンとしては最大定格80 MW、4 μsec、60 ppsの製品を13本採用した。

 クライストロンの電源であるモジュレータは、最大出力190 MWでパルス矩形換算幅5 μsec、パルス平坦部2 μsec、パルス平坦度±0.5%、運転繰り返し60 ppsの能力を有している。筐体の大きさは、2 m × 4 m以内とし、その中に14段4並列のPFNを縦積みで収納している。単体性能試験では、パルス平坦度、パルス幅、出力安定度など総て目標性能を満足して居り、かつ8時間の連続運転でも異常のないことを確認した。出力が大きい割には、コンパクトなモジュレータであり、しかも、ノイズ特性など満足できるものが完成した。写真1に、クライストロン室内部を示す。

 

写真1 クライストロン室内部

赤い(A)筒状のものがクライストロン、黄色い(B)盤がモジュレータと呼ばれるクライストロン用電源。下流から上流側を望む。

 

 

3.精密据え付け

 線型加速器の加速管室には一直線上に26本の加速管と、ほぼ2本の加速管ごとにトリプレット四極電磁石(QT)を配置した。ビーム位置調整用にQT直後の加速管外壁にはステアリングコイルを取り付けた。精密据え付け方針は、まずQTを精度良く設置し、そのQTに対して加速管を据え付けるものとした。

 140 mの長さでも、一端を水平にすると他端では地球の丸みにより3 mm高くなることから、総ての機器をレーザ光軸上に据え付けることにした。レーザは、実際の機器の据え付け時に使用するビーム軸上と、後々アライメント状況をチェックするためのオフ軸の2ヶ所に設定した。レーザ光は、直径がレーザヘッド直後で12 mm、140 m先で2.4 mmとなるように設定した。レーザ光による据え付けは、レーザの指向性を常時140 m先の固定検出器で確認しつつ、測定精度が±15 μm以下の位置検出器を用いて、各四極電磁石の内径中心がレーザ軸上に一致するように調整した。据え付け直後の測定では、レーザ軸上に±150 μm以下の精度で総てのQTが据え付けられた。その時点でのオフ軸上のデータは、±200 μm以下となっていたが、約10ヶ月後の平成8年7月に再測定したところ、大きな変位は発生していないことが確認された。

 加速器の長期間の変位の原因として、地盤の不等沈下や移動、建物の変形や収縮、地震などの外力などが考えられる。播磨サイトは堅固な岩盤であることから、地盤の不等沈下はあまり起こらないであろうと期待されている。しかし、線型加速器棟の周辺でも、新たな建物の建設が始まっており、その工事の影響を調べる上でも、また、建物の収縮による影響などを観察する上でも、適当な期間ごとに加速器の変位を測定することが必要と思われる。写真2は、精密据え付けの終了した加速管室の内部である。

 

写真2 加速管室内部

長さ3 mの加速管が一直線上に並ぶ。朱色(A)のものが電子ビームを収束させる4極電磁石。上流から下流側を望む。

 

 

4.エージング

 加速管や導波管などは、現地に据え付けてのち初めてマイクロ波を通すことになる。その状態では、大出力のマイクロ波をいきなり通すことが出来ない。低出力から徐々にマイクロ波に慣らしていくエージング運転という手順が必要となる。全13セットを同時にエージングするには、時間も人手もかかることが予想された。現有のマンパワーが限られていたことから、出来るだけ計算機による自動エージング化を図ることにした。まず、4月に関係者全員で1セットのみのエージングに取りかかり、モニタ用の測定器類も総動員して自動エージングのロジックの確立とソフトウェアの製作にかかることにした。

 マイクロ波は、クライストロン出力窓から導波管約10 mを経由して加速管に至る。1本のクライストロンは、2本の加速管に半々づつパワーを供給していることから、3 dBの方向性結合器及び一方の導波管に大電力位相器が挿入されている。

 真空排気ポンプはクライストロン出口直後の真空窓に20 ℓ/sec、導波管に50 ℓ/sec、そして加速管入口真空ダクトに100 ℓ/secが配置してある。ベース真空度は1 × 10-6 Pa以下である。真空度に関して3つのインターロックレベルを設定した。レベル1はlowerレベル(4 × 10-6 Pa)で、このレベル以下では徐々にモジュレータの高電圧値を上昇させていたものを、このレベルを越えると高電圧を現状に固定させる。レベル2はupperレベル(8 × 10-6 Pa)で、この値を越えるとモジュレータの高電圧値を徐々に減少させる。レベル3はインターロックレベル(1 × 10-5 Pa)で、このレベルを越えるとモジュレータの高電圧をオフさせる。約2分間停止させた後、高電圧160 kVから再起動させる。

 最初はモジュレータの高電圧のオン、オフをする事から試験を始め、より複雑なインターロックロジックを試験した。時間差分によって真空度の劣化を察知するロジックも採用した。

 まず、クライストロンの出力条件として、パルス幅0.5 μsec、10 ppsからエージングを開始した。マイクロ波の強度を数MWまで上げるのに数日かかった。クライストロンに近いところからアウトガスが多く発生し、そこが涸れると次の場所に移動していく状況が鮮明に見られた。50 MWレベルの出力を通過するのにも時間を要した。エージングを自動化したことから、真空度の上下によってモジュレータの高電圧を上下することを繰り返し、長時間単調な作業を昼夜に亘って飽くことなく続けることが可能となった。また、微妙に高電圧を制御する事によってレベル3のインターロックが作動する回数が減少し、止まっている時間が減少した。その結果、エージングの効率が向上し、最大電圧まで上昇させるための所用時間の大幅な短縮が図れた。最大電圧400 kVまで到達した後、パルス幅を1 μsecに広げ、再度低い電圧から同様なエージング運転を繰り返し、順次、2 μsec、4 μsecとパルス幅を広げていくことにした。

 これらの経緯をへてエージングロジックを確立し、5月になってから13セット全システムの同時エージングを開始した。スムーズに出力の上げられるセットと時間のかかるセットとがあり、結局時間のかかるセットを待ってからパルス幅の変更などを行ったため、全体の進行具合は一番時間のかかるセットで決定されることになった。全体のエージングを開始してから、最大定格4 μsec、60 pps、80 MWにすべてのセットが到達するのに要した時間は、550時間であった。これは、当初予想した時間より大幅に短縮されたものである。エージングが短時間に進行できた要素の1つとして、加速管、導波管などのマイクロ波機器のすべてが真空ロウ付けによって製作されたものであり、焼きだしの効果があったものと考えられる。また、事前の試験検討を通してマイクロ波による放電の起きにくい機器配置、真空排気能力の改善や、真空マニホールドの製作法の改善などを図ったことなども寄与していよう。

 短期間で、効率よくエージングを進められた結果、8月からビーム試験を予定どおりに開始する事が出来た。しかし、なお加速管、導波管内部は十分涸れた状態にはなっておらず、運転調整中に真空度の劣化が起こり、インターロックが作動してしまうことがある。特に、休日あけの運転再開直後には、エージング不足を痛感させられる。さらに根気良くビーム試験を進めながらエージングを繰り返し続けていく必要がある。

 

 

5. ビーム試験

 電子発生部は、原研東海において試験を行ったのち電子銃からプリバンチャーまでの距離を短縮する改造を加えて現地に据え付けた。これは、特に大電流時にスペースチャージの影響を小さくするための措置である。スクリーンモニタと2つのヘルムホルツコイルを撤去し、約50 cmの短縮を行った。

 カソードアセンブルはY796を採用しているが、現地据え付けに伴い、新しいものを取り付けた。しかし、最初に取り付けたカソードはヒータオフ時には正常であるが、ヒートアップ時にグリッド電圧がかからなくなるトラブルが発生した。再度解体修理したが、最後に取り付けたカソードアセンブルは正常に作動しており、東海研での試験時に使用していたものよりエミッション特性が改善され、同一条件で比較して大きな電流値が得られている。バンチングシステムは、2台のリエントラント型プリバンチャーと、1台の定在波型バンチャーから構成されている。バンチングシステムの配置は、東海研で試験したときと同じ配置であり、その特性はよく理解できている。バンチャー直後に加速管1本とビームモニタなどが配置されているが、この加速管以降の機器が初めてビーム加速を行う部分になる。

 8月1日にビーム試験を開始し、その日のうちにバンチャーおよびその直後の加速管1本までの電子ビーム加速が確認できた。8月2日は予想もしなかった安全管理システムの故障が発生し、ビーム試験が出来なくなってしまった。製作担当の理研スタッフ及び製作メーカの努力で2日目には一応現状復帰の修理は完了した。一般にトラブルが発生するとその影響を最小限にするべく各種の対策を講じて対応するものだが、今回は安全管理システムということであり、現状復帰の修理では信頼性が確保出来ないという判断で、ハードスイッチ方式への改造完了まで5日間の運転禁止となってしまった。8月の最初の9日間で、ある程度まとまったビーム試験の成果を出そうと計画していた線型加速器グループにとっては大きな痛手であった。8月7日に運転を再開して、加速管7本での加速を行い、偏向電磁石による約250 MeVでのエネルギーの確認を行った。ビーム試験を開始して3日目にあたる平成8年8月8日に、全加速管26本による加速を行い、最終ビームダンプまで電子ビームを輸送した。電子ビームは、当初、バンチャー直後から最終ビームダンプまで5%しか透過していなかったが、調整を進めた結果8月9日には100%透過させることが出来た。8月初旬のビーム試験は期間が限られていたことから、とりあえず電子ビームを全加速管26本に通し、最終ビームダンプまで導くことを優先事項にしていたが、見事に目的を達成したものである。また、この日はSPring-8のキーワードでもある8が3つ並ぶおめでたい日でもあり、地元郵便局からは、当日、SPring-8の電子ビーム発生を祝った記念スタンプが発行された。

 

 

6.おわりに

 このように線型加速器のビームコミッショニングは、順調にスタートできた。8月10日から25日までは運転を停止し、8月26日から9月末までビーム試験を行う。そこでは、各種条件でのビーム特性の測定、シンクロトロン入射用の運転条件の確立などを図っていく。平成8年10月からはシンクロトロンのビームコミッショニングを行い、平成9年2月から開始する蓄積リングのビームコミッショニングに備える予定である。

 

 

 

横溝 英明 YOKOMIZO Hideaki

昭和23年8月18日生

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町

TEL:07915-8-0885

FAX:07915-8-0850

E-mial:yokomizo@haru01.spring8.or.jp

略歴:昭和51年東京大学大学院理学研究科物理専攻博士課程修了、昭和52年日本原子力研究所入所、平成2年主任研究員、理学博士、日本物理学会、日本放射光学会、日本原子力学会、プラズマ・核融合学会会員。最近の研究:加速器の開発。今後の抱負:第4世代放射光源の開発、加速器の開発。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794